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46 私の仕事
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「日奈子、嫌がらせはされてないか?大丈夫か?」
「平気です」
笑ってそう答えたけど、嘘だった。
広報部で私の仕事はなかった。
安島__あじま__#さんや水和子お姉ちゃんの怒りを恐れてか、みんなから避けられてしまう。
倉庫に異動させられた人達を目の当たりにしたのだから、当然のことかもしれない。
私と目が合うと気まずそうに目を逸らされてしまい、口も利いてもらえない。
けれど、壱哉さんの負担になりたくなくて、平気な
ふりをするしかなかった。
「お弁当、いれておきますね」
「日奈子。お昼は一緒に食べないか?」
お姉ちゃんの怖い顔が目に浮かんだ。
「……無理です。公私の区別をつけろって言われましたから」
「それじゃ、社食に行こう」
「壱哉さんが社食に!?」
「日奈子といたい」
「そっ、そうですか?」
私だって、昼休みだけでも一緒にいたい。
「目立ちます……」
「気にしなければいい」
不敵に笑う壱哉さんに頷いたけど、いいのかなぁと思わずにはいられなかった。
でも、壱哉さんと社食で食事―――普通の社員同士みたいで、そのシチュエーションにドキドキした。
それだけで、単純な私は元気が出てしまう。
「お仕事、頑張りましょうね!」
昼休みに向けて!
「そうだな」
壱哉さんは笑った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
出社すると、広報部に私の仕事はない―――けれど、お茶くらいはいれられるし、ゴミを捨てたり、掃除もできる。
そういう仕事は家事をしていたおかげで、慣れていて、私でも大きな失敗をせずにこなせる。
お茶をいれたり、掃除をしていると、コピーを頼まれたり、ファイルの整理を頼まれたりするようになった。
それが少し嬉しい。
いそいそとファイルを棚に戻していると、広報部のフロアが水を打ったように静かになった。
なんだろうと思って、振り返ると水和子お姉ちゃんが立っていた。
とっさに観葉植物の陰に隠れたけど、鋭い視線に全員が目を合わせずにいた。
私の席を見て、いないのを確認すると満足そうに去って行く。
きっと、私が我慢できなくなって、どこかでサボっているとでも思っているんだろうけど。
見つからなくてよかった。
もし、見つかっていたら、広報部の誰かが嫌がらせを受けたかもしれない。
私も素早く動けるようになったよね?
もう鈍臭いは返上かもしれないなーなんて、調子に乗ったことを考えていると、棚にファイルを戻しに来た人が呆れた顔で私を見て言った。
「呑海さん。スーツの裾が棚のドアに挟まってますよ」
「……はい」
まだ返上できないようだった……。
でもまあ、うん。
話しかけてもらえたと思えば。
そう、前向きにね……。
席に戻ると、もう昼休みで社食に行くと、すでに壱哉さんがいて、物凄く目立っていた。
近寄りがたいのか、混んでいるはずの社食が壱哉さんの周りだけ人が座っていない。
やっぱりこうなるとは思っていたけど。
壱哉さんだって、わかっていたと思う。
けど、一緒にお昼を食べたいって思ってくれていると思うと嬉しかった。
「壱哉さん」
「日奈子」
微笑みを浮かべる壱哉さんにざわっとひと際大きなざわめきが起きた。
め、目立っているよーーー!!!
これ以上の騒ぎを起こしてはいけない。
そう思って、ささっと壱哉さんの所に行き、壱哉さんを隠すように前に座った。
けれど、私の体の方が小さくて、あまり意味がなかった。
バカだ……。
がっくりと肩を落としている私を不思議そうに壱哉さんは見ていた。
「すみません。あの、遅くなってしまって」
お弁当をテーブルに置き、広げると壱哉さんは優しい表情を浮かべて微笑んだ。
「平気だ」
水筒にお茶を持ってきたので、熱いお茶をコップに注いで壱哉さんに渡した。
お弁当のいなり寿司を取り分けながら、窓の外を見た。
社員の気分転換になるように会長が高い階層作った社食は眺めがよかった。
「社食の窓からはいつもと違う風景が見えていいですね」
「そうだな。こういうのも悪くない」
「お茶、おかわりありますから」
「ああ。豚肉のオクラ巻き、美味しいな」
「照り焼き味にしました」
二個目のいなり寿司に箸を伸ばした瞬間―――
「壱哉!どうして役員室にいないのよ!お昼は私が用意すると言ったじゃない!」
水和子お姉ちゃんの声が社食に響き渡った。
「尾鷹専務じゃないのか?公私の区別をつけろと日奈子に自分が言ったんじゃなかったか?」
周りの社員はハラハラと事の成り行きを見守っている。
「昼休みの時間の使い方は個人の自由だろう?休ませてくれないか?秘書ならな」
顔を赤くした水和子お姉ちゃんは壱哉さんを睨み付けた。
「私にそんな態度とっていいの!?」
「専務に失礼な態度は呑海さんよね」
「社長に取り入って復帰なんて図々しい」
「よくやるわ」
周りの社長達の声に水和子お姉ちゃんは顔を強張らせた。
キッと周りをにらみつけた所で人が多すぎてわからない。
水和子お姉ちゃんはやりすぎている―――そんな気がした。
水和子お姉ちゃんは何も言い返せず、悔しそうに背を向けると社食から去っていった。
「平気です」
笑ってそう答えたけど、嘘だった。
広報部で私の仕事はなかった。
安島__あじま__#さんや水和子お姉ちゃんの怒りを恐れてか、みんなから避けられてしまう。
倉庫に異動させられた人達を目の当たりにしたのだから、当然のことかもしれない。
私と目が合うと気まずそうに目を逸らされてしまい、口も利いてもらえない。
けれど、壱哉さんの負担になりたくなくて、平気な
ふりをするしかなかった。
「お弁当、いれておきますね」
「日奈子。お昼は一緒に食べないか?」
お姉ちゃんの怖い顔が目に浮かんだ。
「……無理です。公私の区別をつけろって言われましたから」
「それじゃ、社食に行こう」
「壱哉さんが社食に!?」
「日奈子といたい」
「そっ、そうですか?」
私だって、昼休みだけでも一緒にいたい。
「目立ちます……」
「気にしなければいい」
不敵に笑う壱哉さんに頷いたけど、いいのかなぁと思わずにはいられなかった。
でも、壱哉さんと社食で食事―――普通の社員同士みたいで、そのシチュエーションにドキドキした。
それだけで、単純な私は元気が出てしまう。
「お仕事、頑張りましょうね!」
昼休みに向けて!
「そうだな」
壱哉さんは笑った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
出社すると、広報部に私の仕事はない―――けれど、お茶くらいはいれられるし、ゴミを捨てたり、掃除もできる。
そういう仕事は家事をしていたおかげで、慣れていて、私でも大きな失敗をせずにこなせる。
お茶をいれたり、掃除をしていると、コピーを頼まれたり、ファイルの整理を頼まれたりするようになった。
それが少し嬉しい。
いそいそとファイルを棚に戻していると、広報部のフロアが水を打ったように静かになった。
なんだろうと思って、振り返ると水和子お姉ちゃんが立っていた。
とっさに観葉植物の陰に隠れたけど、鋭い視線に全員が目を合わせずにいた。
私の席を見て、いないのを確認すると満足そうに去って行く。
きっと、私が我慢できなくなって、どこかでサボっているとでも思っているんだろうけど。
見つからなくてよかった。
もし、見つかっていたら、広報部の誰かが嫌がらせを受けたかもしれない。
私も素早く動けるようになったよね?
もう鈍臭いは返上かもしれないなーなんて、調子に乗ったことを考えていると、棚にファイルを戻しに来た人が呆れた顔で私を見て言った。
「呑海さん。スーツの裾が棚のドアに挟まってますよ」
「……はい」
まだ返上できないようだった……。
でもまあ、うん。
話しかけてもらえたと思えば。
そう、前向きにね……。
席に戻ると、もう昼休みで社食に行くと、すでに壱哉さんがいて、物凄く目立っていた。
近寄りがたいのか、混んでいるはずの社食が壱哉さんの周りだけ人が座っていない。
やっぱりこうなるとは思っていたけど。
壱哉さんだって、わかっていたと思う。
けど、一緒にお昼を食べたいって思ってくれていると思うと嬉しかった。
「壱哉さん」
「日奈子」
微笑みを浮かべる壱哉さんにざわっとひと際大きなざわめきが起きた。
め、目立っているよーーー!!!
これ以上の騒ぎを起こしてはいけない。
そう思って、ささっと壱哉さんの所に行き、壱哉さんを隠すように前に座った。
けれど、私の体の方が小さくて、あまり意味がなかった。
バカだ……。
がっくりと肩を落としている私を不思議そうに壱哉さんは見ていた。
「すみません。あの、遅くなってしまって」
お弁当をテーブルに置き、広げると壱哉さんは優しい表情を浮かべて微笑んだ。
「平気だ」
水筒にお茶を持ってきたので、熱いお茶をコップに注いで壱哉さんに渡した。
お弁当のいなり寿司を取り分けながら、窓の外を見た。
社員の気分転換になるように会長が高い階層作った社食は眺めがよかった。
「社食の窓からはいつもと違う風景が見えていいですね」
「そうだな。こういうのも悪くない」
「お茶、おかわりありますから」
「ああ。豚肉のオクラ巻き、美味しいな」
「照り焼き味にしました」
二個目のいなり寿司に箸を伸ばした瞬間―――
「壱哉!どうして役員室にいないのよ!お昼は私が用意すると言ったじゃない!」
水和子お姉ちゃんの声が社食に響き渡った。
「尾鷹専務じゃないのか?公私の区別をつけろと日奈子に自分が言ったんじゃなかったか?」
周りの社員はハラハラと事の成り行きを見守っている。
「昼休みの時間の使い方は個人の自由だろう?休ませてくれないか?秘書ならな」
顔を赤くした水和子お姉ちゃんは壱哉さんを睨み付けた。
「私にそんな態度とっていいの!?」
「専務に失礼な態度は呑海さんよね」
「社長に取り入って復帰なんて図々しい」
「よくやるわ」
周りの社長達の声に水和子お姉ちゃんは顔を強張らせた。
キッと周りをにらみつけた所で人が多すぎてわからない。
水和子お姉ちゃんはやりすぎている―――そんな気がした。
水和子お姉ちゃんは何も言い返せず、悔しそうに背を向けると社食から去っていった。
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