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28 ささやかなお祝い

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夏向かなたの叔父さん達に会った後、スーパーに寄ってマンションに帰り、夕飯の支度にとりかかった。
今日、私が叔父さん達に会ったことは言わないでおこうと決めた。
私と夏向が結婚したことを須山すやまさんがどこから知ったのかわからなかったけれど、話す機会を作ってくれてよかった。
ちゃんと私の考えを伝えることができたし、これで嫌がらせをしてくるようなら、時任ときとうの法務担当である倉本くらもとさんにいい弁護士を紹介してもらうことも考えよう。
私と夏向は家族になったんだから助け合わないとね―――って前とあんまり生活は変わってないけど。
どちらかと言うと、夏向の方が新婚生活を楽しみたいのか、旅行は好きじゃないのに新婚旅行用のパンフレットがリビングに置いてあったし、結婚式まで考えているのか、雑誌がさりげなく(?)ローテーブルに広げてあった。
「家族になってくれただけで、私は十分なんだけどな」
来週にはカモメの家の先生の所に挨拶に行こうと夏向と話していた。
きっと驚くに違いない―――そんなことを考えていたら、お湯がぐらぐらと沸いていた。
今日は夏向の好きなマカロニグラタンとビーフシチュー、シーザーサラダ。
夏向は気づかないだろうけど、ちょっといつもよりは特別なかんじにした。
ほんの少しだけ。
改めてお祝いって、私と夏向の間柄じゃなんだか照れくさい気がするのよね。
「ただいま」
玄関から夏向の声が聞こえてきた。
「えっ!?早いわね。おかえりなさい」
「結婚したって言ったら、皆が早く帰れって。これ」
夏向は手にケーキの箱を持っていて、私に渡した。
「珍しいわね!?」
朗久あきひさがお祝いにくれた」
「へぇー!さすが社長ね。気が利くわね」
箱を開けると初夏らしくメロンがメインでイチゴとオレンジ、ブルーベリーが飾ってあるフルーツたっぷりのケーキが入っていた。
「美味しそう!」
ご飯の後に食べようと、冷蔵庫にしまって、お湯の中にマカロニを投入した。
ビーフシチューは自動調理鍋で予約しておいたから、もう出来上がっているし、ホワイトソースは冷凍したのがあるし、あとはサラダの野菜だけね。
野菜を洗っていると、目の前にウロウロと夏向が歩いていた。
「どうかした?」
「俺に言いたいことない!?」
「帰ったら、手洗いとうがいをして」
「ちがう!」
なによ?夏向はほらっとスーツ姿を見せた。
やっと私はテレビの記者会見を思い出した。
「テレビ見たわよ。記者会見!ミツバ電機を巻き込んで!」
「それも正解じゃない」
「なんなのよ」
私の中ではかなり大正解だったわよ?
「スーツどう?」
「高そうなスーツね」
「けっこう好評だったのに」
ハッと気づいた。
「え、えーと、夏向!かっこいい!よく似合ってる!」
褒めたのに夏向はがっかりしていた。
「驚くと思ったのに」
「テレビで見てるでしょ?」
「あ、そうか」
「夏向もだけど、時任ときとうの皆が知らない人にみえたわよ」
「そうかな」
夏向はカウンター越しに顔を近づけて髪をなでた。
ま、まさか。
「待った!ご飯作ってるんだから!」
そう言ったのに夏向は躊躇ちゅうちょせず、唇を重ねた。
「俺だけ見ててよ」
「う、うん」
もしかしてだけど、夏向はかなり独占欲が強い!?
キスした後は機嫌がよく、スーツを着替えに行った。
夏向には言えなかったけど、スーツ姿は危険かもしれない。
まるで別人でドキドキした。
でも、私はいつもの夏向がいい。
そうじゃないと、心臓がもたないから―――


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「マカロニ、やわらかい」
「夏向のせいだから、黙って食べて」
「そうだね」
夏向はグラタンを幸せそうに頬張って頷いた。
「桜帆、今日はごちそうだね」
「いつもと同じよ」
「そうかな」
いつもは鈍感なくせに変なところで野生動物並みの勘が働くんだから!!
「そうだ。これから、桜帆と一緒に仕事だね」
「なにが『そうだ』よ。確信犯でしょ!」
「うん」
「少しは否定しなさいよ!」
「よろしくね、プロジェクトリーダーさん」
夏向がウキウキと言ったけど、ミツバ電機のような小さい会社にとって時任グループと仕事をするということはビックプロジェクトもいいところだった。
誰も時任グループとの連絡係なんかやりたがらないし、すでに腰がひけているかんじだし、社長からして私に押し付けてくるし。
私には新しいモデルの炊飯器を開発するという仕事もあるため忙しい。
それにも夏向が関わると言ってるけど、私の可愛い炊飯器ちゃんに何するつもりなのよ。
「それにしても人工知能ってすごいわね」
朗久あきひさが思い付いた。俺が倒れてるの見て」
「なるほどね。生活能力のない夏向でも生きていける住まいの提供ね。確かに安心だわ」
「俺も考えたよ。お米を全自動でできるように。そしたら、研ぎ方が悪いって桜帆から叱られないから」
「そこ!?」
まだ気づくとこあるわよ!
「でも、俺はあんまり必要ない」
「そう?」
「桜帆がいて、一人じゃなくなったから」
「そっ、そうね」
顔が赤くなるのがわかった。
「真辺とかに『独身だから必要だね』って言ったら怒られた」
あれだけ面倒かけておいて、よくもまあそんなこと言えたわね。
私でさえ、呆れるわ。
「夏向には言われたくないと思うわよ。もうそれ、皆に言っちゃだめだからね」
「えー」
不満そうに夏向は言ったけど、当たり前だと思った。
むしろ、夏向は周りの寛大さに感謝しなさいよ。
ありがとう、と時任の人達に心の中でお礼を言ったのだった。
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