16 / 29
第一章
16 妹の本心
しおりを挟む
「待ち伏せされたらしいな」
雅冬さんが帰って来ると、今日の夕方にあったことを一階の警備の人から聞いたのか、怖い顔をして言った。
あの時は偶然だと、思っていたけれど、後から聖子さんが私を待ち伏せていたことを知った。
だから、警備員さんがこちらを気にしていたのか。
「そんな酷いことをされたわけじゃないので大丈夫です」
「大丈夫なわけないだろう」
「少し会話した程度ですよ」
「……気分のいいものじゃないはずだ」
納得していないようだったけれど、あの程度で傷つく私ではない。
むしろ、雅冬さんに近寄らせないようにしたいくらいだし。
雅冬さんは優しいから、自分が聖子さんのイライラを受け止めて、周りにそれが向けられないようにしていることに気づいた。
八木沢さんと殴り合いするくらいに強いのに聖子さんの平手打ちを避けずにいた―――本当に強いのは雅冬さんだ。
「お腹空いたでしょ?温めますね。今日は豚の角煮にしたんですよ」
味噌汁を温め、いそいそとご飯を盛った。
以前はバイト前に家のご飯を作ってから、出勤していたので、作り置きや煮物にはちょっと自信がある。
どうぞ、と豚の角煮とほうれん草のお浸しをだした。
「うまい」
雅冬さんの強張った表情が柔らかくなり、ほっとした。
「よかった。おかわりもありますから。じゃんじゃん食べてくださいね!」
「なんか、いいな。家族みたいで」
雅冬さんは優しい顔で笑って言った。
「もう家族か」
「はい」
まだ正式に入籍はしていないけど、もう家族以上に安心できる相手ですよ、と思ったけれど、口には出さなかった。
雅冬さんも同じように思っているようだったから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えーと、これが総務で、こっちが営業に渡す分ね」
頼まれた書類を持ち、届けると営業の女子社員に呼び止められた。
「真嶋さんって、受付の真嶋さんと双子なんですか?」
「はい、そうです。私が姉で」
「最近、妹の真嶋さん。痩せて暗い感じなんですよ」
凛々子が?
なにかあったのかな。
「そうなんですか。一度、話をしてみます。気にかけていただいて、ありがとうございます」
「いいえ」
ぺこり、とお互いに頭を下げた。
うーん。
怖くて、スマホを着信拒否にしていたけど、よくなかったのかな。
社長室に戻ると、誰かがいた。
「菜々子と別れてもらえませんか?」
凛々子だった。
なにを雅冬さんに言ってるの!?
「は?今さら、別れるわけないだろ」
雅冬さんが呆れた様子で凛々子を見ていた。
そして、ちょっと照れながら言った。
「もうすぐ入籍するしな」
凛々子は雅冬さんを睨み付けていた。
「私から菜々子をとるの?」
「ん?ああ、まあ、そうなるな」
「わ、私っ、認めませんから!」
「別に認めてもらわなくても構わない」
ぶるぶると凛々子は震え、涙を浮かべた。
「あなたなんか、大嫌いなんだから!」
そう言い捨てると、凛々子はバンッと社長室から飛び出して行った。
な、なんだったの。
「あの、今の……」
「また聞いていたのか?」
「わざとじゃないですよ!」
「お前、妹から好かれているんだな」
思いもよらないことを雅冬さんは言った。
「そんなわけ、ないです!だって、いつもバカにするし、嫌がらせするし!」
雅冬さんはやれやれとため息をついた。
「俺も今、話して気づいたくらいだからな。あいつの愛情表現は歪みすぎだろ。まあ、一度、本心を聞いてみたらどうだ。俺がそう思っただけかもしれないしな」
「はあ」
本当かなー。
凛々子は私を嫌いだと思っていたけど。
第一、私のことを好きなら、なんで私が嫌だと思うことをするのかわからない。
スマホの着信拒否を解除した。
今までが今までだっただけに信用できない部分がある。
演技では!?と思うんだけど。
疑いすぎ?
「なんなら、マンションに呼ぶか?怖いなら、同席するけど」
「いえ。二人で会います」
雅冬さんに何を言うかわからないし、今みたいに暴言を吐かれるのを見るのも辛い。
「じゃあ、そばに隠れて控えている。また変な男を連れてこられても、心配だからな」
元カレの恭くんのことか。
「わかりました」
確かに二人で会うのも不安だったので、雅冬さんに側に隠れていて、もらうことにしたのだった。
雅冬さんが帰って来ると、今日の夕方にあったことを一階の警備の人から聞いたのか、怖い顔をして言った。
あの時は偶然だと、思っていたけれど、後から聖子さんが私を待ち伏せていたことを知った。
だから、警備員さんがこちらを気にしていたのか。
「そんな酷いことをされたわけじゃないので大丈夫です」
「大丈夫なわけないだろう」
「少し会話した程度ですよ」
「……気分のいいものじゃないはずだ」
納得していないようだったけれど、あの程度で傷つく私ではない。
むしろ、雅冬さんに近寄らせないようにしたいくらいだし。
雅冬さんは優しいから、自分が聖子さんのイライラを受け止めて、周りにそれが向けられないようにしていることに気づいた。
八木沢さんと殴り合いするくらいに強いのに聖子さんの平手打ちを避けずにいた―――本当に強いのは雅冬さんだ。
「お腹空いたでしょ?温めますね。今日は豚の角煮にしたんですよ」
味噌汁を温め、いそいそとご飯を盛った。
以前はバイト前に家のご飯を作ってから、出勤していたので、作り置きや煮物にはちょっと自信がある。
どうぞ、と豚の角煮とほうれん草のお浸しをだした。
「うまい」
雅冬さんの強張った表情が柔らかくなり、ほっとした。
「よかった。おかわりもありますから。じゃんじゃん食べてくださいね!」
「なんか、いいな。家族みたいで」
雅冬さんは優しい顔で笑って言った。
「もう家族か」
「はい」
まだ正式に入籍はしていないけど、もう家族以上に安心できる相手ですよ、と思ったけれど、口には出さなかった。
雅冬さんも同じように思っているようだったから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えーと、これが総務で、こっちが営業に渡す分ね」
頼まれた書類を持ち、届けると営業の女子社員に呼び止められた。
「真嶋さんって、受付の真嶋さんと双子なんですか?」
「はい、そうです。私が姉で」
「最近、妹の真嶋さん。痩せて暗い感じなんですよ」
凛々子が?
なにかあったのかな。
「そうなんですか。一度、話をしてみます。気にかけていただいて、ありがとうございます」
「いいえ」
ぺこり、とお互いに頭を下げた。
うーん。
怖くて、スマホを着信拒否にしていたけど、よくなかったのかな。
社長室に戻ると、誰かがいた。
「菜々子と別れてもらえませんか?」
凛々子だった。
なにを雅冬さんに言ってるの!?
「は?今さら、別れるわけないだろ」
雅冬さんが呆れた様子で凛々子を見ていた。
そして、ちょっと照れながら言った。
「もうすぐ入籍するしな」
凛々子は雅冬さんを睨み付けていた。
「私から菜々子をとるの?」
「ん?ああ、まあ、そうなるな」
「わ、私っ、認めませんから!」
「別に認めてもらわなくても構わない」
ぶるぶると凛々子は震え、涙を浮かべた。
「あなたなんか、大嫌いなんだから!」
そう言い捨てると、凛々子はバンッと社長室から飛び出して行った。
な、なんだったの。
「あの、今の……」
「また聞いていたのか?」
「わざとじゃないですよ!」
「お前、妹から好かれているんだな」
思いもよらないことを雅冬さんは言った。
「そんなわけ、ないです!だって、いつもバカにするし、嫌がらせするし!」
雅冬さんはやれやれとため息をついた。
「俺も今、話して気づいたくらいだからな。あいつの愛情表現は歪みすぎだろ。まあ、一度、本心を聞いてみたらどうだ。俺がそう思っただけかもしれないしな」
「はあ」
本当かなー。
凛々子は私を嫌いだと思っていたけど。
第一、私のことを好きなら、なんで私が嫌だと思うことをするのかわからない。
スマホの着信拒否を解除した。
今までが今までだっただけに信用できない部分がある。
演技では!?と思うんだけど。
疑いすぎ?
「なんなら、マンションに呼ぶか?怖いなら、同席するけど」
「いえ。二人で会います」
雅冬さんに何を言うかわからないし、今みたいに暴言を吐かれるのを見るのも辛い。
「じゃあ、そばに隠れて控えている。また変な男を連れてこられても、心配だからな」
元カレの恭くんのことか。
「わかりました」
確かに二人で会うのも不安だったので、雅冬さんに側に隠れていて、もらうことにしたのだった。
22
お気に入りに追加
1,918
あなたにおすすめの小説
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
椿蛍
恋愛
★2022.1.23改稿完了しました。
母が亡くなり、身寄りがないと思っていた私、井垣朱加里(いがきあかり)はまさか父がお金持ちの社長だったなんて知らなかった。
引き取られた先には継母とその娘がいた。
私を引き取ったのは気難しい祖父の世話をさせるためだった。
けれど、冷たい家族の中で祖父だけは優しく、病気の祖父が亡くなるまではこの家にいようと決めた。
優しかった祖父が亡くなり、財産を遺してくれた。
それだけじゃない、祖父は遺言として結婚相手まで決めていた。
相手は『王子様』と名高い白河財閥の三男白河壱都(しらかわいちと)。
彼は裏表のあるくせ者で、こんな男が私の結婚相手!?
父と継母は財産を奪われたと怒り狂うし、異母妹は婚約者を盗られたと言うし。
私が全てを奪ったと、完全に悪者にされてしまった。
どうしたらいいの!?
・視点切り替えあります。
・R-18には※R-18マークをつけます。
・飛ばして読むことも可能です。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
森でオッサンに拾って貰いました。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。
ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる