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2 高辻のお屋敷
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天下の高辻グループのお屋敷は閑静な高級住宅地の中でも一際大きいお屋敷で小高い丘の天辺にあった。
高辻はお金持ちというだけじゃなく、歴史も古く、結婚相手は公家や武家のお姫様が嫁いだとか。
門扉だけでも、圧倒されてしまう。
私は裏門に回った。
表だけでなく、裏の勝手口にも鉄格子のような門があり、インターホンを鳴らすと警備員のおじさんが出てきて、中にいれてくれた。
「ああ。新しい家政婦さんですね。宮竹さんから、聞いていますよ。ちょうど奥様がご在宅ですので、リビングまで案内させてもらいますね」
警備員のおじさんは丁寧な口調で案内してくれた。
「すみませんが、案内はここまでで。奥様は警備の者が頻繁に顔を見せることがお嫌いでして」
「わかりました」
リビング手前の廊下で警備員は去っていった。
気難しい奥様なのかな。
顔を出すなって、なかなか厳しいじゃないの。
「失礼します」
ノックして、リビングのドアを開けるとそこには怜悧な瞳をした眼鏡をかけた若い男の人と凄みのある綺麗な女の人がキスをしていた。
「えっ!?」
男の人は私に気づき、鋭い目で睨み付けた。
わ、悪いのは私じゃない!そう言いたいのに声がでなかった。
動けずに固まっていると、男の人は顔色一つ変えずにキスを終わらせ、言い捨てた。
「こんなものか」
「恭士様っ、私っ」
体にすがりつく女の人を冷ややかに見下ろして言った。
「悪いが、なんとも思えなかった。で、どうするんだ?まだ付き合うか?」
顔を赤くし、泣き出すのではと思っていたけど、泣かずに唇を噛み、顔を伏せてリビングから飛び出して行った。
「あらあ、恭士さんったら。また女の人を泣かせて。どなたなら、満足なのかしら?」
おっとりとした口調の女性が私の背後から現れた。
春らしく、ベージュのワンピースにパールのイヤリングとネックレスをつけ、爪はピンク色で指には大きなダイヤモンドの指輪をつけている。
「母さん、覗いていたのか」
母さん!?
と、いうことは高辻の奥様だろう。
高辻の奥様は若々しく、五十代には見えない。
いいとこ四十代前半でしょ!?と思っていると、少女のようにその人は笑った。
「やあねえ。そんな下品な真似をするわけないでしょう?」
「それは失礼」
二人とも私のことが目に入ってないようだった。
「あ、あのー。宮竹家政婦紹介所から派遣された桑江夏乃子です」
「あらまあ。そういえば、静代さんの代わりに来るとおっしゃっていたわね」
首を傾げて、柔らかく微笑みを浮かべていた。
「はい!よろしくお願い致します」
「随分とお若いのね」
「歳は若いですが、高校を卒業してから、ずっとこの仕事をさせていただいておりますので、新人というわけではありません。奥様のご要望に添えるよう努力致します」
「そう。ご立派ね。しっかりしてそうだし、宮竹さんの所の方なら大丈夫でしょう」
深々とお辞儀をすると、奥様は気に入ってくれたらしく、機嫌よく言った。
「私はこれから、でかけますから。夕食は8時くらいにしてちょうだい」
「かしこまりました」
奥様はそれだけ言うと満足したのか、運転手の名前を呼び、廊下を歩いて行ってしまった。
私と高辻の息子さんと思われる恭士さんが残された。
今まで小さい子供しかいなかったから、こういうのにはなれてない。
顔を見たら、さっきのキスシーンを思い出してしまうので、顔を見ないように頭を下げて言った。
「恭士様もこれからよろしくお願い致します」
「様はやめろ。さんでいい」
「はい。では、恭士さん」
雇い主の要望にはある程度、柔軟に対応している。
「名前は?」
さっき言ったのに……。
本当に私の事なんて、空気程度にしか思ってない気がした。
恨めしく思いながら、もう一度言った。
「桑江夏乃子ですっ!」
「夏乃子か」
なんで呼び捨て!?
「いくつだ?」
「えっ!?23歳ですが」
「てっきり家出娘かと思った」
「家出娘!?」
「23歳にしてはガキ臭いな」
「ガキ臭い!?」
「高校生がなにしにきたのかと思ったぞ」
「こっ……高校生!?」
だから、呼び捨てなわけ?
なんなのよっ!
このと失礼な奴は!
ぶるぶると拳を震わせた。
「おっと。構っている場合じゃないな。仕事に遅れる」
言いたいことだけ言って、去っていった。
私にとって、恭士さんとの出会いの印象は最悪だった。
高辻はお金持ちというだけじゃなく、歴史も古く、結婚相手は公家や武家のお姫様が嫁いだとか。
門扉だけでも、圧倒されてしまう。
私は裏門に回った。
表だけでなく、裏の勝手口にも鉄格子のような門があり、インターホンを鳴らすと警備員のおじさんが出てきて、中にいれてくれた。
「ああ。新しい家政婦さんですね。宮竹さんから、聞いていますよ。ちょうど奥様がご在宅ですので、リビングまで案内させてもらいますね」
警備員のおじさんは丁寧な口調で案内してくれた。
「すみませんが、案内はここまでで。奥様は警備の者が頻繁に顔を見せることがお嫌いでして」
「わかりました」
リビング手前の廊下で警備員は去っていった。
気難しい奥様なのかな。
顔を出すなって、なかなか厳しいじゃないの。
「失礼します」
ノックして、リビングのドアを開けるとそこには怜悧な瞳をした眼鏡をかけた若い男の人と凄みのある綺麗な女の人がキスをしていた。
「えっ!?」
男の人は私に気づき、鋭い目で睨み付けた。
わ、悪いのは私じゃない!そう言いたいのに声がでなかった。
動けずに固まっていると、男の人は顔色一つ変えずにキスを終わらせ、言い捨てた。
「こんなものか」
「恭士様っ、私っ」
体にすがりつく女の人を冷ややかに見下ろして言った。
「悪いが、なんとも思えなかった。で、どうするんだ?まだ付き合うか?」
顔を赤くし、泣き出すのではと思っていたけど、泣かずに唇を噛み、顔を伏せてリビングから飛び出して行った。
「あらあ、恭士さんったら。また女の人を泣かせて。どなたなら、満足なのかしら?」
おっとりとした口調の女性が私の背後から現れた。
春らしく、ベージュのワンピースにパールのイヤリングとネックレスをつけ、爪はピンク色で指には大きなダイヤモンドの指輪をつけている。
「母さん、覗いていたのか」
母さん!?
と、いうことは高辻の奥様だろう。
高辻の奥様は若々しく、五十代には見えない。
いいとこ四十代前半でしょ!?と思っていると、少女のようにその人は笑った。
「やあねえ。そんな下品な真似をするわけないでしょう?」
「それは失礼」
二人とも私のことが目に入ってないようだった。
「あ、あのー。宮竹家政婦紹介所から派遣された桑江夏乃子です」
「あらまあ。そういえば、静代さんの代わりに来るとおっしゃっていたわね」
首を傾げて、柔らかく微笑みを浮かべていた。
「はい!よろしくお願い致します」
「随分とお若いのね」
「歳は若いですが、高校を卒業してから、ずっとこの仕事をさせていただいておりますので、新人というわけではありません。奥様のご要望に添えるよう努力致します」
「そう。ご立派ね。しっかりしてそうだし、宮竹さんの所の方なら大丈夫でしょう」
深々とお辞儀をすると、奥様は気に入ってくれたらしく、機嫌よく言った。
「私はこれから、でかけますから。夕食は8時くらいにしてちょうだい」
「かしこまりました」
奥様はそれだけ言うと満足したのか、運転手の名前を呼び、廊下を歩いて行ってしまった。
私と高辻の息子さんと思われる恭士さんが残された。
今まで小さい子供しかいなかったから、こういうのにはなれてない。
顔を見たら、さっきのキスシーンを思い出してしまうので、顔を見ないように頭を下げて言った。
「恭士様もこれからよろしくお願い致します」
「様はやめろ。さんでいい」
「はい。では、恭士さん」
雇い主の要望にはある程度、柔軟に対応している。
「名前は?」
さっき言ったのに……。
本当に私の事なんて、空気程度にしか思ってない気がした。
恨めしく思いながら、もう一度言った。
「桑江夏乃子ですっ!」
「夏乃子か」
なんで呼び捨て!?
「いくつだ?」
「えっ!?23歳ですが」
「てっきり家出娘かと思った」
「家出娘!?」
「23歳にしてはガキ臭いな」
「ガキ臭い!?」
「高校生がなにしにきたのかと思ったぞ」
「こっ……高校生!?」
だから、呼び捨てなわけ?
なんなのよっ!
このと失礼な奴は!
ぶるぶると拳を震わせた。
「おっと。構っている場合じゃないな。仕事に遅れる」
言いたいことだけ言って、去っていった。
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