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14 売られた喧嘩
しおりを挟む連れてこられたのは、使ってない事務所の二階らしく、段ボールが山積みになり、机や椅子が乱雑に置かれていた。
港とかじゃなくてよかった。マジで。
両手両足をガムテープでぐるぐる巻きに縛られて、転がされていた。
女の人は直真さんの前に立つと、愛おし気に指で顔をなでた。
「相変わらず、綺麗な顔」
直真さんの冷ややかな目に女の人は怯み、身を引いた。
そして、その女の人は外へ続くドアを開き、中へ男の人を招きいれた。
「直真、この人に見おぼえないかしら?」
眼鏡をかけ、神経質そうな顔をした男の人だった。
「誰だ?」
「沖重の親戚の一臣だ!忘れるな!」
完全に忘れているらしく、首をかしげていた。
「まあ、誰でもいいが」
「よくないだろ!」
覚えておいてあげてよ……。
「私の店のお客さんでね。直真に復讐をしたいっていうから、一緒に連れてきてあげたの。ねえ、直真。まさかとは思うけど。その子が新しい相手?」
「違う」
即答した。
「直真。貴方は嘘をつくときは目を逸らさないの。気づいてなかった?」
さすが、付き合っていただけあってわかってるなー、って感心してる場合じゃない。
「待ってください。私はまだ付き合っていません!つい数時間前まで絶交してましたし!」
「絶交!?」
「ちょっとお前は黙ってろ」
「ちゃんと訂正してくださいよ!なにさらっと黙認しようとしてるんですか?」
「直真……。こんな子供みたいな子を相手にして…」
やめてよ、その哀れみの目。
くっ!余計に惨めになるわっっっ!
「おい、こいつを殴らせろ!」
「そうね。一臣さん。でもね、直真が一番嫌がることをしたほうが、いいわよ」
直真さんの指を這わせ、顔を近づけて言った。
「ねえ、直真。キスして?」
ぞっとするほど、冷たい目で女の人を睨んでいた。
「俺に命令するな」
「ふふっ。やっぱり駄目ね。命令されるの嫌うものね」
そう言って、口づけようとした瞬間―――思わず、足で椅子を蹴り、がんっとぶつけていた。
「きゃっ!」
「そういうの、見せられるの嫌いなんで。やめてもらえます?」
触られるのを見せつけられるのも正直、イラッとした。
「なにこの子」
「携帯電話、没収しなくていいんですか?私、警察に電話しますよ」
ポケットからわざとスマホを落とし、床に置いて見せた。
一臣と呼ばれた人が慌てて、拾い上げた。
「そいつのも奪えよ!」
「そうね」
二人はにわかに慌て始めた。
こういうことには慣れてないみたいだった。
手際わるいなぁ……。
「私。さっき、知り合いに電話したので、見に来たかもー」
「なんですって!?」
画面をみたけど、私の携帯画面はロックがかかっていて、パスワードを入れないと解除できないようになっていた。
「外、見てみたらどうですか」
二人は外を見に出て行った。
いつの間にか直真さんは腕に巻かれたガムテープをはがしていたらしく、自由になった手で足のガムテープを外していた。
なれてるな…。
私の手と足のガムテープも外してくれた。
「何考えてるんだ!俺の携帯まで持っていかれただろ」
「大丈夫ですよ、あれ、綺麗な携帯電話のほうなんで」
「はあ!?なんだ、その綺麗な携帯電話って」
「仕事用とゲーム用の二台あるんですよ」
首から下げた携帯入れを見せた。
「あれが仕事用。こっちが汚れた携帯の方です」
ゲーム用に使っている。
「やめろ、その得意顔」
「ゲーマーたるもの、二台は持ってないとね」
少ないくらいですよ、というとドン引きしていた。
いいけど。
「警察呼びます?」
「いや、自分でなんとかする」
「お互い、警察は好きじゃないですもんね」
「まあな」
ここは意見が一致した。
「誰もいないじゃないの」
「脅かしやがって」
二人が戻ってくると、自由の身になった私達を見て、後ろに退いた。
「な!どうして!?」
「嘘だろ!」
慌てて、入り口に行こうとした二人の前に素早く立ちふさがった。
「逃げる気か」
「逃がしてあげてください」
「断る」
「絶交しますよ!」
「お前、何回、絶交する気だ!」
「やりすぎなんだって言ってるんです!いいから、逃げて下さい」
信じられないものでも見るかのように、二人は私を見た。
「お人好しなお嬢ちゃんね…」
「いいのか、それで」
「いいんです。あ、でも。スマホは返してもらっていいですか?」
スマホを返してもらえて、ほっとした。
あー、よかったー。
「はい、直真さんのもどうぞ」
「なにが、どうぞ、だ!どけ!」
「嫌ですよ」
にらみ合った。
「…ほうが」
「え?」
「あなたみたいなお子様な方が、足枷になって直真にはちょうどいいわね」
褒められてるのか?それは。
「行きましょ、一臣さん」
「あ、ああ」
二人は急ぎ足で逃げて行った。
「くそ!」
入り口をふさいだまま、動かない私を殴りとばすわけにもいかないようで、イライラと手を振り下ろした。
その手をそっと握った。
「武士の情けってやつですよ。勉強になったでしょう?これで、あの二人は仕返しにはこないと思いますよ」
多分ね。
「なんだ、その上から目線は」
「いいじゃないですか」
「お前、本当になにを考えてるかわらないな」
そう言って、直真さんは苛立ちながらも微かに笑った。
「まあ、怪我がなくてよかった」
直真さんは私の顔を撫で、口づけた。
「…っ!?」
「お前、俺がキスされると思って、妬いていただろ」
挑発的な目で私を見て言った。
「妬いていません!」
他に言うことあるでしょ?と思ったけれど、直真さんのネクタイをつかんで、私は唇を奪った。
不意打ちに悔しそうな顔をしていたけれど、何度かキスを交わして直真さんは笑った。
「妬けるって言えよ。バカ」
そんなことを言ったら、私の負けだ。
もう負けているのかもしれないけど―――
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