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第二章
8 変わらないもの 変わるもの
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『宮ノ入にクーデター!』
『裏切者の末路』
『大企業宮ノ入のお家騒動』
などなど、週刊誌がこぞって報道した。
八木沢さんを誘惑している写真を使われてしまった綾香さんは会社に来れず、雅冬さんの両親は海外から急きょ、会長に呼び寄せられたらしい。
会長に弁明をしたけど、当然の如く聞きいれてはもらえなかった。
会長は裏切りを許さず、宮ノ入の名がつくすべての資産を奪い、マンションも当然、出入り禁止処分の上、使用不可とされた。
そして、雅冬さんのお父さんも綾香さんも解雇処分の上、子会社にすら、雇用を禁じるという、かなり厳しい処分に会長の怒りを感じた。
宮ノ入グループの受付ロビーにある新聞を閉じて、ソファーから立ち上がった。
雅冬さんと夕食を食べる約束で大学の授業が終わったら、副社長室にくるように言われていた。
あまり早くに行くと、仕事の邪魔になるかと思い、ロビーで時間を潰していたのだけど―――エレベーターから綾香さんが降りてきた。
「雅冬に会ってきたの」
「そうですか」
以前なら、動揺していたかもしれないけど、今は雅冬さんがどんな気持ちでいるのか、わかったから、何を言われても平気だった。
「私はね、宮ノ入の社長の椅子も欲しかったけど、雅冬を手にいれたかったのよ」
私は気づいていた。
綾香さんは雅冬さんのことをまだ好きだったことは。
多分、勘の良い雅冬さんも気づいていたはず。
「雅冬は一度も私に本当の自分を見せなかったわね」
綾香さんは少し寂しそうに言った。
そして、こっちをまじまじと見つめた。
「雅冬はあなたのどこがよかったのかしら」
「少なくともオバサンよりはよかったんでしょ!」
私にそっくりな声がした。
いや、私は言ってない。
言ってないよ!?
「凛々子!?どうして、ここに!?」
「春から沖重の営業になったのよ。仕事で宮ノ入にきてただけ。ちょうどエレベーター降りたら、化粧の濃い、オバサンと話してるから、聞いてたのよ」
「双子なの?あなた」
「見ればわかるでしょ?老眼なの?」
「凛々子っ!」
口を塞ぎたいくらいの心境だった。
「外見しか似てないわね」
「残念ながら、外見も似てないみたいですよー。私、雅冬さんを誘ったのに無理でしたもん」
綾香さんと凛々子は笑顔でにらみあっていた。
なに、この毒々しい戦いは。
「もぉー、だから、菜々子。言ったでしょ?」
「なに?」
「あんな男、やめておけってね!こんなオバサンと付き合ってたなんてー。最悪!」
凛々子は得意気な顔をして言った。
「雅冬をあんな男呼ばわりするの!?」
「ちょっと元カレと菜々子を会わせただけでキレるし、婚姻届けを見せびらかすし、こっちが泣き落としても、全然優しくしてくれないし」
綾香さんはぽかんと口をあけていた。
「雅冬が、そんな子供みたいなこと」
ガシッと凛々子が腕を掴んだ。
「菜々子、買い物に付き合ってよ!今日は半日休みなの」
「あ、綾香さん!それじゃ、失礼します」
凛々子はこっちの返事も待たずに手を掴むと引きずるようにして、その場から連れ去ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「夕食、食べに行こうって行ったのに凛々子に付き合わされてしまって。ごめんなさい」
まったく、強引なんだから。
結局、服や靴、化粧品売り場にまでつれ回され、お茶まで付き合った。
おかげで、雅冬さんを待つどころか、遅くなってしまった。
「楽しかったなら、別にいい。それにこういうのもたまにはいいだろ」
ベイエリアのベンチに座り、ファミレスでテイクアウトしたピザと飲み物を置いた。
潮風が心地よい。
出会った時と同じように橋や船がライトアップされ、遠くのビルからは灯りがキラキラと水面に映り、揺らめいていた。
「ほんのすこしだけ前なのに懐かしいよな」
「本当ですね。あの日会わなかったら、今もきっと私はここで、一人ぼっちで夕飯食べていましたよ」
「俺は一人で海を眺めていただろうな」
お互いの顔を見つめて笑った。
それでも、きっと。
すれ違いながら、何度目かで私達は出会っていた。
そんな気がした。
「ピザ食べますか?」
「ああ」
ファミレスも今ではバイトの子も大分変ったし、掃除のスタッフも新しい人が入った。
でも―――変わらないものもある。
「雅冬さん、ずっとそばにいてくださいね」
「それは俺の台詞だ」
ベンチの上に置かれた手を重ね合わせ、二人で海を眺めて微笑んだ。
二人の重なった手には銀色の指輪が輝いていた。
『裏切者の末路』
『大企業宮ノ入のお家騒動』
などなど、週刊誌がこぞって報道した。
八木沢さんを誘惑している写真を使われてしまった綾香さんは会社に来れず、雅冬さんの両親は海外から急きょ、会長に呼び寄せられたらしい。
会長に弁明をしたけど、当然の如く聞きいれてはもらえなかった。
会長は裏切りを許さず、宮ノ入の名がつくすべての資産を奪い、マンションも当然、出入り禁止処分の上、使用不可とされた。
そして、雅冬さんのお父さんも綾香さんも解雇処分の上、子会社にすら、雇用を禁じるという、かなり厳しい処分に会長の怒りを感じた。
宮ノ入グループの受付ロビーにある新聞を閉じて、ソファーから立ち上がった。
雅冬さんと夕食を食べる約束で大学の授業が終わったら、副社長室にくるように言われていた。
あまり早くに行くと、仕事の邪魔になるかと思い、ロビーで時間を潰していたのだけど―――エレベーターから綾香さんが降りてきた。
「雅冬に会ってきたの」
「そうですか」
以前なら、動揺していたかもしれないけど、今は雅冬さんがどんな気持ちでいるのか、わかったから、何を言われても平気だった。
「私はね、宮ノ入の社長の椅子も欲しかったけど、雅冬を手にいれたかったのよ」
私は気づいていた。
綾香さんは雅冬さんのことをまだ好きだったことは。
多分、勘の良い雅冬さんも気づいていたはず。
「雅冬は一度も私に本当の自分を見せなかったわね」
綾香さんは少し寂しそうに言った。
そして、こっちをまじまじと見つめた。
「雅冬はあなたのどこがよかったのかしら」
「少なくともオバサンよりはよかったんでしょ!」
私にそっくりな声がした。
いや、私は言ってない。
言ってないよ!?
「凛々子!?どうして、ここに!?」
「春から沖重の営業になったのよ。仕事で宮ノ入にきてただけ。ちょうどエレベーター降りたら、化粧の濃い、オバサンと話してるから、聞いてたのよ」
「双子なの?あなた」
「見ればわかるでしょ?老眼なの?」
「凛々子っ!」
口を塞ぎたいくらいの心境だった。
「外見しか似てないわね」
「残念ながら、外見も似てないみたいですよー。私、雅冬さんを誘ったのに無理でしたもん」
綾香さんと凛々子は笑顔でにらみあっていた。
なに、この毒々しい戦いは。
「もぉー、だから、菜々子。言ったでしょ?」
「なに?」
「あんな男、やめておけってね!こんなオバサンと付き合ってたなんてー。最悪!」
凛々子は得意気な顔をして言った。
「雅冬をあんな男呼ばわりするの!?」
「ちょっと元カレと菜々子を会わせただけでキレるし、婚姻届けを見せびらかすし、こっちが泣き落としても、全然優しくしてくれないし」
綾香さんはぽかんと口をあけていた。
「雅冬が、そんな子供みたいなこと」
ガシッと凛々子が腕を掴んだ。
「菜々子、買い物に付き合ってよ!今日は半日休みなの」
「あ、綾香さん!それじゃ、失礼します」
凛々子はこっちの返事も待たずに手を掴むと引きずるようにして、その場から連れ去ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「夕食、食べに行こうって行ったのに凛々子に付き合わされてしまって。ごめんなさい」
まったく、強引なんだから。
結局、服や靴、化粧品売り場にまでつれ回され、お茶まで付き合った。
おかげで、雅冬さんを待つどころか、遅くなってしまった。
「楽しかったなら、別にいい。それにこういうのもたまにはいいだろ」
ベイエリアのベンチに座り、ファミレスでテイクアウトしたピザと飲み物を置いた。
潮風が心地よい。
出会った時と同じように橋や船がライトアップされ、遠くのビルからは灯りがキラキラと水面に映り、揺らめいていた。
「ほんのすこしだけ前なのに懐かしいよな」
「本当ですね。あの日会わなかったら、今もきっと私はここで、一人ぼっちで夕飯食べていましたよ」
「俺は一人で海を眺めていただろうな」
お互いの顔を見つめて笑った。
それでも、きっと。
すれ違いながら、何度目かで私達は出会っていた。
そんな気がした。
「ピザ食べますか?」
「ああ」
ファミレスも今ではバイトの子も大分変ったし、掃除のスタッフも新しい人が入った。
でも―――変わらないものもある。
「雅冬さん、ずっとそばにいてくださいね」
「それは俺の台詞だ」
ベンチの上に置かれた手を重ね合わせ、二人で海を眺めて微笑んだ。
二人の重なった手には銀色の指輪が輝いていた。
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