11 / 36
11 変装
しおりを挟む「直真お兄様、仕事が終わったら、一緒に食事でもいきません?」
「すみません。今日は残業でして」
目をうるうるさせたお願いポーズが可愛い。
あんな技もあるわけね。
心のメモに残しておこう。
姫愛ちゃんはあの手この手で直真さんを誘惑していた。
使えるかどうかは別にしてよ?
女子としては勉強しておこうかなって余裕ぶっていると―――姫愛ちゃんが直真さんの手を握った。
「どうしても?」
ちょっ!それはだめでしょ!?
椅子から立ち上がり、スパンッと姫愛ちゃんの手に手刀を落とした。
ふう。
油断大敵。
「直真さん、書類どうぞ」
ついでにドサッとコピーが終わった書類を置いた。
「ありがとう。有里」
直真さんと目が合い、私を見てにこやかに微笑んでいた。
こ、このっ!
絶対にわざとだ!
私が嫉妬するのを見たかっただけで、直真さんは満足するとうまく姫愛ちゃんをかわし、部屋から出した。
「昨日、俺だけ歓迎会に出席させた仕返しだ」
昨日の分!?
まだ根に持ってたわけ!?
にらみつけたけど、直真さんは勝ち誇った顔でパラパラと書類をめくっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「直真さんは残業かー」
なんでも、社長と班目さんが会う約束をしていて、直真さんも同席するんだとか。
と、いうことはよ?
遅くなるわけよね。
家政婦の衣早子さんが食事を作ってくれたから、夕飯は大丈夫。
掃除もしなくていいし。
時間はたっぷりある。
よし!奥様最高!
ネトゲをがっつりやる?
いえいえ。
今はバージョンアップ前で日常のノルマしかやることがない。
週のノルマは昨日で終わったし。
そんなわけで、スーツを脱ぎ、パーカーにデニムという、直真さんと一緒にいると出番がない服を着た。
なぜ、そんな無駄な服をわざわざ持ってきたのかって?
チャキッと変装用のキャップとメガネを装着した。
「それは!ゲーセンに行くため!」
財布とスマホ、家の鍵を持ち、裏の勝手口から家を出た。
―――脱出成功。
つまりよ?
仮にも宮ノ入グループ会長の孫にして、今は専務だけど。
そんな偉い立場の人の妻がまさかのゲーセン通いなんて知られたら大変じゃない?
だから、変装してわからないようにしている。
これでも気を遣ってるんだよ。
こんな私でも。
「さて。最初はやっぱりぐるっと一回りして、気になったゲームを軽くプレイしていこう」
がっつり一万円札を小銭に換えた。
「格ゲーは久しぶりだし、無理かも」
私も歳をとったものね。
一時期は酔拳の有里ちゃんと呼ばれていたのに。
「こ、これは!」
懐かしのシューティングゲーム!!
今じゃもうどこにも置いてないなと思っていたのに!
椅子に座り、お金を投入した。
スティックを軽やかに動かし、ボタンを連打した。
思い出すなー。
この感覚!
しばらく、取り憑かれたかのようにシューティングゲームを楽しんだ。
「あー、眼が疲れたー」
全面クリアはできなかったけど、なかなか楽しませてもらった。
さーて。
そろそろクレーンゲームへと参りますか。
まずは大袋のお菓子をいくつかとった。
直真さんへのお土産にしよう―――と思ったけと、ゲーセン行ったのバレるから、やっぱり隠しておこう。
クレーンゲームでがっつり飴をとると、パーカーのポケットにいれ、その中の一つを口の中に飴を放り込んだ。
ふっ!勝者の味よ。
なにかいいのないかなーと探していると、店先のクレーンゲームでイライラしているサラリーマンがいた。
まだ若く、シャツを腕捲りしてクマのぬいぐるみを狙ってるのか、何度も挑戦していた。
「くそ!」
若者よ。熱いねー。
どうしても欲しいのか、じゃらじゃらと小銭を両替しては頑張っていた。
「彼女へのプレゼントなのかな」
ふむ。
さりげなく、後ろについた。
爽やかな好青年は他人の気配に気づいたらしく、ハッと我に返り、頭を下げた。
「あ、すみません。占領して」
「あー、いえいえ」
順番だと思ったらしく、譲ってくれた。
アームの強さは見るからにいけるレベル。
頭を狙い、アームで持ち上げるようにして落とす!
ゴドンと穴に容易く入った。
ほらねー!楽勝、楽勝。
「すごいな」
ふふ。
そうでしょうとも。
青年よ。私から一つアドバイスをしよう。
「動画を見て攻略方法を学ぶといいですよ」
はいっとクマのぬいぐるみを渡した。
「これ、俺に?」
「欲しかったんでしょ?」
「あ、ああ。まあ」
恥ずかしそうにうなずいた。
ついでに飴もあげた。
「俺からもなにかお礼を」
「あー!気にしないで。そういうのはナシで!今のはゲーマーの情けというかね?そういうのだから。ナイスファイトだったよ!」
「でもなぁ」
お礼できないのが悔しいのか、申し訳なさそうにしていた。
なんて義理堅い。
「っと、私は帰りますね」
そろそろ帰らないと直真さんが帰宅するし。
「そっか。またここにくるか?」
「うーん、たぶん?」
「俺の名前は竜成。次に会った時は必ずお礼するからな!」
「え、いいのにー」
「そ、それで、そっちの名前は?」
「私?私は有里だよ」
「そっか。それじゃあ、また今度な!有里!」
爽やかな笑顔で竜成は笑って片手をあげると手を振った。
「またねー」
彼女とお幸せにと思いながら、ひらひらと手を振り返した。
いやー、いいことした後の気分は最高だねー。
戦利品のお菓子を手に大満足で私は帰ったのだった。
21
お気に入りに追加
1,146
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる