35 / 36
番外編
ギルド(前編)
しおりを挟む
それは突然のことだった。
どうしてそんな話題になったのか、覚えていない。
恐ろしいことがおきた。
それだけはわかった。
「ぎゃああああっ!」
「有里!?どうした!?」
帰ってきたばかりの直真さんがリビングに飛び込んできた。
妻の危機に駆けつけるとは夫の鏡だね!って今はそれどころじゃない(ひどい)
「な、直真さん……」
「なに泣いて……相談してみろ」
「私が悪かったんです」
「珍しいな。お前がそんな弱気でしおらしいのは」
「本気で落ち込んでいるんですから、そんな言い方しないでください!」
「ああ。そうだな。悪い」
それで?と直真さんに促されて答えた。
「パーティが崩壊したんです。私の一瞬のミスでっ」
クッションに顔を埋めて泣いていると、優しく直真さんが私の頭をなでて―――べしっと叩いた。
「ちょ、ちょっとー!?なでるとこ、なでるとこですって!今のっ!」
い、痛っー!
手首のスナップきいてましたからね?
せめて泣く私にティッシュくらい差し出してくれてもいいじゃないですか?
自分でティッシュの箱を手にし、ぐしぐしと涙をふいた。
「お前がつぶれたカエルみたいな断末魔をあげたから、何事かと思っただろ。まったく、人騒がせな」
「つ、つぶれたカエル!?」
いや、確かにパーティは復活できないし、ボスの前に潰れている。
パーティメンバー達はホームポイントに帰る相談をしているところだ。
ユリッペ>>>すみません。私のせいで。
そう謝罪したけど、みんなは優しくいいよと言ってくれたーーーひとりをのぞいて。
いぶりん>>>マスターがログインするのを待ってから新ミッション参加しようって俺は言ったよな!
野良パーティより厳しい我が弟よ。
いぶりん>>>まだ情報が少ないからこうなるだろうとは思ったけどな。
ユリッペ>>>みんなで死ぬのも楽しいと言いたいところですが、回復が間に合わず、申し訳ないとしかお答えできません。
メインキャラ、最高装備できて死んだ私のプライドはズタズタだよ。
しかも、あと数ミリで倒せたのに。
私のせいで。
「もうつぶれたカエルでもなんでもいいです」
「なにマジで落ち込んでいるんだ?たかがゲームだろ」
「たかが?直真さん!もし直真さんが誰かにたかが宮ノ入グループって言われたらどうします?」
「潰す」
一言だけ、きっぱりと言いきった。
しかも、腕を組み王様のように見おろしながら。
いやいやいやいや!?
こ、こわぁ。
目がマジだよ!
これ、もしかして冗談でも許されないやつですか?
「そ、そうですよね。わかります。私にとってはゲームはそのポジションっていうことです」
「なるほどな」
「わかっていただけましたか」
「お前がしおらしいのも悪くないってことはわかった。毎日、それくらいの謙虚さで生きろ」
にっこりと直真さんは微笑んだ。
く、くそっー!
ぼすっとクッションを床に叩きつけた。
相手は魔王だ!
リアル魔王!―――でも倒せない。
「落ち込む妻に優しくしてください!」
「あー、はいはい。夕飯にするぞ。あとは温めるだけだろ?」
「そうですけど」
はあっとため息をついた瞬間、天使の羽が画面に待った。
ユリッペ>>>マスターああああ!!
我がギルドのトップ、ギルドマスターがログインし、死んでいるのを察して駆けつけてくれたらしい。
なにも言わずにダンジョンのこんな奥までっ!
翼がついた純白の衣に超レアアイテムの癒しの杖、 まさしく神!
一振で全メンバーを生き返らせると回復アイテムを配ってくれた。
「マスター!一生、ついていきます!もうっ、かっこよすぎ!」
大喜びでクッションをぽんぽんっと天井に向かって放り投げる私を直真さんは顔をひきながら眺めていた。
「おい。照明にあたるだろ?」
ぽすんっと直真さんはクッションをキャッチし、そのクッションを無言で私の顔に投げつけた。
「む、ぶっ!?なにするんですか」
「なんとなく、腹が立った」
もー、なんですか。
鼻をさすりながら、クッションを抱きかかえた。
「これでボス戦に挑めます!」
再挑戦したボス戦はあっさり勝利。
「はっ!どんな攻撃を仕掛けてくるかわかってしまえば、こっちのもんなんですよ」
ミッションクリアの文字が誇らしい。
パーティメンバー達と健闘を称えあう。
そして見知らぬ人たちよ、また会いましょう!と手を振った。
素晴らしい戦いだった……
やりきった、やりきりました。
私は頑張りました!
「死にそうになった瞬間のオール状態異常攻撃。そんなのはありきたりにもほどがあります。あんなに動揺した自分をしかりたいですね。これくらいで驚くなと!」
「さっきまでの涙はどうしたんだよ。いきなり態度がでかくなるな」
「直真さん」
「なんだ」
「人は失敗をすることで学んで成長する生き物なんですよ。直真さんも私のおかげでひとつ学びましたね」
もちろん。この後、いきなり回線を抜かれたことはいうまでもない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はー、本当に恐ろしいのは直真さんでしたね。回線ひっこぬくとか、もう鬼の所業ですよ」
「誰が鬼だ。俺との夕食よりゲームかよ」
嫉妬?
あ、これはもう嫉妬ですね?
にやにやとしながら、ビーフシチューのスプーンをぐるぐると皿の中でかきまぜた。
「安心してください。ギルドマスターは女性ですから」
「嫉妬してねえ!」
「ギルドマスターとオフ会はしたことがないのでたぶんですけどね」
「そうなのか」
「昔馴染みのメンバーで気心は知れてるんですけど、会おうという話になるとギルドマスターからこの距離が心地いいって言われて」
「まあ、そういうのもありかもな」
でも、見てみたいなー。
みんな、同じ年齢くらいだとは思うけど。
ギルドを立ち上げた時、弟だけが高校生であとはみんな大学生って言ってたし。
特にギルドマスター。
綿密な戦略、操作の早さ、対応力、情報量の豊富さ―――そして、ギルドメンバーへの気配り。
どれをとっても完璧だった。
うーん、興味ある。
「そうだ、直真さん」
「俺は行かないからな」
「どうしてわかったんですか?」
「お前が考えていることくらいわかる」
「私、直真さんのことギルドメンバーに自慢したんですよ」
「自慢?」
「イケメンのお金持ちで仕事もできて、ヤクザなみにケンカも強いって」
「最後のはいらないだろ」
私なりの褒め言葉のなのに。
「でも、誰も信じてくれなかったんですよ?」
ギルドメンバー達の反応は
『嘘おつ』『さすがにそれはないですわー』『ユリッペさん、そこがリアルかどうか確認しました?』なんて言ってきた。
親愛なるギルドメンバー達とはいえ、さすがに傷つくよ!?
「日頃の行いの悪さだろ」
「直真さんだけには言われたくないです」
「はあ!?」
「オフ会なんてただの飲み会ですよ?直真さんは会社の飲み会にも行ったことないでしょ?」
「そうだな」
だよね。
この顔である。
出会い目的の飲み会だったとしてですよ?
こんな顔だけは国宝級のイケメンが登場したら、全員もってかれますよ。
しかも、タチが悪いことに俳優なみの演技派!
色気全開でこられたらひとたまりもない。
そう思うと、オフ会にはつれていかないほうがいいのかもしれない。
みんなには毒かも。
それに直真さんをメンバーが好きになったら?
その可能性は大いにある。
たとえ、私が汚名を着せられようとも、ここはっ!
「やっぱりオフ会はいいです」
「なんだ。あっさり引かれると気になるな」
考えを読まれたくなくて、すいっと目をそらした。
ふっと直真さんは笑った。
「俺は有里だけだぞ?」
「そこは気づかないふりをしてくださいよっ!」
思わず、シチューを吐き出しそうになった。
そんなっ!
普通に言わないでほしい。
こっちは直真さんの色気を受け止める心の準備がいるんですよ!
直真さんはさっきまでのふざけた口調を消して、ビーフシチューが入った皿を見ながら言った。
「だから、お前も俺との食事を優先しろ。いいな?」
「……わかりました」
これは本気のセリフ―――直真さんは寂しがり屋なところがあるから。
こんな憎まれ口を叩いていても。
やっと思い出して、忘れていた言葉を口にした。
「おかえりなさい、直真さん」
「ただいま、有里」
待つ家族がいなかった直真さんにとっては特別な言葉だから忘れてはいけない。
「オフ会に一度だけなら付き合ってやるよ」
そう言った直真さんの声はいつになく優しく、そして穏やかに微笑んでいた。
フォルダに保存しておきたいくらいの顔で―――
どうしてそんな話題になったのか、覚えていない。
恐ろしいことがおきた。
それだけはわかった。
「ぎゃああああっ!」
「有里!?どうした!?」
帰ってきたばかりの直真さんがリビングに飛び込んできた。
妻の危機に駆けつけるとは夫の鏡だね!って今はそれどころじゃない(ひどい)
「な、直真さん……」
「なに泣いて……相談してみろ」
「私が悪かったんです」
「珍しいな。お前がそんな弱気でしおらしいのは」
「本気で落ち込んでいるんですから、そんな言い方しないでください!」
「ああ。そうだな。悪い」
それで?と直真さんに促されて答えた。
「パーティが崩壊したんです。私の一瞬のミスでっ」
クッションに顔を埋めて泣いていると、優しく直真さんが私の頭をなでて―――べしっと叩いた。
「ちょ、ちょっとー!?なでるとこ、なでるとこですって!今のっ!」
い、痛っー!
手首のスナップきいてましたからね?
せめて泣く私にティッシュくらい差し出してくれてもいいじゃないですか?
自分でティッシュの箱を手にし、ぐしぐしと涙をふいた。
「お前がつぶれたカエルみたいな断末魔をあげたから、何事かと思っただろ。まったく、人騒がせな」
「つ、つぶれたカエル!?」
いや、確かにパーティは復活できないし、ボスの前に潰れている。
パーティメンバー達はホームポイントに帰る相談をしているところだ。
ユリッペ>>>すみません。私のせいで。
そう謝罪したけど、みんなは優しくいいよと言ってくれたーーーひとりをのぞいて。
いぶりん>>>マスターがログインするのを待ってから新ミッション参加しようって俺は言ったよな!
野良パーティより厳しい我が弟よ。
いぶりん>>>まだ情報が少ないからこうなるだろうとは思ったけどな。
ユリッペ>>>みんなで死ぬのも楽しいと言いたいところですが、回復が間に合わず、申し訳ないとしかお答えできません。
メインキャラ、最高装備できて死んだ私のプライドはズタズタだよ。
しかも、あと数ミリで倒せたのに。
私のせいで。
「もうつぶれたカエルでもなんでもいいです」
「なにマジで落ち込んでいるんだ?たかがゲームだろ」
「たかが?直真さん!もし直真さんが誰かにたかが宮ノ入グループって言われたらどうします?」
「潰す」
一言だけ、きっぱりと言いきった。
しかも、腕を組み王様のように見おろしながら。
いやいやいやいや!?
こ、こわぁ。
目がマジだよ!
これ、もしかして冗談でも許されないやつですか?
「そ、そうですよね。わかります。私にとってはゲームはそのポジションっていうことです」
「なるほどな」
「わかっていただけましたか」
「お前がしおらしいのも悪くないってことはわかった。毎日、それくらいの謙虚さで生きろ」
にっこりと直真さんは微笑んだ。
く、くそっー!
ぼすっとクッションを床に叩きつけた。
相手は魔王だ!
リアル魔王!―――でも倒せない。
「落ち込む妻に優しくしてください!」
「あー、はいはい。夕飯にするぞ。あとは温めるだけだろ?」
「そうですけど」
はあっとため息をついた瞬間、天使の羽が画面に待った。
ユリッペ>>>マスターああああ!!
我がギルドのトップ、ギルドマスターがログインし、死んでいるのを察して駆けつけてくれたらしい。
なにも言わずにダンジョンのこんな奥までっ!
翼がついた純白の衣に超レアアイテムの癒しの杖、 まさしく神!
一振で全メンバーを生き返らせると回復アイテムを配ってくれた。
「マスター!一生、ついていきます!もうっ、かっこよすぎ!」
大喜びでクッションをぽんぽんっと天井に向かって放り投げる私を直真さんは顔をひきながら眺めていた。
「おい。照明にあたるだろ?」
ぽすんっと直真さんはクッションをキャッチし、そのクッションを無言で私の顔に投げつけた。
「む、ぶっ!?なにするんですか」
「なんとなく、腹が立った」
もー、なんですか。
鼻をさすりながら、クッションを抱きかかえた。
「これでボス戦に挑めます!」
再挑戦したボス戦はあっさり勝利。
「はっ!どんな攻撃を仕掛けてくるかわかってしまえば、こっちのもんなんですよ」
ミッションクリアの文字が誇らしい。
パーティメンバー達と健闘を称えあう。
そして見知らぬ人たちよ、また会いましょう!と手を振った。
素晴らしい戦いだった……
やりきった、やりきりました。
私は頑張りました!
「死にそうになった瞬間のオール状態異常攻撃。そんなのはありきたりにもほどがあります。あんなに動揺した自分をしかりたいですね。これくらいで驚くなと!」
「さっきまでの涙はどうしたんだよ。いきなり態度がでかくなるな」
「直真さん」
「なんだ」
「人は失敗をすることで学んで成長する生き物なんですよ。直真さんも私のおかげでひとつ学びましたね」
もちろん。この後、いきなり回線を抜かれたことはいうまでもない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はー、本当に恐ろしいのは直真さんでしたね。回線ひっこぬくとか、もう鬼の所業ですよ」
「誰が鬼だ。俺との夕食よりゲームかよ」
嫉妬?
あ、これはもう嫉妬ですね?
にやにやとしながら、ビーフシチューのスプーンをぐるぐると皿の中でかきまぜた。
「安心してください。ギルドマスターは女性ですから」
「嫉妬してねえ!」
「ギルドマスターとオフ会はしたことがないのでたぶんですけどね」
「そうなのか」
「昔馴染みのメンバーで気心は知れてるんですけど、会おうという話になるとギルドマスターからこの距離が心地いいって言われて」
「まあ、そういうのもありかもな」
でも、見てみたいなー。
みんな、同じ年齢くらいだとは思うけど。
ギルドを立ち上げた時、弟だけが高校生であとはみんな大学生って言ってたし。
特にギルドマスター。
綿密な戦略、操作の早さ、対応力、情報量の豊富さ―――そして、ギルドメンバーへの気配り。
どれをとっても完璧だった。
うーん、興味ある。
「そうだ、直真さん」
「俺は行かないからな」
「どうしてわかったんですか?」
「お前が考えていることくらいわかる」
「私、直真さんのことギルドメンバーに自慢したんですよ」
「自慢?」
「イケメンのお金持ちで仕事もできて、ヤクザなみにケンカも強いって」
「最後のはいらないだろ」
私なりの褒め言葉のなのに。
「でも、誰も信じてくれなかったんですよ?」
ギルドメンバー達の反応は
『嘘おつ』『さすがにそれはないですわー』『ユリッペさん、そこがリアルかどうか確認しました?』なんて言ってきた。
親愛なるギルドメンバー達とはいえ、さすがに傷つくよ!?
「日頃の行いの悪さだろ」
「直真さんだけには言われたくないです」
「はあ!?」
「オフ会なんてただの飲み会ですよ?直真さんは会社の飲み会にも行ったことないでしょ?」
「そうだな」
だよね。
この顔である。
出会い目的の飲み会だったとしてですよ?
こんな顔だけは国宝級のイケメンが登場したら、全員もってかれますよ。
しかも、タチが悪いことに俳優なみの演技派!
色気全開でこられたらひとたまりもない。
そう思うと、オフ会にはつれていかないほうがいいのかもしれない。
みんなには毒かも。
それに直真さんをメンバーが好きになったら?
その可能性は大いにある。
たとえ、私が汚名を着せられようとも、ここはっ!
「やっぱりオフ会はいいです」
「なんだ。あっさり引かれると気になるな」
考えを読まれたくなくて、すいっと目をそらした。
ふっと直真さんは笑った。
「俺は有里だけだぞ?」
「そこは気づかないふりをしてくださいよっ!」
思わず、シチューを吐き出しそうになった。
そんなっ!
普通に言わないでほしい。
こっちは直真さんの色気を受け止める心の準備がいるんですよ!
直真さんはさっきまでのふざけた口調を消して、ビーフシチューが入った皿を見ながら言った。
「だから、お前も俺との食事を優先しろ。いいな?」
「……わかりました」
これは本気のセリフ―――直真さんは寂しがり屋なところがあるから。
こんな憎まれ口を叩いていても。
やっと思い出して、忘れていた言葉を口にした。
「おかえりなさい、直真さん」
「ただいま、有里」
待つ家族がいなかった直真さんにとっては特別な言葉だから忘れてはいけない。
「オフ会に一度だけなら付き合ってやるよ」
そう言った直真さんの声はいつになく優しく、そして穏やかに微笑んでいた。
フォルダに保存しておきたいくらいの顔で―――
12
お気に入りに追加
1,147
あなたにおすすめの小説


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる