私はお世話係じゃありません!【時任シリーズ②】

椿蛍

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34  熱

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朝起きると、隣の夏向がぐったりしていた。
あー、これは。
「熱があるわね」
寝起きでぼっーとしたまま、夏向の額に手をあてた。
風邪ではない。
夏向は集中しすぎたり、無理をすると風邪ではないけど、熱をだす。
昔からそうだった。
きっと昨日、頑張りすぎたのだろう。
夏向は熱っぽい顔で私を見つめてきた。
「夏向、大丈夫?」
「たいしたことない」
弱った所を見せたくないのか、熱があっても黙ったままで平気なふりをする。
起き上がって、仕事に行こうとした夏向に言った。
「熱があるでしょ」
「ない」
「そう。今日は土曜日よ」
夏向はしまった!という顔をして、振り返った。
「ほらね。頭が全然働いていないでしょ?リビングで寝てもいいから、ゆっくり休んで」
「うん」
夏向はようやく観念したらしく、リビングにクッションをいくつも並べ毛布にくるまって、横になった。
タヌキの巣みたいだけど、夏向が落ち着くなら、まあいいか。
夏向はだるい体でゴロゴロしながら、テレビを見ていた。
諏訪部すわべネットセキュリティサービス謝罪会見』がLIVE中継されていた。
「大変そう」
な、なんなのその感想は!
まるで他人事だけど、やったのは夏向だからね!?
「ほら、夏向。冷えピタはるわよ」
もそもそとタヌキの巣から、這い出るとおでこを出した。
昨日のあの凶悪な顔が嘘みたいだった。
「はい。貼ったわよ」
朝ごはんでも作ろうかと、立ち上がりかけた時、夏向は腕をつかみ、引き寄せた。
「桜帆、ここにいて」
背後から抱きすくめられ、ぼすっとクッションの山に倒れ込んだ。
「ちゃんと寝ないと治らないわよ!」
背後の夏向を振り返ると、幸せそうに笑っていた。
「し、しかたないわね」
なんなのよっー!
これはずるいでしょ!
夏向はぴったりと体をくっつけたまま、目を閉じて眠った。
寝息は規則正しく、苦しくはないようだった。
きっと休めば治る。
「あんまり無理しないでよ。夏向」
私の体を抱き締める夏向の腕を起こさないようにそっとなでた。


◇    ◇    ◇    ◇    ◇


夕方になると、夏向は熱が下がり、体が楽になったのか仕事をしているみたいだった。
夕飯の支度をしながら、カウンターからリビングを覗くと、真面目な顔をした夏向が見えた。
「休みなのに仕事?」
「出勤中の部下がいるから」
「部下!?」
夏向に部下っているんだ。
「驚くとこじゃないと思うけど」
「夏向の部下ってロボットかなんか?」
「人間だよ」
「そ、そう」
「下のフロアにチームでいる」
夏向と働くってコミュニケーションとってるってことよね。
きっと心が広くて優秀な人達にちがいない。
「会社が小さいうちは一人でも大丈夫だったけど、さすがに今は無理」
まあ、確かにね。
「どんな人達なの?」
「元ハッカー。仲良くなって、それでスカウトしたよ」
聞くんじゃなかった。
夏向と対等に話せる人って限られることを考えたら、そうなるわよね。
「真っ当に生きてよ」
「十分、真っ当だよ」
嘘つくんじゃないわよ。
はあ、とため息をつきながら、米をとぎ、水を捨てていると、夏向が思い出したかのように言った。
「桜帆の開発中の炊飯器のプログラムできたよ」
「ちょっとっっ!私の炊飯器になにするつもりよ!?」
「ええええ!!」
「私の炊飯器におかしなものを搭載する気はないわよ?」
夏向はそんなーと情けない声をあげた。
「おかしくないって」
「本当に?」
「桜帆がやりたいのは米の品種に合わせて炊くやつだよね?」
「そうよ。それもベストな状態でね」
「そんな疑わなくても」
いまいち、信用できないのよね。
疑惑のまなざしをむけていると、夏向はしょんぼりした。
「仕事だけはできるほうなのに」
って、自分のことをわかってるじゃないの。
拗ねて床の上で伸びている夏向の頭をなでて言った。
「夏向、ありがと」
ぱっと嬉しそうに顔をあげて私を見ると、手を伸ばした。
「なに?」
「桜帆。明日、カモメの家に行こう」
「そうね、夏向」
「それで俺がデキる男だって、先生達に言って」
「え?うん。わかったわよ」
もしかして、そのために?
ま、まさかね。
夏向の考えることは斜め上だからね。
ご機嫌な夏向を見ていると、その可能性を心から捨てきれずにいたーーー
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