24 / 69
24 犯人
しおりを挟む
四月も終わり、五月の連休前に、壱哉さんが唐突に言った。
「日奈子。五月の連休にどこか遊びに行きたいところはないか?」
これはまさか。
デート!?
なんだか、付き合ってるってかんじがする!
行きたいところはたくさんあるけど。
「壱哉さんがゆっくりできる場所がいいです」
「俺?」
「ずっと残業続きですから」
毎日の残業は連休に休みをとるためだって、今になってわかった。
私を遊びに連れて行ってくれようとして無理に仕事を詰め込んでいたんだと思う。
がっかりさせないようにギリギリまで頑張ってくれて、休みがとれそうだから言ってくれたことも。
「わかった」
壱哉さんが微笑んだので、私もにこっと微笑み返した。
ほんわかした空気が漂った。
届いた挨拶状を開封して、封筒と文書を仕分ける作業に戻った。
その時、ノックの音がした。
今日の来客の予定はなかったのに。
誰だろうと思いながら、立ち上がると営業部の部長と広報部の部長が揃って並んでいた。
「専務、お話が」
二人は邪魔だというように私を手でどかし、冷たい視線を投げかけた。
「なんだ?」
「一緒に営業部まで来ていただけませんか?」
「わかった」
異様な空気を察した壱哉さんは立ち上がった。
「そちらの秘書も」
「は、はい」
まるで罪人のように乱暴に腕を掴まれたのを見て壱哉さんが営業部の部長の手を捻りあげ、鋭く低い声で言った。
「触るな」
ドンッと突き飛ばし、前を歩かせて、私を守るかのように隣に立った。
秘書室の前で壱哉さんはドアを開けて、険しい顔で今園さんを呼んだ。
「今園、来い」
「はい。尾鷹専務」
サッと今園さんは機械的に立ち上がり、自分のノートパソコンを手にカツカツとヒールの音を鳴らして後ろからついてきた。
営業部に行くと一斉に視線が私に集中した。
そこになぜか水和子お姉ちゃんまでいる。
「呑海君が契約した契約先が営業二課の課長の契約成績になっているんです」
広報部部長が出力したデータを壱哉さんに見せた。
「書類は?」
「これです」
「私が確かに提出した時は呑海主任が契約したことになってました」
営業部で書類を作成した女性社員がきっぱりと言いきった。
営業部部長がさっき捻られた腕をさすりながら言った。
「この書類の数字を専務の手に渡る前か後に改竄したのではないでしょうか」
「それができるのは秘書くらいなものですよ」
広報部部長が私を睨み付けた。
私が疑われているの!?
どうして?
「そんなこと私にはできません!」
「日奈子どうしてそんなこと……」
水和子お姉ちゃんが悲しい顔をして私を見つめていた。
「お待ちください。犯人を決めつけるのはまだ早いのではありませんか?」
「そうだな。今園」
壱哉さんの低く怒気をはらむ声は周囲を凍てつかせた。
「一番得する人間を疑うべきだろう」
確かにという空気が広がった。
「そうなると、営業二課の課長か」
青い顔をして震えていた。
「待ってくれ!わ、私はたなにもしていない!」
「皆さん、日奈子がやったことです」
「水和子お姉ちゃん!?」
「私と壱哉さんの婚約のお話が社長夫妻から出ていることを知って、嫉妬して私に嫌がらせをしただけなんです」
「こ、婚約?壱哉さんと水和子お姉ちゃんが?」
初耳だった。
壱哉さんを見ると知らなかったのか、わずかに動揺していた。
「いやいや、そういうことか。騒がしいから何事かと思って見にきてみたら、日奈子ちゃん。だめじゃないか」
「社長!」
フロアがざわめいた。
「父さん。どういうことです?」
「なに言っているんだ。昔からの付き合いだろう?お前の婚約相手にはぴったりじゃないか。水和子ちゃんなら、お前をよく理解しているし、仕事もできる。尾鷹の嫁として十分にやっていける」
「ありがとうございます。おじ様」
水和子お姉ちゃんはにっこり微笑んだ。
「私の妹が迷惑をかけてごめんなさい」
何が起きたか、わからなかった。
「働き始めたばかりの妹で、会社の大切な書類を改竄すれば、どうなるかなんてわからなかったみたいで。私から注意しておきます。もちろん、処罰も受けさせますから」
「ま、待って、お姉ちゃんっ」
「日奈子。クビにならないだけ、ありがたいと思いなさい」
水和子お姉ちゃんは私の話を聞いてもくれず、元々、私のことを気に入ってなかった尾鷹のおじ様は私が犯人だと決め付けていた。
水和子お姉ちゃんの言葉をすっかりみんなは信じていて、私じゃないと信じてくれたのは壱哉さんと今園さんしかいなかった。
「犯人を見つけだしたら、俺がそいつを処罰してやる」
「ははは!いいだろう」
おじ様は壱哉さんの言葉に少しも疑問を持たずに笑っていた。
それは周りの人も同じだった。
「日奈子。大丈夫だから」
「壱哉さん」
ぎゅっと壱哉さんの腕をつかんでいた。
引き離されそうな、そんな気がして。
「日奈子。五月の連休にどこか遊びに行きたいところはないか?」
これはまさか。
デート!?
なんだか、付き合ってるってかんじがする!
行きたいところはたくさんあるけど。
「壱哉さんがゆっくりできる場所がいいです」
「俺?」
「ずっと残業続きですから」
毎日の残業は連休に休みをとるためだって、今になってわかった。
私を遊びに連れて行ってくれようとして無理に仕事を詰め込んでいたんだと思う。
がっかりさせないようにギリギリまで頑張ってくれて、休みがとれそうだから言ってくれたことも。
「わかった」
壱哉さんが微笑んだので、私もにこっと微笑み返した。
ほんわかした空気が漂った。
届いた挨拶状を開封して、封筒と文書を仕分ける作業に戻った。
その時、ノックの音がした。
今日の来客の予定はなかったのに。
誰だろうと思いながら、立ち上がると営業部の部長と広報部の部長が揃って並んでいた。
「専務、お話が」
二人は邪魔だというように私を手でどかし、冷たい視線を投げかけた。
「なんだ?」
「一緒に営業部まで来ていただけませんか?」
「わかった」
異様な空気を察した壱哉さんは立ち上がった。
「そちらの秘書も」
「は、はい」
まるで罪人のように乱暴に腕を掴まれたのを見て壱哉さんが営業部の部長の手を捻りあげ、鋭く低い声で言った。
「触るな」
ドンッと突き飛ばし、前を歩かせて、私を守るかのように隣に立った。
秘書室の前で壱哉さんはドアを開けて、険しい顔で今園さんを呼んだ。
「今園、来い」
「はい。尾鷹専務」
サッと今園さんは機械的に立ち上がり、自分のノートパソコンを手にカツカツとヒールの音を鳴らして後ろからついてきた。
営業部に行くと一斉に視線が私に集中した。
そこになぜか水和子お姉ちゃんまでいる。
「呑海君が契約した契約先が営業二課の課長の契約成績になっているんです」
広報部部長が出力したデータを壱哉さんに見せた。
「書類は?」
「これです」
「私が確かに提出した時は呑海主任が契約したことになってました」
営業部で書類を作成した女性社員がきっぱりと言いきった。
営業部部長がさっき捻られた腕をさすりながら言った。
「この書類の数字を専務の手に渡る前か後に改竄したのではないでしょうか」
「それができるのは秘書くらいなものですよ」
広報部部長が私を睨み付けた。
私が疑われているの!?
どうして?
「そんなこと私にはできません!」
「日奈子どうしてそんなこと……」
水和子お姉ちゃんが悲しい顔をして私を見つめていた。
「お待ちください。犯人を決めつけるのはまだ早いのではありませんか?」
「そうだな。今園」
壱哉さんの低く怒気をはらむ声は周囲を凍てつかせた。
「一番得する人間を疑うべきだろう」
確かにという空気が広がった。
「そうなると、営業二課の課長か」
青い顔をして震えていた。
「待ってくれ!わ、私はたなにもしていない!」
「皆さん、日奈子がやったことです」
「水和子お姉ちゃん!?」
「私と壱哉さんの婚約のお話が社長夫妻から出ていることを知って、嫉妬して私に嫌がらせをしただけなんです」
「こ、婚約?壱哉さんと水和子お姉ちゃんが?」
初耳だった。
壱哉さんを見ると知らなかったのか、わずかに動揺していた。
「いやいや、そういうことか。騒がしいから何事かと思って見にきてみたら、日奈子ちゃん。だめじゃないか」
「社長!」
フロアがざわめいた。
「父さん。どういうことです?」
「なに言っているんだ。昔からの付き合いだろう?お前の婚約相手にはぴったりじゃないか。水和子ちゃんなら、お前をよく理解しているし、仕事もできる。尾鷹の嫁として十分にやっていける」
「ありがとうございます。おじ様」
水和子お姉ちゃんはにっこり微笑んだ。
「私の妹が迷惑をかけてごめんなさい」
何が起きたか、わからなかった。
「働き始めたばかりの妹で、会社の大切な書類を改竄すれば、どうなるかなんてわからなかったみたいで。私から注意しておきます。もちろん、処罰も受けさせますから」
「ま、待って、お姉ちゃんっ」
「日奈子。クビにならないだけ、ありがたいと思いなさい」
水和子お姉ちゃんは私の話を聞いてもくれず、元々、私のことを気に入ってなかった尾鷹のおじ様は私が犯人だと決め付けていた。
水和子お姉ちゃんの言葉をすっかりみんなは信じていて、私じゃないと信じてくれたのは壱哉さんと今園さんしかいなかった。
「犯人を見つけだしたら、俺がそいつを処罰してやる」
「ははは!いいだろう」
おじ様は壱哉さんの言葉に少しも疑問を持たずに笑っていた。
それは周りの人も同じだった。
「日奈子。大丈夫だから」
「壱哉さん」
ぎゅっと壱哉さんの腕をつかんでいた。
引き離されそうな、そんな気がして。
27
お気に入りに追加
1,759
あなたにおすすめの小説


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》


社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる