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大学を無事に卒業した私は電機会社に入社して家庭電化製品を作るという念願が叶い、大手ではないけれど、ミツバ電機という家庭用の電化製品を中心に製造販売をする小さな電機会社に入社することができた。
私がいるのは企画開発室。
聞こえはいいけど、実際は小屋のような建物に事務用の机と椅子を並べてあるだけの事務所だった。
その小屋の隣が工場だ。
機械音と塗装の薬品の臭いがする工場は試作品を作る時に入るくらいで、私の仕事は炊飯器の開発で色んな品種の米の炊き上がりのデータをとるという地味な作業をしている。
事務所の片隅に炊飯器と米を置き、ひたすら米を炊く。
私の隣ではトースターでパンの焼き上がりを見ている人がいる。
しっとりモードとカリッとモードの切り替えができるタイプのトースターを研究しているらしい。
「うーん」
パンを食べてうなっていた。
わかる。わかるわよ。
自分の思っていたのと違うかんじで出来上がった時の苦しみが。
うんうん、とうなずきながら、炊き上がり結果を記入していると外からドタドタと人が入ってきた。
「いやあ、うちはそんな余裕ないですよ」
社長が忙しそうに工場から、事務所に入ってくると、自分のパソコンでメールチェックをしながら、話を続けた。
「もうね、ギリギリ!ギリギリでやってますからね。ネットセキュリティなんて、よくわからんものに金をつかえないですよ」
「ミツバ電機さんの大切なデータを守るためなんです。我が社と契約していただくだけで、セキュリティの更新もさせていただきますから!」
夏向とは違う会社だけど、ネットセキュリティを扱う会社の営業の人がきていた。
たしか、名前は佐藤君。
初めてミツバ電機へ営業にきた時の自己紹介で『辛党だけど、名前はサトウです』と、言っていたから、印象に残っている。
「可愛いわよね。佐藤君。若いし、爽やかだし、トークもうまいし、アイドルみたいよね」
トースターで唸っていた先輩の住吉さんがウキウキした声で言ってきた。
「確かに可愛いですよね」
まだ若いのにスーツも似合うし、笑顔もいいし。
モテそう。
佐藤くんはこっちに気づき、無邪気な顔で手を振った。
「住吉さん、島田さん!」
「今日も社長に苦戦しているわね」
「住吉さん、わかりますか?でも、絶対に必要だと思うから、僕、頑張ります!」
偉いなあ。
その情熱が眩しいわ。
私と住吉さんは目を細めて微笑みを浮かべていた。
「あのっ!お二人ともよかったら、今日、飲みに行きませんか?僕の会社の先輩達が会わせろってうるさくて」
住吉さんが驚き、聞き返した。
「えー?どうして?」
そう言いたくなる気持ちはわかる。
会ったことないのに?なぜ興味を持たれたのだろう。
「僕が電機会社で働くかっこいい女性がいるんですって言ったら、興味持って」
恥ずかしそうに佐藤君が言った。
なんて可愛らしい。
「これ、僕の名刺ですっ!よかったら、携帯番号の登録してくださいっ!」
「登録するー!」
住吉さんは携帯にすばやく携帯番号を登録した。
はやっ!
「ほら、島田さんも登録しなさいよ」
「う、うん」
仕事のグループに佐藤君の名前を登録した。
『諏訪部ネットセキュリティサービス』と名刺に書いてある。
「島田さん。今日、もちろん行くわよね?」
たぶん、夏向は残業だろうし、夕飯は作り置きが何品かあるから、早めに帰れば、なんとかなりそうだった。
九時までならと言おうとすると―――
「島田さん、従兄から電話だよ」
タイミングよく夏向から電話がきた。
本当は従兄じゃないけど、会社では夏向のことをルームシェアしている従兄ということにしてある。
夏向の会社にも私は従妹ということになっている。
じゃないと、なんと説明すればいいかわからない。
「はいはい。もしもし?えっ!USB?部屋にある?わかったわ。仕事が終わったら、届けてほしいの?しかたないわね」
電話を切った。
「ごめんなさい。今日の飲み会はいけなくなりました」
「大丈夫です。また今度の機会に誘いますから、気にしないでください」
住吉さんは残念そうにしていたけれど、佐藤君が気を悪くした様子はなかった。
「それじゃあ、またっ!」
爽やかな笑顔で去って行った。
「従兄にまだスマホの番号を教えてないの?」
「教えたくないです」
「不便でしょ!?」
「いいえ!」
スマホを持っていることも秘密にしてある。
じゃないと、あの危険な存在はなにをしでかすかっ!
夏向はああみえて天才とよばれ、ハッカーとしての腕は相当らしく、私のスマホに登録してあった連絡先を全消去するという事件を起こした。
以来、スマホは持ってないと言って番号も教えてない。
「まあ、いいけど。佐藤君、私達のこと、かっこいい女性だってー!見る目があるわよね」
「かっこいいかな。こんな灰色の作業服を着てるのに?」
おじさんが着るような作業服で、背中にはミツバ電機と赤い文字でデカデカとプリントされて、会社のマークである三つ葉のクローバーの刺繍が入っている。
これがかっこいい?
「変わった趣味ね」
悪い気はしないけど。
「さっ!仕事しよー!」
夏向に忘れ物を届けてあげないと、いけないから残業はできない。
お喋りしている暇はない。
急がないとね!
本当に手がかかるんだから。
これじゃあ、彼氏もなかなかできないわよ。
まったく、もう!
私がいるのは企画開発室。
聞こえはいいけど、実際は小屋のような建物に事務用の机と椅子を並べてあるだけの事務所だった。
その小屋の隣が工場だ。
機械音と塗装の薬品の臭いがする工場は試作品を作る時に入るくらいで、私の仕事は炊飯器の開発で色んな品種の米の炊き上がりのデータをとるという地味な作業をしている。
事務所の片隅に炊飯器と米を置き、ひたすら米を炊く。
私の隣ではトースターでパンの焼き上がりを見ている人がいる。
しっとりモードとカリッとモードの切り替えができるタイプのトースターを研究しているらしい。
「うーん」
パンを食べてうなっていた。
わかる。わかるわよ。
自分の思っていたのと違うかんじで出来上がった時の苦しみが。
うんうん、とうなずきながら、炊き上がり結果を記入していると外からドタドタと人が入ってきた。
「いやあ、うちはそんな余裕ないですよ」
社長が忙しそうに工場から、事務所に入ってくると、自分のパソコンでメールチェックをしながら、話を続けた。
「もうね、ギリギリ!ギリギリでやってますからね。ネットセキュリティなんて、よくわからんものに金をつかえないですよ」
「ミツバ電機さんの大切なデータを守るためなんです。我が社と契約していただくだけで、セキュリティの更新もさせていただきますから!」
夏向とは違う会社だけど、ネットセキュリティを扱う会社の営業の人がきていた。
たしか、名前は佐藤君。
初めてミツバ電機へ営業にきた時の自己紹介で『辛党だけど、名前はサトウです』と、言っていたから、印象に残っている。
「可愛いわよね。佐藤君。若いし、爽やかだし、トークもうまいし、アイドルみたいよね」
トースターで唸っていた先輩の住吉さんがウキウキした声で言ってきた。
「確かに可愛いですよね」
まだ若いのにスーツも似合うし、笑顔もいいし。
モテそう。
佐藤くんはこっちに気づき、無邪気な顔で手を振った。
「住吉さん、島田さん!」
「今日も社長に苦戦しているわね」
「住吉さん、わかりますか?でも、絶対に必要だと思うから、僕、頑張ります!」
偉いなあ。
その情熱が眩しいわ。
私と住吉さんは目を細めて微笑みを浮かべていた。
「あのっ!お二人ともよかったら、今日、飲みに行きませんか?僕の会社の先輩達が会わせろってうるさくて」
住吉さんが驚き、聞き返した。
「えー?どうして?」
そう言いたくなる気持ちはわかる。
会ったことないのに?なぜ興味を持たれたのだろう。
「僕が電機会社で働くかっこいい女性がいるんですって言ったら、興味持って」
恥ずかしそうに佐藤君が言った。
なんて可愛らしい。
「これ、僕の名刺ですっ!よかったら、携帯番号の登録してくださいっ!」
「登録するー!」
住吉さんは携帯にすばやく携帯番号を登録した。
はやっ!
「ほら、島田さんも登録しなさいよ」
「う、うん」
仕事のグループに佐藤君の名前を登録した。
『諏訪部ネットセキュリティサービス』と名刺に書いてある。
「島田さん。今日、もちろん行くわよね?」
たぶん、夏向は残業だろうし、夕飯は作り置きが何品かあるから、早めに帰れば、なんとかなりそうだった。
九時までならと言おうとすると―――
「島田さん、従兄から電話だよ」
タイミングよく夏向から電話がきた。
本当は従兄じゃないけど、会社では夏向のことをルームシェアしている従兄ということにしてある。
夏向の会社にも私は従妹ということになっている。
じゃないと、なんと説明すればいいかわからない。
「はいはい。もしもし?えっ!USB?部屋にある?わかったわ。仕事が終わったら、届けてほしいの?しかたないわね」
電話を切った。
「ごめんなさい。今日の飲み会はいけなくなりました」
「大丈夫です。また今度の機会に誘いますから、気にしないでください」
住吉さんは残念そうにしていたけれど、佐藤君が気を悪くした様子はなかった。
「それじゃあ、またっ!」
爽やかな笑顔で去って行った。
「従兄にまだスマホの番号を教えてないの?」
「教えたくないです」
「不便でしょ!?」
「いいえ!」
スマホを持っていることも秘密にしてある。
じゃないと、あの危険な存在はなにをしでかすかっ!
夏向はああみえて天才とよばれ、ハッカーとしての腕は相当らしく、私のスマホに登録してあった連絡先を全消去するという事件を起こした。
以来、スマホは持ってないと言って番号も教えてない。
「まあ、いいけど。佐藤君、私達のこと、かっこいい女性だってー!見る目があるわよね」
「かっこいいかな。こんな灰色の作業服を着てるのに?」
おじさんが着るような作業服で、背中にはミツバ電機と赤い文字でデカデカとプリントされて、会社のマークである三つ葉のクローバーの刺繍が入っている。
これがかっこいい?
「変わった趣味ね」
悪い気はしないけど。
「さっ!仕事しよー!」
夏向に忘れ物を届けてあげないと、いけないから残業はできない。
お喋りしている暇はない。
急がないとね!
本当に手がかかるんだから。
これじゃあ、彼氏もなかなかできないわよ。
まったく、もう!
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