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29 別れと出会い【姫愛 視点】
しおりを挟む葉が紅く色づき始めた頃、直真お兄様の辞令が発表された。
「お兄様が本社に帰るなんて、最初から瀧平を子会社にするつもりできていたのね」
私のことなんで、眼中になく、仕事だけ。
瀧平工業は大きく変わってしまった。
お父様は形ばかりの社長になり、役員は入れ替え、親会社の宮ノ入本社からは直真お兄様とは別に新しい専務が来ることになった。
言わば、監視役といったところで、その引き継ぎを終わらせた直真お兄様はまた宮ノ入本社に戻る―――
綺麗な筋書きだった。
それで、お父様はやっと気づいた。
最初から、宮ノ入はそうするつもりだったのだと。
引っ越しの荷物を運びいれてもらっている中、有里さんはリュックを背負って、なにやら直真お兄様と揉めていた。
「私の可愛い子達をトラックに乗せるわけにはいきません!」
「荷物になるから、乗せろよ!」
有里さんは最後まで、よくわからない人だったけど直真お兄様は有里さんといる時だけは気を緩めて、本当の自分を見せていることはわかった。
揉めてる二人に近づき、挨拶をした。
「直真お兄様、お元気で」
「見送りありがとうございます」
紳士的に振る舞う姿に苦笑した。
私が見たあの本性の方が夢だったのではと思うくらいだ。
知らない姿が多すぎた。
どんなお兄様でも受け入れることができるなんて、言ったけど、正直言うと無理だと思った。
有里さんは本性を知った上で一緒にいる。
「すみません。これ、壊れ物ですかー?」
引っ越し業者に呼ばれ、直真お兄様はそちらに行ってしまうと、有里さんと二人になった。
「有里さんは直真お兄様のどこがお好きなの?」
「最近、その質問をよくされますね」
「え?」
「私も考えたんですよ。直真さんのどこが好きなのかって」
秋の晴れた高い空を有里さんは眺めた。
素敵な答えが返ってくるはず―――そう思っていた。
「ぶっちゃけ顔ですね」
―――身も蓋もない。
聞くんじゃなかったわ。
「フェイスって大事なんですよ?(キャラの)イメージにも関わってきますしね。私の今までの経験上、イケメンフェイスはやっぱり得ですよ」
「そ、そう」
なぜ、こんなに熱く語っているのかしら?有里さんは。
「あとはそこそこ私を放置してくれるとこです!今回で私は学びましたよ。明るいアウトドア派やアクティブキャラは私の生活を脅かすってことがはっきりとわかりました」
はー、ひどい目にあったーと、有里さんは一人うなずいていた。
やっぱり有里さんは変わっていて、私には理解できなかった。
けれど、遠くにいながら、直真お兄様は私が有里さんに何を言っているのか、警戒している。
本当に直真お兄様は有里さんが好きで大切なんだということだけはわかった―――
「直真お兄様はあなたじゃないとだめみたいね」
「えっ!?は、はあ。まあ、そうですね。むしろ、私が直真さんじゃないと受け入れてもらえないかなー、なんて」
照れながら、有里さんは言った。
「そうね。直真お兄様に感謝することね」
「ぐっ!」
「おーい、有里。母さんから頼まれて持ってきたぞ」
大学生風の男の人が手をあげて、引っ越しのトラックを横目に入ってきた。
紙袋には健康ドリンクや青汁が入っていて、有里さんが表情を曇らせた。
「伊吹。わざわざ来てくれたのは嬉しいけど、これはいらない!」
「母さんから有里は野菜食ってないから持っていけって言われた。木村家最高司令官の命令は絶対だぞ。それと、わざわざきたわけじゃない。納品があったから、ついでにきただけだ」
「あー、新作の納品ね」
渋い顔をして有里さんは受け取った。
可愛らしい顔をしていて、爽やかな好青年だった。
「有里さん。こちらはどなたですの?」
「あー、私の弟の伊吹です」
「まあ。その……お付き合いしてる方はいらっしゃるの?」
「俺には嫁がいます」
きっぱりとした口調で伊吹さんは言った。
「嫁!?そんな若いのに?」
「今日も嫁の納品があったからきただけだし」
嫁?納品?
有里さんの弟だけあって、よくわからない。
会話が成立していない気がした。
「おおお!さすが伊吹。いいクオリティ」
箱から人形を取り出して有里さんが目をキラキラさせていた。
アニメキャラクターの人形らしく、伊吹さんは有里さんに熱心に語っていた。
「あ、伊吹はフィギュア原型師なんですー。嫁一筋なんで、リアル女性はちょっと」
「誤解を招くようなこと言うな!俺が変態みたいだろ!?」
「私からみたら十分、変態だよ……、なにこのクオリティ」
「嫁が三次元にいたらっていう気持ちの元で製作している」
真剣な顔で伊吹さんは言った。
「じゃあ、俺、納品に行くから」
伊吹さんはバイクに乗って行ってしまった……。
残念な気持ちになりながら、有里さんに連絡先を聞こうとすると、微妙な顔をされた。
「私から姫愛ちゃんにアドバイスしておきますね?」
「なにかしら」
「もっと人を見る目を養った方がいいですよ」
直真さんを旦那様にした有里さんにだけは言われたくないと思った―――
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