御曹司社長は恋人を溺愛したい!

椿蛍

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第一章

18 八木沢家との夕食会

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「雅冬さん、菜々子さん。入籍、おめでとうございます」  
有里さんがお洒落なグラスブーケを渡してくれた。
ウェディングをイメージしてか、趣味の良いガラスの花瓶にいろいろな種類の白い花が混じり、ラッピングのリボンも白でとても素敵だった。
「うわぁ、可愛いですね!ありがとうございます」
婚姻届の証人になっていただいたので、八木沢やぎさわさん夫婦を家に招き、お礼の夕食会を開いた。
ちらし寿司や白身魚のアクアパッツア、ローストビーフと生ハムのサラダ、チーズ盛り合わせ、デザートはイチゴのババロア。
お酒はよくわからないので、雅冬まさとさんが選んでくれたワインを置いてある。
簡単なパーティー料理だったけれど、奥様の有里ゆりさんはとても喜んでくれた。
「うわあ。すごいですね!手作りなんて」
「いえ。お口に合うかどうか」
八木沢さんの奥様といえば、宮ノ入の社長秘書にして常務夫人。
緊張するなーっと思っていたけれど、とても話しやすい人で、ほっとした。
八木沢さんは奥様の前ではとても優しい顔をしていて、仲が良く有里さんにはくだけた態度だった。
「それじゃあ、結婚式と新婚旅行は海外で一緒にするんですか?」
「はい。有里さんはどちらで」
「私と直真さんは沖縄で式を挙げて、そのまま離島で新婚旅行でしたよね」
「有里が環境にこだわって、海外は絶対に嫌だと言い張ったので」
「海外だと、不便なこともありますからねー」
なるほど。
忙しい八木沢さんのためかもしれない。
初めての海外に浮かれて配慮が足りなかったかなぁ。
ちら、と雅冬さんを見たけど、にこやかだった。
「ちらし寿司の味、ちょうどいいですね」
「すし酢のほかに穀物酢も加えて、酸味を調節しているんです」
「あー、なるほど。すし酢だけだと、直真さんが酸味が足りないっていうので」
「あの、有里さん。スーパーのレジ袋ってどうしていますか?」
「私は堂々と持って入ってますよ!気になるようなら、お洒落なエコバッグを買うとか。社長夫人の美桜みおさんはそうされているみたいですよ」
「そうなんですか。参考にします」
有里さんは強いなぁ。
私なんて、あれから、気になってしまい、なるべくエコバッグを使用しているけれど、それでも視線が痛いから。
きっと買い物は頼むのが正解なんだろうけど。
現物を見ないと、生鮮食品の購入って不安なんだよね…。
「奥様同士の付き合いというのは大変ですから」
八木沢さんはどんなものなのか、知っているらしく、話を聞いて頷いていた。
「レジ袋なんてまだまだ序の口もいいところですよ。本当に怖いのはね、これからだから!」
有里さんはそう言って、ため息を吐いた。
赤ワインをぐるぐると回しながら、
「奥様同士の付き合いで本当に大変なのは撫子なでしこみや会なんですよ」
「それ、なんだ?」
雅冬さんは初耳だったらしく聞き返した。
ぴ、と有里さんは指を一本立てて、言った。
「宮ノ入の社章である桜ではなく、一歩下がって撫子と名付けられた会で、宮ノ入グループの奥様達の会です」
「小言のうるさいババア…いえ、奥様の会です」
にっこりと八木沢さんが微笑んだ。
「そんなものがあるのか」
なんでも八木沢さんは知っていて、隙が無い。
「何を他人事みたいに言っているのか。その会の会長は雅冬さんの母親の聖子さんですよ」
「知らなかったな」
「お気楽ですね。私は宮ノ入に引き取られた時、随分嫌がらせを受けたので、正直、その会には有里を出席させないようにしていますが」
有里さんはうんうん、と頷きながら言った、
「私はいいんですけどねー」
八木沢さんは何か言いたそうに有里さんを見ていた。
「なるほど。俺もそうしようかな」
「雅冬さんはできないでしょう」
「なんでだ?」
きょとん、と雅冬さんが聞き返すと八木沢さんは
「聖子さんがリーダー的存在なんですよ?息子の嫁なら、次期会長にって話になるでしょうからね」
「えっ!無理ですっ!」
そもそも、そんな聖子さんがリーダーの会に行って、無事にすむとは思えない。
「有里さんは行ったことあるんですか?」
「ありますよ。最初は招待状がきたんですが、最近は滅多に来なくなりましたね」
「有里が行くと、お嬢様育ちの奥さま方は話が合わなくて退屈らしいですよ」
八木沢さんがやんわりと補足した。
「そうなんですか。その会はどんなことをする会なんですか?」
「ボランティアから趣味の活動まで。お茶やお花、料理教室から楽器の演奏会や日舞の披露ですかね」
「そ、そんなの、なにもできません!」
「私もですよ」
有里さんは頷いた。
「まあ、ただ座って、お喋りをしていれば、いいんですよ」
「はあ…」
「近々、呼び出し状じゃない、招待状がきっときますよ」
有里さんはきっぱりと言い切った。
そして―――
有里さんが言った通り、数日後、私の所に『撫子なでしこみや会』の名前が入った招待状が届いたのだった。

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