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28 夜のおでかけ
しおりを挟む食事の片づけをして、私が自分の部屋に戻るのを見るとお姉ちゃん達はホッとしていた。
ずっと監視しているのも疲れるみたいだった。
そのおかげで部屋に戻ると、私はもう何もしないだろうと思っている。
いつもなら、そうだけど今日は違う。
こつこつと窓がノックされて、窓を開けると渚生君がいた。
「準備はいい?」
「はい!もちろんっ――― !」
意気込んで窓に近寄ろうとして、ベッドの角に足の小指をぶつけてうずくまった。
「日奈子ちゃん、大丈夫?」
「だっ、大丈夫です」
痛みで声が震えた。
こんな肝心な時に私ときたら!
涙目になりながら、立ち上がり、うなずいた。
「降りる時、危ないから、ゆっくりで」
二階まで届く梯子が立てかけてあり、私の鈍臭さを考慮してか、渚生君が先導しながら降りてくれた。
そして、こっちへと言うように手招きをして隣の家に入った。
「梯子は今園さんがいったん回収してくれるからね」
「い、今園さん!?」
「大丈夫だよ。味方だから」
「は、はい」
どうして今園さんが?
「公園で壱哉が待ってるよ。日奈子ちゃん。楽しんできて」
「ありがとうございます!」
頭を下げて、遅いながらに全力で走った。
急いで公園に行くと、壱哉さんがいて私を見つけると微笑んだ。
その顔を見て思わず、泣きそうになったけど、なんとか耐えた。
せっかく遊びに行くのに大泣きしては壱哉さんが困るだろうから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
壱哉さんの車に乗ってやってきたのは動物園だった。
昼の動物園とは雰囲気が全く違っていて、夜はまるでサーカスに来たみたいなワクワク感があった。
「うわぁ……夜なのにお客さんがたくさんいますね」
「そうだな」
青くライトアップされた入り口にはカップルや親子連れがいて、入場券を渡していた。
夜の園内には屋台が並び、オープンテラス席では屋台で買った食べ物や飲み物を楽しめるようになっていた。
連休の間だけの特別イベントらしい。
「私、夜の動物園って初めてです」
「俺もだ」
ライトアップされた園内を歩きながら、壱哉さんが言った。
「日奈子、大丈夫だったか?」
「はい。なんとか」
「そうか」
本当は大丈夫なんかじゃなかったけど、今、壱哉さんに会えたことで辛かったことが全部、吹き飛んでしまった。
自分の単純さに呆れる。
鳥達がいるエリアには夜行性のコウモリやフクロウが起きていて、動いている珍しい姿を見ることができた。
「夜行性の動物って、夜に動きますもんね」
「おもしろいな」
「はい」
夜の動物園は不思議で動物達が昼間よりも活発に動き回っていた。
歩いていると、突然キリンが近寄ってきて、顔を寄せた。
「ひ、ひえっ!!!」
「日奈子。エサをあげたら?」
壱哉さんが笑いながら、ほら、とエサの入った容器をくれた。
な、なるほど、エサをくれると思って近寄ってきたのね……。
緑の葉をあげるとキリンはもぐもぐと口の中でなんども葉を噛んでいた。
遠くから見ると眠そうな顔をしている動物だなと思っていたけど、間近で見ると迫力がある。
ライオンとトラは王様みたいに歩いていて、柵越しにエサをあげれる場所があった。
肉がなまなましい……。
やっぱり肉食なんだ……。
「エサあるぞ」
「いえっっっ!!そ、それはいいです」
係員さんもいて、子供もあげていたけど、私は首を横に振った。
「そうか」
壱哉さんが笑いながら、エサをあげた。
ライオンとかトラがよく似合うなあ。
気品があるっていうか、高貴っていうか。
私は―――タヌキ?
思わず、顔を覆った。
「どうした?日奈子?」
「いえ」
一通り動物を見終わると、屋台が並ぶエリアで軽食をとった。
「タイ風焼きそば美味しいですね。ピーナッツが入っていて」
「ドーナツも甘さ控えめでいいな」
タイのドーナツは中がもちもちしていて、外はカリッと上がっていた。
甘すぎないのがいいのか、壱哉さんも気に入ったようだった。
「日奈子。何か記念になるもの買おうか?」
お土産売り場も開いていて、店内には動物グッズがたくさん置いてあった。
壱哉さんをちらりと見た。
トラとライオンのぬいぐるみを交互に見た。
買うとしたら―――
「それ?」
「い、いえっ!ぬいぐるみを持って、梯子をよじ登れませんからっ」
「じゃあ、一緒に住む家に置いておく」
「えっ?」
ひょいっと私の手からトラとライオンのぬいぐるみを取り上げて、レジに持って行った。
「い、一緒に―――」
「行こう」
固まっている私の手を掴んだ。
帰り始めたお客さんに混じって歩きながら、壱哉さんは言った。
「一緒に暮らそう。日奈子」
「……で、でも、会ったらだめって言われてて」
「それも終わる」
そう言った壱哉さんは笑っていたけど、目は鋭い。
まるで、獰猛な獣の様に。
「だから、大丈夫」
そう言って頬をなでた壱哉さんが私に向けた目は優しかったけれど―――きっと獲物には容赦がない。
トラやライオンを見た後のせいか、そんな気がしてならなかった。
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