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第二章
3 昔の女②
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次の日の朝、エントランスに行くと、ソファーに綾香さんが待ち構えていた。
「雅冬と直真と一緒に会社に行こうと思って」
八木沢さん夫妻もちょうど一緒になった。
八木沢さんは顔色一つ変えず、冷ややかに綾香さんを見ていた。
綾香さんは隣の奥様である有里さんのことなんて、目に入っていないようだった。
「直真、相変わらず、綺麗な顔ね。昔から、直真の顔だけはすごく好みなのよね」
「なんだ、あいつ」
有里さんは素に戻っていた。
「綾香さん。私は妻と一緒に出勤しますので。失礼します」
「直真、なに?私の命令が聞けないの?」
綾香さんのコツとヒールの音がエントランスに響いた。
美人だけあって、凄むと迫力があった。
「なぜ、私が綾香さんの命令を聞かなくてはいけないか、お聞きしても?」
八木沢さんは笑顔だったけれど、目は笑っていない。
「前はなんでも言うこと聞いてくれたじゃない?ほら、宮ノ入に引き取られたばかりの時とか―――」
有里さんの手のバッグが綾香さんの顔面にバシッと容赦なく叩きつけられた。
「あ、すみませーん。ちょっと手が滑りました。直真さん。行きましょう。会社に遅れますよ。春だから、ちょっと頭のおめでたい人が沸いているみたいですね。気を付けたほうがいいですよ」
有里さんはそう言うと、八木沢さんと腕を組み、エントランスから出て行った。
呆気にとられている綾香さんを見て、その隙に雅冬さんは私の手を掴んで走ると、車にさっと乗り込んだ。
「…さすが有里さんでした」
「直真の嫁は怖い者知らずだな」
本当に。
仕返しとか怖くないのかな。
「綾香さん、宮ノ入本社で働いているんですか?」
「ああ。秘書室にきたいと言ったのを直真が拒否して、今は本社の開発事業部にいる」
「そうなんですか…」
八木沢さん、ありがとう!
正直、あんな押しの強い人が雅冬さんとずっといるかと思うと、気が気じゃない。
「それに社長の瑞生とは昔から、仲が悪いからな。社長室フロアには絶対に入れないんだ。瑞生はうるさいのを嫌うから」
「わかる気がします」
それにしても。
綾香さん、少しは遠慮すればいいのに。
結婚してても、ガンガンくるとか。
海外のノリなのか、雅冬さんのお母さんの聖子さんに認められている自信からなのか、わからないけど。
「今日、終わったら会社にきて副社長室で仕事が終わるまで待ってろ」
「え?」
「明日、土曜日だろ?何か美味しいものを食べに行こう」
雅冬さんはシートの上に置かれた手に自分の大きな手を重ね、優しく微笑んだ。
「なにがいい?」
「和食がいいです」
「わかった」
先に会社に寄り、雅冬さんが降りた。
運転手さんと二人になった時、運転手さんが心配そうに言った。
「菜々子様、綾香様は随分と強引だったでしょう」
「はあ…驚きました」
「なんでも、雅冬さんの後に付き合った男性と喧嘩別れしたそうですよ」
「だからって、雅冬さんに近づかなくても…」
運転手さんはにっこりほほ笑んだ。
「やっぱり、妬いていたんですね」
「………そうですよ。あっちはものすごく美人だから」
「菜々子様はもっと自信を持ってよろしいと思いますよ。私は幼少のころから雅冬様に仕えていますが、雅冬様が作り笑いじゃない、ちゃんとした笑顔になられるのは菜々子様と一緒にいらっしゃる時だけですから」
「そうなんですか?」
「はい。いつも、雅冬様は険しい顔か無表情で、なにか思い悩んでいるけれど、口には出さずにいる。そんな子でした。笑う時は必要だから笑うというように、使い分けているようにみえましたね」
「大人びてますね……」
どんな子供だよ……。
「はい。ですから、雅冬様が菜々子様と出会い、自然な笑顔を見ることが出来るようになった時、私は心から嬉しく思いましたよ」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
褒められたみたいで、照れ臭かったけど、雅冬さんが私といることでちょっとでも楽しいならそれでいいかと単純な私は思えたのだった。
「雅冬と直真と一緒に会社に行こうと思って」
八木沢さん夫妻もちょうど一緒になった。
八木沢さんは顔色一つ変えず、冷ややかに綾香さんを見ていた。
綾香さんは隣の奥様である有里さんのことなんて、目に入っていないようだった。
「直真、相変わらず、綺麗な顔ね。昔から、直真の顔だけはすごく好みなのよね」
「なんだ、あいつ」
有里さんは素に戻っていた。
「綾香さん。私は妻と一緒に出勤しますので。失礼します」
「直真、なに?私の命令が聞けないの?」
綾香さんのコツとヒールの音がエントランスに響いた。
美人だけあって、凄むと迫力があった。
「なぜ、私が綾香さんの命令を聞かなくてはいけないか、お聞きしても?」
八木沢さんは笑顔だったけれど、目は笑っていない。
「前はなんでも言うこと聞いてくれたじゃない?ほら、宮ノ入に引き取られたばかりの時とか―――」
有里さんの手のバッグが綾香さんの顔面にバシッと容赦なく叩きつけられた。
「あ、すみませーん。ちょっと手が滑りました。直真さん。行きましょう。会社に遅れますよ。春だから、ちょっと頭のおめでたい人が沸いているみたいですね。気を付けたほうがいいですよ」
有里さんはそう言うと、八木沢さんと腕を組み、エントランスから出て行った。
呆気にとられている綾香さんを見て、その隙に雅冬さんは私の手を掴んで走ると、車にさっと乗り込んだ。
「…さすが有里さんでした」
「直真の嫁は怖い者知らずだな」
本当に。
仕返しとか怖くないのかな。
「綾香さん、宮ノ入本社で働いているんですか?」
「ああ。秘書室にきたいと言ったのを直真が拒否して、今は本社の開発事業部にいる」
「そうなんですか…」
八木沢さん、ありがとう!
正直、あんな押しの強い人が雅冬さんとずっといるかと思うと、気が気じゃない。
「それに社長の瑞生とは昔から、仲が悪いからな。社長室フロアには絶対に入れないんだ。瑞生はうるさいのを嫌うから」
「わかる気がします」
それにしても。
綾香さん、少しは遠慮すればいいのに。
結婚してても、ガンガンくるとか。
海外のノリなのか、雅冬さんのお母さんの聖子さんに認められている自信からなのか、わからないけど。
「今日、終わったら会社にきて副社長室で仕事が終わるまで待ってろ」
「え?」
「明日、土曜日だろ?何か美味しいものを食べに行こう」
雅冬さんはシートの上に置かれた手に自分の大きな手を重ね、優しく微笑んだ。
「なにがいい?」
「和食がいいです」
「わかった」
先に会社に寄り、雅冬さんが降りた。
運転手さんと二人になった時、運転手さんが心配そうに言った。
「菜々子様、綾香様は随分と強引だったでしょう」
「はあ…驚きました」
「なんでも、雅冬さんの後に付き合った男性と喧嘩別れしたそうですよ」
「だからって、雅冬さんに近づかなくても…」
運転手さんはにっこりほほ笑んだ。
「やっぱり、妬いていたんですね」
「………そうですよ。あっちはものすごく美人だから」
「菜々子様はもっと自信を持ってよろしいと思いますよ。私は幼少のころから雅冬様に仕えていますが、雅冬様が作り笑いじゃない、ちゃんとした笑顔になられるのは菜々子様と一緒にいらっしゃる時だけですから」
「そうなんですか?」
「はい。いつも、雅冬様は険しい顔か無表情で、なにか思い悩んでいるけれど、口には出さずにいる。そんな子でした。笑う時は必要だから笑うというように、使い分けているようにみえましたね」
「大人びてますね……」
どんな子供だよ……。
「はい。ですから、雅冬様が菜々子様と出会い、自然な笑顔を見ることが出来るようになった時、私は心から嬉しく思いましたよ」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
褒められたみたいで、照れ臭かったけど、雅冬さんが私といることでちょっとでも楽しいならそれでいいかと単純な私は思えたのだった。
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