34 / 36
番外編
鬼の居ぬ間に!
しおりを挟む
「有里。海外支店に行く用事が出来た。海外出張に行ってくる。だが、俺との約束は守れ」
「はぁ」
北海道展でゲットしたサキイカをもぐもぐと食べながら、あいまいな返事をして頷いた。
今日の午後の仕事の合間に直真さんに内緒でこっそりデパートに行き、北海道展でサキイカを買ってきた。
大袋に入ったサキイカを直真さんはまじまじと見つめていたので、『どうぞー』と差し出したけど、首を横に振って断られた。
食べればいいのに。
「もっと緊張感を持て。冒頭いきなりサキイカ食べるヒロインなんかいないぞ」
ヒロイン?なんのこと?
どうやら、直真さんはサキイカどころではないらしい。
それに海外出張なんて珍しい。
「なにかあったんですかー?」
「いろいろとな。会社の経営に関わることではない。安心しろ」
「はぁ」
教えてくれる気はないみたいだったので、とりあえず、アイテム合成をした。
パソコンから『ばしゅーんっ』とアイテムが合成成功した音がして、直真さんの頬がひきつっていた。
「いいか?俺がいない期間、ゲームは二時間。コーラは飲み過ぎるな。ポテチは油脂が多いから、毎日食うなよ?野菜はきちんと摂れ。それから、徹夜でゲームはするな。いいな?」
「小学生じゃないんですから。私は直真さんの妻ですよ?妻!いくらなんでも直真さんがいないからって、そこまで乱れませんって」
そうそう。
私もいい大人なんだから。
ちゃーんとね。規則正しい生活をしますとも!
あー、何しよう!
鬼の居ぬ間に洗濯ってこのことだよねー!
直真さんがいないとなると―――まずはゲーセンに行って、ラーメン屋めぐりをして徹夜でネトゲしつつ、ピザを注文するとか?
なんという禁断の日々。
背徳感Max!!!
「すでに守る気ないな?お前」
「や、やだなー!ちゃんと守りますって!」
なぜわかる。
探偵か並みの推理力を発揮するから、本当に怖い。
「お前を野放しにするとロクなことがない」
信用ゼロ。
ちょっとは妻を信用してくれたっていいのに。
私だって、わかってる!
常務夫人なんだから!!
見てよ、このセレブ感!
サキイカだってコンビニのおつまみコーナーから買ってない。
デパートの北海道展だしね?
結構、上品さが身についてきたと思うんだよね。
そう思いながら、袋からサキイカを取り出してもぐもぐと噛みしめたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―――チュンチュンと鳥の鳴く声がした。
「あー……やっちゃった」
これが朝チュンか。
重くて眠い体でふらふらとしながら、バタンッと横になった。
テレビからは朝のニュースが流れ、『今日の運勢をみてみましょう!』なんて明るい声がする。
今、私に必要なのは運勢ではなく睡眠。
『ラッキーアイテムは水玉の傘!予想外なことにも落ち着いて取り組めますよ!』
―――残念です。
外出する気予定はない。
「昨日がイベント初日なのが悪いんだよ!ついイベントミッションに参加したついでにアイテム取りに行っちゃったよ……」
久々の徹夜は体にこたえる。
直真さんが海外出張に行って五日目の朝―――一週間いないときいたから、よし!この隙に自由を満喫してみせる!と意気込んだのは良かったけど、張り切りすぎて徹夜までしてしまった。
「そうだ!会社を休もう。直真さんもいないことだし」
いそいそとリビングに毛布とクッションを持ってきて、ごろごろと転がった。
ふふふふ。
昼寝(朝寝)をして、起きたら新作のアイスクリームと冷凍のたこ焼きをチンして食べる!!
直真さんがいると冷食が口に入らないんだよね。
なんせここは高級マンション。
デリバリーもバッチリ充実しているから、冷食と聞くと奥様達は『非常食でして?』なんて聞いてくる。
まったくなんて世界だよ。
会社を休む連絡を人事部長にし、受理されるとさっそく毛布にくるまり、安眠を貪った。
鬼の居ぬ間に。
どれくらい眠ったのか、目を覚ました頃にはすでに夕方になっていた。
―――しまった。
これは確実、夜に眠れないフラグ。
「ま、まあ、あれですよ!直真さんが戻ってくる前に生活リズムを取り戻せばセーフですしね」
などと、苦しい言い訳を自分にした。
部屋も散らかってるし、そろそろ片付けなければ。
直真さんが帰ってきたら、鬼のように怒るに違いない。
『ゲームの時間を1時間に減らすからな!!』
と言う姿が目に浮かぶ。
その時、スマホが鳴った。
テレビ電話―――?
「は、はーい」
『仕事がそろそろ終わったころだと思ってな」
笑顔の直真さんが映し出された。
本能的に『あ、これ、やばいヤツ』と察した。
「確かに仕事(ネトゲ)は終わってますけど」
『徹夜でゲームか?会社を休んだらしいな』
すでに休んだことが筒抜けになっていた。
スパイ、スパイがいますよ!?
私の周りに!
「裏切者がどこかにいるみたいですね!!」
『人事部長は俺の味方だ。有里が休むと連絡してきたら、俺に連絡を寄越せと言ってある』
あっ、あいつー!!
私が電話した時は『有給ですね、わかりました』としか言わなかったのにー!!
宮ノ入に私の味方はいないの!?
こんな悪魔のような男に従う世界を、勇者よっ!救って!
『有里。また馬鹿なことを考えているんだろうが、話を聞けよ。一緒に夕食を食べよう』
「え?夕食?海外にいるんじゃなかったんですか?」
『空港だ。お前が寂しいだろうと思って早めに出張を切り上げてきた』
「えええええっ!!!っと―――わ、わぁ、嬉しいな……」
『俺がいない間、きちんと生活していただろうからな?』
「も、もちろんですよー!やだなー!!」
『早く帰ってきて嬉しいだろう?有里?』
綺麗な顔で微笑んで―――狡い人だ。
そんな顔で笑われたら、私は部屋を全力で片付けて、身だしなみをバッチリきめないといけない。
怒られるよりも酷い。
「……すぐに用意します」
『待ってるからな。寿司屋の予約は19時、宮ノ入本社前で合流するぞ。それと休んだ分の仕事はやってもらうからな』
「了解……ボス……」
時間を私に与えたのは私が部屋を散らかし、やりたい放題だったことがばれてるせいだ。
宮ノ入本社にいる瑞生さんに仕事の報告もあるんだろうけど、とんでもない人だよ!
私の生活を完全管理しているよ!!
人事部長めー!
悪の手先に成り下がってくれたものよ。
これ以上酷い目にあわないためには―――
「……水玉の傘を持っていこう」
ソッと折りたたみ傘を手にした。
祭りの後の部屋を片付けるのと休んだ分の仕事を上乗せされたせいで、なぜ、直真さんが海外出張したのかという理由を聞くのを忘れていた。
これはまた後日、わかることになるけれど―――私がまた沖重グループに出向することになるとは夢にも思っていなかった。
まだこの時は。
「はぁ」
北海道展でゲットしたサキイカをもぐもぐと食べながら、あいまいな返事をして頷いた。
今日の午後の仕事の合間に直真さんに内緒でこっそりデパートに行き、北海道展でサキイカを買ってきた。
大袋に入ったサキイカを直真さんはまじまじと見つめていたので、『どうぞー』と差し出したけど、首を横に振って断られた。
食べればいいのに。
「もっと緊張感を持て。冒頭いきなりサキイカ食べるヒロインなんかいないぞ」
ヒロイン?なんのこと?
どうやら、直真さんはサキイカどころではないらしい。
それに海外出張なんて珍しい。
「なにかあったんですかー?」
「いろいろとな。会社の経営に関わることではない。安心しろ」
「はぁ」
教えてくれる気はないみたいだったので、とりあえず、アイテム合成をした。
パソコンから『ばしゅーんっ』とアイテムが合成成功した音がして、直真さんの頬がひきつっていた。
「いいか?俺がいない期間、ゲームは二時間。コーラは飲み過ぎるな。ポテチは油脂が多いから、毎日食うなよ?野菜はきちんと摂れ。それから、徹夜でゲームはするな。いいな?」
「小学生じゃないんですから。私は直真さんの妻ですよ?妻!いくらなんでも直真さんがいないからって、そこまで乱れませんって」
そうそう。
私もいい大人なんだから。
ちゃーんとね。規則正しい生活をしますとも!
あー、何しよう!
鬼の居ぬ間に洗濯ってこのことだよねー!
直真さんがいないとなると―――まずはゲーセンに行って、ラーメン屋めぐりをして徹夜でネトゲしつつ、ピザを注文するとか?
なんという禁断の日々。
背徳感Max!!!
「すでに守る気ないな?お前」
「や、やだなー!ちゃんと守りますって!」
なぜわかる。
探偵か並みの推理力を発揮するから、本当に怖い。
「お前を野放しにするとロクなことがない」
信用ゼロ。
ちょっとは妻を信用してくれたっていいのに。
私だって、わかってる!
常務夫人なんだから!!
見てよ、このセレブ感!
サキイカだってコンビニのおつまみコーナーから買ってない。
デパートの北海道展だしね?
結構、上品さが身についてきたと思うんだよね。
そう思いながら、袋からサキイカを取り出してもぐもぐと噛みしめたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―――チュンチュンと鳥の鳴く声がした。
「あー……やっちゃった」
これが朝チュンか。
重くて眠い体でふらふらとしながら、バタンッと横になった。
テレビからは朝のニュースが流れ、『今日の運勢をみてみましょう!』なんて明るい声がする。
今、私に必要なのは運勢ではなく睡眠。
『ラッキーアイテムは水玉の傘!予想外なことにも落ち着いて取り組めますよ!』
―――残念です。
外出する気予定はない。
「昨日がイベント初日なのが悪いんだよ!ついイベントミッションに参加したついでにアイテム取りに行っちゃったよ……」
久々の徹夜は体にこたえる。
直真さんが海外出張に行って五日目の朝―――一週間いないときいたから、よし!この隙に自由を満喫してみせる!と意気込んだのは良かったけど、張り切りすぎて徹夜までしてしまった。
「そうだ!会社を休もう。直真さんもいないことだし」
いそいそとリビングに毛布とクッションを持ってきて、ごろごろと転がった。
ふふふふ。
昼寝(朝寝)をして、起きたら新作のアイスクリームと冷凍のたこ焼きをチンして食べる!!
直真さんがいると冷食が口に入らないんだよね。
なんせここは高級マンション。
デリバリーもバッチリ充実しているから、冷食と聞くと奥様達は『非常食でして?』なんて聞いてくる。
まったくなんて世界だよ。
会社を休む連絡を人事部長にし、受理されるとさっそく毛布にくるまり、安眠を貪った。
鬼の居ぬ間に。
どれくらい眠ったのか、目を覚ました頃にはすでに夕方になっていた。
―――しまった。
これは確実、夜に眠れないフラグ。
「ま、まあ、あれですよ!直真さんが戻ってくる前に生活リズムを取り戻せばセーフですしね」
などと、苦しい言い訳を自分にした。
部屋も散らかってるし、そろそろ片付けなければ。
直真さんが帰ってきたら、鬼のように怒るに違いない。
『ゲームの時間を1時間に減らすからな!!』
と言う姿が目に浮かぶ。
その時、スマホが鳴った。
テレビ電話―――?
「は、はーい」
『仕事がそろそろ終わったころだと思ってな」
笑顔の直真さんが映し出された。
本能的に『あ、これ、やばいヤツ』と察した。
「確かに仕事(ネトゲ)は終わってますけど」
『徹夜でゲームか?会社を休んだらしいな』
すでに休んだことが筒抜けになっていた。
スパイ、スパイがいますよ!?
私の周りに!
「裏切者がどこかにいるみたいですね!!」
『人事部長は俺の味方だ。有里が休むと連絡してきたら、俺に連絡を寄越せと言ってある』
あっ、あいつー!!
私が電話した時は『有給ですね、わかりました』としか言わなかったのにー!!
宮ノ入に私の味方はいないの!?
こんな悪魔のような男に従う世界を、勇者よっ!救って!
『有里。また馬鹿なことを考えているんだろうが、話を聞けよ。一緒に夕食を食べよう』
「え?夕食?海外にいるんじゃなかったんですか?」
『空港だ。お前が寂しいだろうと思って早めに出張を切り上げてきた』
「えええええっ!!!っと―――わ、わぁ、嬉しいな……」
『俺がいない間、きちんと生活していただろうからな?』
「も、もちろんですよー!やだなー!!」
『早く帰ってきて嬉しいだろう?有里?』
綺麗な顔で微笑んで―――狡い人だ。
そんな顔で笑われたら、私は部屋を全力で片付けて、身だしなみをバッチリきめないといけない。
怒られるよりも酷い。
「……すぐに用意します」
『待ってるからな。寿司屋の予約は19時、宮ノ入本社前で合流するぞ。それと休んだ分の仕事はやってもらうからな』
「了解……ボス……」
時間を私に与えたのは私が部屋を散らかし、やりたい放題だったことがばれてるせいだ。
宮ノ入本社にいる瑞生さんに仕事の報告もあるんだろうけど、とんでもない人だよ!
私の生活を完全管理しているよ!!
人事部長めー!
悪の手先に成り下がってくれたものよ。
これ以上酷い目にあわないためには―――
「……水玉の傘を持っていこう」
ソッと折りたたみ傘を手にした。
祭りの後の部屋を片付けるのと休んだ分の仕事を上乗せされたせいで、なぜ、直真さんが海外出張したのかという理由を聞くのを忘れていた。
これはまた後日、わかることになるけれど―――私がまた沖重グループに出向することになるとは夢にも思っていなかった。
まだこの時は。
21
お気に入りに追加
1,146
あなたにおすすめの小説
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる