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22 そばにいるのは私だけ【水和子 視点】

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フェア成功のお祝いを広報部と営業部合同でやることになり、なぜか私は幹事。
あれだけ皆で私の事を褒めたくせにどうして私が幹事なのか、納得がいかなかったけれど、断れずに引き受けた。
企画したのは他の人だったのにていよく、押し付けられてしまった。
いつもの『呑海どんみさんならうまくやってくれるから』という評価のせいで。
「やっぱり、主任におまかせしてよかったー!」
「本当に素敵なお店だし、料理もおいしい!」
「この店は壱哉いちや、あっ、ごめんなさい。尾鷹おだか専務ときたことがあって」
後輩の女の子達はひそひそと話していた。
なに?
「呑海主任、専務とは同級生で友人だって聞きましたよ。付き合ってなかったんですね」
「誰がそんなこと」
安島あじま常務です。常務って会社のフットサルチームとか野球チームに入っていて、専務に噂を確認したら違っていたって」
社交的な常務は社長にも言うかもしれない。
そうなると、私と壱哉の婚約話がなくなるかも―――胸がざわつき、おば様と早く会って話をしようと決めた。
このままだと、チャンスを失ってしまう。
壱哉の恋人にはなれなくても結婚相手になれるかもしれないのに。
「でも、壱哉と一番親しいのは私だけだから。間違いではないわよね」
「はあ」
後輩の女の子達は困惑気味な表情を浮かべた。
私以外に壱哉と一緒にいて、相応しい女がいる?
そんなわけないでしょう?
「でも、最近、妹さんの方が専務と仲いいですよね。社内でもよく二人で歩いてますし」
「そうそう。いつも近寄りがたくて怖いかんじなのに一緒にいる時は穏やかな顔しているし。専務にとって特別な人なんじゃないかなって言ってたんですよ」
「専務の方がついて回ってるって感じで」
「わかるー。シベリアンハスキーが懐いたらあんなふうになるかもね!」
イラッとした。
また日奈子ひなこなの?
「あなた達、良くないわよ。専務の事を犬に例えるなんて」
「あっ!すみません」
「気をつけまーす」
彼女達は少しも悪いなんて思っていないようだった。
日奈子は専務付きの秘書だから側にいるだけよ。
それに私の妹だから、壱哉が気にかけて面倒をみているだけ。
でも―――今となっては日奈子に壱哉の側にいてほしくない。
壱哉の隣にいるのは私だけでいい。
人の輪から外れた所に営業部の課長がいた。
たしか、春の人事で同期に負け、営業部部長に同期がなった―――
「課長。春の辞令、残念でしたね」
どうぞ、とシャンパングラスを渡した。
呑海どんみ君。」
「私は課長が上に行くと思っていました。会社は課長の力を認めてませんよね」
「そんなことは」
課長はひくっと頬をひきつらせた。
「このままだと、昇進は厳しいんじゃないですか?最近、契約本数も減ってきてますし」
額に汗を浮かべた。
同期の部長に命令されるのが我慢できないとこないだボヤいているのを耳にした。
「この間のワインフェアの営業成績ですけど、まだ会社のデータの入力までされてないんですよね」
「そうなのか?」
「ええ。私が契約した分を課長の方にいくつか書き換えたらどうですか?」
「いいのかね」
「次のフェアも私が企画しますから。私は平気です。その差し替える書類、よろしければ、私が作成しましょうか?」
「呑海君っ……!」
課長は助かったとばかりに私を見た。
かかった―――その書類は壱哉のところにあるはず。
まだ決済されていないから、データを正式に入力していない。
「フェアで契約した顧客情報は専務の部屋にあると思いますよ」
「そうか。感謝するよ」
「いいえ。私さえ黙っていれば、誰も気づきませんから」
にっこりほほ笑んだ。
後は壱哉がいない時に日奈子を呼び出せば、完璧よ。
日奈子が書類を持ち出したことにすれば、間違いなく専務付き秘書を外される。
壱哉は慌てればいいわ。
私に冷たくしたんだから、それくらいは許されるわよね。
壱哉の側には私だけでいいのよ。
たとえ、妹であってもね―――
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