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32 遺されていた証拠
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お茶の先生の家は山手の静かな場所にあった。
裏には湧き水があり、緑の苔が石に這うように生えている。
大きな日本家屋の周りには塀が延々と続き、初めて来た時はどこが入り口なのかわからないくらいだった。
庭の松の緑が眩しい。
井垣の家と同じくらい広い。
茶室には紅梅が飾られ、茶軸には『直心是道場』と書いてあった。
静かな茶室に鹿威しの音が響き渡った。
壱都さんはスーツ姿で背筋を伸ばし、姿勢よく座っている。
私は壱都さんの『着物姿が見たい』という強い要望に負け、薄い桃色の色無地と呼ばれる着物に帯は梅の柄が入ったものを着た。
炉が暖かく感じ、立ち昇る湯気と水の流れる音が心地よく、眠くなってしまう。
隣の壱都さんはさすがになれていて、一つ一つの所作がまるでお手本のようだった。
先生はもてなしが終わると、ゆっくりとこちらを向いた。
「わざわざ、今日はありがとう」
先生がお礼を言うと、壱都さんが微笑んだ。
「いいえ。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳なく思っています」
「まあ、よろしいのよ。今日、二人で来てもらったのはね。実はこれを渡そうと思っていたからなの」
着物の襟もとから先生が封筒を取り出した。
達筆な字で先生の名前が書かれている。
その字が誰のものなのか、すぐにわかった。
「どうぞ、お持ちになって」
壱都さんはなにかを察したようだった。
「ありがとうございます。お借りします」
「壱都さん、この手紙になにか書いてあるの?」
「ああ。この消印を見るとわかる」
消印はお祖父さんが亡くなった前日―――お祖父さんはなくなる直前、先生に手紙を出していた。
「これで、会長の不名誉が晴らされることを祈っていますよ」
先生達はお祖父さんを悪く言われたことに対して、私以上に我慢ならなかったのだと気づいた。
きっとここに決定的な証拠品があるとはだれも思っていない。
「もちろん、井垣会長の不名誉は晴らしますよ」
「亡くなった当日に届いた手紙でしょう?何か意味があるのかもしれないと思って、何度も読んだのだけど。特別なことは何も書いてないの。なにか会長なりに思うところがあって、書いたのでしょうけれど」
「読んでも構いませんか?」
「どうぞ、お読みになって」
壱都さん読み終わると、私にも先生の手紙を渡してくれた。
内容は私のお菓子作りが最近は本格的になり、ガトーショコラを食べたが、なかなかの腕前だとか、壱都さんが海外でしている仕事が順調で自分の目に間違いはなかったとか。
まるで孫自慢だった。
そして、お祖父さんは手紙の最後にいつも年月日を自筆でいれる。
堂々とした字がお祖父さんらしい。
「しっかりされたものでしょう?」
くすくすと先生は笑った。
「そうですね」
壱都さんは目を伏せて、手紙を見つめていた。
白河会長よりもお祖父さんとは気が合っていたからか、私と同じようにこの手紙を読んで思うことはたくさんあったようだった。
「孫が可愛くて仕方ないんですよ。白河会長もきっと同じ気持ちですよ。早くひ孫の顔を見せてさしあげて」
明るく笑う先生に壱都さんと私は深く頭を下げたのだった―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お祝い事を避けてきたけれど、お祖父さんの手紙を読んで、私と壱都さんは籍だけでも入れようという話になった。
入籍前に白河家に挨拶をしておこうと壱都さんに言うと例にも漏れず、反対された。
白河のお祖父さんとは最低限の付き合いだけでいいと言われたけど、そんなわけにはいかない。
お祖父さんが好きだったフルーツゼリーを選び、手土産にした。
温泉旅行に行った時の温泉まんじゅうは結局、見つかってしまい、壱都さんはちょうどやってきた社員に温泉まんじゅうをあげた。
ものすごく感謝されて、違うんですと言えない雰囲気だった。
だから、今回こそは邪魔されないようにしなくては。
「あんなかたくなにお祖父さんを避けなくてもいいと思うのよね」
作戦として、私は一人で白河本邸に行くことに決めた。
それも壱都さんが出張の時を狙った。
私の作戦は完璧。
バレずに白河本邸に来ることができた。
インターホンを押す手が微妙に震えた。
何度見ても文化財レベルの洋館は迫力がある。
けれど、このハードルを私は乗り越えてみせる。
でないと、いつまで経っても挨拶のみの関係で終わってしまう。
意気込んで白河本邸のインターホンを押した。
『朱加里様ですね。少々お待ちください』
門が自動で開き、西洋風の庭を歩いて行くと、玄関にはお手伝いさんが待っていてくれた。
「大旦那様がお待ちです」
広い洋館の中はしんっとしていて、人の気配がほとんどしない。
歩いている足音すら大きく響き、音をたてないように歩くしかなかった。
壱都さんのご両親もお兄さん達もここには住んでいないと聞いていた。
寂しくないのだろうか。
どうぞ、と私が通されたのは洋間だった。
書斎なのか、本がずらりと並んでいる。
白河のお祖父さんは暖炉前で一人掛けのソファーに座り、うとうとしていた。
強がっていてもやはり、歳には勝てないらしい。
棚には漢方薬が置かれ、椅子の横には杖がたてかけてある。
「風邪を引きますよ」
落ちた膝掛けを拾いあげ、膝にかけると、うっすらと目を開けて誰かの名前を呼んだ。
「……さん」
はっとした顔をし、目を開けた。
「なんだ。壱都の嫁か」
何度か目をしばたかせて体を起こし、座り直した。
「なんのようだ」
「壱都さんと入籍するので、そのご報告に参りました」
「そうか」
まじまじと私の顔を見た。
「似ていないと思っていても、面影はあるな」
「井垣のお祖母さんにですか?」
亡くなってしまっていて、お会いすることは叶わなかったけれど、お祖父さんから写真を見せてもらったことがある。
「なぜそれを?」
「お祖父さんと親しかった方から、お聞きしました」
白河会長は舌打ちした。
「お喋り雀どもめ!あいつらは昔からそうだ。井垣の味方ばかりする」
「お祖母さん、モテモテだったんですね」
渋い顔をしたけれど、懐かしそうな目をして教えてくれた。
「そうだ。銀行業を営む家の娘だった。銀行に行くと窓口にいてな。彼女が座ると、ずらっとそこに列ができる。そこに井垣は少ない金を持って。毎日貯金に通っていた」
あのお祖父さんにもそんな可愛らしい時期があったなんて、想像できない。
「井垣とは仲がよかった頃もあった。学生の頃は一番と二番を争っていたからな。お互い、いいライバルだった」
「それじゃあ、どうして?」
「婚約中だった彼女が井垣と駆け落ちしたからだ」
「か、駆け落ち!?」
「銀行の窓口にいたのは社会勉強と言いながら、井垣に会うための口実だったんだよ」
「お祖父さんが好きだったんですね」
「そうだな。井垣にずっと思いを寄せていたのを知っていた。彼女を渡したくなかった自分は破談にさせないようにしていたら、二人に駆け落ちされたというわけだ」
苦々しい表情だった。
その記憶は今も嫌な思い出のまま、胸に残っているらしい。
先生の言葉をふと、思い出していた。
『恋のお相手がどんな平凡な女性だったとしても恋に落ちた相手には特別な存在ですよ』
確かにそうなのかもしれない。
「井垣との仲はそれから、ずっと険悪だった」
暖炉の火が爆ぜた。
目を険しくさせたお祖父さんは壱都さんが怒っている時の顔とよく似ていた。
「こんな話、誰にもするつもりはなかったが、歳だな。そこの箱をとってくれ」
ブランデーやウィスキーの洋酒のボトルがずらりと並んだ棚に木箱がひとつ置いてあった。
「はい」
棚のガラス戸を開けて箱を取り出した。
その箱から紙を一枚取り出して、私に渡してくれた。
「あいつが私にあてた遺言書だ」
白い紙には『約束を果たす』とだけ書いてあった。
これだけ!?
「ふざけているだろう?」
「約束ってなんですか?」
「井垣が会社を立ち上げて成功した後、話す機会があってな。井垣が謝ってきた。そして、生まれてくる子供が男と女なら結婚させようという話になった。けれど、お互い男が一人だけでな。うやむやになったまま、今の今まで約束は果たされなかった」
「それで私に婚約の話を持ってきたんですか」
「もう一人の孫娘は馬鹿だったから、いらんと言ってやった。そんな時、お前が現れた。孫娘がどれだけ可愛くなったのかしらんが、あいつは連絡してきて、井垣の財産をくれてやるから、守ってやってくれとまで言っていた」
「お祖父さんだけは最初から私にとても優しかったです。だから、私にとって家族だと思えたのはお祖父さんだけでした」
ふんっと白河のお祖父さんは顔を背けた。
「それで、壱都とは仲良くやれそうか?あいつは優しげに見えるが、底意地の悪い奴だからな」
「そんなことないです!」
「ほう」
「壱都さんは優しい人です」
「そうか」
ふっとお祖父さんは笑った。
「疲れた。もう寝る」
「あっ……はい。すみません。長居をしてしまって。これ、お土産のフルーツゼリーです。井垣の祖父が好きだったんですよ」
「そのフルーツパーラーには二人でよく行った」
「そうですか」
私が選んだお土産は間違いないようで、ほっとした。
「それじゃあ、失礼します」
一礼し、部屋を出ようとした時―――
「朱加里さん。壱都より長生きすることだ。先に逝かれるのは辛い」
顔は見えなかった。
けれど、私は再び、深々とお辞儀をした。
「また来ます。今度は壱都さんと一緒に」
返事はなかったけど、嫌だとは言わなかった。
気むずかしいけど、どこか壱都さんと似ている。
それを壱都さんが出張から帰ってきたら、教えてあげようと思っていた―――
裏には湧き水があり、緑の苔が石に這うように生えている。
大きな日本家屋の周りには塀が延々と続き、初めて来た時はどこが入り口なのかわからないくらいだった。
庭の松の緑が眩しい。
井垣の家と同じくらい広い。
茶室には紅梅が飾られ、茶軸には『直心是道場』と書いてあった。
静かな茶室に鹿威しの音が響き渡った。
壱都さんはスーツ姿で背筋を伸ばし、姿勢よく座っている。
私は壱都さんの『着物姿が見たい』という強い要望に負け、薄い桃色の色無地と呼ばれる着物に帯は梅の柄が入ったものを着た。
炉が暖かく感じ、立ち昇る湯気と水の流れる音が心地よく、眠くなってしまう。
隣の壱都さんはさすがになれていて、一つ一つの所作がまるでお手本のようだった。
先生はもてなしが終わると、ゆっくりとこちらを向いた。
「わざわざ、今日はありがとう」
先生がお礼を言うと、壱都さんが微笑んだ。
「いいえ。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳なく思っています」
「まあ、よろしいのよ。今日、二人で来てもらったのはね。実はこれを渡そうと思っていたからなの」
着物の襟もとから先生が封筒を取り出した。
達筆な字で先生の名前が書かれている。
その字が誰のものなのか、すぐにわかった。
「どうぞ、お持ちになって」
壱都さんはなにかを察したようだった。
「ありがとうございます。お借りします」
「壱都さん、この手紙になにか書いてあるの?」
「ああ。この消印を見るとわかる」
消印はお祖父さんが亡くなった前日―――お祖父さんはなくなる直前、先生に手紙を出していた。
「これで、会長の不名誉が晴らされることを祈っていますよ」
先生達はお祖父さんを悪く言われたことに対して、私以上に我慢ならなかったのだと気づいた。
きっとここに決定的な証拠品があるとはだれも思っていない。
「もちろん、井垣会長の不名誉は晴らしますよ」
「亡くなった当日に届いた手紙でしょう?何か意味があるのかもしれないと思って、何度も読んだのだけど。特別なことは何も書いてないの。なにか会長なりに思うところがあって、書いたのでしょうけれど」
「読んでも構いませんか?」
「どうぞ、お読みになって」
壱都さん読み終わると、私にも先生の手紙を渡してくれた。
内容は私のお菓子作りが最近は本格的になり、ガトーショコラを食べたが、なかなかの腕前だとか、壱都さんが海外でしている仕事が順調で自分の目に間違いはなかったとか。
まるで孫自慢だった。
そして、お祖父さんは手紙の最後にいつも年月日を自筆でいれる。
堂々とした字がお祖父さんらしい。
「しっかりされたものでしょう?」
くすくすと先生は笑った。
「そうですね」
壱都さんは目を伏せて、手紙を見つめていた。
白河会長よりもお祖父さんとは気が合っていたからか、私と同じようにこの手紙を読んで思うことはたくさんあったようだった。
「孫が可愛くて仕方ないんですよ。白河会長もきっと同じ気持ちですよ。早くひ孫の顔を見せてさしあげて」
明るく笑う先生に壱都さんと私は深く頭を下げたのだった―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お祝い事を避けてきたけれど、お祖父さんの手紙を読んで、私と壱都さんは籍だけでも入れようという話になった。
入籍前に白河家に挨拶をしておこうと壱都さんに言うと例にも漏れず、反対された。
白河のお祖父さんとは最低限の付き合いだけでいいと言われたけど、そんなわけにはいかない。
お祖父さんが好きだったフルーツゼリーを選び、手土産にした。
温泉旅行に行った時の温泉まんじゅうは結局、見つかってしまい、壱都さんはちょうどやってきた社員に温泉まんじゅうをあげた。
ものすごく感謝されて、違うんですと言えない雰囲気だった。
だから、今回こそは邪魔されないようにしなくては。
「あんなかたくなにお祖父さんを避けなくてもいいと思うのよね」
作戦として、私は一人で白河本邸に行くことに決めた。
それも壱都さんが出張の時を狙った。
私の作戦は完璧。
バレずに白河本邸に来ることができた。
インターホンを押す手が微妙に震えた。
何度見ても文化財レベルの洋館は迫力がある。
けれど、このハードルを私は乗り越えてみせる。
でないと、いつまで経っても挨拶のみの関係で終わってしまう。
意気込んで白河本邸のインターホンを押した。
『朱加里様ですね。少々お待ちください』
門が自動で開き、西洋風の庭を歩いて行くと、玄関にはお手伝いさんが待っていてくれた。
「大旦那様がお待ちです」
広い洋館の中はしんっとしていて、人の気配がほとんどしない。
歩いている足音すら大きく響き、音をたてないように歩くしかなかった。
壱都さんのご両親もお兄さん達もここには住んでいないと聞いていた。
寂しくないのだろうか。
どうぞ、と私が通されたのは洋間だった。
書斎なのか、本がずらりと並んでいる。
白河のお祖父さんは暖炉前で一人掛けのソファーに座り、うとうとしていた。
強がっていてもやはり、歳には勝てないらしい。
棚には漢方薬が置かれ、椅子の横には杖がたてかけてある。
「風邪を引きますよ」
落ちた膝掛けを拾いあげ、膝にかけると、うっすらと目を開けて誰かの名前を呼んだ。
「……さん」
はっとした顔をし、目を開けた。
「なんだ。壱都の嫁か」
何度か目をしばたかせて体を起こし、座り直した。
「なんのようだ」
「壱都さんと入籍するので、そのご報告に参りました」
「そうか」
まじまじと私の顔を見た。
「似ていないと思っていても、面影はあるな」
「井垣のお祖母さんにですか?」
亡くなってしまっていて、お会いすることは叶わなかったけれど、お祖父さんから写真を見せてもらったことがある。
「なぜそれを?」
「お祖父さんと親しかった方から、お聞きしました」
白河会長は舌打ちした。
「お喋り雀どもめ!あいつらは昔からそうだ。井垣の味方ばかりする」
「お祖母さん、モテモテだったんですね」
渋い顔をしたけれど、懐かしそうな目をして教えてくれた。
「そうだ。銀行業を営む家の娘だった。銀行に行くと窓口にいてな。彼女が座ると、ずらっとそこに列ができる。そこに井垣は少ない金を持って。毎日貯金に通っていた」
あのお祖父さんにもそんな可愛らしい時期があったなんて、想像できない。
「井垣とは仲がよかった頃もあった。学生の頃は一番と二番を争っていたからな。お互い、いいライバルだった」
「それじゃあ、どうして?」
「婚約中だった彼女が井垣と駆け落ちしたからだ」
「か、駆け落ち!?」
「銀行の窓口にいたのは社会勉強と言いながら、井垣に会うための口実だったんだよ」
「お祖父さんが好きだったんですね」
「そうだな。井垣にずっと思いを寄せていたのを知っていた。彼女を渡したくなかった自分は破談にさせないようにしていたら、二人に駆け落ちされたというわけだ」
苦々しい表情だった。
その記憶は今も嫌な思い出のまま、胸に残っているらしい。
先生の言葉をふと、思い出していた。
『恋のお相手がどんな平凡な女性だったとしても恋に落ちた相手には特別な存在ですよ』
確かにそうなのかもしれない。
「井垣との仲はそれから、ずっと険悪だった」
暖炉の火が爆ぜた。
目を険しくさせたお祖父さんは壱都さんが怒っている時の顔とよく似ていた。
「こんな話、誰にもするつもりはなかったが、歳だな。そこの箱をとってくれ」
ブランデーやウィスキーの洋酒のボトルがずらりと並んだ棚に木箱がひとつ置いてあった。
「はい」
棚のガラス戸を開けて箱を取り出した。
その箱から紙を一枚取り出して、私に渡してくれた。
「あいつが私にあてた遺言書だ」
白い紙には『約束を果たす』とだけ書いてあった。
これだけ!?
「ふざけているだろう?」
「約束ってなんですか?」
「井垣が会社を立ち上げて成功した後、話す機会があってな。井垣が謝ってきた。そして、生まれてくる子供が男と女なら結婚させようという話になった。けれど、お互い男が一人だけでな。うやむやになったまま、今の今まで約束は果たされなかった」
「それで私に婚約の話を持ってきたんですか」
「もう一人の孫娘は馬鹿だったから、いらんと言ってやった。そんな時、お前が現れた。孫娘がどれだけ可愛くなったのかしらんが、あいつは連絡してきて、井垣の財産をくれてやるから、守ってやってくれとまで言っていた」
「お祖父さんだけは最初から私にとても優しかったです。だから、私にとって家族だと思えたのはお祖父さんだけでした」
ふんっと白河のお祖父さんは顔を背けた。
「それで、壱都とは仲良くやれそうか?あいつは優しげに見えるが、底意地の悪い奴だからな」
「そんなことないです!」
「ほう」
「壱都さんは優しい人です」
「そうか」
ふっとお祖父さんは笑った。
「疲れた。もう寝る」
「あっ……はい。すみません。長居をしてしまって。これ、お土産のフルーツゼリーです。井垣の祖父が好きだったんですよ」
「そのフルーツパーラーには二人でよく行った」
「そうですか」
私が選んだお土産は間違いないようで、ほっとした。
「それじゃあ、失礼します」
一礼し、部屋を出ようとした時―――
「朱加里さん。壱都より長生きすることだ。先に逝かれるのは辛い」
顔は見えなかった。
けれど、私は再び、深々とお辞儀をした。
「また来ます。今度は壱都さんと一緒に」
返事はなかったけど、嫌だとは言わなかった。
気むずかしいけど、どこか壱都さんと似ている。
それを壱都さんが出張から帰ってきたら、教えてあげようと思っていた―――
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