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番外編【今園】
私達は魔女なのか?【前編】28話前
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「ねえ、今園知ってる?」
同期入社した受付の野々宮史乃―――同期と知る人物は少ない。
何故ならば。
「私達、魔女って呼ばれてるのよ」
私達!?
しばし、思考が停止してしまった。
しっかりしなくては。
今のは野々宮さんのちょっとしたジョークかもしれない。
私の悪い所は冗談が通じない所。
「そうですか」
「そうですかって、他に感想はないの?」
「ございません」
「はっー!!!つまんない女ね!せっかく飲みに誘ってあげたのに少しは『え!?嘘っ!!私、そんなこと言われちゃってるの?』とか、言ったらどう?」
「失礼ですが、野々宮さんはそんな反応をなさるのですか?年齢に見合っていないのでは?」
「ほんっとーに!!あんた、失礼よ?」
なぜか、胸倉をつかまれた。
野々宮さんは悪い人ではない。
けれど、少々感情的になる場面がたびたび見られる。
ただし、プライベートのみ。
受付での彼女はもっと落ち着いている。
二面性のある方なのだろう。
ワインやカクテルを好むとなぜ、年齢を伏せたか。
同期であり、我々の特性により、伏せさせて頂いた。
「まあ、いいわ。私達が魔女と呼ばれるのは年齢不詳にしてその部署において女王のごとくトップに君臨しているからよ!」
ダンッと生ビールのジョッキを野々宮さんは置いた。
「そんなつもりは一切ございません」
「あんたになくてもこっちにはあるの」
そうですか、と思いながら冷酒を頂いた。
越乃寒梅の大吟醸は最高ですね。
そう思いながら、おろし生姜がのせられた焼き厚揚げを美味しく頂いた。
「寿退社していく同期とイケメン旦那を捕まえた受付の後輩達……。私と彼女らの違いは何かって考えたわけ!」
「野々宮さんには結婚願望がおありでしたか」
「あるねっ!すごくある!だからこそ、努力してきたのよ。見てよっ!週一でエステ、ジム、プールに柔道!」
最後になにか違和感のあるものが混じっていた気がしたけれど、黙って頷いて話を聞いてあげた。
私には結婚願望はない。
母が亡くなり、引き取られた父ではいい思いは一切せず、あんな思いを自分の子にはさせたくはなかった。
だから、私は結婚しない。
そう決めていた―――
「おっちゃん!生中もう一杯っ!」
野々宮さんが空のジョッキを持ち上げて言うと居酒屋の店主は苦笑した。
「おいおい!飲み過ぎじゃないかい!?史乃さん。この辺にしておかないと」
「そうですね。野々宮さん、ここで引いた方が得策かと思われます」
「うるさーい!ほらっ!今園!あんたも飲みなさいよ!ううっ……受付の後輩がまた結婚した」
それで荒れていたらしい。
「野々宮さんには素敵な人が現れますよ」
「は?あんたもでしょ?」
「無縁の話です」
「尾鷹商事の秘書室に君臨する女王様がなに言ってんのか」
女王ならよかった。
そうすれば、こんなに苦しまずに悪い男を断罪できたのに。
安島常務の顔が浮かんだ。
尾鷹の家と私をいつまでも苦しめる安島の家をどうにかできたはずだ。
「お姉さん達元気だねー」
グッチのサングラスに大きめのスプリングコートにパーカー、黒のクロップドパンツ、スニーカーというラフな服装にも関わらず、すごくお洒落に見え、一目見ただけで一般人とは違うと察した。
「どなたですか」
「名乗るほどの者じゃないよ。ね、店長」
「あ、ああ。まぁ……」
一人で飲んでいたのか、目立たない一番奥の隅の席に座っていたようだ。
「俺も一緒に飲んでいい?」
「お断りします」
「ちょっと!今園いいじゃない!」
絶対にイケメンよ?と野々宮さんが耳打ちしてきた。
この人は―――こんな怪しい男と思って、どこかで見たことがあるような気がした。
私の頭の中にある人物データファイルを検索してみた。
「もしや」
口の前に指をたて、その人は『黙っていて』と頼んできた。
騒ぎになっては困るので私も名前を言わなかったけれど、私が勤める尾鷹商事の会長のお孫さんである壱哉さんの親友にして人気俳優の野月渚生さんだった。
「年下ですよねぇー」
「そうだよ」
「なんて名前っ?」
「渚に生きるで、渚生」
「素敵な名前ですー」
すっかり野々宮は酔っぱらっていた。
だから注意したというのに。
それにしても何を考えているのか―――
しっかり年下だと答えるところを見ると私が尾鷹の秘書ということも理解してのことだろう。
困ったことにすっかり野々宮さんは渚生さんにほだされてしまっていた。
同期入社した受付の野々宮史乃―――同期と知る人物は少ない。
何故ならば。
「私達、魔女って呼ばれてるのよ」
私達!?
しばし、思考が停止してしまった。
しっかりしなくては。
今のは野々宮さんのちょっとしたジョークかもしれない。
私の悪い所は冗談が通じない所。
「そうですか」
「そうですかって、他に感想はないの?」
「ございません」
「はっー!!!つまんない女ね!せっかく飲みに誘ってあげたのに少しは『え!?嘘っ!!私、そんなこと言われちゃってるの?』とか、言ったらどう?」
「失礼ですが、野々宮さんはそんな反応をなさるのですか?年齢に見合っていないのでは?」
「ほんっとーに!!あんた、失礼よ?」
なぜか、胸倉をつかまれた。
野々宮さんは悪い人ではない。
けれど、少々感情的になる場面がたびたび見られる。
ただし、プライベートのみ。
受付での彼女はもっと落ち着いている。
二面性のある方なのだろう。
ワインやカクテルを好むとなぜ、年齢を伏せたか。
同期であり、我々の特性により、伏せさせて頂いた。
「まあ、いいわ。私達が魔女と呼ばれるのは年齢不詳にしてその部署において女王のごとくトップに君臨しているからよ!」
ダンッと生ビールのジョッキを野々宮さんは置いた。
「そんなつもりは一切ございません」
「あんたになくてもこっちにはあるの」
そうですか、と思いながら冷酒を頂いた。
越乃寒梅の大吟醸は最高ですね。
そう思いながら、おろし生姜がのせられた焼き厚揚げを美味しく頂いた。
「寿退社していく同期とイケメン旦那を捕まえた受付の後輩達……。私と彼女らの違いは何かって考えたわけ!」
「野々宮さんには結婚願望がおありでしたか」
「あるねっ!すごくある!だからこそ、努力してきたのよ。見てよっ!週一でエステ、ジム、プールに柔道!」
最後になにか違和感のあるものが混じっていた気がしたけれど、黙って頷いて話を聞いてあげた。
私には結婚願望はない。
母が亡くなり、引き取られた父ではいい思いは一切せず、あんな思いを自分の子にはさせたくはなかった。
だから、私は結婚しない。
そう決めていた―――
「おっちゃん!生中もう一杯っ!」
野々宮さんが空のジョッキを持ち上げて言うと居酒屋の店主は苦笑した。
「おいおい!飲み過ぎじゃないかい!?史乃さん。この辺にしておかないと」
「そうですね。野々宮さん、ここで引いた方が得策かと思われます」
「うるさーい!ほらっ!今園!あんたも飲みなさいよ!ううっ……受付の後輩がまた結婚した」
それで荒れていたらしい。
「野々宮さんには素敵な人が現れますよ」
「は?あんたもでしょ?」
「無縁の話です」
「尾鷹商事の秘書室に君臨する女王様がなに言ってんのか」
女王ならよかった。
そうすれば、こんなに苦しまずに悪い男を断罪できたのに。
安島常務の顔が浮かんだ。
尾鷹の家と私をいつまでも苦しめる安島の家をどうにかできたはずだ。
「お姉さん達元気だねー」
グッチのサングラスに大きめのスプリングコートにパーカー、黒のクロップドパンツ、スニーカーというラフな服装にも関わらず、すごくお洒落に見え、一目見ただけで一般人とは違うと察した。
「どなたですか」
「名乗るほどの者じゃないよ。ね、店長」
「あ、ああ。まぁ……」
一人で飲んでいたのか、目立たない一番奥の隅の席に座っていたようだ。
「俺も一緒に飲んでいい?」
「お断りします」
「ちょっと!今園いいじゃない!」
絶対にイケメンよ?と野々宮さんが耳打ちしてきた。
この人は―――こんな怪しい男と思って、どこかで見たことがあるような気がした。
私の頭の中にある人物データファイルを検索してみた。
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口の前に指をたて、その人は『黙っていて』と頼んできた。
騒ぎになっては困るので私も名前を言わなかったけれど、私が勤める尾鷹商事の会長のお孫さんである壱哉さんの親友にして人気俳優の野月渚生さんだった。
「年下ですよねぇー」
「そうだよ」
「なんて名前っ?」
「渚に生きるで、渚生」
「素敵な名前ですー」
すっかり野々宮は酔っぱらっていた。
だから注意したというのに。
それにしても何を考えているのか―――
しっかり年下だと答えるところを見ると私が尾鷹の秘書ということも理解してのことだろう。
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