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23 新しい旅立ち
しおりを挟む私と惟月さんの結婚式が無事終わり、新婚旅行から帰った頃、入れ違いのように閑井さんの辞令があり、空港に見送りに来ていた。
「閑井さん、向こうに行っても頑張ってくださいね。仕事を教えて頂いて、本当にありがとうございました」
「いいえっ。そんなたいしたこと教えてないですよ!」
そう言った閑井さんは任されていたプロジェクトを成功させ、夢だった海外支店に異動が決まったのだった。
私も自分のことのように嬉しく、思っていた。
「閑井さんの力が認められて、よかったですね」
「高辻さんが、いえ。清永さんが励ましてくれたおかげで腐らずにやれたんです」
閑井さんが手をさしだし、握手をした。
「それじゃあ、お元気で!」
明るく手を振り旅立って行った。
見送りが終わり、歩いていると、惟月さんが椅子に座って待っていた。
「終わったか」
「ええ。ありがとうございます。空港まで送って頂いて。仕事は平気なんですか?」
運転手に頼むからいいと言ったのに惟月さんは一緒に行くと言い張って、ついてきた。
新婚旅行から、帰ったばかりで忙しいはずなのに。
「しばらく、残業だな」
「お手伝いします」
「ああ。頼む」
立ち上がり、手を握った。
「あの?」
「閑井と仲がよかったよな」
もしかして。
繋いだ手は握手をしていたほうだったし、見送りについてきたのも不安だったから?
可笑しくて笑うと惟月さんは苦笑した。
手を繋ぎ、並んで歩いた。
「中井さんは子会社に行ったんですね」
「ああ。新しい場所で頑張るそうだ。間水が支えるだろう」
「そうですね」
中井さんは海外支店から戻ってきた時から、間水さんと暮らしていたらしい。
元々、間水さんは中井さんが好きだったらしく、別れたのを機に付き合ったけれど中井さんは惟月さんに未練があった。
それで、あんなことになったわけだけど。
「静代さんは家政婦を辞めたんだな」
「はい。でも、他の場所で家政婦として働いているみたいです」
「そうなのか?」
「この間、車に乗っていたら、静代さんらしき人がスーパーから出てきて、どこかに向かってましたから」
「なるほど。新しい働き口が見つかったのか」
「そうみたいです」
惟月さんの手前、そう答えたけれど、私は薄々気づいていた。
静代さんが誰をお世話しているのか。
お父様にはお母様とは別に愛している方がいる―――きっとそれはあの山荘にすべての秘密が隠されていた。
私と恭士お兄様の母は別にして、お母様の子として籍に入れられ、育てられたのではないだろうか。
今になって思えば、家族で旅行もでかけた記憶もない。
どこか行くとしても恭士お兄様と二人だった。
お兄様は私が高辻の家に連れてこられた日をきっと覚えているに違いない。
だから、お兄様は惟月さんとの結婚を頑なに反対していたのだろう。
お父様と同じように惟月さんには他に好きな女性がいると思っていたお兄様の心の傷は私よりもきっと深い。
「咲妃。どうかしたか」
「いいえ」
惟月さんの手を握った。
「惟月さん、私のことが好きですか?」
「なんだ!?いきなり!」
驚き、惟月さんは足を止めて私の顔を覗き込んだ。
なにも聞かず、惟月さんは微笑んだ。
そして、耳元にそっと唇をよせ、ささやいた。
「好きだ」
「私もです」
惟月さんとお父様は違う。
そして、私も。
何度閉じ込められても、必ず、私は惟月さんの元に帰るから。
惟月さんは笑いながら、髪をくしゃりとなでると、手を繋ぎ直し、私達は再び歩き出した―――
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