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第六話 夏の合戦~夜空の下の七夕流し~
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薄靄が石畳の通りにかかる夏の朝。
家々の玄関先には緑の蔓を伸ばした朝顔の鉢が並んでいた。
緑の少ない通りだがそれぞれの家は趣向を凝らし、釣り忍、朝顔、盆栽が家主の好みに合わせて飾られている。
緑の葉の上に朝露がきらめいているのを見ると自分も店の前になにか緑のものを置きたい気持ちになってくる。
朝日をしばし浴びてから、工場に戻り途中になっている作業の続きにとりかかった。
冷たい水の中には葛と蕨粉で作られた水まんじゅうが冷やされている。
中のあんまでしっかりと冷やし、笹の葉を巻く。
水のように透き通った水まんじゅうを笹の葉で巻くだけでも涼し気に見える。
いろいろあったが、俺の風邪もすっかりよくなった。
今日こそ店を開けねばならないという使命感が俺にはある。
「元気になったところを見せておかないとあいつらがうるさすぎる……」
あいつらとはいつもの二人のことだ。
有浄はお祓いをすると言って訳のわからない白い札を部屋に貼り、長い祝詞を聞かせてくるのだが、俺を静かに寝かせておくという選択肢はあいつにないのだろうか。
太鼓まで持ってこようとしたのを全力で止めた。
隣近所が太鼓の音を聞いて何事かと大騒ぎになるところだった。
そして、兎々子は粥を作ると言い出し、それを俺は必死で止めた。
最悪、台所が破壊される。
一刻も早く完治宣言を出さなくてはならないと俺は焦っていた。
その手っ取り早い方法が店を開けることだった。
健康な俺、ありがとう。
元気な俺、最高だ。
病み上がりだが、いつも以上にやる気がみなぎっているのはそんな理由からだった。
すでに今日の菓子はいくつか出来上がっている。
ぬかりはない。
店の前には冷たい湧き水を竹で引き、木製の樽の中に竹筒に入った水羊羹を入れて冷やしてある。
この木の樽には西瓜や胡瓜なども入れて冷やすこともできる。
「今日の商品がだいたい揃ったな」
つるんとして口当たりのいい水まんじゅう、青竹の香りがする竹筒羊羮、黒砂糖を入れたこしあんの土用餅。
土用の日はまだだが、土用餅を食べると精がつくとのことなので文月に入ると出すようにしている。
中は白の餅と蓬餅の二種類を用意した。
これで狸に怠け者呼ばわりされることはないだろう。
少し考えてから、今日はさらにもう一品作ることにした。
工場に入ると鍋を取り出し、一晩水に浸けておいた寒天を鍋に入れた。
砂糖を加え、沸騰させ、さらに水飴を加えて煮詰める。
ゴミなどがないように目の細かい布で濾す。
この菓子は透明感が大切だ。
そして色をつける。
「色は夏らしく青にするか」
ここで青の色素を取り出し加える。
透明な寒天液は夏の青空のように透き通った青に染まった。
これを固めるとまるでラムネ瓶のような色をした夏の菓子らしい菓子となる。
冷やして食べるとさらに美味しく食べられる甘い寒天菓子、錦玉羹が出来上がった。
夏の夕暮れ、夕涼みをしながら口にするには最適の和菓子だ。
そして錦玉羹と同時に作ったものがもう一つある。
こちらの方はすぐには食べられない。
型に入れ、固まったら取り出して細かく切って風に晒す。
干してから完成するため、後日のお楽しみとなる。
「そろそろ店を開けないとな」
硝子戸に『本日夏の和菓子有ります』と書いてはった。
道行く人は湧き水の中に冷やされている竹筒羊羮が気になるらしく足を止めて悩んでいた。
そんな中でも一番乗りにやってきたのはいつもの常連客だった。
「やあ、おはよう。今日も暑いのに早くから店を開けて感心ですなぁ」
硝子戸を開け、蝉の鳴き声と一緒に入って来たのはカンカン帽子をかぶった尋常小学校の先生だった。
最近、近所のおばちゃんから名前を教えてもらい堂六大楽という名前だと知った。
生徒達から『道楽《どうらく》先生』と呼ばれているそうだが、道楽者には見えない。
そんな堂六先生は今日も真剣に並んだ菓子を眺めていた。
「うむ! 決めた。この見た目にも涼しい錦玉羹を二個、水まんじゅうを五個、竹筒羊羹を五個と土用餅を五個いただきたい」
「ありがとうございます」
堂六先生の毎月の給料は甘い物に消えていく運命だ。
下宿先の近くに和菓子屋があったせいで先生の財布の紐は緩みっぱなしだ。
常連客がいるおかげで商売が続けられているのだから、ありがたいはありがたいのだが、申し訳なくもある。
先生はいつものように和菓子をたっぷり買うと、足取り軽く(財布も軽く)店から出て行った。
酒を飲めない下戸だと聞いたから、酒に費やす金を考えれば同じことかもしれない。
「あっ! 安海ちゃん、おはよう。風邪は治ったの?」
ちょうど先生と入れ違いで兎々子が日傘をさして店の前に立っていた。
女学校に行く前に立ち寄ったらしく、頭にリボン、矢絣柄の着物に袴、ブーツをはき、肩に帆布製の肩掛け鞄を下げていた。
「ん? 鞄を変えたんだな。学用品を包むのに風呂敷はやめたのか」
「そうよ。こっちのほうが動きやすいからやめたの」
風呂敷の柄ひとつに大騒ぎしていたのに今は無地の帆布製の鞄のほうがいいらしい。
女学生の心理はやっぱり俺には不可解だ。
「兎々子。女学校は逆方向だろ? 遅刻するぞ」
「うん、でも、笹の葉に飾ろうと思って短冊を持ってきたの。安海ちゃんの分もちゃんと書いてあげたから」
そう言って肩掛け鞄から取り出したのは七夕の短冊だった。
「今日の朝、朝露があったでしょ? 安海ちゃん、知ってる? 七夕の朝露は天の川の雫なんだって」
「へぇ」
「有浄さんに教えてもらったの。露には呪力があって露で摺った炭で書くと願い事が叶うって聞いたから」
有浄からというのが胡散臭いが、兎々子の願い事が気になったので聞いてみた。
「どんな願い事なんだ?」
「安海ちゃんのは病気にならずに長生きできますようにって書いてあげたわ」
「……年寄りみたいな願い事だな。有浄には?」
「有浄さんは友達が増えますようにって書いたわ」
「それ、有浄には絶対に言うなよ」
的を得ていればいいってものじゃないからな。
俺は苦笑した。
「それで、兎々子の願い事は?」
「えっ!? わ、私? 私のお願い事は秘密よ。乙女になんてこと聞くのよ! 安海ちゃんのバカ!」
「そうか。笹、とってこないとな」
「あ、あれ? 私のお願い事に興味ないの?」
「だいたいわかる」
「嘘!?」
「ドジが治りますようにだろ?」
兎々子は一気に不機嫌顔になった。
どうやら違ったらしい。
「やっぱり安海ちゃんには怠け癖が治りますようにって書けばよかったわ」
「俺のどこが怠け癖だ。今日なんて朝から店を開けて働いているだろ!?」
俺と兎々子がにらみ合っていると桶を担いだ金魚売りが通りかかった。
「きんぎょ、きんぎょー」
と、緊張感のない声で歌うように歩いていく。
兎々子はハッとして俺の家の庭まで走っていくと庭の井戸の前に置いてあった洗濯タライを持ってきた。
「金魚を買ってくるっ!」
おいおい、なんの嫌がらせだよ。
洗濯タライで金魚を飼うとか、洗濯タライだけあって選択になかった。
「待て。誰が世話をするんだ」
「安海ちゃんに決まってるでしょ。金魚の世話でもしてその怠け癖を少しは治せばいいのよ!」
「どんな捨て台詞だよ!?」
洗濯用のタライは金魚を飼うためのものじゃない。
止めなければと兎々子を追いかけようとした俺を客が呼び止めた。
「どうも」
その客とは先ほどきた堂六先生で二度目のご来店というわけだ。
さすがにこれは鼻水垂らした子どもにだって騙されない。
狸よ、いくらなんでも馬鹿にしすぎだろう。
家々の玄関先には緑の蔓を伸ばした朝顔の鉢が並んでいた。
緑の少ない通りだがそれぞれの家は趣向を凝らし、釣り忍、朝顔、盆栽が家主の好みに合わせて飾られている。
緑の葉の上に朝露がきらめいているのを見ると自分も店の前になにか緑のものを置きたい気持ちになってくる。
朝日をしばし浴びてから、工場に戻り途中になっている作業の続きにとりかかった。
冷たい水の中には葛と蕨粉で作られた水まんじゅうが冷やされている。
中のあんまでしっかりと冷やし、笹の葉を巻く。
水のように透き通った水まんじゅうを笹の葉で巻くだけでも涼し気に見える。
いろいろあったが、俺の風邪もすっかりよくなった。
今日こそ店を開けねばならないという使命感が俺にはある。
「元気になったところを見せておかないとあいつらがうるさすぎる……」
あいつらとはいつもの二人のことだ。
有浄はお祓いをすると言って訳のわからない白い札を部屋に貼り、長い祝詞を聞かせてくるのだが、俺を静かに寝かせておくという選択肢はあいつにないのだろうか。
太鼓まで持ってこようとしたのを全力で止めた。
隣近所が太鼓の音を聞いて何事かと大騒ぎになるところだった。
そして、兎々子は粥を作ると言い出し、それを俺は必死で止めた。
最悪、台所が破壊される。
一刻も早く完治宣言を出さなくてはならないと俺は焦っていた。
その手っ取り早い方法が店を開けることだった。
健康な俺、ありがとう。
元気な俺、最高だ。
病み上がりだが、いつも以上にやる気がみなぎっているのはそんな理由からだった。
すでに今日の菓子はいくつか出来上がっている。
ぬかりはない。
店の前には冷たい湧き水を竹で引き、木製の樽の中に竹筒に入った水羊羹を入れて冷やしてある。
この木の樽には西瓜や胡瓜なども入れて冷やすこともできる。
「今日の商品がだいたい揃ったな」
つるんとして口当たりのいい水まんじゅう、青竹の香りがする竹筒羊羮、黒砂糖を入れたこしあんの土用餅。
土用の日はまだだが、土用餅を食べると精がつくとのことなので文月に入ると出すようにしている。
中は白の餅と蓬餅の二種類を用意した。
これで狸に怠け者呼ばわりされることはないだろう。
少し考えてから、今日はさらにもう一品作ることにした。
工場に入ると鍋を取り出し、一晩水に浸けておいた寒天を鍋に入れた。
砂糖を加え、沸騰させ、さらに水飴を加えて煮詰める。
ゴミなどがないように目の細かい布で濾す。
この菓子は透明感が大切だ。
そして色をつける。
「色は夏らしく青にするか」
ここで青の色素を取り出し加える。
透明な寒天液は夏の青空のように透き通った青に染まった。
これを固めるとまるでラムネ瓶のような色をした夏の菓子らしい菓子となる。
冷やして食べるとさらに美味しく食べられる甘い寒天菓子、錦玉羹が出来上がった。
夏の夕暮れ、夕涼みをしながら口にするには最適の和菓子だ。
そして錦玉羹と同時に作ったものがもう一つある。
こちらの方はすぐには食べられない。
型に入れ、固まったら取り出して細かく切って風に晒す。
干してから完成するため、後日のお楽しみとなる。
「そろそろ店を開けないとな」
硝子戸に『本日夏の和菓子有ります』と書いてはった。
道行く人は湧き水の中に冷やされている竹筒羊羮が気になるらしく足を止めて悩んでいた。
そんな中でも一番乗りにやってきたのはいつもの常連客だった。
「やあ、おはよう。今日も暑いのに早くから店を開けて感心ですなぁ」
硝子戸を開け、蝉の鳴き声と一緒に入って来たのはカンカン帽子をかぶった尋常小学校の先生だった。
最近、近所のおばちゃんから名前を教えてもらい堂六大楽という名前だと知った。
生徒達から『道楽《どうらく》先生』と呼ばれているそうだが、道楽者には見えない。
そんな堂六先生は今日も真剣に並んだ菓子を眺めていた。
「うむ! 決めた。この見た目にも涼しい錦玉羹を二個、水まんじゅうを五個、竹筒羊羹を五個と土用餅を五個いただきたい」
「ありがとうございます」
堂六先生の毎月の給料は甘い物に消えていく運命だ。
下宿先の近くに和菓子屋があったせいで先生の財布の紐は緩みっぱなしだ。
常連客がいるおかげで商売が続けられているのだから、ありがたいはありがたいのだが、申し訳なくもある。
先生はいつものように和菓子をたっぷり買うと、足取り軽く(財布も軽く)店から出て行った。
酒を飲めない下戸だと聞いたから、酒に費やす金を考えれば同じことかもしれない。
「あっ! 安海ちゃん、おはよう。風邪は治ったの?」
ちょうど先生と入れ違いで兎々子が日傘をさして店の前に立っていた。
女学校に行く前に立ち寄ったらしく、頭にリボン、矢絣柄の着物に袴、ブーツをはき、肩に帆布製の肩掛け鞄を下げていた。
「ん? 鞄を変えたんだな。学用品を包むのに風呂敷はやめたのか」
「そうよ。こっちのほうが動きやすいからやめたの」
風呂敷の柄ひとつに大騒ぎしていたのに今は無地の帆布製の鞄のほうがいいらしい。
女学生の心理はやっぱり俺には不可解だ。
「兎々子。女学校は逆方向だろ? 遅刻するぞ」
「うん、でも、笹の葉に飾ろうと思って短冊を持ってきたの。安海ちゃんの分もちゃんと書いてあげたから」
そう言って肩掛け鞄から取り出したのは七夕の短冊だった。
「今日の朝、朝露があったでしょ? 安海ちゃん、知ってる? 七夕の朝露は天の川の雫なんだって」
「へぇ」
「有浄さんに教えてもらったの。露には呪力があって露で摺った炭で書くと願い事が叶うって聞いたから」
有浄からというのが胡散臭いが、兎々子の願い事が気になったので聞いてみた。
「どんな願い事なんだ?」
「安海ちゃんのは病気にならずに長生きできますようにって書いてあげたわ」
「……年寄りみたいな願い事だな。有浄には?」
「有浄さんは友達が増えますようにって書いたわ」
「それ、有浄には絶対に言うなよ」
的を得ていればいいってものじゃないからな。
俺は苦笑した。
「それで、兎々子の願い事は?」
「えっ!? わ、私? 私のお願い事は秘密よ。乙女になんてこと聞くのよ! 安海ちゃんのバカ!」
「そうか。笹、とってこないとな」
「あ、あれ? 私のお願い事に興味ないの?」
「だいたいわかる」
「嘘!?」
「ドジが治りますようにだろ?」
兎々子は一気に不機嫌顔になった。
どうやら違ったらしい。
「やっぱり安海ちゃんには怠け癖が治りますようにって書けばよかったわ」
「俺のどこが怠け癖だ。今日なんて朝から店を開けて働いているだろ!?」
俺と兎々子がにらみ合っていると桶を担いだ金魚売りが通りかかった。
「きんぎょ、きんぎょー」
と、緊張感のない声で歌うように歩いていく。
兎々子はハッとして俺の家の庭まで走っていくと庭の井戸の前に置いてあった洗濯タライを持ってきた。
「金魚を買ってくるっ!」
おいおい、なんの嫌がらせだよ。
洗濯タライで金魚を飼うとか、洗濯タライだけあって選択になかった。
「待て。誰が世話をするんだ」
「安海ちゃんに決まってるでしょ。金魚の世話でもしてその怠け癖を少しは治せばいいのよ!」
「どんな捨て台詞だよ!?」
洗濯用のタライは金魚を飼うためのものじゃない。
止めなければと兎々子を追いかけようとした俺を客が呼び止めた。
「どうも」
その客とは先ほどきた堂六先生で二度目のご来店というわけだ。
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