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4 もしかして恋人?【姫凪 視点】
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「副社長に女の人!?」
秘書室は騒然となった。
今年の春にできたばかりの秘書室はやっと仕事になれてきたところで、役員の皆さんのプライベートまでは把握していない。
それは私、須山姫凪も同じだった。
「社長がご結婚されたと思ったら、次は副社長かしらね」
「時任グループで働いているっていうだけでも優良物件なのに若くてカッコイイ重役なら、女の人も放って置かないわよね」
私が就活で時任グループを受けたのはいわゆる記念受験みたいなものだった。
成績も普通だし、運動神経もよくないし―――普通だった。
けれど、そんな私が運よく合格し、一流企業の時任グループに入社できたのは奇跡に近かった。
親は大喜びで近所中に私が時任グループに入社したことを自慢し、友人達からは羨ましいと何度も言われた。
社して受付に配属されたけれど、今年の春、今までなかった秘書室ができ、その秘書室に何人か異動になることが決まった。
もう25歳だから、受付は新卒の可愛い子にしたかったんだと思うけど、むしろラッキーだった。
重役フロアに入れるのは時任グループ全女性社員の憧れだったから、秘書室配属が決まった時は大喜びだった。
「姫凪、よかったね!」
「うんっ」
仲のいい同じ受付の麻友子と手をとりあって喜んだ。
麻友子も一緒に秘書室に配属になった。
「でも、これで姫凪は副社長の倉永さんに顔と名前を覚えてもらえるんじゃない?」
「そっ、そうなの!名前も覚えてもらえてなくてっ。入社したばかりの時にIDカードを落として、拾ってくれた時に少しお話したのに私の事、忘れていて……」
「すれ違った時に偶然、カードを落とすなんて運命よね。姫凪は可愛いから、名前は覚えてなくても顔は覚えているんじゃない?」
「本当!?それなら嬉しいけど」
秘書室に配属になったのは副社長が私を選んでくれたからだと思っていたのに違っていた。
せっかく気合いを入れて毎日、可愛くしていても見てもらえてなかったなんて、すごくショックだった。
「親しくなったら、重役の皆さんと飲み会したいわね」
麻友子は積極的なんだから。
そんな簡単にできるわけない。
「私は見てるだけでいいの。十分幸せだわ」
ほう、と胸の前に手を組んで溜め息をついた。
「学生の片思いじゃあるまいし。姫凪、がんばろーねっ」
そう二人で言って、秘書室での仕事が始まったけれど、現実は甘くなかった。
仕事を任されると、会話はそれだけで淡々としていた。
そして、副社長は秘書室どころか、秘書の誰にも近づかない。
いつもフロアの奥の席にいて、挨拶すらできなかった。
そんな日々が過ぎていった。
そして、今日―――副社長の恋人と思われる人がやってきて、親しげに重役の方達と会話をしていた。
しかも、なれている様子で残業だと予想し、差し入れまで買ってくる気配り上手な人だった。
副社長がその人に呼ばれると、顔を出して女の人の名前を呼んだ。
いつもは絶対に自分のテリトリーから出ないのに。
「桜帆」
女の人は桜帆さんという名前らしい。
ただ名前を呼んだそれだけのことなのに胸が痛んだ。
そして極めつけは―――
「今日は何時に帰るの?ごはん、いる?」
「もう帰る」
二人は一緒に暮らしているようで、目の前が暗くなった。
失恋の二文字が脳裏を過った。
私は自分の想いを告げる前に失恋してしまったみたい。
ふらふらとしながら、仲の良さそうな二人を眺めていた。
しかも、副社長に仕事をするように言って、頭を叩いた。
それを見て、驚いた私は悲鳴をあげてしまった。
副社長は時任グループの頭脳と言っていいような凄い人なのに!
そんな人の頭を叩くなんて!
今、目にしたものが信じられなかった。
重役の皆さんはまったく気にしてないばかりか、二人のやり取りを『漫才』と言って笑っているし、副社長は桜帆さんがきたせいか、やる気になったらしく、すごいスピードで仕事を始め、普段では見れないキリッとした表情から目を逸らすことができなかった。
その姿はすごくかっこよくて、ドキドキしていると、私のそんな小さい憧れなんて気にもとめずに桜帆さんは副社長をまるで親鳥が雛を見守るような目で見詰めていた。
それがなんとなく嫌だった。
その場から、引き離したくて桜帆さんを来客用の席まで案内した。
「こちらでお待ちください。お茶をお持ちしますね」
そんな私の気持ちも知らず、桜帆さんはお茶を出されると、にっこり微笑んだ。
「ありがとう」
泣き出しそうな私に比べて、桜帆さんは余裕たっぷりだった。
副社長はこの女の人のどこが、気にいったんだろうか。
つい、じろじろと見てしまった。
桜帆さんのメイクはファンデくらいで、長い髪はすっきりと纏めてアップにし、時任の女性社員なら、まず着ないような地味なパンツスーツ姿だった。
年齢はきっと私と同じくらいのはずなのにおしゃれとかには興味がないのかな。
「あの、なにか?」
「あっ!い、いえ。なにも」
じっと見すぎて、おかしく思われてしまった。
恥ずかしい。
しかも、慌てすぎてお盆まで落として。
もう散々だった。
涙目で秘書室に戻り、そっと涙をぬぐった。
見ているだけでいいって言ったけど、あれは嘘。
あの人の目に映りたい―――
秘書室は騒然となった。
今年の春にできたばかりの秘書室はやっと仕事になれてきたところで、役員の皆さんのプライベートまでは把握していない。
それは私、須山姫凪も同じだった。
「社長がご結婚されたと思ったら、次は副社長かしらね」
「時任グループで働いているっていうだけでも優良物件なのに若くてカッコイイ重役なら、女の人も放って置かないわよね」
私が就活で時任グループを受けたのはいわゆる記念受験みたいなものだった。
成績も普通だし、運動神経もよくないし―――普通だった。
けれど、そんな私が運よく合格し、一流企業の時任グループに入社できたのは奇跡に近かった。
親は大喜びで近所中に私が時任グループに入社したことを自慢し、友人達からは羨ましいと何度も言われた。
社して受付に配属されたけれど、今年の春、今までなかった秘書室ができ、その秘書室に何人か異動になることが決まった。
もう25歳だから、受付は新卒の可愛い子にしたかったんだと思うけど、むしろラッキーだった。
重役フロアに入れるのは時任グループ全女性社員の憧れだったから、秘書室配属が決まった時は大喜びだった。
「姫凪、よかったね!」
「うんっ」
仲のいい同じ受付の麻友子と手をとりあって喜んだ。
麻友子も一緒に秘書室に配属になった。
「でも、これで姫凪は副社長の倉永さんに顔と名前を覚えてもらえるんじゃない?」
「そっ、そうなの!名前も覚えてもらえてなくてっ。入社したばかりの時にIDカードを落として、拾ってくれた時に少しお話したのに私の事、忘れていて……」
「すれ違った時に偶然、カードを落とすなんて運命よね。姫凪は可愛いから、名前は覚えてなくても顔は覚えているんじゃない?」
「本当!?それなら嬉しいけど」
秘書室に配属になったのは副社長が私を選んでくれたからだと思っていたのに違っていた。
せっかく気合いを入れて毎日、可愛くしていても見てもらえてなかったなんて、すごくショックだった。
「親しくなったら、重役の皆さんと飲み会したいわね」
麻友子は積極的なんだから。
そんな簡単にできるわけない。
「私は見てるだけでいいの。十分幸せだわ」
ほう、と胸の前に手を組んで溜め息をついた。
「学生の片思いじゃあるまいし。姫凪、がんばろーねっ」
そう二人で言って、秘書室での仕事が始まったけれど、現実は甘くなかった。
仕事を任されると、会話はそれだけで淡々としていた。
そして、副社長は秘書室どころか、秘書の誰にも近づかない。
いつもフロアの奥の席にいて、挨拶すらできなかった。
そんな日々が過ぎていった。
そして、今日―――副社長の恋人と思われる人がやってきて、親しげに重役の方達と会話をしていた。
しかも、なれている様子で残業だと予想し、差し入れまで買ってくる気配り上手な人だった。
副社長がその人に呼ばれると、顔を出して女の人の名前を呼んだ。
いつもは絶対に自分のテリトリーから出ないのに。
「桜帆」
女の人は桜帆さんという名前らしい。
ただ名前を呼んだそれだけのことなのに胸が痛んだ。
そして極めつけは―――
「今日は何時に帰るの?ごはん、いる?」
「もう帰る」
二人は一緒に暮らしているようで、目の前が暗くなった。
失恋の二文字が脳裏を過った。
私は自分の想いを告げる前に失恋してしまったみたい。
ふらふらとしながら、仲の良さそうな二人を眺めていた。
しかも、副社長に仕事をするように言って、頭を叩いた。
それを見て、驚いた私は悲鳴をあげてしまった。
副社長は時任グループの頭脳と言っていいような凄い人なのに!
そんな人の頭を叩くなんて!
今、目にしたものが信じられなかった。
重役の皆さんはまったく気にしてないばかりか、二人のやり取りを『漫才』と言って笑っているし、副社長は桜帆さんがきたせいか、やる気になったらしく、すごいスピードで仕事を始め、普段では見れないキリッとした表情から目を逸らすことができなかった。
その姿はすごくかっこよくて、ドキドキしていると、私のそんな小さい憧れなんて気にもとめずに桜帆さんは副社長をまるで親鳥が雛を見守るような目で見詰めていた。
それがなんとなく嫌だった。
その場から、引き離したくて桜帆さんを来客用の席まで案内した。
「こちらでお待ちください。お茶をお持ちしますね」
そんな私の気持ちも知らず、桜帆さんはお茶を出されると、にっこり微笑んだ。
「ありがとう」
泣き出しそうな私に比べて、桜帆さんは余裕たっぷりだった。
副社長はこの女の人のどこが、気にいったんだろうか。
つい、じろじろと見てしまった。
桜帆さんのメイクはファンデくらいで、長い髪はすっきりと纏めてアップにし、時任の女性社員なら、まず着ないような地味なパンツスーツ姿だった。
年齢はきっと私と同じくらいのはずなのにおしゃれとかには興味がないのかな。
「あの、なにか?」
「あっ!い、いえ。なにも」
じっと見すぎて、おかしく思われてしまった。
恥ずかしい。
しかも、慌てすぎてお盆まで落として。
もう散々だった。
涙目で秘書室に戻り、そっと涙をぬぐった。
見ているだけでいいって言ったけど、あれは嘘。
あの人の目に映りたい―――
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