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17 仕事の関係【姫愛 視点】
しおりを挟む「まさか、有里があんな奴と!」
直真お兄様と話をして、部屋から出てきた班目さんは憤りを隠さずに壁を叩いた。
「どうかなさいましたか?」
父が心配そうに尋ねた。
「いや、私事です」
「班目社長。落ち着いてください。一旦、社に戻り、今後の対応を決めましょう」
「…ああ。そうだな」
なんの話をしているのか、父や他の人達もわからなかった。
ただイレギュラーな出来事が起きてしまったことだけはわかった。
「瀧平さん!」
「は、はいっ!」
「瀧平工業は必ず救って見せますから」
「あ、ありがとうございます」
救う?なんのことかしら?
父はぺこぺこと班目さんに頭を下げていた。
どうしてこの人にこんな?
直真お兄様になら、ともかく。
「その代わり社長が保有する瀧平工業の株を売って頂きたい」
「し、しかし……宮ノ入に気付かれると大変なことになる」
「それが一番、お互いにとっていいでしょう」
株を売るですって?
確か瀧平工業の株は宮ノ入が半分以上、持っていたはずだけど、瀧平の方でも何割か保有している。
その分を売ってしまえば、父の影響力は会社に対して完全にゼロになってしまう。
これは大変なことだと思い、直真お兄様にこっそり伝えることにした。
慌てて、その場を離れて役員室のある階までやってくると、直真お兄様の部屋をノックした。
ガチャリとドアを開けると、ソファーの上に正座し、半泣きの有里さんと険しい顔をした直真お兄様がいた。
いったいなにが―――?
そう思っていると、直真お兄様が無表情ですたすたと近寄ると、バンッとドアを閉めた。
え!?どういうこと!?
私、締め出された?
今、問答無用でドアを閉めたのは直真お兄様だったような………目の錯覚?
しかも、鍵がかかっている。
あんな怒っている顔をした直真お兄様を見たのは初めてだった。
「やっぱり、おかしいわ」
どうみても仕事で失敗し、叱られていたとしか思えない。
もしかして班目さんを有里さんが怒らせたんじゃない?
それで、叱られていた―――納得がいく。
今は入らない方がいいわね……。
直真お兄様の足を引っ張るなんて有里さんには困ったものだわ。
私なら、絶対にそんなことないのに。
そう思いながら、部屋の前から立ち去った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「直真お兄様、今日はもうお帰りですか?」
帰る前に会わないと!と思って急いでやってくると、二人は帰る支度をしていた所だった。
「有里と久しぶりに外で食事をすることになったので、今日は帰りますが、何か用事でも?」
「直真お兄様に大事なお話があるんです!」
「それは?」
私はわざと有里さんをチラッと見た。
「ごめんなさい。有里さんがいるところでは話せません」
直真お兄様の顔が険しくなった。
「班目と有里のことかな――?」
えっ!?どうしてその二人?そう思ったけど、直真お兄様は有里さんをちらりと見ていた。
「ま、待って下さい!その話は終わりましたよ?綺麗さっぱり誤解なく、洗濯洗剤のCMなみのクリーンさで私の潔白が証明されましたよね!?」
わけのわからない有里さんの弁明に直真お兄様が笑った。
「そうだったかな?」
「そうそうそうそう!!!」
有里さんは必死に言った。
「直真お兄様。有里さんの話ではありませんけど?」
「それじゃあ、明日で結構です」
なぜ!?いつもの直真お兄様なら、すぐに付き合ってくれるはずなのに。
「うわー。なんだか姫愛__ひめ__#ちゃんの話が気になりますよね!?」
なんだかわざとらしい……。
「直真お兄様、お願い。どうしても話さないといけないことだから。お店も予約してあるし、今日は私と食事に付き合って欲しいの」
「ほらっ!姫愛ちゃんもこう言ってることですし」
おかしい。
なぜ、有里さんが他の女との食事を勧めてるの?
「わかりました―――けど、有里。今日は自宅から出ないように」
「自宅大好きですよ!?出ないでいいなら、一週間くらいでなくても平気です」
引きこもりのような発言を有里さんがしたけど、直真お兄様が気に留めることもなく、さらりとかわした。
「話を聞きましょうか」
なぜか、有里さんは小さくガッツポーズをしていた。
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それではお楽しみください。すずなり。
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