獣人は花嫁を選ぶ~百獣の王と少女の恋~【獣人シリーズ①】

椿蛍

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第一章

3 学園からの迎え

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4月―――私がマリアステラ学園へと出発する日、桜の花が咲いていた。
入学許可も下り、無事に入学の日を迎えることができた。
白い制服に黒のシャツ、プリーツスカートをひるがえしてみる。
うん!中学生の時のセーラー服より断然大人っぽい!
これは私の大人っぽさに高也たかやもビックリしちゃうはず。
さーてと。
よいしょっとリュックを背負った。

佳穂かほっ! 待てぃっ!」

おじいちゃんが走ってくる。
年齢を感じさせない走りは毎日ラジオ体操を欠かさずしているだけあって、若い人に負けない走りだった。
さすがだなぁ。

「なに?」

「その今にもはち切れそうなリュックの中身はなんだ!?」

「お菓子だよ」

「お菓子!? そんな大量にか? 置いて行きなさい!」

「えー。高也たかやへのお土産なのに」

駄菓子屋で買ったお菓子と最近発売されたコンビニのお菓子。
あとは非常食のインスタントラーメンと漫画。

「すでに出発から堕落しきっているな……我が孫は」

「ひどっ! 違うよ。高也にだよ」

自分の分はもう他の荷物と一緒に学園に送ったことは内緒にしておこう。
おじいちゃんの血圧が上がりそうだしね。

「いいから、置いて行きなさい」

「そうよ。高也君は佳穂が入学するだけで喜んでくれるから大丈夫よ」

「そうかなぁ」

おばあちゃんは力強くうなずいた。
渋々、リュックをおろした。

「そろそろ迎えが来るわよ」

「うん……」

学園に入学できると思って、この日を楽しみにしていたけど、いざ家を出る当日になると寂しくかんじていた。
おじいちゃんとおばあちゃん。
大好きな二人と離れるのは辛い。
両親よりも長く一緒に暮らしていたから、なおさらだ。

「おじいちゃん、おばあちゃん。体に気を付けてね」

佳穂かほも体には気をつけるんだぞ!」

「嫌だったら、いつでも帰ってきていいからね」

マリアステラ学園は全寮制で外出や外泊は許可制と書いてあった。
だから、これからはいつでも好きな時に会えるわけじゃない。
二人のしわしわな手を握りしめた。

「心配しないで。高校生活を満喫するから!」

私にできることはちょっとでも二人に心配かけないことくらい。

「うむ……。高也君によろしくな」

「きっとかっこよくなっているでしょうね」

「うん」

そうだ。
おじいちゃんやおばあちゃんと別れるのは寂しいけど、マリアステラ学園には高也がいる。
やっと会える。
高也に―――車の音がして、振り返るとそこには黒のリムジンがとまっていた。
で、でかい。
まるで毛並みに艶のある黒のダックスフンドみたいだ。
なぜ、リムジンが私の家の前に?
ガッーと車の窓が開いた。

「おはよう。佳穂」

車の窓から顔をだしたのは希和だった。
大人っぽい希和は高校の制服を着ると中学生らしさは一切なく、すでに高校生のお姉さんらしい空気だ。
私と違って……

「おはよう、希和。学園からの迎えってこれ!?」

「そうみたいね」

マリアステラ学園ってどれだけ、お金持ち学校なの?
学校からの送迎なんて、スクールバスしか見たことない。
でもこんな機会滅多にない!
せっかくだし、楽しまないとね!
張り切って車に乗った。

「うわー、すごい車だね」 

車内には飲み物と素敵なグラス、色とりどりのマカロンやチョコレートが用意されてあった。
自由に食べたり飲んだりできるらしく、すでに希和は我が物顔でグレープフルーツジュースを飲んでいた。
中身がグレープフルーツジュースなんだけど、アルコールのように見えたのは余裕たっぷりな希和の態度のせい。
その貫禄……新入生とは思えないよ、希和。
車の窓を開けて、おじちゃんとおばあちゃんを見た。
長期休暇までは会えない。
しっかりその姿を目に焼き付けておこうと思った。

「おじいちゃん、おばあちゃん。いってきまーす!」

「がんばっておいで!」

二人はずっと手を振ってくれるので、私も身を乗り出して手を振った。
姿が豆粒になって、見えなってもまだ見ていた。
寂しい気持ちと不安な気持ちが押し寄せてきた瞬間、制服の上着を希和に引っ張られた。

「佳穂。座って。危ないから」

「うん」

希和は私が泣くかもって思ったのかもしれない。
いいタイミングで引き戻してくれた。
すとんと座席に座ると車内にいるのは私と希和だけなことに気づいた。

「ねえねえ、希和。私達、電車とかじゃなくてよかったのかな」

まさか私と希和、二人だけのためにこのリムジンを用意されたってことなの?
希和の彼氏である古柴こしば君の姿もない。
てっきり一緒に学園に行くものだと思っていたけど、どうやら違うらしい。

「当たり前でしょ。マリアステラ学園の制服で電車に乗ったら、獣人に誘拐されるわよ」

「た、たしかに」

獣人も少ないけど、適合者も少ない。
子孫を残したい獣人に狙われてしまう。
見た目だけじゃ適合者かどうかはわからないから、普段の生活に支障はない。
ただ適合者の匂いががわかる獣人もいるから、政府から配布される薬を飲んだりする人もいるみたい。
ばれたら、危ないことは間違いないけど、私も希和も今のところは何もなく無事に過ごしている。

「それで、古柴こしば君は?」

「獣人と適合者は校舎が違うから、入学式じゃないと会えないわよ」

「へー。そうなんだ」

「佳穂。ちゃんと入学案内読んだの!?」

「ううん。ゲームの説明書は読まないタイプだから」

「読めよ。ゲームと一緒にするな」

ゴゴゴゴッと希和から魔王レベルの殺気を感じた。

「ご、ごめっ…」

「いい? 佳穂。私達、適合者はね。獣人のパートナーになるとカヴァリエと呼ばれるのよ」

「へぇー。カヴァリエになるとなにか違うの?」

「違うわよ。いわば、公認カップル!」

「公衆の面前でいちゃいちゃしても許されるってことですね? わかります」

「そういうことだけ、理解が早いわね」

友よ……今、すごく馬鹿にされたような気がしたけど、気のせいだろうか……

「基本的には獣人と適合者は別々に過ごすことが義務付けられているのよ。でも、カヴァリエは別。カヴァリエになるとほとんど行動を共にすると言っても過言じゃないの」

「カヴァリエになると授業以外でどれくらい一緒にいられるの?」

私の問いかけに珍しく希和は顔を赤らめてしどろもどろになりつつ答えた。

「えっ…、だっ、だから、授業終わってから……その、朝までとか……休み時間とか……」

「そうなんだ」

「あ、あんた、わかってるの!? 寮の部屋も一緒ってことよ?」

「うん」

授業終わってからだから、そりゃそうよね。

「そ、そう……、わかってるなら、いいのよ」

「もー! 希和。私だって、そこまで馬鹿じゃないって!」

ばしぃっと希和を叩くとものすごく迷惑そうな顔をされた。

「いや、馬鹿だからね?」

さっきまで顔を赤らめていたくせに希和は真顔でそう言った。
私に対して不安しかないようだった。

「学園につきましたよ」

騒いでいた私達に運転手さんが声をかけてくれた。

「えー!?」

まだ門なんですけど。
黒い格子の大きな門が自動で開き、車を迎え入れた。
建物が豆粒くらいに見える。

「はー!すごーい!」

森や湖、そして、素敵なお店が並ぶ街並み。
ブランドショップから流行りのレストランの支店まであるのが見えた。
学園の中にいても外と変わりなく、不自由なく暮らせそうだ。

「ちょっとした町だね」

「そうね」

希和は腕と足を組み、目を細めて外を眺めていた。
それも楽しそうに笑っている。
その笑みが怖い。
なにをしでかすつもりよ。

『わが友よ その貫禄は なにものぞ』

つい、一句読んでしまった。
私なんて、キョロキョロしちゃって、ただの観光客みたいだよ。

「校舎前まで行きますね」

やっと建物が近づいてくると、次の門が見えた。
門の前には黒い車がずらっと並んでいた。
これ適合者を迎えに行った車だよね。
すごいなぁ……。
このお金持ち感は他の学校じゃ絶対に見られない。

乙花おとはな佳穂かほ様、桑名くわな希和きわ様。ご入学おめでとうございます。善き花嫁となられるよう心からお祈り申し上げます」

運転手さんは深々と頭を下げた。

「ありがとうございます」

ぺこりと私は頭を下げて降りた。
けれど、希和は何も言わずに静かにほほ笑んでいた。

「ねえねえ、希和。花嫁って?」

「待て。佳穂」

希和は額に手をあてた。

「うん?」

「そこからなの!? あんたっっ。この学園がなんのために創設されたか、わかってるんでしょうね」

「えーと。獣人がお嫁さんを選ぶためでしょ」

「そう。つまり、獣人の花嫁! まあ、ごくごくたまーにだれからも選ばれないということはあるけど」

「でしょ!」

「なにドヤ顔してるの! あんたはなんのためにきたのよ」

「ただの好奇心」

「ふざげてんのか」

がしっと頭を掴まれた。
ひええええ!
トマトみたいに頭を潰されるー!

「じょ、冗談! 冗談だから!」

「あんたが言うと、冗談に聞こえないのよっ!」

希和に胸倉をつかまれそうになり、なんとか、避けたその時―――

「ワンッ!」

柴犬が吠えた。
つぶらな黒い瞳がこっちを見ている。
その瞳が心をわし掴みにしようとしているよ!
なんて、かわいい柴犬。

「もー。犬が学校にまぎれこんじゃだめでしょ」

思わず、柴犬を撫でまわした。
サッと柴犬は寝転がり、腹を見せ『さあ、撫でてくださいませ』とアピールしてくる。

「ぎゃー! かわいい! かわいいー!」

柴犬は自分の可愛さを理解しているのか、次は尻尾を振りつつ、頭を差し出した。

「その辺にしておきな、古柴こしば

「えっ!?」

古柴って希和の彼氏じゃ。

「ワン!」

あくまでシラを通そうとする柴犬―――古柴君。

「おい、古柴。駄犬の真似か?」

拳を希和は見せると、柴犬が後ずさった。
これはもう魔王を通り越して希和だわ……
希和の鉄拳制裁モード。

「落ち着いて! 希和! 動物虐待、ダメぜったい!」

「普通の柴犬ならね。佳穂は初めて犬の姿の古柴を見るから知らないでしょうけど、この駄犬は古柴の獣の姿よ」

「えっ!?」

「ねぇ、古柴? 犬の姿ならなんでも許されると思ってるのかなー?」

にっこりと希和は微笑んだ。
う、うわー、怒ってる、怒ってるよ。
柴犬が耳と尻尾をぺしゃっと下げた。

「き、希和っ。ごめっ…ごめんっ……俺が悪かったです。ちょっとふざけすぎました」

「喋った!」

「そりゃそうよ。獣人なんだから」

犬の姿のまま、古柴君は会話を続けた。

「希和がどこいるかなって思ってさ。探してたんだ。匂いでわかったけど、ここに入るには男の姿だと目立つだろ」

「馬鹿! 犬でもじゅうぶん目立っているのよ!」

希和が怒鳴りつけた。
どうしてそんなに怒るのだろうと思っていると、周囲の視線がグサグサと私達に突き刺さっていた。
そして、気づいた。
同じ白い制服を着た女子生徒しかいないことを―――
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