12 / 36
12 宮ノ入の企み
しおりを挟むゲーセンから帰るといつものホームウェアに着替え、夕飯のお皿を並べていると、ちょうど直真さんの車の音がした。
「おかえりなさーい」
リビングのドアが開くのと同時に明るい声で出迎えた。
「―――だだいま」
私の声とは裏腹に直真さんは見るからにどす黒いオーラを放ち、イライラしていた。
これは機嫌が悪い。
まさか、私がゲーセンで豪遊したのがバレた?
「あの、直真さん?あれはですねー」
「悪い。有里」
ん?直真さんが謝った?
「クソ生意気な男に会ったせいで気分が悪い」
「例の班目さんですか?」
「そうだ」
スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めていた。
ハッ!!!これは!
慌ててスマホを手にして、パシャリと一枚撮影した。
うむ。
いいかんじ。
タイトルは『仕事終わりのイライラ直真さん』
レアスチルゲットー!
「おい。有里。なにしてるんだ」
「直真さんフォルダの充実のために撮影をしてました」
「まだそんなもの持っていたのか?消せよ!」
「嫌ですよ!どれだけ私が(隠し撮り)がんばって集めたか!」
「……ったく、しょうがない奴だな」
そんなこと言いながら、まんざらでもないくせに。
どうせ『俺のこと、本当に好きなんだな』なんて思ってるに違いない。
甘い、甘いよ。
この画像は直真さんのおじいちゃんである宮ノ入会長との取引材料になるからね?
可愛い孫の様子を知りたいおじいちゃんに時々、画像を送ってあげている。
私とやり取りするためにおじいちゃん、わざわざスマホにしたんだよ?
直真さんにキツイことを言ってるけど、本当はおじいちゃん、心配してるんだからね。
まあ、画像のお礼におじいちゃんがいろいろ私に便宜を図ってくれるっていうのもあるけど。
「まあまあ。直真さん。夕飯にしましょうよ。なにか飲みます?ワイン?ビール?」
ゲーセンに行ったことがバレてないみたいだし、今のうちに心を落ち着けてもらわねば!
「珍しくサービスがいいな」
う、うわあ。
勘が良すぎ。
直真さん、探偵みたいなとこあるからなー。
「そんなことないです!疲れてる直真さんに優しくしたいだけです」
「ますます怪しいな」
なんでだよ!?
「もー、疑心暗鬼はやめてくださいよー。こっちまで人間不信になるじゃないですか」
「誰が人間不信だ」
「違うんなら、夕飯にしましょうよ」
まだ納得いってないみたいだったけど、直真さんは疲れたのか、おとなしく椅子に座った。
「ビールどうぞー」
冷蔵庫から缶ビールを出してあげた。
まだ疑惑の目をしているし。
浮気なんか(しないけど)した日には殺される気がする。
ほんっとガラが悪いんだから―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゲーセンで取ったお菓子を内密に処分するべく、ロッカーに隠しておいたお菓子を取り出し、会社の工場エリアに持って行った。
直真さんからの書類を色々な場所に届けるため、社内の至る所に出入りしているので、顔見知りになっていた。
向こうも直真さんと話すより、私の方が話しやすいらしく、けっこう気軽に話しかけてくる。
工場長ではなく、工場で働くおばちゃん達にお菓子を渡した。
休憩室には時間差で休憩をとっている人達がいて、顔を出すと必ず誰かいる。
「これ、休憩時間にどうぞー!」
「おやー!有里ちゃん、気が利くね」
直真さんに隠して持ってくるのが大変だった。
「有里ちゃん、あのイケメン旦那とどこで知り合ったんだい」
「会社です」
「ほうほう」
自分の情報を少しだすことで相手に信用させ、聞きたいこと聞く。
特におばちゃん相手だと有効だ。
商店街で生まれ育った私の処世術よ。
「そういえば、私達が挨拶した時、どうして、あんなに冷たいかんじだったんですか?歓迎されてないっていう雰囲気を感じたんですけど」
「ききたいかい?宮ノ入のあんたが聞いても面白い話じゃないと思うけどねぇ」
そんなことを言いながらおばちゃんは『私は知ってるけどね』という顔をして、喋りたそうだった。
「そんなー。教えてくださいよ。聞きたいなー」
仕方ないねぇとおばちゃんは嬉しげな顔を見せた。
「昔から、この会社は社長を中心に自由にやってきた会社だったんだよ。宮ノ入に買収されてからは何もかもが宮ノ入に管理されてしまって面白くないのさ」
「なるほど。買収されたのが、結局、気に入らないんですね」
「資金援助ならよかったらしいけど。私らみたいな下っ端は宮ノ入に感謝しているよ。誰もリストラはされなかったからね。けど、好き勝手やってきた社長一族や上層部は面白くないわけさ」
「そうなりますよね」
確かに宮ノ入って、ただ大きい会社じゃないんだよね。
直真さんも私にはまあまあ優しいけど、敵には容赦ないし。
弟の瑞生さんもぼんやりしているようで、淡々とやることやって利益だしてくるような人だからね……。
おじいちゃんに至ってはもう覇王だよ。覇王。
「今回もなにを企みに来たんだって工場長達は言ってるんだよ。それで冷たいわけさ」
「はー、なるほどー」
「けどね!私らは有里ちゃんのことは好きだよ?挨拶はきちんとするし、気も利くし」
「いやー、あははは、こちらこそありがとうございます」
ゲーセンで取ったお菓子ですみません。
そう思いながら、頭を下げて工場エリアを出た。
ふーん。
何かを企んでるか。
直真さん、肝心なことは教えてくれないからなー。
いったい何をしようとしているんだろう。
残念ながら、私にはさっぱりわからなかった。
21
お気に入りに追加
1,145
あなたにおすすめの小説
両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった
ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。
その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。
欲情が刺激された主人公は…
あなたは人妻のパンツを見た
ヘロディア
恋愛
主人公と夫は仲睦まじい夫婦である。
実は隣の家にもラブラブカップルが住んでいて、毎晩喘ぎ声が聞こえてくるようなイチャイチャっぷりである。
隣の夫人を少々羨ましく思った主人公は、夫とある約束をする…
【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。
KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※
前回までの話
18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。
だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。
ある意味良かったのか悪かったのか分からないが…
万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を…
それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに……
新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない…
おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる