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18 必要なもの? (2)
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お祖父さんが亡くなった後、私には悲しむ暇がなかった。
なぜなら、壱都さんは私が思う以上に非常識で一般の感覚とはかけ離れた感覚の持ち主だったからだ。
マンションに来た次の日、壱都さんが仕事に行っていなくなると、白河家のボディガードとして働く女の人がマンションの部屋に待機した。
パンツスーツ姿でキリッとした顔立ちをしている。
一切、隙がない。
「大学は卒業式を残すだけでよかったですね」
「はい」
卒業してなかったら、大学にまでついてくるつもりだったのかと思いながらうなずいた。
「今日は朱加里様が退屈されているだろうと壱都様がおっしゃられていましたので、いろいろとご用意させていただきました」
「え?なにをですか?」
「おまちください」
そういうとボディガードの人達が玄関のドアを開けて、訪問者のボディチェックをした。
なにもないとわかると、中にその訪問した人達を招き入れる。
紺色のスーツにスカーフをした女性とスーツ姿の男性が現れた。
え?なに?なんなの?
なにが始まるのだろうと、眺めていると、女の人は持ってきた服をずらりと並べ始め、男の人はスーツケースから宝石がついたアクセサリーを取り出した。
他に靴や帽子、バッグ、コートなど。
次々に並べられる品物はすべて一流といって差し支えない品物ばかりだった。
「な、なんですか?これ?」
ボディガードにたずねると、得意げな顔で答えた。
「一日中部屋にいるのは退屈だろうと壱都様がおっしゃられ、なにかないか考えたところ百貨店の外商部をお呼びしようということになりました」
自分の雇い主である壱都さんのことを誇らしく思っているようで、『気が利くでしょう』と言わんばかりの態度だった。
並んだ品物を見ると値札がついてない。
聞けば、教えてくれるのだろうけど、聞きにくい。
こんなの怖くて買えないというのもあるけど、必要な物は十分揃っているから欲しいものはなかった。
「ご遠慮なさらずにお好きなものをお選びいただいてよろしいんですよ」
「いえ、私は特に」
百貨店外商部の人はにっこりと微笑んだ。
「ここにないものでも、構いません。どうぞ気軽にお申し付けください」
「いえっ!そんな!」
こんなの贅沢過ぎて、私には手が出せない。
値札がないというだけで心臓に悪い。
「どうぞ、奥様。カタログもございます」
奥様って私のこと?
分厚いカタログまで手渡され、何がなんでも買い物をさせようという空気を感じた。
泣きたい気持ちになりながら、外商部の人とボディガードに挟まれて、商品を見ているふりをした。
揃えられた商品は世間様ではハイブランドと呼ばれるものばかりで、ブランドに興味のない私ですらわかるブランドばかりだった。
こ、困った……。
だらだらと冷や汗をかきながら、目の前に並ぶ商品の前で立ち尽くしていた。
「な、なにも買わないっていう選択肢はありますか?」
「ありません」
無理!
絶対に無理!
「あの、お茶でもいれましょうか?」
「お茶ですか?お茶でしたら、もうすぐ到着するので少々おまちください」
次は誰がくるの?と思っていると、インターホンが鳴った。
案内されて入ってきたのは年配の女性だった。
「家政婦さんが来られましたよ。お茶ですよね。朱加里様と外商部の方にお茶をお願いします」
「かしこまりました」
家政婦さんはバッグからエプロンを取り出し、足早にキッチンの方に行ってしまった。
「ち、ちがっ……」
お茶をいれてほしいわけじゃないの。
私がお茶をいれますって言ったつもりだった。
待ってくださいと、伸ばした手を力なく下におろした。
「さ、朱加里様。買い物を続けて下さい。白河の奥様なら、数点は購入されるものですよ」
「まだ結婚していません!」
「同じようなものですよ」
さあさあ、と並べられた商品を見せられた。
どうしていいか、わからず、結局、外商部の人達には謝って帰ってもらった。
かなり、困った顔をしていた私を気遣ってか、ボディガードから『そのうち、なれますよ』などと、励まされてしまった。
なれる……なれるのかなぁ……?
そういう問題じゃないような気がする。
遠い目をしながら、ソファーに座り、ぐったりしていると、温くなったお茶を家政婦さんが新しいものを取り換えてくれた。
「すっ…すみません!」
一口くらいは飲んでおくべきだった。
なんて失礼を―――と、思っているのは私だけのようで、家政婦さんは淡々としていた。
「どうぞ、お気になさらないでください。甘いお菓子もお持ちしますね」
家政婦さんはそう言いながら、マドレーヌやフィナンシェといった焼き菓子を小花を散らした模様の白い皿にのせてだしてくれた。
「お昼はいかがなさいますか。好き嫌いはございますか?」
「ございません……」
混乱しておかしな話し方になってしまった。
家政婦さんはにこりともせず、私の失敗を軽く受け流すとは掃除と観葉植物の水やりを始める。
「私もお手伝いします!」
手伝うべきだと思い、立ち上がるとそれをやんわりと断られてしまった。
「自分の仕事ですから」
それはわかるけど……
「朱加里様は座っていてくださいね」
「は、はい」
ちらちらと家政婦さんの存在を気にしながら、テレビをつけた。
とくに観たいテレビもなく、テレビショッピングの声が延々と流れていた。
ボディガードの女の人と家政婦さんがいる部屋で私は早く壱都さんが帰ってこないか、時計ばかり気にしていた。
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