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社長室の一件後、要人が言っていたように、社内メールで愛弓さんの交友関係が明らかにされた。
でも実のところ、沖重で働く人々が知りたかったのは、愛弓さんより、私と要人の関係だったようだ。
『婚約はしているのでしょうか?』
『いつごろ、ご結婚ですか?』
『やはり、仲人は宮ノ入社長夫妻か、八木沢常務夫妻でしょうなぁ』
などなど、役員たちが訪れ、そんな気の早いことを言い出す始末。
渦中の人である私が、経理課へ戻れるわけがなく、朝比さんの雑務を手伝い、一日の仕事を終えた。
秘書課の方々は、すでに要人のひどさ……ではなく、扱いの難しさを嫌というほど理解しているらしく、むしろ私に同情的だった。
「倉地さん。もらい物の美味しいお饅頭があるの。お茶にしましょ」
「大変ね……。仁礼木社長に巻き込まれて……」
「幼馴染とか、もはや罰ゲームよ」
秘書課のお姉様たちは、私の長年の苦労を察し、労ってくれた。
そして、私は人が少なくなった頃、こっそり裏口から退社したのだった。
「ひどい目にあったわ……」
「ん? なんかあったか?」
トラブルは日常茶飯事、攻撃性のかたまり、あれくらい朝飯前の要人は、疲れ切った私を眺めて、首を傾げていた。
「今日一日、事件だらけだったでしょ? いったい要人は、どんな世界で生きてるの?」
「志茉と同じ世界だぞ」
「わかってるわよ! 今のは嫌みよ、嫌みっ!」
――要人の笑顔が憎たらしい。
今後の話し合いも兼ねて、夕食は外食になり、私と要人、社長秘書の朝比さんで小料理屋へ来た。
暖簾がなく、隠れ家的な小料理屋は、美人で物静かな女将さんがいる。
小さな店で、カウンター席だけなのかと思ったら、奥の座敷へ通された。
カウンターより座敷がある個室の方が広く、京町家のような造りになっており、向こうの通りに抜けられる細い通路がある。
なんとなくだけど、ここは宮ノ入グループの関係者が使う店なのではないかと思った。
「志茉、飲み物は?」
「お茶にするわ」
「飲まないのか?」
「疲れ切って、そんな気分じゃないわよ」
そういう要人も車の運転があるから、アルコールは飲まない。
なぜ、私が疲れたのかわからないという顔をしている二人――そう、要人だけでなく、朝比さんも同じで、『なにかありましたっけ?』なんて空気を醸し出している。
これが、(主に自分で起こす)事件だらけの人生を送る人たちの顔。思わず、私は冷ややかな目で二人を眺めてしまった。
「要人は疲れてないの? それに、愛弓さんのプライベートをバラまくなんて、やりすぎなのよ!」
「これくらい優しいほうだぞ」
「ど、どこがよ!」
要人の言葉に同意なのか、朝比さんは涼しい顔で、お茶を飲んでいる。
若いのに落ち着いていて、まだ勤務中ですからと言って、アルコールは一切口にしない。
見かけどおり、真面目な人だった。
「私は明日からどうしたら……」
「俺の秘書として働けばいい」
「お断りよっ! 二十四時間、要人と一緒にいたら、私の寿命が縮むわ!」
「二十四時間一緒に……。なるほど。俺と一緒に住みたいという遠回しな誘いか? 引っ越すつもりでいたけど、まさか志茉から……」
「違うっ! 今のはちょっとした言い間違いよ。わかってるくせにっ!」
ただでさえ、減っていた体力が、このやりとりで、一気に消耗された気がする。
「ですが、経理課の仕事が滞るのは困ります。倉地さんがいては、仕事に集中できないでしょう」
今日の騒ぎを目の当たりにしている朝比さんに言われると、私も強く言えなかった。
愛弓さんが騒ぎ、経理課に迷惑をかけてしまったのは事実で、経理課だけでなく、他の課にまで影響が及んだ。
「まさか、要人。こうなることをわかってて、愛弓さんを放置していたんじゃないでしょうね!」
「俺がそんなこと……するわけないだろ?」
声がわざとらしく、すべて要人の算段だったのではと疑いたくなる。
「志茉。お腹空いただろ? 魚の煮付けが美味しいぞ」
「天ぷらも美味ですよ」
衣がさっくりした穴子のてんぷらが美味しい。
一口目はそのまま、二口目は抹茶塩につける。
ここの料理はどれも美味しく、ハズレがない。
食べ物で誤魔化されそうになって、ハッと我に返った。
「要人。まだなにか、よからぬことを考えてない? 他にもなにかしてなかった?」
稚鮎の天ぷらを食べようとしていた要人の手が止まる。
食べると、ほろ苦さのある稚鮎だけど、天ぷらにすると骨まで食べられて、香ばしくてお酒のつまみにぴったりだ。
お茶なのが、ちょっと残念に思えた。
「あー、ほら、志茉。他にも食べたい物があるだろ? 好きに頼めよ」
「和食好きだとお聞きしてますよ」
要人と朝比さん、二人同時に、私の前にメニューを置く。
――この態度、ますます怪しい。
けど、二人はなにも教えてくれなかった。
仕事が絡む話なのか、そのあたりはやっぱり、私相手であっても口が堅いのだ。
結局、二人は当たり障りない会話をし、明日からどうするかという話をしていた。
これは、夕食を兼ねた明日からの打ち合わせだったらしく、私は料理のほうへ集中した。
小料理屋での食事が終わると、朝比さんと別れ、要人の車に乗り、助手席の窓を少しだけ開けて、涼しい風で眠気を飛ばす。
お腹がいっぱいになると、どうしても眠くなってしまう。
「志茉。あのな、家を出るって、前に言っただろ?」
「うん」
「あれは志茉を連れて、一緒に出るっていう意味だ。そろそろ、アパートから引っ越さないか?」
それは、お隣の幼馴染でなくなる提案だった。
いつでも、要人は仁礼木の家から出ていけた。
それなのに、私のそばにいるためだけに、お隣で暮らしていた。
変わらない関係を続けて、私に安心感を与えて、傷が癒えるのを待っていたのだ。
「志茉が両親との思い出の残るアパートを出たくないのも知ってる。でも、志茉。俺は志茉と本当の家族になりたい」
いつになく固い声に、要人が緊張しているのだとわかった。
プロポーズであり、私がアパートを出るという決意をしてくれるかどうか――要人だって、不安なことがあるのだと思うと、なんだか可笑しかった。
「笑うな」
「……だって、いつも自分の意見を通すくせに」
「志茉だけは別だ。嫌われたくないからな」
「うん、要人。ありがとう。私、要人と一緒に暮らしたい」
要人は車を止め、私を見つめる。
整った綺麗な顔が、至近距離にあり、要人の指が私の頬に触れる。
私と要人がお互いの唇を重ねようと、目を閉じかけた瞬間、目の端に入ったものがあった。
――煙?
暗闇に煙が浮かんでいるのが見えた。
それも、おかしいと感じるほどの煙の量が。
「要人、火事じゃない?」
「火事……?」
要人はなにか察したように、怖い顔をし、車のエンジンをかける。
車を走らせ、アパートに着くと、真っ赤な炎があがっていた。
火元は一階部分からで、私の部屋がある二階は、まだ火の手が回っていない。
「要人坊っちゃま、志茉さん! アパートにいらっしゃらなくて、本当によかった!」
八重子さんが、私と要人を見るなり、駆け寄ってきた。
仁礼木家から、水を運んだのか、八重子さんの手には、水が入ったバケツが握られていた。
「通行人が気づいたんですよ。なにか燃えるような音がして、アパートの敷地を覗いたら、一階の部屋から火が出ていたとか……」
八重子さんが指差したのは、空き部屋である。
アパートは古く、住んでいる人は私の他に、あと二世帯いた。
年配の夫婦で、昔からこのアパートに住んでいる人たちだ。
全員無事だったようで、外から消火活動を見守っていた。
八重子さんは涙声で、私を気遣うように腕をさすってくれた。
――両親と暮らしたアパートがなくなってしまう。
呆然としたまま、赤い炎を眺めていると、要人が突然、スーツの上着を脱ぎ、バケツの水を頭からかぶった。
「要人! なにしてるの!?」
時間がないというように、要人はなにも答えず、アパートに向かって走り出した。
「行かないで! 要人っ!」
「要人坊っちゃま!」
階段を駈け上がり、部屋へ飛び込む。
一階からの煙が、要人の姿を呑み込み、見えなくなった。
木造のアパートのせいか、火の勢いが強く、階段部分にまで、火の手が延びる。
「要人っ!」
部屋から出てきた要人は、畑のそばにあった大きな木に飛び移り、軽い身のこなしで、地面に降り立つ。
そういえば、昔、あの木にひっかかった帽子を要人が登って、取ってくれたことがあった。
「ほら、志茉」
帽子をとってくれた時と同じ、満面の笑みを浮かべた要人は、部屋から持ち出した物を手渡した。
それは、私が玄関に飾ってあった両親の写真とアルバムだった。
「要人……」
「これ、志茉の一番大事な物だろ?」
戻ってきた要人のシャツを掴んで叫んだ。
「要人が一番大事に決まってるでしょ!」
私が泣き出し、要人の体にしがみつくと、要人は驚いた顔をした。
そんな驚くことじゃない。
要人は私にとって、なくてはならない存在なのだから。
「志茉、ごめん」
「……二度と、危ないことしないで。命だけはどうにもならないのよ!」
「わかってる」
私たちは水に濡れたシャツも気にならないくらい、お互いを痛いほど抱きしめていた。
でも実のところ、沖重で働く人々が知りたかったのは、愛弓さんより、私と要人の関係だったようだ。
『婚約はしているのでしょうか?』
『いつごろ、ご結婚ですか?』
『やはり、仲人は宮ノ入社長夫妻か、八木沢常務夫妻でしょうなぁ』
などなど、役員たちが訪れ、そんな気の早いことを言い出す始末。
渦中の人である私が、経理課へ戻れるわけがなく、朝比さんの雑務を手伝い、一日の仕事を終えた。
秘書課の方々は、すでに要人のひどさ……ではなく、扱いの難しさを嫌というほど理解しているらしく、むしろ私に同情的だった。
「倉地さん。もらい物の美味しいお饅頭があるの。お茶にしましょ」
「大変ね……。仁礼木社長に巻き込まれて……」
「幼馴染とか、もはや罰ゲームよ」
秘書課のお姉様たちは、私の長年の苦労を察し、労ってくれた。
そして、私は人が少なくなった頃、こっそり裏口から退社したのだった。
「ひどい目にあったわ……」
「ん? なんかあったか?」
トラブルは日常茶飯事、攻撃性のかたまり、あれくらい朝飯前の要人は、疲れ切った私を眺めて、首を傾げていた。
「今日一日、事件だらけだったでしょ? いったい要人は、どんな世界で生きてるの?」
「志茉と同じ世界だぞ」
「わかってるわよ! 今のは嫌みよ、嫌みっ!」
――要人の笑顔が憎たらしい。
今後の話し合いも兼ねて、夕食は外食になり、私と要人、社長秘書の朝比さんで小料理屋へ来た。
暖簾がなく、隠れ家的な小料理屋は、美人で物静かな女将さんがいる。
小さな店で、カウンター席だけなのかと思ったら、奥の座敷へ通された。
カウンターより座敷がある個室の方が広く、京町家のような造りになっており、向こうの通りに抜けられる細い通路がある。
なんとなくだけど、ここは宮ノ入グループの関係者が使う店なのではないかと思った。
「志茉、飲み物は?」
「お茶にするわ」
「飲まないのか?」
「疲れ切って、そんな気分じゃないわよ」
そういう要人も車の運転があるから、アルコールは飲まない。
なぜ、私が疲れたのかわからないという顔をしている二人――そう、要人だけでなく、朝比さんも同じで、『なにかありましたっけ?』なんて空気を醸し出している。
これが、(主に自分で起こす)事件だらけの人生を送る人たちの顔。思わず、私は冷ややかな目で二人を眺めてしまった。
「要人は疲れてないの? それに、愛弓さんのプライベートをバラまくなんて、やりすぎなのよ!」
「これくらい優しいほうだぞ」
「ど、どこがよ!」
要人の言葉に同意なのか、朝比さんは涼しい顔で、お茶を飲んでいる。
若いのに落ち着いていて、まだ勤務中ですからと言って、アルコールは一切口にしない。
見かけどおり、真面目な人だった。
「私は明日からどうしたら……」
「俺の秘書として働けばいい」
「お断りよっ! 二十四時間、要人と一緒にいたら、私の寿命が縮むわ!」
「二十四時間一緒に……。なるほど。俺と一緒に住みたいという遠回しな誘いか? 引っ越すつもりでいたけど、まさか志茉から……」
「違うっ! 今のはちょっとした言い間違いよ。わかってるくせにっ!」
ただでさえ、減っていた体力が、このやりとりで、一気に消耗された気がする。
「ですが、経理課の仕事が滞るのは困ります。倉地さんがいては、仕事に集中できないでしょう」
今日の騒ぎを目の当たりにしている朝比さんに言われると、私も強く言えなかった。
愛弓さんが騒ぎ、経理課に迷惑をかけてしまったのは事実で、経理課だけでなく、他の課にまで影響が及んだ。
「まさか、要人。こうなることをわかってて、愛弓さんを放置していたんじゃないでしょうね!」
「俺がそんなこと……するわけないだろ?」
声がわざとらしく、すべて要人の算段だったのではと疑いたくなる。
「志茉。お腹空いただろ? 魚の煮付けが美味しいぞ」
「天ぷらも美味ですよ」
衣がさっくりした穴子のてんぷらが美味しい。
一口目はそのまま、二口目は抹茶塩につける。
ここの料理はどれも美味しく、ハズレがない。
食べ物で誤魔化されそうになって、ハッと我に返った。
「要人。まだなにか、よからぬことを考えてない? 他にもなにかしてなかった?」
稚鮎の天ぷらを食べようとしていた要人の手が止まる。
食べると、ほろ苦さのある稚鮎だけど、天ぷらにすると骨まで食べられて、香ばしくてお酒のつまみにぴったりだ。
お茶なのが、ちょっと残念に思えた。
「あー、ほら、志茉。他にも食べたい物があるだろ? 好きに頼めよ」
「和食好きだとお聞きしてますよ」
要人と朝比さん、二人同時に、私の前にメニューを置く。
――この態度、ますます怪しい。
けど、二人はなにも教えてくれなかった。
仕事が絡む話なのか、そのあたりはやっぱり、私相手であっても口が堅いのだ。
結局、二人は当たり障りない会話をし、明日からどうするかという話をしていた。
これは、夕食を兼ねた明日からの打ち合わせだったらしく、私は料理のほうへ集中した。
小料理屋での食事が終わると、朝比さんと別れ、要人の車に乗り、助手席の窓を少しだけ開けて、涼しい風で眠気を飛ばす。
お腹がいっぱいになると、どうしても眠くなってしまう。
「志茉。あのな、家を出るって、前に言っただろ?」
「うん」
「あれは志茉を連れて、一緒に出るっていう意味だ。そろそろ、アパートから引っ越さないか?」
それは、お隣の幼馴染でなくなる提案だった。
いつでも、要人は仁礼木の家から出ていけた。
それなのに、私のそばにいるためだけに、お隣で暮らしていた。
変わらない関係を続けて、私に安心感を与えて、傷が癒えるのを待っていたのだ。
「志茉が両親との思い出の残るアパートを出たくないのも知ってる。でも、志茉。俺は志茉と本当の家族になりたい」
いつになく固い声に、要人が緊張しているのだとわかった。
プロポーズであり、私がアパートを出るという決意をしてくれるかどうか――要人だって、不安なことがあるのだと思うと、なんだか可笑しかった。
「笑うな」
「……だって、いつも自分の意見を通すくせに」
「志茉だけは別だ。嫌われたくないからな」
「うん、要人。ありがとう。私、要人と一緒に暮らしたい」
要人は車を止め、私を見つめる。
整った綺麗な顔が、至近距離にあり、要人の指が私の頬に触れる。
私と要人がお互いの唇を重ねようと、目を閉じかけた瞬間、目の端に入ったものがあった。
――煙?
暗闇に煙が浮かんでいるのが見えた。
それも、おかしいと感じるほどの煙の量が。
「要人、火事じゃない?」
「火事……?」
要人はなにか察したように、怖い顔をし、車のエンジンをかける。
車を走らせ、アパートに着くと、真っ赤な炎があがっていた。
火元は一階部分からで、私の部屋がある二階は、まだ火の手が回っていない。
「要人坊っちゃま、志茉さん! アパートにいらっしゃらなくて、本当によかった!」
八重子さんが、私と要人を見るなり、駆け寄ってきた。
仁礼木家から、水を運んだのか、八重子さんの手には、水が入ったバケツが握られていた。
「通行人が気づいたんですよ。なにか燃えるような音がして、アパートの敷地を覗いたら、一階の部屋から火が出ていたとか……」
八重子さんが指差したのは、空き部屋である。
アパートは古く、住んでいる人は私の他に、あと二世帯いた。
年配の夫婦で、昔からこのアパートに住んでいる人たちだ。
全員無事だったようで、外から消火活動を見守っていた。
八重子さんは涙声で、私を気遣うように腕をさすってくれた。
――両親と暮らしたアパートがなくなってしまう。
呆然としたまま、赤い炎を眺めていると、要人が突然、スーツの上着を脱ぎ、バケツの水を頭からかぶった。
「要人! なにしてるの!?」
時間がないというように、要人はなにも答えず、アパートに向かって走り出した。
「行かないで! 要人っ!」
「要人坊っちゃま!」
階段を駈け上がり、部屋へ飛び込む。
一階からの煙が、要人の姿を呑み込み、見えなくなった。
木造のアパートのせいか、火の勢いが強く、階段部分にまで、火の手が延びる。
「要人っ!」
部屋から出てきた要人は、畑のそばにあった大きな木に飛び移り、軽い身のこなしで、地面に降り立つ。
そういえば、昔、あの木にひっかかった帽子を要人が登って、取ってくれたことがあった。
「ほら、志茉」
帽子をとってくれた時と同じ、満面の笑みを浮かべた要人は、部屋から持ち出した物を手渡した。
それは、私が玄関に飾ってあった両親の写真とアルバムだった。
「要人……」
「これ、志茉の一番大事な物だろ?」
戻ってきた要人のシャツを掴んで叫んだ。
「要人が一番大事に決まってるでしょ!」
私が泣き出し、要人の体にしがみつくと、要人は驚いた顔をした。
そんな驚くことじゃない。
要人は私にとって、なくてはならない存在なのだから。
「志茉、ごめん」
「……二度と、危ないことしないで。命だけはどうにもならないのよ!」
「わかってる」
私たちは水に濡れたシャツも気にならないくらい、お互いを痛いほど抱きしめていた。
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