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29 trap&trap【水和子 視点】
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壱哉の婚約者になってからは毎朝、黒塗りの車が迎えに来る。
「水和子お姉ちゃんが乗ると似合うわね」
緋瞳に言われ、いつもなら、しょんぼりうつ向くはずの日奈子が今日は平気な顔をしていた。
連休が開けたからと言って、自分の立場がガラリと変わるわけでもないのにそれすら、
わかってないみたいね。
会社に着くと、皆が私に会うたび挨拶をした。
私が壱哉の婚約者だから当然よ。
壱哉が日奈子を好き?
好きだけで結婚できる立場じゃないでしょ。
壱哉がなんて言おうが、私が尾鷹家の婚約者として、社員にも親戚にも認められている以上、この現状は変えれないわ。
地下から広報部の後輩が出てくるのが見えた。
地下には日奈子が働いている倉庫がある。
「ちょっとあなた。何しているの?」
「主任。おはようございます」
「まさか倉庫にいたの?」
「はい。少しだけですけど、お手伝いできたらって思って。一人であんな大量な商品を管理するのは大変ですから」
なるほどね。
日奈子が仕事を辞めたいと言わないはずだわ。
他の人間が手伝っていたなんて。
しかも、それが私の後輩とはね。
「勝手なことをしていいと思っているの?」
「えっ!?でも、あんな大量の商品を一人でなんて―――」
「お話し中、失礼します」
冷えた声が割って入った。
「今園室長。私が話しているのよ。壱哉の婚約者である私にあなたが指図するつもり?」
ずっと私を見下すように見ていたことに気づかないとでも思っているの?
口には出さないけど、態度でわかるのよ。
本当に食えない女。
「立場を盾にとられますか」
「今まであなたが私にしたことよ?社長が決めた専務の婚約者である私に秘書室室長でしかないあなたが何が言えるのかしら」
「私は社長の秘書ではありません。会長直属の秘書です。私は会長が命じられた職務を全うするだけです。呑海さん、営業部へご一緒して頂きます」
「会長の!?」
「専務からお話があります」
「壱哉が?」
有無を言わせない今園室長の空気を感じとり、嫌な予感がした。
営業部へ行くと広報部までが集められ、私に視線が一斉に集中した。
壱哉は私を見ず、全員を見回した。
「書類を改竄した犯人がわかった。今園」
「はい」
ノートパソコンを二台置いた。
一台は宮園室長パソコン、もう一台は私が使っているパソコン。
まさか―――消去したはずなのに?
監視カメラ映像が映し出された。
以前はなかった専務室前に監視カメラが仕掛けられてあった。
いつの間に?こんな―――
日奈子が出てくるとそれと入れ違いで営業二課の課長がやってきた。
今園室長は拡大し、課長の手に白い書類があることを強調した。
壱哉が課長に尋ねた。
「これは差し替えるための書類だな?」
課長は青い顔をし、うなずいた。
「申し訳ありません」
「課長は部屋から出てきた時は別の書類を手にしている。拡大するとわかるが、書類に付箋がついている。日奈子はどこへ持っていくものなのか、混ざらないように場所ごとに違う付箋を使っているんだ」
「そうですね。きちんとした仕事をするので彼女の仕事にミスはありません」
今園室長も強くうなずいた。
「日奈子は仕事は遅いかもしれないが、丁寧だからなんだ。だから、書類が混ざることがない」
優しげな顔で壱哉が言った。
隣の今園室長が珍しく苦笑していた。
「そして、この改竄用の書類を作成したのはそのパソコンの持ち主だ」
全員が私を見た。
データが復元され、作成したファイルが映し出された。
「どういうことだ。被害者じゃなかったのか」
「妹さんを嵌めたの?」
ざわめきが広がった。
額から汗が一筋流れた。
「日奈子に謝らないなら、まだ他の証拠もあるが、どうする?」
壱哉は日奈子に謝らなければ、間違いなく私をどこまでも追い詰める。
鋭い目がそれを証明していた。
「わかりました。日奈子に謝らせてください」
そう言うしかなかった。
これ以上、皆の前で晒されるわけにはいかない。
「そうか」
壱哉は一瞬だったけれど笑った。
おかしい。
何かがひっかかった。
これは私が罠に嵌められた?
だって、結局、最後に得をするのは―――
そう考えたら背筋が寒くなった。
「水和子お姉ちゃんが乗ると似合うわね」
緋瞳に言われ、いつもなら、しょんぼりうつ向くはずの日奈子が今日は平気な顔をしていた。
連休が開けたからと言って、自分の立場がガラリと変わるわけでもないのにそれすら、
わかってないみたいね。
会社に着くと、皆が私に会うたび挨拶をした。
私が壱哉の婚約者だから当然よ。
壱哉が日奈子を好き?
好きだけで結婚できる立場じゃないでしょ。
壱哉がなんて言おうが、私が尾鷹家の婚約者として、社員にも親戚にも認められている以上、この現状は変えれないわ。
地下から広報部の後輩が出てくるのが見えた。
地下には日奈子が働いている倉庫がある。
「ちょっとあなた。何しているの?」
「主任。おはようございます」
「まさか倉庫にいたの?」
「はい。少しだけですけど、お手伝いできたらって思って。一人であんな大量な商品を管理するのは大変ですから」
なるほどね。
日奈子が仕事を辞めたいと言わないはずだわ。
他の人間が手伝っていたなんて。
しかも、それが私の後輩とはね。
「勝手なことをしていいと思っているの?」
「えっ!?でも、あんな大量の商品を一人でなんて―――」
「お話し中、失礼します」
冷えた声が割って入った。
「今園室長。私が話しているのよ。壱哉の婚約者である私にあなたが指図するつもり?」
ずっと私を見下すように見ていたことに気づかないとでも思っているの?
口には出さないけど、態度でわかるのよ。
本当に食えない女。
「立場を盾にとられますか」
「今まであなたが私にしたことよ?社長が決めた専務の婚約者である私に秘書室室長でしかないあなたが何が言えるのかしら」
「私は社長の秘書ではありません。会長直属の秘書です。私は会長が命じられた職務を全うするだけです。呑海さん、営業部へご一緒して頂きます」
「会長の!?」
「専務からお話があります」
「壱哉が?」
有無を言わせない今園室長の空気を感じとり、嫌な予感がした。
営業部へ行くと広報部までが集められ、私に視線が一斉に集中した。
壱哉は私を見ず、全員を見回した。
「書類を改竄した犯人がわかった。今園」
「はい」
ノートパソコンを二台置いた。
一台は宮園室長パソコン、もう一台は私が使っているパソコン。
まさか―――消去したはずなのに?
監視カメラ映像が映し出された。
以前はなかった専務室前に監視カメラが仕掛けられてあった。
いつの間に?こんな―――
日奈子が出てくるとそれと入れ違いで営業二課の課長がやってきた。
今園室長は拡大し、課長の手に白い書類があることを強調した。
壱哉が課長に尋ねた。
「これは差し替えるための書類だな?」
課長は青い顔をし、うなずいた。
「申し訳ありません」
「課長は部屋から出てきた時は別の書類を手にしている。拡大するとわかるが、書類に付箋がついている。日奈子はどこへ持っていくものなのか、混ざらないように場所ごとに違う付箋を使っているんだ」
「そうですね。きちんとした仕事をするので彼女の仕事にミスはありません」
今園室長も強くうなずいた。
「日奈子は仕事は遅いかもしれないが、丁寧だからなんだ。だから、書類が混ざることがない」
優しげな顔で壱哉が言った。
隣の今園室長が珍しく苦笑していた。
「そして、この改竄用の書類を作成したのはそのパソコンの持ち主だ」
全員が私を見た。
データが復元され、作成したファイルが映し出された。
「どういうことだ。被害者じゃなかったのか」
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ざわめきが広がった。
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「日奈子に謝らないなら、まだ他の証拠もあるが、どうする?」
壱哉は日奈子に謝らなければ、間違いなく私をどこまでも追い詰める。
鋭い目がそれを証明していた。
「わかりました。日奈子に謝らせてください」
そう言うしかなかった。
これ以上、皆の前で晒されるわけにはいかない。
「そうか」
壱哉は一瞬だったけれど笑った。
おかしい。
何かがひっかかった。
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だって、結局、最後に得をするのは―――
そう考えたら背筋が寒くなった。
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