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32 ケルベロス【姫凪 視点】
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「会社を辞めた!?」
「姫凪、どういうこと?」
時任グループを辞めたと言ったら、親は焦り、案の定、両親は私を問い詰めてきた。
そんな慌てることはないのに。
私の隣には諏訪部さんがいた。
「二人とも落ち着いてきいて?急だけど、私と諏訪部さん、結婚することになったの。ね?」
「姫凪さんとお付き合いをさせていただいております、諏訪部と申します」
諏訪部さんはにっこり微笑み、両親に名刺を渡した。
「まあ!」
「ほう、これはすごい」
名刺を見るなり、両親の態度が好意的なものに変化する。
自分の親ながらゲンキンすぎて呆れてしまう。
でも、いいわ。
これで、親の虚栄心も満たされてご近所に自慢もできるし、満足でしょ。
「諏訪部さんは時任と同じお仕事をされていて、妻の私が時任にいるわけにはいかないの」
両親は納得してくれたらしく、冷静さを取り戻してくれた。
「それもそうだな」
諏訪部さんの洗練された服装や話し方、振る舞いに両親は大満足だった。
「姫凪にいい結婚相手が見つかってよかった」
「諏訪部さん、日を改めてまた家に夕食でも食べにいらしてね」
「もちろんです」
諏訪部さんは爽やかに微笑んだ。
「これから、社に戻り、仕事なので失礼します」
「私も行くわ」
諏訪部さんの腕に手をからめた。
家の外には諏訪部さんが運転してきた赤のフェラーリがとまっていた。
車に乗り、諏訪部さんはUSBを受けとると満足そうに笑った。
「さすが姫凪だな」
「すっごく大変だったんだから」
「わかってる。もう危険な真似はさせない」
「本当?」
「もちろん」
諏訪部さんは私に微笑むと胸ポケットにUSBを滑り込ませた。
「これで時任は終わりだな」
車を走らせ、諏訪部さんの会社に着いた。
小さいけど、お洒落なデザインのビルはとっても素敵だった。
外壁は黒と白のモノトーンで交互になっていて、大きな窓ガラスからは社内が見え、テラスが階ごとにあり、外で休憩ができるようになっている。
諏訪部さん自慢のビルはこのあたりでも群を抜いて素敵な建築物だった。
有名な建築家にお願いしたとか。
これから、ここが私の職場になると思うと、すっごく楽しみだった。
私の服装や雰囲気にもバッチリ合ってると思うのよね。
諏訪部さんと腕を組み、社内に入ったその瞬間―――
「社長っ!!!」
何が起きたのか、ただならぬ様子で社員達が駆けつけてきた。
「たっ…大変です!」
「どうした?」
「顧客情報が流出しました」
「馬鹿な」
すぐにフロアに駆け込んだけれど、全員がどうしていいかわからず、パニック状態になっていた。
いつもは余裕たっぷりの佐藤君が青ざめた顔で懸命に作業しているのが見えた。
うまくいかないのか、手で顔を覆い、頭をかきむしった。
「だめです!こちらからのアクセスを受け付けません」
まるでネズミを追い詰めるようにじわじわと侵食されているのがわかった。
それも早いスピードで。
全員で対処していても追いついていない。
「……サーバが乗っ取られた……」
「いったいどこからの攻撃だ」
騒然とし、諏訪部さんは顔色を変えた。
「時任のケルベロスだ!自分のところの顧客情報が入っているファイルを今になってコピーされたことに気付いたんだろう」
「それだけじゃありません」
佐藤君が震える声で言った。
「俺達が時任にやろうとしたことをそのまま、返されているんです……!」
ギラギラとした目で諏訪部さんは画面を睨みつけた。
「ファイルが欲しいか。いいだろう。プレゼントしてやるよ。時任の顧客情報も一緒に流出させてやる」
そう言って諏訪部さんがUSBを差し込んだ瞬間、画面が順番にブラックアウトした。
「社長!そのUSB……ウィルスじゃ……!」
「まさか!時任から持ち出したデータだぞ!」
諏訪部さんが私を見る。
「ちゃんと私は言われた通りにしたわ!」
「コピーする瞬間にケルベロスが気づいて偽のファイルに差し替えたのかもしれません」
「こ、これ、自作のウィルスですよ。こんなの対応できない!」
佐藤君が涙声でいった。
まるで、ホラー映画のように順番にビルの電気が消えていく。
怖くて逃げようとした私を逃がさないとばかりにドアの電子キーがカチと音をたてて、ロックされた。
「ひっ……」
最後には私達がいるフロアの電気が消え、真っ暗になった。
「ビルが乗っ取られた……」
まるで捕獲されたネズミ。
汗が背中をつたった。
諏訪部さんや他の社員達は口をきくことができず、ただ真っ暗な闇の中にたちつくし、どうしていいかわからなかった。
その時、電話が鳴り響き、全員が怯えたように電話を見た。
諏訪部さんが震える手で電話をとり、耳に受話器をあてると変な顔をした。
「佐藤、ケルベロスがお前をだせって言うんだが」
「な、なんで僕なんですかっ!?」
「さあ……」
佐藤君が怯えながら、電話を受け取ると、耳にあてた。
『やあ』
「あ、あの、なんでしょうか」
『人の物に手を出したらどうなるかわかったよね?』
「は…、はい」
顧客情報をコピーしたことを言っているのだろう。
でも、なぜ、佐藤君に?
全員がわからずに佐藤君を見ていた。
『桜帆はもう人妻だからね――――』
パチンッと頭を叩かれる音がした。
『何、バカなことを言ってんのっ!!』
桜帆さんの怒鳴り声と同時にガチャンッと電話が切れた。
「……え?」
「えっ!?」
佐藤君が首をかしげて、諏訪部さんも変な声を出した。
多分、この中で私だけが理解していた。
副社長は時任を守るというのを口実にして、一番の理由は佐藤君が桜帆さんに声をかけた。
ただそれだけのことで、こんな真似をしたのだ。
そう思うと、背筋が寒くなった。
狂ってる。
副社長に愛されるなんて、とんでもない。
あの人は怖すぎる―――せめて電気くらいはつけてくれればいいのに会社のフロアはずっと暗いままだった。
「姫凪、どういうこと?」
時任グループを辞めたと言ったら、親は焦り、案の定、両親は私を問い詰めてきた。
そんな慌てることはないのに。
私の隣には諏訪部さんがいた。
「二人とも落ち着いてきいて?急だけど、私と諏訪部さん、結婚することになったの。ね?」
「姫凪さんとお付き合いをさせていただいております、諏訪部と申します」
諏訪部さんはにっこり微笑み、両親に名刺を渡した。
「まあ!」
「ほう、これはすごい」
名刺を見るなり、両親の態度が好意的なものに変化する。
自分の親ながらゲンキンすぎて呆れてしまう。
でも、いいわ。
これで、親の虚栄心も満たされてご近所に自慢もできるし、満足でしょ。
「諏訪部さんは時任と同じお仕事をされていて、妻の私が時任にいるわけにはいかないの」
両親は納得してくれたらしく、冷静さを取り戻してくれた。
「それもそうだな」
諏訪部さんの洗練された服装や話し方、振る舞いに両親は大満足だった。
「姫凪にいい結婚相手が見つかってよかった」
「諏訪部さん、日を改めてまた家に夕食でも食べにいらしてね」
「もちろんです」
諏訪部さんは爽やかに微笑んだ。
「これから、社に戻り、仕事なので失礼します」
「私も行くわ」
諏訪部さんの腕に手をからめた。
家の外には諏訪部さんが運転してきた赤のフェラーリがとまっていた。
車に乗り、諏訪部さんはUSBを受けとると満足そうに笑った。
「さすが姫凪だな」
「すっごく大変だったんだから」
「わかってる。もう危険な真似はさせない」
「本当?」
「もちろん」
諏訪部さんは私に微笑むと胸ポケットにUSBを滑り込ませた。
「これで時任は終わりだな」
車を走らせ、諏訪部さんの会社に着いた。
小さいけど、お洒落なデザインのビルはとっても素敵だった。
外壁は黒と白のモノトーンで交互になっていて、大きな窓ガラスからは社内が見え、テラスが階ごとにあり、外で休憩ができるようになっている。
諏訪部さん自慢のビルはこのあたりでも群を抜いて素敵な建築物だった。
有名な建築家にお願いしたとか。
これから、ここが私の職場になると思うと、すっごく楽しみだった。
私の服装や雰囲気にもバッチリ合ってると思うのよね。
諏訪部さんと腕を組み、社内に入ったその瞬間―――
「社長っ!!!」
何が起きたのか、ただならぬ様子で社員達が駆けつけてきた。
「たっ…大変です!」
「どうした?」
「顧客情報が流出しました」
「馬鹿な」
すぐにフロアに駆け込んだけれど、全員がどうしていいかわからず、パニック状態になっていた。
いつもは余裕たっぷりの佐藤君が青ざめた顔で懸命に作業しているのが見えた。
うまくいかないのか、手で顔を覆い、頭をかきむしった。
「だめです!こちらからのアクセスを受け付けません」
まるでネズミを追い詰めるようにじわじわと侵食されているのがわかった。
それも早いスピードで。
全員で対処していても追いついていない。
「……サーバが乗っ取られた……」
「いったいどこからの攻撃だ」
騒然とし、諏訪部さんは顔色を変えた。
「時任のケルベロスだ!自分のところの顧客情報が入っているファイルを今になってコピーされたことに気付いたんだろう」
「それだけじゃありません」
佐藤君が震える声で言った。
「俺達が時任にやろうとしたことをそのまま、返されているんです……!」
ギラギラとした目で諏訪部さんは画面を睨みつけた。
「ファイルが欲しいか。いいだろう。プレゼントしてやるよ。時任の顧客情報も一緒に流出させてやる」
そう言って諏訪部さんがUSBを差し込んだ瞬間、画面が順番にブラックアウトした。
「社長!そのUSB……ウィルスじゃ……!」
「まさか!時任から持ち出したデータだぞ!」
諏訪部さんが私を見る。
「ちゃんと私は言われた通りにしたわ!」
「コピーする瞬間にケルベロスが気づいて偽のファイルに差し替えたのかもしれません」
「こ、これ、自作のウィルスですよ。こんなの対応できない!」
佐藤君が涙声でいった。
まるで、ホラー映画のように順番にビルの電気が消えていく。
怖くて逃げようとした私を逃がさないとばかりにドアの電子キーがカチと音をたてて、ロックされた。
「ひっ……」
最後には私達がいるフロアの電気が消え、真っ暗になった。
「ビルが乗っ取られた……」
まるで捕獲されたネズミ。
汗が背中をつたった。
諏訪部さんや他の社員達は口をきくことができず、ただ真っ暗な闇の中にたちつくし、どうしていいかわからなかった。
その時、電話が鳴り響き、全員が怯えたように電話を見た。
諏訪部さんが震える手で電話をとり、耳に受話器をあてると変な顔をした。
「佐藤、ケルベロスがお前をだせって言うんだが」
「な、なんで僕なんですかっ!?」
「さあ……」
佐藤君が怯えながら、電話を受け取ると、耳にあてた。
『やあ』
「あ、あの、なんでしょうか」
『人の物に手を出したらどうなるかわかったよね?』
「は…、はい」
顧客情報をコピーしたことを言っているのだろう。
でも、なぜ、佐藤君に?
全員がわからずに佐藤君を見ていた。
『桜帆はもう人妻だからね――――』
パチンッと頭を叩かれる音がした。
『何、バカなことを言ってんのっ!!』
桜帆さんの怒鳴り声と同時にガチャンッと電話が切れた。
「……え?」
「えっ!?」
佐藤君が首をかしげて、諏訪部さんも変な声を出した。
多分、この中で私だけが理解していた。
副社長は時任を守るというのを口実にして、一番の理由は佐藤君が桜帆さんに声をかけた。
ただそれだけのことで、こんな真似をしたのだ。
そう思うと、背筋が寒くなった。
狂ってる。
副社長に愛されるなんて、とんでもない。
あの人は怖すぎる―――せめて電気くらいはつけてくれればいいのに会社のフロアはずっと暗いままだった。
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