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5 新しい家
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「う、うわぁ。高そうな一戸建てですね」
広い庭にはサトウカエデが植えられていて、まだ紅葉には早く、緑の葉を生い茂らせていた。
家の周りをぐるりと高い塀で囲み、要塞みたいにゴツイ壁は強固で家の中を簡単には覗けないようになっていた。
リビングの大きなスライド式の窓から、バルコニーに出れるようになっており、開放感がある。
街中にあるのに別荘地の家みたいで素敵だった。
室内の調度品はすべて白で統一され、キッチンとダイニング、リビングまで広々として解放感がある。
キッチンにはチキンを丸々焼けそうなくらいの大きなオーブンまで備え付けられていて、私には使いこなせそうにもない。
外国の家みたいに一つ一つの部屋が広々としていて、二人で暮らすにしては贅沢な気がする。
暖炉がある客間まである。
こんな貴族が使いそうな暖炉は初めて見たよ。
ゲーム内ではよく見かけるけど。
そう思いながら、部屋を一部屋ずつ見て回った。
ちょっとこれ、部屋がいくつあるの?
ダンジョンで部屋を開けまくって、宝箱探してる気分になってきた。
一通り見終わると、一階に戻り、直真さんと合流した。
直真さんは黙々と私物を片付けていた。
「直真さん。これ、賃貸ですか?」
「いや。ジジイの持ち物」
「はー。会長が所有しているんですか」
規模が違うお金持ちとはこのことだなー……。
ギルドの家ですら、みんなで稼いで手に入れたっていうのに……(遠い目)
こんなのぽんっと一人で持てるって、現実世界でどれくらい稼いでるんだろう。
「ジジイは有里のことを気に入っているらしいからな。ここを使えとわざわざ言ってきた」
「後でお礼のメールしておきます」
「連絡をとるな!関わるな!近寄るな!」
「そんな三段攻撃を繰り出さなくても」
どんだけおじいちゃんと仲が悪いんですか。
実の祖父なのに……。
仲直りしたと思ったけど、直真さんの態度はまだまだ頑なだった。
頑固なんだから、もー。
「ジジイのことよりも、有里。明日から通いの家政婦を雇っておいたからな」
「わかりました」
うんうんと頷くとまずは段ボールをびりびりと開けてノートパソコンやゲーム機を出した。
「私の愛機達よ!無事だったか……!!」
私とゲーム機達が感動のご対面をしている姿を直真さんは呆れた様子で眺めていた。
「段ボールから普通に出せよ」
「それじゃあ、直真さん」
「なんだ」
「引っ越しの片付けの前に私は接続を確かめるので、後はお願いします」
「おいっっ!!」
「これが終わらないと、落ち着かないんですよ!」
いつも通りの環境を取り戻すべく、せっせと設定している私を見て直真さんは諦めたのか、黙って荷物を片付けていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それで、お前は引っ越し早々何をしているんだ」
画面からは『討ち取ったりー』という声が敵を倒すたび、聞こえる。
「この有名なゲーム、知らないんですか?これ、三国志をテーマとしたゲームですよ。敵をバッタバッタ倒すのが楽しいんです。直真さんもやります?」
「ゲームの内容を聞いてるわけじゃないんだが?」
ヤクザみたいに凄んできた。
「素に戻ってますよ」
「誰のせいだ。荷物は片付けたのか」
「片付けましたよー。私の荷物なんて、ゲーム機とパソコン以外に大きい荷物はありませんから」
ドヤッと得意げに言うと、直真さんは『そうか……』と少し引いていた。
直真さんはマメだからねー。
香水やら、スーツやら、タイピンやら、細々したものを自分で片付けないと気が済まないタイプなんだよね。
私?
私はもう箱にいれて分類して終わり。適当よ、適当。
アイテム整理は分類ごとにわけるのが基本。
素材、武器、ネタ装備とかね。
コーディネートもワンセットで考えてあるから、余裕、余裕!
「ヒマなら、ゲームやります?」
「やるか!」
「直真さんにおすすめのキャラがあるのに……」
「俺に?なんだ?」
「そんなの曹操に決まってますよ。みてください。この魔王感。直真さん、親近感わきませんか」
「だれが魔王だ!」
イラッとされたけど、自覚ないんだ……と、むしろ哀れみの目で見つめた。
「国で言うと魏ですよね。直真さんは」
「まだいうか。それじゃあ、お前はどこだよ」
「蜀ですかねー。曹操(直真さん)に立ち向かう劉備軍ってところですか」
「今、なにか引っかかったんだが」
「自分の胸に手をあてて考えてみてください」
さあ、どうぞと目の前にコントローラーを差し出したけれど、それを叩き落とされた。
「ふざけんな!何が三国志だ。……ったく、蕎麦の出前を注文してあるからな。届く前にゲームをやめろよ」
はいはいと思いながら、勝利すると直真さんに向き直った。
「明後日から新しい職場ですけど」
「そうだな」
「直真さんは自分が曹操だと思って考えて下さい。有能な武将である関羽を手に入れるためにあれやこれやとやらかしますけど、結局、忠義には勝てないんですよ。これもひとえに劉備様の人徳ですよね」
「何が言いたい」
「異動先では曹操のように振る舞わず、人徳を持って人に接してくださいね?」
「お前、俺に対して言いたい放題だな?」
あ、言いすぎた?
オーラが黒い。
さすが昔、ヤバイ連中と付き合っていただけあって、凄味がある。
自分の胸元のボタンを外し、私の手からコントローラーを捨てた。
げっ!!
ここからの流れはまずい。
体が伸しかかってきて、じたばたと手足を動かしても身動きがとれない。
「待っ……待った!待った!!!」
「今さら、なにを言っても無駄なんだよ」
目がマジなんですけどっ。
ピンポーンとちょうどチャイムが鳴った。
「直真さん、蕎麦!蕎麦がきましたよ!」
舌打ちしながら、どいてくれた。
蕎麦屋さんありがとう!!!
危なかった。
あの顔をした時の直真さんは本当に凶悪なんだから。
「命拾いしたと思うなよ」
愛してる妻に言うようなセリフ?
これ以上、怒らせないようにひきつった笑いで誤魔化しておいた。
広い庭にはサトウカエデが植えられていて、まだ紅葉には早く、緑の葉を生い茂らせていた。
家の周りをぐるりと高い塀で囲み、要塞みたいにゴツイ壁は強固で家の中を簡単には覗けないようになっていた。
リビングの大きなスライド式の窓から、バルコニーに出れるようになっており、開放感がある。
街中にあるのに別荘地の家みたいで素敵だった。
室内の調度品はすべて白で統一され、キッチンとダイニング、リビングまで広々として解放感がある。
キッチンにはチキンを丸々焼けそうなくらいの大きなオーブンまで備え付けられていて、私には使いこなせそうにもない。
外国の家みたいに一つ一つの部屋が広々としていて、二人で暮らすにしては贅沢な気がする。
暖炉がある客間まである。
こんな貴族が使いそうな暖炉は初めて見たよ。
ゲーム内ではよく見かけるけど。
そう思いながら、部屋を一部屋ずつ見て回った。
ちょっとこれ、部屋がいくつあるの?
ダンジョンで部屋を開けまくって、宝箱探してる気分になってきた。
一通り見終わると、一階に戻り、直真さんと合流した。
直真さんは黙々と私物を片付けていた。
「直真さん。これ、賃貸ですか?」
「いや。ジジイの持ち物」
「はー。会長が所有しているんですか」
規模が違うお金持ちとはこのことだなー……。
ギルドの家ですら、みんなで稼いで手に入れたっていうのに……(遠い目)
こんなのぽんっと一人で持てるって、現実世界でどれくらい稼いでるんだろう。
「ジジイは有里のことを気に入っているらしいからな。ここを使えとわざわざ言ってきた」
「後でお礼のメールしておきます」
「連絡をとるな!関わるな!近寄るな!」
「そんな三段攻撃を繰り出さなくても」
どんだけおじいちゃんと仲が悪いんですか。
実の祖父なのに……。
仲直りしたと思ったけど、直真さんの態度はまだまだ頑なだった。
頑固なんだから、もー。
「ジジイのことよりも、有里。明日から通いの家政婦を雇っておいたからな」
「わかりました」
うんうんと頷くとまずは段ボールをびりびりと開けてノートパソコンやゲーム機を出した。
「私の愛機達よ!無事だったか……!!」
私とゲーム機達が感動のご対面をしている姿を直真さんは呆れた様子で眺めていた。
「段ボールから普通に出せよ」
「それじゃあ、直真さん」
「なんだ」
「引っ越しの片付けの前に私は接続を確かめるので、後はお願いします」
「おいっっ!!」
「これが終わらないと、落ち着かないんですよ!」
いつも通りの環境を取り戻すべく、せっせと設定している私を見て直真さんは諦めたのか、黙って荷物を片付けていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それで、お前は引っ越し早々何をしているんだ」
画面からは『討ち取ったりー』という声が敵を倒すたび、聞こえる。
「この有名なゲーム、知らないんですか?これ、三国志をテーマとしたゲームですよ。敵をバッタバッタ倒すのが楽しいんです。直真さんもやります?」
「ゲームの内容を聞いてるわけじゃないんだが?」
ヤクザみたいに凄んできた。
「素に戻ってますよ」
「誰のせいだ。荷物は片付けたのか」
「片付けましたよー。私の荷物なんて、ゲーム機とパソコン以外に大きい荷物はありませんから」
ドヤッと得意げに言うと、直真さんは『そうか……』と少し引いていた。
直真さんはマメだからねー。
香水やら、スーツやら、タイピンやら、細々したものを自分で片付けないと気が済まないタイプなんだよね。
私?
私はもう箱にいれて分類して終わり。適当よ、適当。
アイテム整理は分類ごとにわけるのが基本。
素材、武器、ネタ装備とかね。
コーディネートもワンセットで考えてあるから、余裕、余裕!
「ヒマなら、ゲームやります?」
「やるか!」
「直真さんにおすすめのキャラがあるのに……」
「俺に?なんだ?」
「そんなの曹操に決まってますよ。みてください。この魔王感。直真さん、親近感わきませんか」
「だれが魔王だ!」
イラッとされたけど、自覚ないんだ……と、むしろ哀れみの目で見つめた。
「国で言うと魏ですよね。直真さんは」
「まだいうか。それじゃあ、お前はどこだよ」
「蜀ですかねー。曹操(直真さん)に立ち向かう劉備軍ってところですか」
「今、なにか引っかかったんだが」
「自分の胸に手をあてて考えてみてください」
さあ、どうぞと目の前にコントローラーを差し出したけれど、それを叩き落とされた。
「ふざけんな!何が三国志だ。……ったく、蕎麦の出前を注文してあるからな。届く前にゲームをやめろよ」
はいはいと思いながら、勝利すると直真さんに向き直った。
「明後日から新しい職場ですけど」
「そうだな」
「直真さんは自分が曹操だと思って考えて下さい。有能な武将である関羽を手に入れるためにあれやこれやとやらかしますけど、結局、忠義には勝てないんですよ。これもひとえに劉備様の人徳ですよね」
「何が言いたい」
「異動先では曹操のように振る舞わず、人徳を持って人に接してくださいね?」
「お前、俺に対して言いたい放題だな?」
あ、言いすぎた?
オーラが黒い。
さすが昔、ヤバイ連中と付き合っていただけあって、凄味がある。
自分の胸元のボタンを外し、私の手からコントローラーを捨てた。
げっ!!
ここからの流れはまずい。
体が伸しかかってきて、じたばたと手足を動かしても身動きがとれない。
「待っ……待った!待った!!!」
「今さら、なにを言っても無駄なんだよ」
目がマジなんですけどっ。
ピンポーンとちょうどチャイムが鳴った。
「直真さん、蕎麦!蕎麦がきましたよ!」
舌打ちしながら、どいてくれた。
蕎麦屋さんありがとう!!!
危なかった。
あの顔をした時の直真さんは本当に凶悪なんだから。
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