ネトゲ女子は結婚生活を楽しみたい!

椿蛍

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21 宮ノ入本邸

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ピンポーン、ピンポーン

宮ノ入家みやのいりけ本邸のインターホンのボタンを容赦なく連打した。

有里ゆり様!?」 

黒服のSP達が何事かとバタバタと足早に出てきたけれど、私の姿を見て、なにかを悟ったらしい。

「泊めてください」

背中にリュック、手には旅行バッグを持って現れたとなると、夫婦喧嘩だと思われて当たり前だ。
しかも、半泣きの私を見てSP達は『厄介なことになった』という顔をしていた。

「は、はあ、まあ。とりあえず、客室を用意するよう申し付けます」

「テレビある部屋がいいです。後、ネット接続できる部屋で」

「わかりました」

ワケアリだと思ったらしく、深く聞いてこなかった。

「会長は夕食の時にお会いになるそうです」

そう言って案内してくれた部屋はホテルのスイートルームなみの広い部屋でリビング、寝室にわかれていて、バスルームもついている。
どんな客が泊まるんだよと内心思いながら、パソコンをネットに接続し、旅行カバンとは別に背負ってきたリュックからゲーム機を取り出した。

「ごはんまで、プレイしよう」

この傷ついた心を癒そう。そうしよう。
ホームウェアに着替え、毛布を頭からかぶり、リビングのテレビの前に陣取った。
テレビみながら、ネトゲをプレイするという最高の環境を作った。
そして、気を遣ってくれたのか、テーブルの上にはお茶や焼き菓子の山が置いてあり、ナッツとココアのクッキーの袋を破って一つ食べた。
さすが、宮ノ入家。
クッキーすらも高級なお味でバターしか使ってないクッキーとみた!

ユーリ>>>ログインしました

『あれ?仕事休みか?』

伊吹いぶきがいた。
はっ!気楽な大学生め!―――うらやましい!(本音)

『風邪か?寝ろよ』

私の話も聞かずに伊吹は追い払おうとした。
なんて弟だよ。

『ちょっとは事情を聞いてよ!夫婦喧嘩して、今、宮ノ入会長の家に逃げてきた』

『ケンカ?何が原因だよ。ゲームのやりすぎか?』

違うわっ!!
弟とはいえ、理由が理由だけに詳しく話せるわけがない。

圭吾けいご兄ちゃんが喋りたいって言うから、チャット変わるぞ?』

『どうぞー』

圭吾兄ちゃんは我ら三兄弟の長男で木村酒店の跡取り息子(そんなたいそうなものでもないけど)なのだ。

『何があったか、兄ちゃんに話してみろ』

『なんだよ。話したら、圭吾にいちゃんが直真さんとメンチ切ってくれんの?』

無言―――いや、そこは可愛い妹を泣かせやがって!兄ちゃんがやっつけてやる!くらい言おうよ?
何も言わないとか、ダメなやつじゃん!

『もういいよ!二人には期待してないから』

『俺も!?』

『伊吹?圭吾兄ちゃんは?』 

『配達に行くってさ』

逃げたな!!!
直真さんのこと、どれだけ怖いんだよ!?いや、怖いけど。

「くっ……!あの魔王を倒すにはやはり、大魔王(宮ノ入会長)しかいないわけね」

『有里。殴り合うなよ?ちゃんと話し合って解決しろよ。もう大人なんだからな』

ぐっ…。
私の考えを見透かしたかのように伊吹はそんなことを言ってきた。
結局、三兄弟の中で弟の伊吹が一番、大人なのだった……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「うわー!すごーい!」

「なんだ。元気そうだな」

宮ノ入会長―――おじいちゃんは私が落ち込んでいると思ったのか、自宅に和食の板前さんを呼んで対面で料理を作ってくれるという超豪華なおもてなしをしてくれた。

「イクラをお願いします!その次はウニで!」

握り寿司まで握ってくれる。
ちょっとした料理屋だし。

「天ぷらはエビで!」

おじいちゃんはやれやれと隣で茶碗蒸しを食べていた。
さすがに歳のせいか、天ぷらはあまり好まないようだった。

「直真と喧嘩したらしいな」

「そうなんです!」

「何が原因だ」

「それは―――言いたくないです」

ウニを食べたせいか、ぽろっと言い出しかけた。
危ない。
心が寿司と天ぷらでほだされかけた。
さすが天下の宮ノ入の会長だけあって、人心じんしん掌握しょうあくけている。
さくさくしたエビ天を天つゆで食べて、次の注文をした。

「さつまいもをお願いします」

「子供を作らないと言い出したか」

エビの尻尾が皿にぽとんっと落ちた。

「………なんで、わかったんですか」

「あいつの考えそうなことだ」

温かい蕎麦を食べながら、会長は笑った。

「この間、従弟である雅冬まさとの親が宮ノ入の社長の座を狙ってクーデターを起こしただろう?直真はそれを危惧している」

「つまり、自分の子供が将来的に瑞生たまきさんを脅かすんじゃないかってことですか?」

「それもあるが、もう一つある。宮ノ入は親族経営の巨大グループだ。八木沢の姓のままである直真を社長にし、じわじわと親族経営を崩そうとする一派が直真を社長にしたいと思っている」

「そんなー。人望と人柄を考えたら、瑞生たまきさんの方がいいですって!直真さんが社長になった日には独裁者になって、独裁政治を行いますよ。間違いないです!」

「孫の中で自分に一番似ているのは直真だと思っている」

「おじいちゃんに?」

「そうだ」

見た目は瑞生さんだけどね。
渋めの迫力あるかんじが。
直真さんはどっちかというと、色素の薄い髪と目をしてて、サラッとした髪が素敵っていうかって―――なに喧嘩相手を褒めちぎっているんだよー!!

「必要なら、あいつはどんな汚い手も使うだろう。実際、そうしてきた」

「は、はあ」

「直真は瑞生がいるから、使

まあね。弟の瑞生さんのためなら、頑張るもんね……。

「今回も自分が陰でなんと言われるか、わかっていただろうが、瀧平たきひらに行くことを拒まなかった」

「買収されかけてますもんね」

「ふん。瀧平が持つ三割の株を宮ノ入が手に入れ、過半数を独占してしまえば、そんなものどうにでもなる。そのために直真は動いている」

「はあ」

「その瀧平が持つ三割手に入れるには瀧平の娘でも口説くだろうと思っていたが」

「色仕掛けするってことですか!?」

「そうだな」

なんでもないことのようにおじいちゃんはあっさりうなずいた。
おいおいおいおい!?
妻!ここに妻がいますからね!?

「だから、お前を置いて行けと言った」

「え?」

「だが、直真は連れて行くと譲らんかった。それが答えではないのか」

「……なんですか」

直真さんは色仕掛けなんかしてない。
どうしようか悩んでいたかもしれないけど……。
私が知り得る限りでは真面目に仕事をしていた。

「面倒な奴だ」

「そんなの聞いたら、平手打ちした私が悪いみたいじゃないですか」

「直真を殴ったのか!?」

「グーじゃないですよ?パーですよ?」

「……う、うむ」

おじいちゃんは目に見えて動揺していたけれど、目の前で寡黙に料理をしてくれていた料理人の人まで手元が少し乱れていた。
気のせいじゃなければ、天ぷらが少し揚げ過ぎだった気がした―――

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