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13 社長のお迎え
しおりを挟む「迎えに来てやったぞ」
朝の挨拶にしては爽やかさゼロ。むしろ、マイナス。
あの爽やかイケメンとして定評のある八木沢社長はどこへいった?
目の前にいるのは不遜を絵にかいたような男。
「よ、よくも!そんな上から目線で!だいたい、どの面下げて来たんですか?絶交ですって言ったじゃないですか!」
「絶交って。有里。そんな子供みたいなこと言ったのか」
伊吹が呆れている。
「悪いやつだよ!どうして家にあげたの?!」
「みればわかる」
うん、と伊吹はうなずいた。
「圭吾兄ちゃん、やっつけてよ!」
「俺はゾンビか化け物かよ」
不満げに直真さんは言ってきたので、はっきりいってやった。
「まだゾンビか化け物の方が可愛げがありますよっっ!!」
「待て。有里。この顔、どっかでみたことあるんだよな」
グラサンを外し、じっと見詰めると圭吾兄ちゃんが叫んだ。
「総長!」
「久しぶりに呼ばれたな」
「総長じゃないよー!社長だってばー!」
「やべえ!」
バッと圭吾兄ちゃんが身構えた。
「有里、こいつ、素人じゃねーぞ!ヤクザみたいなもんだ!」
はあ?ヤクザ!?
「いや、今は足を洗ったから、一般人だ。圭吾くん。それで、君はどこの関係者かな」
ひえっと圭吾兄ちゃんがじりじりと距離をとった。
「俺の事、脅す気ですか……」
「まあ、そういう手もあるか」
さささっと圭吾兄ちゃんは後ろに下がった。
「姉ちゃんをどうする気だ!」
「伊吹ー!」
あんたはいい弟だよ!
「は?ゲームをやめさせて、会社に連れていくだけだが?」
「姉ちゃん、会社に行きなよ……」
「ほら、さっさと用意しろよ」
くっそー!
弱点をついた攻撃をうまく利用している。
「総長、まさかとは思いますが、うちの妹相手に手を出すとかないっすよね?」
「は?悪いか」
「いやー。確かに妹は可愛いですが、そのー…今まで総長が連れていた女とは比べ物にはならないっていうか。総長なら、もっとこう…色気があって、スタイルがよくて、美人な女が合うような気が」
圭吾兄ちゃん………。
どっちの味方だよ。
「まあ、そうだな」
そうだな!?
わかってはいたけど、あっさり肯定しなくてもいいと思うんですが。
「それにですね。総長。有里は今でこそ、こんな落ち着いていますが」
圭吾兄ちゃんは自分のスマホを取り出して、画像をかざした。
「昔はこんな荒れてたんっすよ」
黒髪だが、バイクに乗り、ピアスをつけ、濃いめの化粧をした高校時代の私の姿が映し出されていた。
「俺の過去だって、褒めれたもんじゃないだろ」
「そうっすね」
「ちょっとは動じてよ!?」
なにあっさり受け入れてんだ!
「なかなか、いい面構えだな」
「どういう感想よ!」
「荒れていた姉にネトゲをやらせたら、ハマって。それから、こんなかんじになりました」
「どっちがよかったんだろうな」
「むずかしいっすねぇ」
「ネトゲが私を非行の道から救ってくれたんですよ」
「そこから堕落の道に入ってどうする」
「まあ、そうなんですけどね」
えへ、と笑って見せた。
「その堕落の道からさっさと出ろ。会社に行くぞ」
直真さんの言葉に圭吾兄ちゃんは真顔になって言った。
「有里、総長がお待ちだ。早く着替えろ」
「裏切り者!!!」
絶交と言ったのに一日もたたずに絶交は終わらせられた。
強制的に―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
引きずられるように会社に行くと、仕事が山積みになっていた。
会議資料、お礼状の返事、手紙の仕分けと贈り物の手配。
「今日中に終わるといいな」
「ひどいじゃないですかっー!」
「早く帰りたいんだろ。無駄口叩かず、やった方がいいぞ」
「鬼っ!悪魔っ!」
涙目になりながら、仕事をした。
休もうと思ったのに。
イジメか。
当然、この仕事量だと定時には間に合わず、遅くなってしまった。
「やっと終わった……」
「やればできるもんだな」
「もっと違うねぎらいの言葉があるでしょうがっ」
「夕飯でも奢ってやるよ」
「帰りたいです」
「明日は休んでいいぞ。有給届、受理しておいたが?」
「お付き合いしましょう」
だから、この仕事量だったのか……。
最初に言ってくれれば、いいのに。
帰る用意をして、駐車場に行くと、すでに運転手さんが待機しているらしく、車が止まっていた。
「何食べたいんだ?」
「お寿司です。回らないやつ」
「お前、ちょっとの遠慮もないな」
がちゃ、とドアが自動で開き、車に乗ると、誰かが乗っていて、その人影がナイフを突きつけた。
「久しぶりね、直真」
きつい香水の匂いがした。
後部座席に女の人が乗っていた。
「物騒な挨拶だな」
よく見ると、運転手さんが違う。
「もちろん、一緒に来てくれるわよね?」
私の顔にナイフを突きつけたまま、言った。
「ああ」
諦めたように車に乗った。
「悪いな。有里」
「どさくさに紛れて呼び捨てにしないでください」
「いいだろ。別に」
怖いくらいに冷静過ぎる。
この人、どれだけ、場数踏んでるんだろう。
それにしても―――元恋人っぽい。圭吾兄ちゃんが言っていた女の人のタイプによく似ていた。
はあ……。
だから言ったでしょ!!
恨まれすぎなんだってば!もうー!
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