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24 人質
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バルレリアで王国で人質となった私は許可なくアルドと会うのを禁止されてしまった。
疑われているから、妥当な処遇とはいえ、おとなしい私を演じてきた私にとって、王宮内で話せる相手はアルド以外誰もいないことに気づいた。
「いつも、バルレリアにいる時はアルドが忍び込んできて、お菓子やケーキを持ってきてくれたから……」
それにお兄様がいたから、心細く感じたことがなかったのだ。
アルドにもお兄様にも会えず、頼れる人もいない。
バルレリアの侍女たちは、私がなぜここに留め置かれているのか事情を知っているらしく、どこかよそよそしい。
会話をしようにも用事を済ませて、さっさと部屋を出ていってしまう。
罪人のように思われているのだろう。
「人質になったのはいいけど、図書室で本を読むくらいしかやることがないわね……」
手紙のやり取りも禁じられ、ルヴェロナにいるみんなの様子や軟禁中のアルドがなにをしているかもわからないから、なおさら心配だった。
やれることはなにもなく、毎日、本を読むだけ。
今日も図書室へ向かうため、広い王宮を歩く。
今、私がバルレリア王宮で自由に出入りできる場所は図書室くらいなのだ。
でも、これが私の退屈を紛らわせるための最大の気遣いなのだろうということはわかる。
わかるけれど、この扉を開けても、きっと誰もいない。
図書室のドアを開けると、大抵アルドがいた。あれは偶然ではなく、アルドは私を待っていたのだと知る。
「こんな状況になって気づくなんて……」
自分の無力さを感じながら、図書室の扉を開けた。
扉を開けた時、誰もいないはずの場所に人影があった。いつもアルドが腰かけていた窓際に誰かいる。
逆光のせいか、一瞬だけアルドに見え、名前を呼びかけてしまった。
私を待っていたのはアルドではなく――クラウディオ様だった。
「クラウディオ様……」
「ここで待っていれば、来るだろうと思っていた」
クラウディオ様は私が人質となった経緯を知っているはずだ。
窓を背にしているクラウディオ様の表情は見えにくく、どんな顔をしているのかわからなかった。
私の頭に浮かんだのは、前回のクラウディオ様だった。
アルドに味方をした裏切り者と、また罵られてしまうのだろうか。
そう思ったら、図書室の入り口から一歩も動けなくなってしまった。
「レティツィア。なぜ、ヴィルジニアの代わりに残った?」
その問いかけは私が想像していたものと違っていた。
クラウディオ様が窓際から離れるのと同時に、光の加減が変わり、顔の表情がしっかりと見えるようになった。
「殺されるかもしれないのに、よく申し出たな」
その表情は殺したい相手を見ている顔ではなかった。
誰かの代わりではなく、私を私として扱ってくれている。
前回とは違う――それがわかって、やっと入り口から足を動かすことができた。
「ルヴェロナの次期女王はヴィルジニアお姉さまではなく、私です。ヴィルジニアお姉さまがが残るより、私が残ったほうが人質として価値があると思ったからですわ」
「価値か……」
「価値があるほうが残れば、王妃様の信頼を回復できるでしょう」
「なるほど」
それにヴィルジニアの正体が本当は男だから、ここに残して帰るわけにはいかなかったんですと、心の中で付け加えた。
「だが、レティツィア。もう気づいているだろう? ルヴェロナの武器のことはただの口実で、母上はアルドが憎いだけで動いていることを」
「王妃様はなぜそこまで憎むのですか……? 側妃が亡くなられてから、王の心は王妃様だけに向けられているのではありませんか?」
クラウディオ様は悲しげに笑う。春の弱々しい日差しがその微笑みを寂しげなものに見せた。
「父が望んで王宮へ入れた女性は生涯でただ一人。アルドの母親だけだ。側妃が死ぬまでの数年間、父はバルレリア王ではなく、普通の父親としてアルドたちとだけ過ごした」
「なぜ……そんな……」
「愛していなかったからだ」
返す言葉が見つからなかった。
国王の側妃への寵愛を目の当たりにし、王妃もクラウディオ様も辛かったはずだ。
二歳しか変わらない王子を愛してもらえず、孤独を味わった王妃。
大貴族の令嬢であった王妃は身分の低い女性に負け、プライドを傷つけられ、王宮では王の愛情を得られない正妃として肩身の狭い思いをし、屈辱を味わった。
側妃が死ぬまでの七年間――憎しみが育つには十分すぎる時間だ。
「クラウディオ様。それでも、憎むべきはアルドではありません」
「……俺も母上のやり方は間違っていると思う。アルドがバルレリアの王子として努力しているのもわかっている」
クラウディオ様がアルドに複雑な思いを抱くのは仕方のないことだ。
でも、王妃の言葉に惑わされてほしくなかった。
「せめて、アルドの命だけは助けてあげてください」
クラウディオ様は私が手にしていた本を見つめる。
この本はアルドが選んでくれた本だということに気づいたのかもしれない。アルドは必ず私より先に読んで、本の内容を理解していたから。
「バルレリアの王族で農業を学ぶ人間は少ない。あいつはここを出るつもりか」
ルヴェロナは農業国だ。
バルレリアとまったく違う。アルドはバルレリアのために学んでいたのではなく、ルヴェロナへ行くつもりで学んでいたことを知った。
もしや、私のお婿さんになる夢のせいだろうか。あの宣言はまだ続行中らしい。
「まさか、あいつはルヴェロナ王国へ婿入りする気じゃないだろうな」
クラウディオ様は呆れ顔で本を閉じる。
「普通の人間なら、バルレリアの王位のほうが魅力に感じるはずだ。そもそも、バルレリアの王子が他国に婿入りなど、一度も前例がない」
「あっ、あの……でも、これでアルドに謀反の意思はないってわかってもらえたと思います」
「俺がわかってもしょうがない。母上が納得しないことにはな」
正論だった。
でも、少なくとも前回のようにクラウディオ様が私たちを殺すルートはなくなったと思う。
……ヴィルジニアが男だとバレない限りは。
「俺はずっとアルドが羨ましかった」
「え?」
「あいつには心を許せる人間がたくさんいる」
「クラウディオ様の周りにはアルドより大勢の人がいらっしゃるじゃないですか」
「それは次期国王としての俺に期待してのことだ」
「なにも期待されないよりいいと思います」
私の答えにクラウディオ様はおかしな顔をした。それは冗談ではなく、本心の言葉だったから。
前回のアルドを今のクラウディオ様は知らない。
まるでバルレリア王宮にいる亡霊のようで、誰もアルドに話しかけず、気にかけることなく、私とお兄様だけが友人だった。
唯一、私たちと話す時間がアルドにとって、人とのわずかな交流時間だったのだ。
「まるで、そんな人間を知っているうような口ぶりだな」
「そうですね。でも、もういません。自分から私に会いに来て、剣を学んで強くなって、本を読んで賢くなって。変わりましたから」
私の言葉に誰のことを言っているのか、クラウディオ様は気づいたようだった。
「あいつは自分から会いに行っていたか」
「はい」
「そうすれば、少しは変わったかもしれないな」
私もお兄様も未来を変えられると信じて生きてきた。
二度とあの絶望を味わいたくなくて。
だから、ここで諦めるわけにはいかない。
きっとルヴェロナでお兄様はなにか策を練ってくれている。
私が人質となって、その間の時間稼ぎをするしかないのだ。
疑いが晴らせなかったら、王妃に処刑されてしまうだろうけど……
「俺が王位を継承する日まで、王妃である母が権力を振るうだろう。だが、父は病だ。その日は遠い話ではない」
図書室には私とクラウディオ様だけ。他の人はいなかった。
バルレリア王が病であることは公表されていない。
「こんな重要なことを私に話してよかったんですか?」
「俺はレティツィアを信頼している」
その言葉をクラウディオ様の口から、私はずっと聞きたいと思っていた。
なにも変わらないなんてことなかった。
私たちが少しずつやってきたことは無駄じゃなかったのだ。
「レティツィア? なぜ泣いている?」
「いえ。信頼していただけたことが嬉しくて」
「大袈裟だな。安心するのは早いぞ。父が病で政ができない間、権力を掌握しているのは母上だ。信頼を回復させない限り、危険なことに変わりはない」
「はい」
「そろそろ部屋に戻ったほうがいいな。俺が会っていたと知ったら、またなにを言いだすかわからない。婚約者をヴィルジニアからレティツィアにすると言い出すかもしれないぞ」
私がクラウディオ様の婚約者になるなんて、とんでもない。ここまできて、原点に戻るようなものだ。
頬をひきつらせた私を見て、クラウディオ様が笑った。
「そんな嫌そうな顔をするな。冗談だ。俺の婚約者はヴィルジニアだ」
クラウディオ様の寂しそうな顔を見て、心からヴィルジニアを愛しているわけではないと気づいた。
王妃が決めた婚約者。それをクラウディオ様は拒否できる立場ではない。
まだクラウディオ様は後見を必要とする王子なのだ。
「部屋に戻れ。昼食の時間だろう」
「……はい。失礼します」
かける言葉が見つからず、お辞儀をして、クラウディオ様の前から離れた。
図書室の出口で扉に触れ、足を止める。
「クラウディオ様が早く王になられる日をお待ちしております。そして、ご自分が望んだ女性とご結婚されることも」
クラウディオ様の顔は見なかった。そっと扉を閉めて、図書室を後にした。
神様は私たちにチャンスをくれたと思ったけど、そうじゃない。
やり直すチャンスを与えられたのは私とお兄様、アルドやクラウディオ様だったのだ。
誤解や思惑が複雑に絡み合って、悲劇を招いた前回の人生。
すべて解けたのなら、きっと死亡ルートを回避できる。
あと少し――
最後の鍵はヴィルジニアが握っている。
ヴィルジニアがヴィルフレードに戻ったのなら、絡んだ糸が綺麗にほどける。
そんな気がした。
疑われているから、妥当な処遇とはいえ、おとなしい私を演じてきた私にとって、王宮内で話せる相手はアルド以外誰もいないことに気づいた。
「いつも、バルレリアにいる時はアルドが忍び込んできて、お菓子やケーキを持ってきてくれたから……」
それにお兄様がいたから、心細く感じたことがなかったのだ。
アルドにもお兄様にも会えず、頼れる人もいない。
バルレリアの侍女たちは、私がなぜここに留め置かれているのか事情を知っているらしく、どこかよそよそしい。
会話をしようにも用事を済ませて、さっさと部屋を出ていってしまう。
罪人のように思われているのだろう。
「人質になったのはいいけど、図書室で本を読むくらいしかやることがないわね……」
手紙のやり取りも禁じられ、ルヴェロナにいるみんなの様子や軟禁中のアルドがなにをしているかもわからないから、なおさら心配だった。
やれることはなにもなく、毎日、本を読むだけ。
今日も図書室へ向かうため、広い王宮を歩く。
今、私がバルレリア王宮で自由に出入りできる場所は図書室くらいなのだ。
でも、これが私の退屈を紛らわせるための最大の気遣いなのだろうということはわかる。
わかるけれど、この扉を開けても、きっと誰もいない。
図書室のドアを開けると、大抵アルドがいた。あれは偶然ではなく、アルドは私を待っていたのだと知る。
「こんな状況になって気づくなんて……」
自分の無力さを感じながら、図書室の扉を開けた。
扉を開けた時、誰もいないはずの場所に人影があった。いつもアルドが腰かけていた窓際に誰かいる。
逆光のせいか、一瞬だけアルドに見え、名前を呼びかけてしまった。
私を待っていたのはアルドではなく――クラウディオ様だった。
「クラウディオ様……」
「ここで待っていれば、来るだろうと思っていた」
クラウディオ様は私が人質となった経緯を知っているはずだ。
窓を背にしているクラウディオ様の表情は見えにくく、どんな顔をしているのかわからなかった。
私の頭に浮かんだのは、前回のクラウディオ様だった。
アルドに味方をした裏切り者と、また罵られてしまうのだろうか。
そう思ったら、図書室の入り口から一歩も動けなくなってしまった。
「レティツィア。なぜ、ヴィルジニアの代わりに残った?」
その問いかけは私が想像していたものと違っていた。
クラウディオ様が窓際から離れるのと同時に、光の加減が変わり、顔の表情がしっかりと見えるようになった。
「殺されるかもしれないのに、よく申し出たな」
その表情は殺したい相手を見ている顔ではなかった。
誰かの代わりではなく、私を私として扱ってくれている。
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「ルヴェロナの次期女王はヴィルジニアお姉さまではなく、私です。ヴィルジニアお姉さまがが残るより、私が残ったほうが人質として価値があると思ったからですわ」
「価値か……」
「価値があるほうが残れば、王妃様の信頼を回復できるでしょう」
「なるほど」
それにヴィルジニアの正体が本当は男だから、ここに残して帰るわけにはいかなかったんですと、心の中で付け加えた。
「だが、レティツィア。もう気づいているだろう? ルヴェロナの武器のことはただの口実で、母上はアルドが憎いだけで動いていることを」
「王妃様はなぜそこまで憎むのですか……? 側妃が亡くなられてから、王の心は王妃様だけに向けられているのではありませんか?」
クラウディオ様は悲しげに笑う。春の弱々しい日差しがその微笑みを寂しげなものに見せた。
「父が望んで王宮へ入れた女性は生涯でただ一人。アルドの母親だけだ。側妃が死ぬまでの数年間、父はバルレリア王ではなく、普通の父親としてアルドたちとだけ過ごした」
「なぜ……そんな……」
「愛していなかったからだ」
返す言葉が見つからなかった。
国王の側妃への寵愛を目の当たりにし、王妃もクラウディオ様も辛かったはずだ。
二歳しか変わらない王子を愛してもらえず、孤独を味わった王妃。
大貴族の令嬢であった王妃は身分の低い女性に負け、プライドを傷つけられ、王宮では王の愛情を得られない正妃として肩身の狭い思いをし、屈辱を味わった。
側妃が死ぬまでの七年間――憎しみが育つには十分すぎる時間だ。
「クラウディオ様。それでも、憎むべきはアルドではありません」
「……俺も母上のやり方は間違っていると思う。アルドがバルレリアの王子として努力しているのもわかっている」
クラウディオ様がアルドに複雑な思いを抱くのは仕方のないことだ。
でも、王妃の言葉に惑わされてほしくなかった。
「せめて、アルドの命だけは助けてあげてください」
クラウディオ様は私が手にしていた本を見つめる。
この本はアルドが選んでくれた本だということに気づいたのかもしれない。アルドは必ず私より先に読んで、本の内容を理解していたから。
「バルレリアの王族で農業を学ぶ人間は少ない。あいつはここを出るつもりか」
ルヴェロナは農業国だ。
バルレリアとまったく違う。アルドはバルレリアのために学んでいたのではなく、ルヴェロナへ行くつもりで学んでいたことを知った。
もしや、私のお婿さんになる夢のせいだろうか。あの宣言はまだ続行中らしい。
「まさか、あいつはルヴェロナ王国へ婿入りする気じゃないだろうな」
クラウディオ様は呆れ顔で本を閉じる。
「普通の人間なら、バルレリアの王位のほうが魅力に感じるはずだ。そもそも、バルレリアの王子が他国に婿入りなど、一度も前例がない」
「あっ、あの……でも、これでアルドに謀反の意思はないってわかってもらえたと思います」
「俺がわかってもしょうがない。母上が納得しないことにはな」
正論だった。
でも、少なくとも前回のようにクラウディオ様が私たちを殺すルートはなくなったと思う。
……ヴィルジニアが男だとバレない限りは。
「俺はずっとアルドが羨ましかった」
「え?」
「あいつには心を許せる人間がたくさんいる」
「クラウディオ様の周りにはアルドより大勢の人がいらっしゃるじゃないですか」
「それは次期国王としての俺に期待してのことだ」
「なにも期待されないよりいいと思います」
私の答えにクラウディオ様はおかしな顔をした。それは冗談ではなく、本心の言葉だったから。
前回のアルドを今のクラウディオ様は知らない。
まるでバルレリア王宮にいる亡霊のようで、誰もアルドに話しかけず、気にかけることなく、私とお兄様だけが友人だった。
唯一、私たちと話す時間がアルドにとって、人とのわずかな交流時間だったのだ。
「まるで、そんな人間を知っているうような口ぶりだな」
「そうですね。でも、もういません。自分から私に会いに来て、剣を学んで強くなって、本を読んで賢くなって。変わりましたから」
私の言葉に誰のことを言っているのか、クラウディオ様は気づいたようだった。
「あいつは自分から会いに行っていたか」
「はい」
「そうすれば、少しは変わったかもしれないな」
私もお兄様も未来を変えられると信じて生きてきた。
二度とあの絶望を味わいたくなくて。
だから、ここで諦めるわけにはいかない。
きっとルヴェロナでお兄様はなにか策を練ってくれている。
私が人質となって、その間の時間稼ぎをするしかないのだ。
疑いが晴らせなかったら、王妃に処刑されてしまうだろうけど……
「俺が王位を継承する日まで、王妃である母が権力を振るうだろう。だが、父は病だ。その日は遠い話ではない」
図書室には私とクラウディオ様だけ。他の人はいなかった。
バルレリア王が病であることは公表されていない。
「こんな重要なことを私に話してよかったんですか?」
「俺はレティツィアを信頼している」
その言葉をクラウディオ様の口から、私はずっと聞きたいと思っていた。
なにも変わらないなんてことなかった。
私たちが少しずつやってきたことは無駄じゃなかったのだ。
「レティツィア? なぜ泣いている?」
「いえ。信頼していただけたことが嬉しくて」
「大袈裟だな。安心するのは早いぞ。父が病で政ができない間、権力を掌握しているのは母上だ。信頼を回復させない限り、危険なことに変わりはない」
「はい」
「そろそろ部屋に戻ったほうがいいな。俺が会っていたと知ったら、またなにを言いだすかわからない。婚約者をヴィルジニアからレティツィアにすると言い出すかもしれないぞ」
私がクラウディオ様の婚約者になるなんて、とんでもない。ここまできて、原点に戻るようなものだ。
頬をひきつらせた私を見て、クラウディオ様が笑った。
「そんな嫌そうな顔をするな。冗談だ。俺の婚約者はヴィルジニアだ」
クラウディオ様の寂しそうな顔を見て、心からヴィルジニアを愛しているわけではないと気づいた。
王妃が決めた婚約者。それをクラウディオ様は拒否できる立場ではない。
まだクラウディオ様は後見を必要とする王子なのだ。
「部屋に戻れ。昼食の時間だろう」
「……はい。失礼します」
かける言葉が見つからず、お辞儀をして、クラウディオ様の前から離れた。
図書室の出口で扉に触れ、足を止める。
「クラウディオ様が早く王になられる日をお待ちしております。そして、ご自分が望んだ女性とご結婚されることも」
クラウディオ様の顔は見なかった。そっと扉を閉めて、図書室を後にした。
神様は私たちにチャンスをくれたと思ったけど、そうじゃない。
やり直すチャンスを与えられたのは私とお兄様、アルドやクラウディオ様だったのだ。
誤解や思惑が複雑に絡み合って、悲劇を招いた前回の人生。
すべて解けたのなら、きっと死亡ルートを回避できる。
あと少し――
最後の鍵はヴィルジニアが握っている。
ヴィルジニアがヴィルフレードに戻ったのなら、絡んだ糸が綺麗にほどける。
そんな気がした。
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