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4 裏切り ※(微)
しおりを挟む【注意】オディロン×ベアトリーチェR描写あり。苦手な方はスクロールしてください。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ホスキンズ様に身請けが決まったベアトリーチェは忙しくなった。
身請けされる前にベアトリーチェの歌や舞いを見たいという別れを惜しむお客様達が大勢押し寄せ、店は常に満員となり、港には貴族や商人達が所有する大小の船が連日並ぶ。
店に出入りするお客様が増えると、私も当然、忙しくなる。お客様に出す料理の手伝いや各部屋を整えたり、姐さん達の支度をしたりと朝から晩まで動き回り、増えた仕事をこなしていた。
そんな中、私は透明なガラス瓶に色とりどりの手作りキャンディを作って詰め、レースのハンカチを用意した。
「綺麗なキャンディ瓶ね」
「いいなぁ。私達にも作って欲しい」
年下の見習いの子達が台所へやって来ると、キャンディ瓶とレースのハンカチを羨ましそうに眺めていた。
「今度ね。これはベアトリーチェへの贈り物だから。喜んでくれるといいけど」
「絶対に喜ぶわよ!」
「私なら、お姉さんが作ってくれたものは大切に食べるわ」
「身内がいるなんて羨ましいわよね」
私と同じように家が貧乏で売られてきた見習いの子達には身内がいない。
むしろ、姉妹揃って同じ娼館に売られるほうが珍しかった。
だから、唯一の血縁であるベアトリーチェは私にとって大事な妹で、意地悪をされても心から嫌いにはなれなかったのだ。
「ベアトリーチェには身請け先で幸せになって欲しいわ」
「大丈夫よ。ベアトリーチェの身請け先のホスキンズ様はすごくお金持ちだし、お貴族様みたいに暮らせちゃうんじゃないかしら」
「本当?」
「各国にお屋敷を持っているくらいお金持ちなんだって!」
「ホスキンズ商会は支部もたくさんあるって話よ。オディロン様は派手好きで目立つけど、ホスキンズ様には敵わないわよ」
見習いの子達の話を聞いて安心した。
身請けの話が出た時はヴィオレットに逆らってまで拒んだベアトリーチェだったけれど、その後、姐さん達からホスキンズ様はお金持ちだし、毎日遊んで暮らせるわよと励まされて元気になっていた。
姐さん達はヴィオレットが決めたことには絶対逆らわない。
なぜなら、ヴィオレットは私達に幼い頃から学問や教養を学ばせて、食べる物や着るものにも困ることなく育ててくれたからだ。
私達はヴィオレットに恩がある。
それはベアトリーチェも同じはず―――オディロンの来訪を告げる大砲の音が聞こえ、お喋りをしていた見習いの子達が出迎えようと慌ただしく台所から出て行った。
見習いとはいえ、少しでもお客様の目に留まろうとしているのだ。
オディロンが今日やって来たのは『パレ・ヴィオレット』を去るベアトリーチェとお別れをするためで、いつもの花火が暗い夜空に上がったけれど、台所の窓を染めた花火の色は青だけだった。
花火はベアトリーチェを手に入れることができなかったオディロンの悲しみを表現しているのか、黒い空に青い涙を落し、青の光は涙痕をなぞるように海へ落ちて消えた。
その一方で、身請けする側のホスキンズ様は月が天窓の一番上に昇るのを待っていた。
オディロンや他のお客様に配慮し、別れを言う時間を与えているのだと思う。
『パレ・ヴィオレット』で遊び慣れたホスキンズ様は若いお客様達と違ってガツガツしたところはなく、ゆったりと構え、船の出航準備をし、ベアトリーチェが出てくるのを静かに待っている。
大商人らしい落ち着いた姿を見せていた。
そんなホスキンズ様と真逆なのはオディロンのような若い商人達だった。
店が開いた時間の港には女主人ヴィオレットに取り入ろうと、珍品や宝石などの積み荷を船から降ろす荷役作業をする若い商人達でいっぱいになる。
なんとしても『パレ・ヴィオレット』の客になりたいとか、お忍びの王族や貴族、大商人達とつながりを持ち、のし上がってやろうと考える野心家達が毎晩、大勢訪れるのだ。
「船でしか、ほとんど来られない場所にあってもお客様ってやってくるものなのね」
開け放った窓からは潮を含んだ風が吹き込む。その風に乗って酒場の賑やかな話し声とグラスのぶつかる音、陽気な音楽、船の上の看板で水夫達が酒盛りをする声が聞こえてきた。
夜の港がこんなに賑やかなのは『パレ・ヴィオレット』がある港くらいだろう。
『パレ・ヴィオレット』がなかったら、ここは長閑な港街のままだったと思う。
この港街をぐるりと囲むのは岩ばかりの険しい山だった。灰色の岩の中で緑の草がぽつぽつと生えるばかりの物寂しい風景が続く。
山道には水場も少ないという。
だから、山を越えて陸路からやって来るお客様は少ない。
陸路を使うのは山道に慣れているアシエベルグ王国の商隊か、案内人と護衛を大勢連れたアシエベルグの大貴族くらいだった。
外部からの出入りは完全にヴィオレットの監視下にあった。
娼館の護衛と称した私兵を持ち、海路以外の道が自由に使えないとなれば、逃げようがない。
だからこそ、ここでは身分に関係なく女王ヴィオレットの元、『パレ・ヴィオレット』のルールを誰もが守り、それに従うことで大きな事件も起きることなく遊びを楽しむことができた。
つまり、ヴィオレットには絶対逆らえない―――逆らおうとも思わない。
「ベアトリーチェ、入るね」
キャンディの瓶とレースのハンカチを手にして、ベアトリーチェの部屋のドアの前に立ち、声をかけた。
下女の私と違い、売れっ子芸妓に成長したベアトリーチェは一人部屋が与えられていた。部屋の中には鏡台もあるし、ドレスがたくさん入るワードローブも持っていた。
そして、ベアトリーチェを贔屓にしているお客様達からの花や贈り物がたくさん置かれてる。
特に今日はベアトリーチェのために『パレ・ヴィオレット』の上客達から、たくさんのお祝い品が届けられ、部屋はその品でいっぱいになっている。私も一緒に運ぶのを手伝ったから、それを知っていた。
ベアトリーチェをイメージした白い絹のドレスとヴェールを用意されていたことも。
ドレスとヴェールは透かし生地に細かく縫い込まれた銀糸のレース刺繍が見事で、私が一生着ることのできないような豪華なドレスだった。
それを今頃、ベアトリーチェは身に纏い、美しい純白の羽根を持つ鳥の姿を思わせる姿になっているだろう。
そう思いながら、部屋のドアノブに手をかけたその時―――
「オディロン様ぁ」
甘い声がドアの隙間から聞こえ、ドアを開けようとしていた手を止めた。
鍵がかかっていないドアの隙間から見えたのはベアトリーチェがオディロンの膝の上に乗り、唇を重ねる姿だった。
二人はお互いの唇を食み合い、激しくキスを交わす。
オディロンの手がベアトリーチェの白い肌を撫で回し、ドレスの裾をまくり上げた。ドレスの中の淫らな水音を徐々に大きくさせながら、ベアトリーチェの白い肌に吸い付き、赤い痕を残していく。
「あ……ふぁ……」
ベアトリーチェは熱い吐息と喘ぎ声を同時に漏らしながら、肌を赤く染め、自らオディロンに跨った。
深くまでオディロンのものを呑み込むと、ねだるように腰を前後に揺らす。
「あぁ……ん……」
脚の間からとろりとした液が滴り落ち、結合部分からは二人が擦れ合い、ドアに鍵がかかっていないことにも気づかず、淫猥な姿を晒していた。
ベアトリーチェは美しいドレスとヴェールは飾られたまま袖を通しておらず、着替えも済んでいない。着ていたドレスは布切れのようになり、ほとんど裸同然だった。
オディロンはベアトリーチェの体を支えながら下から激しく突き上げると、ベアトリーチェは高い嬌声をあげた。
「あっ……んっ……そこ、きもちいっ……」
オディロンの嗜虐的な笑みが怖かった。
それに気づいていないのか、ベアトリーチェは恍惚とした顔で口を開け、透明な液体を口の端から溢し、夢中で快楽を貪っていた。
「ベアトリーチェ。もっと腰を振れ」
命じられるがまま、オディロンに腰を寄せ、肩に手を置くと狂ったようにベアトリーチェは腰を振り出した。オディロンは手に入れた獲物を味わうように白い太ももを撫で回し、胸の突起を噛む。
「ひぁっ……あぁん……」
オディロンの腰の動きが早められ、ベアトリーチェは体を弓なりに反らした。白い喉が露出し、その喉をオディロンが舌でなぞる。生き物のように舌が喉を這い、口から零れた液体が喉を伝う。
ベアトリーチェとオディロンの額に汗がにじみ、腰を強く掴むとオディロンは呻いた。
「……っ! ベアトリーチェ……!」
「あっ、あぁ……」
大きくベアトリーチェが震え、肩を掴んで爪をたてるとオディロンの顔が痛みで歪んだ。その仕返しなのか、オディロンのがベアトリーチェの体に噛み痕を残した。
快楽の中にいる二人はヴィオレットに反逆するかのように送られたドレスの前で交わい、笑っていた。
そんな二人を目にした私は完全にパニックに陥っていた。
どうしよう、どうしよう、どうしようっ!
ヴィオレットに言いつけたら、私がベアトリーチェに恨まれるだろうし、報告しなかったら、ヴィオレットから怒られる。味方にはどこまでも優しいヴィオレットだけど、敵に回すと恐ろしい人なのだ。
裏切りを絶対に許さない。
早く止めなくちゃと、私が迷っている間もオディロンの手は大きく開いた胸元に差し込まれ、白い乳房がドレスからこぼれた。大きな手のひらで、胸の形が変わるくらい揉みしだき、ベアトリーチェは悦楽に満ちた顔でキスをねだる。
「ベアトリーチェ、愛しているよ」
「んっ……あ……私も」
ストッキングが床に捨てられ、オディロンの指がベアトリーチェの下腹部に触れると、その指に合わせてベアトリーチェが腰を揺らした。
「あ、ああっ……あぁ……」
はしたない水音が部屋に響き、重なる二人の口からも透明な液体がこぼれている。
「お願い、オディロン。私をあなたの妻にして……!」
ベアトリーチェがそう口走ると、オディロンがにやりと笑ったのを私は見逃さなかった。その顔が恐ろしく、背筋に冷たい汗が伝った。
「いいぞ。ここを一緒に出よう」
その言葉を耳にした私はドアをバンッと勢いよく開けた。
「だ、だめー! な、な、なにしてるのっ! ベアトリーチェ!」
部屋に飛び込んできた私を二人は同時に見て笑った―――どうして、笑うのだろう。
慌てるのならわかるけど、なんだか私、馬鹿にされてる?
顔を紅潮させ、息を荒げたベアトリーチェがオディロンから身を離すと、私と向き合った。
「ふふっ……。待ってたわよ。エルヴィーラ」
「え? ま、待ってた?」
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