ネトゲ女子は社長の求愛を拒む

椿蛍

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9 涙と熱

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「社長が風邪でお休み!?」
「はい」  
出社すると宮ノ入みやのいり会長から頼まれたという、秘書が迎えに来た。
秘書っていうより、護衛みたいな?
強面こわおもてなおじさんだった。
「本日、ここで電話番をしてろと命じられました」
電話番と言うより、金庫番みたいな人だよなあ。うん。
「駐車場に運転手を待たせてありますので、社長の様子を見に行ってもらえませんか」
「それはいいですけど」
「会長が行ったところで、なにもできませんから」
まあね。おじいちゃんだしね。
あの二人の仲の悪さを考れば、よけいに具合が悪くなりそう。
会社の駐車場に行くと、運転手さんが待っていた。
「運転手さん、ちょっとコンビニに寄ってください」
冷えピタとポカリ、あとはバナナとプリン、ヨーグルトを買って、車に戻った。
マンションに着くと、運転手さんは部屋まで一緒にきてくれた。
そうじゃなきゃ、私は逃げ帰っていたかもしれない。
なんせ、マンションはマンションでも高級マンション。
エントランスにはコンシェルジュが待機していた。
バーやジム、プールまであるらしい。
なにこの経済格差。
しかも、そのマンションの最上階とか。
雲の上の人だと思っていたけど、本当に雲の上なんだな…。
「申し訳ありません。直真なおさだ様をよろしくお願いします」
「は、はい」
ぺこっと頭を下げた。
そりゃ、名前に『様』もつけるってものよ。
「えーと、お邪魔しまーす」
もらったカードキーを差し込み、かちゃとドアを開けた。
部屋に入ると、部屋は綺麗に片付いていた。
わー!大画面テレビだー!
この画面でゲームやりたーい!
って、もちろん、ゲーム機はなかった。
リア充め!って仕事ばかりだから、そうでもないか。
「もしもーし」
寝室をノックした。
「返事がない。ただのしかばねのようだ…って、今は冗談にならないか」
薬はベッドサイドに置いてあり、ミネラルウォーターのボトルもあるから、薬は飲んだみたいだった。
額に手をあてると、熱があるのか熱い。
「冷えピタはっとこ」
前髪をあげて、冷えピタをはってあげた。
ひゃー、美形だなー。
整った顔ってこういう人のことを言うのね。
頬に触れると、うっすらと目を開けてこっちをみた。
なぜか悪いことでもしていたような気がして、慌てて手を離すと、その手をつかまれた。
「あ、あの」
社長は小さい声で呟いた。
「母さん」
涙が目尻めじりから、こぼれて落ちた。
目を閉じ、また眠ってしまった。
なんの夢をみているのだろうか。
確か母親を亡くして宮ノ入に引き取られたとか。
肉親は宮ノ入社長と会長だけと先輩が言っていたっけ。
「仕方ないなあ」
握った手を離してくれそうにない。
さすがに振りほどくわけにはいかず、脇ににちょこんと座った。
見ればみるほど、綺麗な顔だなあ。
その顔を眺めているうちにうとうと眠ってしまった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「はー、よく寝たー」
うーんと、伸びて起き上がると、はっとした。
「しゃ、社長!?」
目の前に綺麗な顔があり、全てを見透かすような目がじいっとこっちを見ていた。
心臓に悪い。
「よくそんなに寝れるな」
「今、何時ですか?」
「昼過ぎ」
「あー!半日無駄にした!って、社長、なんか食べました?」
「まだ」
「プリンとヨーグルト、バナナありますよ。それ食べててください。私、なんか作りますよ」
「いや、そこまでしてもらうわけには」 
「宮ノ入の会長から面倒見てやってくれって言われているので」
「ジジイから!?」
「もー。ちゃんとおじいちゃんって呼んだらどうですか。まだ反抗期なんですか?あ、パジャマ、着替えておきますか」
「誰が反抗期だ!ぬ、脱がすな!」
替えのパジャマをおいて、ボタンをはずしてあげたのに社長は抵抗を見せた。
「あ、男兄弟でなれているんで。大丈夫ですよ」
「恥じらいがなさすぎる!」
「下も脱がします?」
「やめろ!」
「じゃあ、自分で着替えてください」
「わかった」
社長は素直に頷いた。
「兄弟いるのか」
「そうなんですよ。兄と弟がいて」
「昨日、コンビニで買い物していなかったか?」
「あー、弟です。私のポテチを勝手に食べたんで。一緒に買いに行ったんですよ」
「そうだったのか」
「もしかして。社長は女の人の所から帰ってる途中でした?」
返事がない。
あ、やっぱり。
少し間を置いて、言った。
「もう別れた」
「えー?」
「特別な相手じゃないから、まあ、いつでも別れてもよかった」
「付き合うって、特別な相手じゃないと付き合っても楽しくないんじゃないですか」
「楽しくはないな」
素の社長って、とんでもない凶悪な人じゃ。
「なんなら、有里ゆりさん。付き合おうか?」
「お断りします」
超特急でお断りしたのだった。
こんな節操のない男と付き合えるかっ!
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