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2 桜の宮会
しおりを挟む三ヶ月に一度、宮ノ入グループの会長宅で親戚や仕事の関係者を集めた近況報告会が開かれる。
桜の宮会と呼ばれる集まりで、奥様だけの集まりは撫子の宮会という。
最初は戸惑ったけど、今はもう慣れた。
仕事の話をしているのか、私の旦那様である直真さんは遠くにいる。
私はというと、奥様達の餌食になっていた。
―――いつものごとく。
シャンパンを飲んでいると、優しげな微笑みを浮かべた奥様達が話しかけてきた。
「シャンパンを飲んでいらっしゃるの?お酒にお強いのねえ」
「ほら。有里さんのご実家は酒屋を営んでいらっしゃるから」
「そんなところが直真さんと気が合ったのじゃなくて?」
私だけならともかく、直真さんのことまで、チクチク言ってくるなんてね。
いい度胸してるじゃない。
まあ、黙ってやられている私ではない。
そのMPがっつり、削ってやるわ!
「なんなら、おすすめのお酒でも紹介しましょうか?こうみえて、詳しいんですよー」
「あら、お願いしようかしら」
「たしか、赤坂のクラブでよく飲まれてるお酒ってー、あっ!それとも六本木の方がお好きでしたっけ?」
「いっ、いいわ!やっぱり遠慮しておきます!」
周りにいた奥様達が蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまった。
なんだよ。
もっと根性みせなよ。
「やっぱり旦那が赤坂と六本木で愛人作った話はマジものだったみたいね」
恐るべし、八木沢ファイル。
八木沢ファイルとは私の旦那様である八木沢直真さんが情報収集し、作成した閻魔帳、または人物攻略本のようなファイルだった。
よくもまあ、あんな相手の弱みをつらつらと調べあげてくると感心するくらいよ。
さすが、ヤクザ―――じゃない、宮ノ入グループの常務。
その能力を持ってすれば、どんな難しいボスにすら、勝てると思うのに残念なことにゲームには一切、興味がないらしい。
私の趣味がネトゲだからか、頑なにゲームをしようとしない。
レースゲームくらいしてもよくない?
一人でやっても盛り上がらないんだよ!
でも、やらせたら絶妙なポイントにバナナの皮を置くタイプだしなー。
ストレスたまりそう。
陰険っていうか、底意地が悪いというか―――
「おい、有里。今、何を考えていた」
低い声が耳元でして、思わずその場から飛び退いた。
「ちょっ!直真さん!背後からの不意打ちはやめてくださいよっ!心臓に悪い」
「どうせまたろくでもないことを考えていたんだろう?」
「失礼な!直真さんがかっこいいなって思っていただけですよ」
「俺の声を聞いて逃げた時点でお前の頭の中はお見通しなんだよ」
なにそれ、探偵?
まあ、かっこいいのは本当で端正な顔立ちに涼し気な目元、細身ですらりとした立ち姿、待ち受けにしても問題ないくらいのイケメンレベル。
ただシャンパンを飲んでるだけでも絵になる。
そんな直真さんを見て、さっきの奥様達はひそひそと陰口をまだ続けていた。
「愛人の子が常務だなんてとんでもないわ。そのうち、社長の椅子を瑞生さんから奪い取るつもりよ」
「仕事ができるからといって、対等に話をしないでほしいわ」
そんなことを言われていても直真さんは平然としていて表情一つ崩さず、私の隣でシャンパンを飲んでいる。
ちょっとは動揺した素振りでも見せれば、可愛げがあって奥様達も満足するんだろうけど、本人にはサラサラそんな気はない。
直真さんはなかなか複雑な生まれで、宮ノ入を嫌った母親がお腹に子どもができたと知るとすぐに行方をくらませ、宮ノ入から逃げて母と子の二人で暮らしてきたらしい。
母親が亡くなって、一人になった所を祖父の宮ノ入会長が引き取ることになったけれど、直真さんは頑なに八木沢の姓を捨てず、今も八木沢のままだった。
だから、本来ならば、宮ノ入の直系で長男は社長の瑞生さんでなく、直真さんなのだ。
親戚の方々は
『宮ノ入になることになんの不満が?』
『まさか、宮ノ入に復讐するつもりで八木沢の名前で社長の椅子を奪うのでは?』
―――といったかんじで直真さんを目の敵にしている。
ドラマかよって思わずツッコミを入れそうになるくらいの波瀾万丈ぶり。
「なんだ?」
「いえいえ」
「いつも面白くもない会に付き合わせて悪いな」
「そんな殊勝なこと言わないでください。気持ち悪いんで」
「誰が気持ち悪いだ!!」
胸倉をつかみ上げられそうになったのを慌てて、止めた。
「いいんですか!?素敵な直真さんのイメージが台無しになりますよ!?」
「お前っっ!」
「猫かぶってると大変ですね。精神的に」
直真さんがこいつっ!というように睨んでいたけれど、気づかないふりをした。
怒るとマジで怖いから。
「左遷されるって噂よ」
「子会社行きって本当?」
「会長に対する態度が悪かったものね」
ん?左遷?子会社?
誰が?
ふと、いつもと違う噂話が聞こえてきて、隣の直真さんを見ると苦い顔をしていた。
まさか―――転勤!?
怖くて私はきけなかった。
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