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30 いつもの場所

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「なんだか、帰ってきたなあって思いますね!」

本社に戻り、挨拶のみで今日は早く帰ってこれた。
せっかく早めに帰れたのだからと、ディナーに直真なおさださんが出張料理サービスでフレンチ料理を頼んでくれた。
おじいちゃんが和食でもてなしてくれた話をしたから、対抗したに違いないけど、レストランじゃなくて自宅でのんびり食べるようにしてくれるあたり、私を理解してくれているというか、喜ばせるのがうまいっていうか―――

「明日からは普通に仕事だからな」

さすが仕事の鬼だよ。
しかも、大好きな弟の秘書に戻って張り切ってるし。
マンションの入り口前に車を止めてもらうと、二人で降りた。

「戻るのは春になるのかと思ってました」

「新卒やら、異動者で忙しくなるだろう。その前に瑞生たまき様は俺を戻したかったというわけだ」

直真さんは誇らしげに言った。
あー、はいはい。

「そういえば、新卒の時、泊まりがけで研修があったじゃないですか。素敵な湖畔の別荘地にあるホテルで」

「ああ。そんなこともしていたか」

そういうのとは無縁の直真さんはぼんやりとした記憶しかないらしい。
けれど、私はバッチリ覚えている。
なぜなら―――

「研修にすれ違い機能のゲーム機を持っていったんですよね。泊まりだったし、ゲームできないなんて辛すぎて……」

本当に辛かった。
あんなコンビニもなにもない別荘地に放り込まれた時にはなんの修行かと思った。

「神聖な宮ノ入の入社研修に何してるんだ!」

「さすが宮ノ入グループは一流企業でした……。すれちがいが0人だった時、私は自分がとんでもないとこにきてしまったと実感しましたね」

直真さんは頬をひきつらせた。

「おい。お前を面接した人事部長の名前を言え」

「どうしてですか!?」

「クビか子会社に飛ばす!」

「やめてください!」

ひどっ……!!
ちょっとすれ違い機能を使ってみたかっただけなのに。
マンションの自動ドアが開くなり、ズラッ―と奥様達が待ち構えていた。
うわっ。びっくりした。
ヒマすぎるでしょ!?

「週刊誌見ましたわよ」

「有里さん、浮気なさったんですって?」

「驚きましたわ、直真さんじゃない男性と週刊誌に載っていらっしゃるから」

やっぱりきたか―――ご丁寧に週刊誌まで手にしている。
直真さんがにっこりと微笑み、前に出た。

「あれは有里に班目まだらめファンドを探ってもらっていただけですよ。いわば、仕事です」

あれだけ、ブチギレておきながら、いけしゃあしゃあと直真さんは言ってのけた。

「いつも時間を持て余している方々には想像もできませんでしたか?」

「なっ!」

「私達夫婦より、ご自分の旦那の心配をされるといいですよ」

全員が言葉に詰まった。
さすが、相手の弱みを的確に突く。

「行くぞ、有里」

直真さんは私の手を握ると、エレベーターに乗り、悪い顔をして目を細めた。

―――嫌な予感がする。

扉がしまる瞬間、顔を近づけるとキスをした―――

「……っ!?」

直真さんは見えなかっただろうけど、私には奥様達の驚きと嫉妬、なんとも言えない表情がばっちり見えていた。
ぱたんとエレベーターのドアが閉まると、直真さんが唇を離した。

「これで、ごちゃごちゃ言ってこないだろ」

「今ので一気に私への敵対心が上がったじゃないですか!」

「はあ?敵対心?」

訳が分からないという顔で直真さんは言ったけど、私はぶるぶると震えた。
あきらかに奥様達が私に嫉妬してたからだよっっ!!
直真さんは満足そうにしていたけど、私と奥様連合の戦いはままだまだ続くようだった―――

【了】
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