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16 クリスティナの駆け引き

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 ――クリスティナと私が友達になる?

 そもそも、私の話し相手と言うけれど、私とクリスティナの関係は友人関係からほど遠い。
 レクスを追いかけている彼女が、純粋な気持ちで私と友人になろうと言っているのではないとわかる。
 クリスティナの目的がレクスであることは明白だ。

「今はユリアナの話し相手を置くつもりはない。皇宮の警備のこともある」
「警備ですか?」
「ユリアナに毒を盛っていた人間がいる」

 私を守ると約束したレクスは、クリスティナの申し出を断った。

「もしかして、皇帝陛下は私を疑っていらっしゃるのですか?」
「例外はない。皇宮に出入りする者、全員を調べさせている」

 出入りした人間の中に、クリスティナも含まれる。

「そんな! 私が犯人ではありません!」

 クリスティナは悲痛な声をあげた。
 
 ――レクスはすごい精神力を持っているわね。あれだけ【魅了】魔法を使われても、耐えるなんて。

 そう思ったのは、きっと私だけじゃない。 
 クリスティナは【魅了】魔法の目標をエルナンドに変えた。
 なかなか陥落しないレクスをいったん諦め、まずは周りを固め、自分の味方を増やすつもりのようだ。
 エルナンドにレクスを説得させる作戦らしい。

「まほー、きらきら!」
「わるい! きらきら!」

 まだ幼く、魔力が安定していないアーレントとフィンセントは、魔法が見えてしまう。
 魔力が制御できず、外に捨てている状態だ。
 成長すれば、体内に魔力がとどまり、多くの魔法を使うことができるようになる。

「えるぅ……」
「えりゅー」

 悔しそうに二人が手足をバタバタさせている。
 残念だけど、エルナンドは【魅了】されてしまった。

「レクス様。クリスティナ様は皇宮の人々から、とても人気があります。そんなクリスティナ様が、皇妃様を毒殺する理由はありません」
「そうか? 兄は俺より人気があったが、俺を殺そうとしたぞ。ああ、父もか」

 ――う、うわぁ。私が思ってたより、ずっと殺伐とした家族関係ね。

 エルナンドは否定せず、苦笑した。 
 つまり、レクスの言葉が真実だということだ。

「よって、引き続き皇宮に滞在させるわけにはいかない」
「私を疑うなんてひどいです。親しい人のいない皇妃様のためを思って申し出たのにあんまりです!」

 クリスティナは唇を噛みしめ、目に涙をためた。

「皇帝陛下。クリスティナ様の滞在をあと少しだけ引き延ばすのはどうでしょうか」

 エルナンドの言葉に、レクスはため息をついた。

「そこまで皇宮に滞在したいか?」
「はい……。私はずっと皇帝陛下のおそばにいたいです」

 それは、クリスティナの愛の告白だった。
 レクスたちは見つめ合う――そして、冷たかったレクスに恋心が芽生え、二人は恋仲になるという流れのはずが。

「あーれ、おとーしゃまといる!」
「おかーしゃまもっ!」
「いぬさんも、いっしょ」
「えるも!」
 
 子供たちがすべて台無しにした。
 いい雰囲気をぶち壊して大騒ぎする。

「おとーしゃま、だいしゅき」
「ふぃんも、しゅき!」
 
 子供たちの言葉にレクスは気を取られ、その目はすでにクリスティナを見ていなかった。
 アーレントとフィンセントを抱き上げ、レクスは顔を近づける。

「そうか」

 ほとんど表情は変わらないのに、なんだか嬉しそうな声だ。
 そして、レクスは私に視線を移し、期待を込めた目で見る。

 ――え? まさか、私にも愛の告白をしろと?

 レクスの無言の圧力とみんなからの期待の視線に逆らえず、言うしかなかった。

「わ、私もレクス様と一緒にいたいですわ……」
「ずっと?」

 レクスと戦って相討ちになった時より、屈辱を味わった気がした。

「え、ええ……」
「それならいい」

 レクスの顔は見えなかったけど、アーレントとフィンセントが、レクスの顔をぺちぺち叩いていても、まったく怒らなかった。
 告白をさらっと流され、台無しにされたクリスティナ。
 このまま、おとなしく皇宮から去るわけがなく、すでに彼女は次の手を考えていた。
 クリスティナは恐れている場合ではないと思ったのか、捨て身の覚悟でレクスの前に立ち塞がる。

「皇帝陛下。私が皇宮から去るにあたって、お願いがあります!」

 その顔は、可憐なクリスティナのものではなかった。
 私には【魅了の魔女】の顔に見えた。

「なんだ?」
「皇宮でパーティーを開いていただけませんか?」

 レクスはクリスティナの意図がわからず、首を傾げた。
 エルナンドが助言する。

「クリスティナ様はお別れのパーティーというか、思い出作りをしたいということでしょう」
「そうです。無理でしょうか?」

 見るからにレクスは嫌そうな顔をしており、パーティーが好きそうではなかった。
 でも、パーティーをしなかったら、クリスティナはスッポンのようにしがみついて皇宮から出ていかないだろう。

「わかった。パーティーが終わったら、皇宮から去るように」

 それで終わりだと思っていた。
 でも、クリスティナはそんな甘くはなかった。

「パーティーで私をエスコートしてくださいませんか?」

 ――レクスがクリスティナをエスコートする!?

 そんなことをしたら、私とレクスが不仲だという噂を肯定するようなものだ。
 せっかく、関係が改善されてきているのに、これでは逆戻りしてしまう。
 
「皇宮で過ごした最後の思い出にしたいんです……」

 クリスティナは涙をこぼす。

「親しくなれた皇宮の人たちと別れるのは、とてもつらいです。皇妃様とお友達にもなれなくて……」
「皇帝陛下さえよろしければ、皇妃様のエスコートは、自分が代役を務めましょうか? クリスティナ様にとって、皇宮で過ごす最後の日。難しいお願いではありませんし、叶えてさしあげてはいかがですか?」

 エルナンドが申し出て、レクスは断りにくくなった。
 すべて、クリスティナの思惑どおりに進み、皇宮でパーティーを開くことになったのだった。
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