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July
35 ぬくもりを知って
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霊園からの帰りに私の家に寄ることになっていた。
夕方になるよとは言ってあったけど、昨日から掃除をしていたみたいだし、きっとバッチリなはず。
両親は梶井さんを厳かに粛々と迎えてくれる―――
「いらっしゃーい!」
「本物よ、本物!」
え、なにこのテンション。
両親の後ろに菜湖ちゃんが立っていた。
なぜかクリスマスに使う三角帽をして、疲れた顔をしていた。
そして、大掃除した家の中はお誕生日会のように飾りつけがしてある。
うわぁ、懐かしい。
子供の頃にしたお誕生日会を思い出すなぁって違う!
「ちょ、ちょっとー!どうしてこんなパーティーみたいになってるの!?」
「ごめん、望未ちゃん。私の力では防げなかったよ」
菜湖ちゃんは悲しい顔をしていた。
うん、そうなるよね。
わかる、わかるよ。
「望未が結婚するっていうから、ここは派手にやろうと思ってね!」
うきうきとお父さんが言った。
「普通はうちの大事な娘をってならないの!?」
「バカねー!嫁にやれる時にやらなきゃ!しかも、イケメン!」
「梶井さんのCD、持ってますよ」
お父さんが握手して、『握手しちゃったよ』『あっ!お父さん、抜け駆け?ずるいわねぇー!』と二人でひそひそと話していたけど、全部丸聞こえだった。
ううっ、やめてー!
梶井さん、きっと呆れてるよっ。
ちらりと横目で盗み見ると目があった。
向こうは私と両親を交互に見ていた。
「間違いなくお前の両親だな」
「ぐっ……!それはどういう意味?」
「そのまんまの意味だ」
笑ってたけど、私としては複雑な心境だった。
だって、私がまるで梶井さんと出会った時、浮わついていたみたいじゃない?
―――まあ、それは正しいけど。
「梶井さんが来るって言うから、張りきって作ったんですよ!さあさあ!」
ちゃっかりお母さんは腕を組んでいた。
ちょっとー!
私を差し置いてなぜ腕を組んでいるの?
そんなお母さんはリビングのほうにごちそうを用意してくれていた。。
鰻が入った夏らしいちらし寿司とからあげ、フライドポテト、フルーツポンチなどって誕生会みたいな料理の数々。
これでケーキがあったら―――
「食後にケーキ買ってあるぞ!」
お父さんが近所のケーキ屋さんの箱を見せた。
完全に子供のお誕生会だよ……
がっくりと肩を落とした。
私が思っていたより、雰囲気は明るくてよく食べてよく飲んだ。
お父さんなんかはもう私の赤ちゃんの時のアルバムをとりだし、梶井さんに語り始め、お母さんは梶井さんと一緒に写真にとってもらったり、サインまで。
我が親ながら、自由すぎるくらい自由だった。
「うちの娘、可愛いだろ!?」
「そうですね」
「梶井さんはどのケーキがお好き?」
「残ったケーキでいいですよ」
私も菜湖ちゃんもそっちのけで梶井さんとわいわいやっていた。
なんで?なんでなの?
微妙な顔をしていた私に梶井さんは気づいて、ぽすっと私の頭をなでた。
「娘がいなくなるんだから、寂しいに決まってるだろ?お前が悲しくならないようにわざと明るく振る舞ってるんだよ」
梶井さんはどうして私の親の気持ちがわかるんだろう。
「実は俺の活動拠点なんですが、今は主にドイツでして」
「うん、知っているよ」
「そうね」
「それで、望未さんも一緒に連れていきたいと思っています。今日は結婚することとそのお許しをいただきたく」
お父さんもお母さんも一瞬だけ静かになった。
「わかってたよ」
「梶井さんみたいなイケメンと離れて暮らしてたら不安よね」
いってらっしゃいと二人は言ってくれた。
梶井さんはホッとしたように息を吐いた。
緊張した顔なんて舞台でも見たことなかったのに。
緊張で強ばった顔をした梶井さんを始めて見た。
「堅苦しいのはこれでおしまいだ!」
「そうよ、飲むわよー!」
まるで今までおとなしくしていたかのような口ぶり。
え?今のは冗談ですよね?
二人は大騒ぎして、夜遅くまで盛り上がった。
夜中近くまで続き、梶井さんは明日の午後にドイツにたつことを告げて、やっとおひらきになった。
「ごめんね、梶井さん。私の家族が大騒ぎしちゃって。呆れたでしょ」
「いや。賑やかで楽しかった。ああいうの俺には無縁のものだったからな」
その言葉に梶井さんの孤独を感じた。
きっと一人でいることが多かったんだなというのがわかった。
私の両親は忙しかったけど、菜湖ちゃんがいてくれたし、イベントはあんなふうに盛り上げてくれた。
だから、梶井さんほど孤独ではなかった。
「私の両親、結婚したら梶井さんの両親にもなるんだよ」
「そうだったな。悪くない」
梶井さんは顔を近づけると、唇を重ねた。
別れるのが名残惜しいというように。
「冬までに用意しておけよ」
「うん」
「それから、寂しくなったら言えよ」
帰ってこれないのに?と思ったけど、その言葉を飲み込んだ。
今は私が寂しいって思うより梶井さんのほうが寂しいって思ってくれているような気がした。
「うん、わかったよ」
だから、素直に返事をしておいた。
梶井さんが寂しくなったら、私が会いに行けばいい。
ちょっとしか一緒にいれなくても、会いに行くことはできる。
生きている限り。
笑顔で私は梶井さんと別れた。
前とは違う。
私の左手にはちゃんと約束の印があるのだから―――
夕方になるよとは言ってあったけど、昨日から掃除をしていたみたいだし、きっとバッチリなはず。
両親は梶井さんを厳かに粛々と迎えてくれる―――
「いらっしゃーい!」
「本物よ、本物!」
え、なにこのテンション。
両親の後ろに菜湖ちゃんが立っていた。
なぜかクリスマスに使う三角帽をして、疲れた顔をしていた。
そして、大掃除した家の中はお誕生日会のように飾りつけがしてある。
うわぁ、懐かしい。
子供の頃にしたお誕生日会を思い出すなぁって違う!
「ちょ、ちょっとー!どうしてこんなパーティーみたいになってるの!?」
「ごめん、望未ちゃん。私の力では防げなかったよ」
菜湖ちゃんは悲しい顔をしていた。
うん、そうなるよね。
わかる、わかるよ。
「望未が結婚するっていうから、ここは派手にやろうと思ってね!」
うきうきとお父さんが言った。
「普通はうちの大事な娘をってならないの!?」
「バカねー!嫁にやれる時にやらなきゃ!しかも、イケメン!」
「梶井さんのCD、持ってますよ」
お父さんが握手して、『握手しちゃったよ』『あっ!お父さん、抜け駆け?ずるいわねぇー!』と二人でひそひそと話していたけど、全部丸聞こえだった。
ううっ、やめてー!
梶井さん、きっと呆れてるよっ。
ちらりと横目で盗み見ると目があった。
向こうは私と両親を交互に見ていた。
「間違いなくお前の両親だな」
「ぐっ……!それはどういう意味?」
「そのまんまの意味だ」
笑ってたけど、私としては複雑な心境だった。
だって、私がまるで梶井さんと出会った時、浮わついていたみたいじゃない?
―――まあ、それは正しいけど。
「梶井さんが来るって言うから、張りきって作ったんですよ!さあさあ!」
ちゃっかりお母さんは腕を組んでいた。
ちょっとー!
私を差し置いてなぜ腕を組んでいるの?
そんなお母さんはリビングのほうにごちそうを用意してくれていた。。
鰻が入った夏らしいちらし寿司とからあげ、フライドポテト、フルーツポンチなどって誕生会みたいな料理の数々。
これでケーキがあったら―――
「食後にケーキ買ってあるぞ!」
お父さんが近所のケーキ屋さんの箱を見せた。
完全に子供のお誕生会だよ……
がっくりと肩を落とした。
私が思っていたより、雰囲気は明るくてよく食べてよく飲んだ。
お父さんなんかはもう私の赤ちゃんの時のアルバムをとりだし、梶井さんに語り始め、お母さんは梶井さんと一緒に写真にとってもらったり、サインまで。
我が親ながら、自由すぎるくらい自由だった。
「うちの娘、可愛いだろ!?」
「そうですね」
「梶井さんはどのケーキがお好き?」
「残ったケーキでいいですよ」
私も菜湖ちゃんもそっちのけで梶井さんとわいわいやっていた。
なんで?なんでなの?
微妙な顔をしていた私に梶井さんは気づいて、ぽすっと私の頭をなでた。
「娘がいなくなるんだから、寂しいに決まってるだろ?お前が悲しくならないようにわざと明るく振る舞ってるんだよ」
梶井さんはどうして私の親の気持ちがわかるんだろう。
「実は俺の活動拠点なんですが、今は主にドイツでして」
「うん、知っているよ」
「そうね」
「それで、望未さんも一緒に連れていきたいと思っています。今日は結婚することとそのお許しをいただきたく」
お父さんもお母さんも一瞬だけ静かになった。
「わかってたよ」
「梶井さんみたいなイケメンと離れて暮らしてたら不安よね」
いってらっしゃいと二人は言ってくれた。
梶井さんはホッとしたように息を吐いた。
緊張した顔なんて舞台でも見たことなかったのに。
緊張で強ばった顔をした梶井さんを始めて見た。
「堅苦しいのはこれでおしまいだ!」
「そうよ、飲むわよー!」
まるで今までおとなしくしていたかのような口ぶり。
え?今のは冗談ですよね?
二人は大騒ぎして、夜遅くまで盛り上がった。
夜中近くまで続き、梶井さんは明日の午後にドイツにたつことを告げて、やっとおひらきになった。
「ごめんね、梶井さん。私の家族が大騒ぎしちゃって。呆れたでしょ」
「いや。賑やかで楽しかった。ああいうの俺には無縁のものだったからな」
その言葉に梶井さんの孤独を感じた。
きっと一人でいることが多かったんだなというのがわかった。
私の両親は忙しかったけど、菜湖ちゃんがいてくれたし、イベントはあんなふうに盛り上げてくれた。
だから、梶井さんほど孤独ではなかった。
「私の両親、結婚したら梶井さんの両親にもなるんだよ」
「そうだったな。悪くない」
梶井さんは顔を近づけると、唇を重ねた。
別れるのが名残惜しいというように。
「冬までに用意しておけよ」
「うん」
「それから、寂しくなったら言えよ」
帰ってこれないのに?と思ったけど、その言葉を飲み込んだ。
今は私が寂しいって思うより梶井さんのほうが寂しいって思ってくれているような気がした。
「うん、わかったよ」
だから、素直に返事をしておいた。
梶井さんが寂しくなったら、私が会いに行けばいい。
ちょっとしか一緒にいれなくても、会いに行くことはできる。
生きている限り。
笑顔で私は梶井さんと別れた。
前とは違う。
私の左手にはちゃんと約束の印があるのだから―――
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