ネトゲ女子は結婚生活を楽しみたい!

椿蛍

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番外編

実家【直真 視点】

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昼休み、有里はスマホ画面を見ると嫌そうな顔をし、『どうしたら、この難局を乗り切れるのか』とブツブツ呟いていた。
何があった?
大抵、のんきな顔をして昼休みはスマホで延々とわけのわからないゲームをしているというのに―――まあ、どうせくだらないことだろうが。
そう思いながら、こっちはニュースをチェックしていた。

「直真さん。残念なお知らせです」

「お前の残念なお知らせは一般的には普通のお知らせだけどな」

またアホなことを言うんだろうと頬杖をついて、有里の顔を眺めた。

「木村酒店の総司令官が夕飯食べに来いって言ってます」

「普通に呼べよ」

「お母様が食事でもどうですかと」

お母様なんて呼んでねぇだろ!?
こいつ、いらない意地を張るのだけはうまいな。
まあ、いい―――

「もちろん、伺う。今日か?」

「そうらしいです。魚屋のてっちゃんから北海道産鮭を丸まる一匹、買ったそうで」

てっちゃんって誰だよ?
鮭って一匹で買うものか?

「はー。てっちゃん、余計なことをしてくれましたね。いくら市場で安かったからって」

ブツブツと有里は文句を言っていた。

「せっかくお義母さんが誘って下さったんだ。文句を言うな」

「言いたくもなりますよ」

有里は溜息をついて、スマホ画面を眺めていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


有里の実家は酒屋だ。
商店街の中にある結構大きめの酒屋で地酒を取り扱い土産店としても繁盛している。
観光地に近いせいか、にぎやかでお土産店としても人気の商店街だった。
こんな賑やかな所で育てば―――こうなるのか?

「直真君!よくきてくれた!いやあ、酒盛りはやっぱり人数がいないとな!」

「総長!どれがよろしいですか?焼酎、チューハイ、ビール、日本酒、ワインにウィスキー、ブランデーとなんでも揃ってますからね!さあ!」

お義父さんと圭吾けいごが出迎えるなり、両側に立って歓迎してくれたが、肝心の有里は伊吹いぶきの部屋あるパソコンを見にいなくなってしまった。
あいつ!!!
俺をダシにゲームするつもりじゃないだろうな!
伊吹は俺の心情を察してか、『すみません』という目で俺を見ていた。
そんな目をするなら、止めろよ!

「つまみ!おい!つまみをもてぃ!」

「自分でとってきな!」

お義母さんに叱られて、お義父さんは渋々、自分でチータラとサキイカを取りに行った。
圭吾はせっせと台所から料理を運んでいた。
木村酒店において、一番の強者、それは間違いなくお義母さんだ。

「直真さん、よくきてくれたねー!いつも有里が世話になって。あの子、本当にグータラでゲームばかりして、おおざっぱだから」

「いえ、そんなことは―――」

にこやかに笑みを浮かべて完全に否定しようとしたが、否定しきれねぇ……。
俺の演技力もまだまだだな。

「有里っ!!直真さんを放ってゲームしてるんじゃないだろうね!?」

「そんなことしてないってー、やだなー」

慌てて有里は伊吹の部屋から出てきて、ささっと俺の隣に座った。
嘘を吐けよ。
伊吹のパソコンでゲームしてただろうが、と冷ややかな目で有里を見ると俺の視線に気づき、『助けて!』と言っていた。
誰が助けるか!
たまに叱られたほうがいい、こいつは。

「直真さん、手土産なんていいからね。もう有里の面倒を見てくれるだけで十分だから」

「いえ。いつもご無沙汰しておりますから」

「はー、有里はこんな素敵な人をよく旦那様にしたね。顔もいいし、優しいし、心も広いし……」

「騙されてますよっ!顔はともかく、優しいとか、心が広いとかっ……」

「お前を嫁にもらってくれただけでありがたい話だよ」

あの有里がぐっと言葉に詰まった。
さすが、お義母さん。
正しい目をもっているな。

「有里、これが一般的な目だぞ」

有里は恨めしい目で俺を見ていた。
有里の母親は豪快に大きな鮭をさばいて、どんっとホットプレートにのせて焼いた。
あいつの豪快さのルーツはここにあったか……。
デザートのメロンは何故か一人半分ずつでスプーンがついていた。
ジャガイモは丸ごと一個、蒸かしたものが皿にのっている。
男前過ぎるだろう。これは。


「北海道名物。鮭のちゃんちゃん焼きだよ。直真さんは好き嫌いないからねぇ。さすが育ちがいいね」

「育ちが!?」

圭吾は何度か俺を見た。
もちろん俺は―――

「お義母さんの料理が美味しいせいですよ。俺の母は忙しい人で……」

「お母様を早くに亡くしているんだったね……。有里にもっと料理を教えておけばよかったよ……」

有里が俺を責めるような目で見ていたが、もちろん無視スルーした。

「しめっぽい話はナシだ!直真君。酒を飲め、酒を!」

「総長!皿にお取りします!」

お義父さんと圭吾が横からサッと鮭と料理をとってくれたが、有里は一生懸命、鮭を食べながら、さりげなく俺の皿に野菜を入れていた。
おい、俺の皿に自分の嫌いなものを入れるなよ。
野菜を食えよ。
お前は。
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