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13 過去の傷 ※R- 18

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 両親が交通事故で亡くなった――それは私が高校を卒業する年のことだった。
 私の進路はすでに決まり、両親は『志茉が大学を卒業したら、田舎に家を買って、のんびり暮らそう』と言っていた矢先のことで、両親が亡くなった実感が湧かず、まだ家族三人で暮らしていた痕跡が残る部屋をさわれずにいた。
 これが現実だとわかるのは、アパートの部屋に、両親ではなく要人かなめがいる時だけ。
 両親が亡くなってから、要人は私を監視するかのように、そばから離れない。

志茉しま。弁当を買ってきたぞ。なにか食べないと体に悪い」

 暗い部屋に気づいた要人が、部屋の灯りを一つつけた。
 弱い灯りが部屋を照らし、もう夜なのだと気づいた。

「要人……」
「水くらい飲まないと、体を壊すぞ」

 ペットボトルの蓋を開け、要人は水を渡してくれたけど、飲みたいと思わなかった。

「志茉。俺がいる」

 要人は私の頭を撫でた。
 でも、その手だけでは、私の不安な心の隙間は埋まらない。
 
 ――いつか、要人もいなくなる。
 
 それは明日かもしれないし、一週間後かもしれない。
 いつ、人はいなくなるか、わからないのだ。
 失う恐怖に、体が震え、畳の上に映る自分の黒い影だけを見つめていた。
 重ならない影、三つあった影は、一つだけになってしまった。

「寒いのか? 毛布持ってくる。志茉、少し眠れよ。眠ってないだろ?」
「行かないで……」
「どこにも行かない。俺は志茉のそばにいる」

 離れようとした要人をどこにも行かせたくなくて、体に抱きついた。
 要人には家族もいて、綺麗な女の人たちだって――要人は私じゃなくてもいい。
 でも、今の私には要人しかいなかった。

「ずっと私と一緒にいて」
「ああ」

 要人は私の体を抱き締めて、そのまま座った。
 今の私にとって、要人だけが、唯一安心させてくれる存在だった。
 こんなふうに、すがっては駄目だとわかっいても――孤独が、私を狂わせた。

「要人、私、寂しい――」

 何度も泣いたのに、まだ涙がこぼれる。

「そうだな……」

 両親を亡くした悲しみを共有できる人は、要人の他に誰もいなかった。
 私の両親を実の両親のように、慕ってくれていた要人も辛いはずなのに、私は自分の感情を抑えられず、孤独の中に溺れ、息ができないほどの悲しみに沈んだ。

「……要人」

 要人の両頬を掴み、その唇に自分の唇を泣きながら重ね合わせた。
 足りないぬくもりを埋めるように、人の熱を得るように、私は要人を求めた。

「志……茉……」

 要人は拒まず、私のつたないキスに応えて、何度もキスを繰り返した。
 何度目かのキスで、要人は私の体を押し倒し、タガが外れたように体を求めた。
 
 ――重なる影はふたつ。
 
 大きな手に触れられた体は、熱を持ち、生きていることを教えて、私に大きな安心感を与えてくれる。
 
「……かな……め……。もっと抱きしめて」
「……っ」

 要人の唇が、私の皮膚の上になぞり、赤い痕を残すたび、小さな痛みを伴う。
 自分の存在を刻みつけ、私に忘れさせないためのもの。
 耳から首筋へ、首筋から胸元へ――要人の感触を感じる。
 それが、心地よくて涙がこぼれた。
 その涙に気づいた要人は、舌で涙をすくい、舐めとる。

「志茉……俺は……」
「止めないで。このまま、私を奪って」
「止まれるわけ……ないだろ」

 気づくと、私と同じように、要人も泣いていた。
 要人が泣くところを私は初めて見た。
 なんでもできて、強くて自信たっぷりな要人が、泣く姿を見せたのはこれが初めてで、お互いの悲しみと苦しみが交差して、泣きながら、私たちは抱き合った。
 キスをして、体中にお互いの痕をつけて、孤独を消して――自分のものではない熱が、私たちは一人じゃないと教えていた。

「志茉、口を開けて」

 要人は手にしたペットボトルの水を口に含み、私の口に注ぐ。
 水がこぼれても構わず、要人は私に水を飲ませ続けた。
 冷たいはずの水なのに、要人がこぼれた水も全部舐め取り、ボトルの中身が空になるまで繰り返す。
 からっぽのボトルを床に投げ捨てた音が響く頃には、お互い止まれなくなっていた。
 要人が熱い息を吐く。
 その息を下腹部で感じて、腰が浮く。

「まっ……そ、れ……」

 要人の舌が、私の中をえぐるようになぞる。
 敏感な前と中を同時に、舌と指が触れ、体が熱さを増し、思考を奪った。

「ん……あっ……」
「志茉。声、我慢しなくていい。息を吐き出して」

 そう言いながら、要人は深くまで舌を潜り込ませ、ゆっくりと快楽を引き出していく。
 なにも考えずに、その甘い感触を感じれば、悲しみを忘れて、どっぷりその中へ堕ちていける気がした。
 指が丸い粒を押し潰し、大きく身を反らすと、優しくそこをなぞる。

「そこ……あっ……やぁ……」
「感じすぎる? 嫌か?」

 要人の問いかけに、首を横に振った。
 舌を引き抜き、代わりに指が埋められ、息をするのも忘れるほどの刺激に小さく喘いだ。

「んぅ……」

 敏感な丸い粒を、舌がゆっくりなぞる。
 淡い快楽と、指から繰り返し与えられる快楽で、蜜がこぼれ、淫猥な水音を鳴らしていた。
 恥ずかしさで、顔を覆うと、その手を要人が押さえつけた。
 感じている私の顔を要人は覗き込み、そして言った。

「まだ、痛いかもしれない」
「……いい。痛くして。要人がわかるようにして……」

 その言葉に、要人は耐え切れなくなったのか、深く私を抱きしめた
 コンドームのパッケージを口にくわえ、破り、苦しそうに要人が息を吐いて、汗を落とす。
 ギリギリまで要人は、私が傷つかないよう我慢していたのだと気づいて、汗を指でなぞる。
 私のせいで要人が苦しむことはない。
 それを教えるために、私から要人にキスをした。
 要人がしてくれたように、舌をなぞり、絡め、首に手を回して、奥まで。
 
「志……茉……っ……」
「あっ……いっ……」

 唇を噛みしめ、声を出さず、耐える私の両手を要人が握る。
 どこまでも要人は優しかった。
 痛みさえ、自分の悲しみを消すため、必要としていた私。
 その私の欲望を要人は満たしてくれる。
 私の中に要人を感じ、要人も同じように私を感じている。
 
「志茉……」
 
 お互いの熱に酔う――酔って、私たちは繋がったまま、キスを繰り返す。
 煽られ、理性をすべて吹き飛ばして、私を全部奪って。
 貫かれる痛みは、この先、要人を独占する罰。
 寂しさに負けた私が、最悪な選択をして、要人の将来に黒い汚点を残してしまった。
 ゆっくりと、徐々に激しく、要人が動く。

「ん……あっ……」

 要人の汗が、私の体に落ちる。
 綺麗な顔を歪ませて、息を乱す要人から匂い立つ色気。それは言い難いほどの美しい獣の姿で、それを支配する私は悪い女。
 痛みが甘い快楽に変わっていく。
 その快楽に身を震わせた。
 繋がる部分が溶け合い、混ざり合い、私たちはなにも考えずに、ただ抱き合った。
 もういっそ、このまま――このまま、死んでしまえたらいいのに。

「志茉。俺のそばにいろ」

 私の心を読んだかのように、要人は言った。

「俺がいる限り、志茉は一人じゃない」

 両親が死んでから、ようやく私は現実を見ることができた。
 要人の体に縋りつき、声を上げて泣いた。
 優しい要人なら、孤独から助けてくれるとわかっていたけど――

「ごめん……ね……要人……」
「どうして、謝るんだ……」

 要人は私に捕まった。私から逃れられずに、囚われてしまった。
 私たちが幼馴染のラインを一瞬だけ越えた『初めて』――それは、孤独を消すための行為だった。
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