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第1章
16 厳しい支払い
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「サーラ! 大丈夫!?」
私の『金貨三百枚』の叫び声を聞いたフランが、何事が起きたのかと工房に駆けつけた。
フランの背後から、リアムが顔を覗かせる。
ルーカス様が訪れたことを知ったリアムは、上級精霊【風の乙女】を召喚し、ドンパチやらかしたというのに、顔色ひとつ変えずにやってきた。
――これが天才ですか。
こっちは強風の巻き添えをくらって、髪の毛がボサッとしていたけど、リアムの黒髪はサラサラで、涼しい顔をしている。
「無事か?」
「無事じゃないです……。金貨三百枚……」
リアムはいつもの軍服ではなく、黒髪を後ろに結び、黒いシャツとズボン、コートを着ていた。
コートは豪華だけど、急な外出で適当な黒のコートを選んでここに向かったのだとわかる。
魔石はベルトとネックレスだけで、簡素なもの。
第二王子だけど、リアムは宮廷魔術師として働いていて忙しい。
今日は貴重なお休みだったのだとわかる。
寝起きなのか、とても不機嫌そうだ。
「金の話より、体の話だ。指の一本も欠けてないだろうな?」
「爪の先さえ欠けてないですよ。それより、お金ですよ! お・か・ね!」
「おい……。仮にも元旦那の第一王子が来てたんだぞ。他に言うことがあるだろうが!」
金貨三百枚の衝撃で、ルーカス様の存在は、私の中でミジンコくらいまで、小さな存在になった。
高額な土地使用料で、魔道具が高級だった理由も、ルーカス様が余裕だったのも、ようやく理解できた。
王の領地――それも王都で商売をする商人たちは、それに見合った金額のお金を納めているのだ。
魔道具師がなかなか独立できないのもわかる。
お金持ちのお得意様がいない限り、金貨三百枚なんて毎月稼げない。
それに、店の経営、自分の生活、新しい商品の開発と、お金はどれだけあっても足りない気がする。
「なんだ。土地使用料のことか」
リアムが書面を眺め、私の状況を理解したようだ。
でも、私の衝撃がまるで伝わっていない。
フランは書面を見て、ぶるぶる震えだした。
「き、き、金貨三百枚!? すごい大金じゃん!」
フランは私と同じくらい驚いていた。
その反応が、リアムを見た後だからか、可愛く思えた。
正直、お店のピンチなんだから、これくらい驚いてほしい。
「金貨三百枚は魔道具師なら普通だな」
「ふ、普通!? リアムは支払えるっていうの?」
「当たり前だろ」
【風の乙女】はリアムが近づくとお辞儀し、役目を終えたとばかりに、その姿を消した。
上級精霊にお辞儀される存在に、普通を語られたくない(やさぐれ)。
「だが、裏通りの店を持つ商人たちは、金貨十枚から三十枚が相場だ。ここは端であることと、魔道具師を名乗ることを考えたら、金貨三十枚から百枚といいうところか」
金貨百枚なんて、売り上げのほとんどである。
支払えないことはないけど、稼いだ半分以上を王家に徴収されてしまう。
「正当な金額にしてもらえるよう王宮にかけあえよ」
「そんなことできるんですか?」
「商人ギルドに申請すればいい。商人ギルドは商人たちで作る組合で、法律にも詳しく、不当な取引に対して仲介に入ってくれる」
さすが商人たちは抜け目がないというか、色々な国で商売をしているだけあって、たくましい。
うっかり私は言われるがまま、金貨三百枚を支払うところだった。
「リアム、教えてくれてありがとうございます」
最高額で金貨百枚――厳しい金額ではあるけど、なんとかできそうな金額になって、ホッと胸をなでおろした。
知らなかったら、金貨三百枚の前に燃えカスとなり、しばらく動けなかったかもしれない。
……金貨百枚でも、じゅうぶん精神的ダメージを受けたけど。
「節約しながら、新しい商品の開発に乗り出します」
「それがいいだろうな。魔道具師なら、魔道具を売ったほうが利益がでかい。で、なにを作るつもりだ? アクセサリーか? 小物類か?」
「いいえ。私はファルクさんの店にあったような魔道具を売るつもりはありません。この場所であの金額は高すぎます」
「それなら、なにを売るんだ? 今の商売だけで、やっていけないとわかっただろう?」
リアムの言う通り、リサイクルショップだけでは、金貨百枚の土地使用料を支払っていくには厳しい。
けれど、私の店は裏通りでも奥まった場所で、王都の外に近い。
王都の端にある小さな店に、魔道具を買い求める層が、わざわざ足を運ぼうと思うだろうか。
「私の店の客層は、労働者や商人の奥様たちです。日常的に使える実用的な商品でなくては、買ってもらえないでしょう」
「客層か……。安く売りたいのはわかるが、魔道具に欠かせない魔石は、言うほど安くないぞ」
「そうです。ですから、魔石を多く必要とする大きな魔道具は作れません」
けれど、最初の商品が肝心である。
店の雰囲気とあっていて、修復した品々を物色しつつ、購入してもいいかなと思えるような物がいい。
「手軽で便利で、女の人が欲しくなるもの……」
「あのさ。サーラ、もっと商品を高くしたらどうかな? 魔石で前より頑丈になってるのにさ。その分、値段をあげてないし、安すぎるよ」
フランの言うことは、もっともだったけど、私は自分の店をどんな店にしたいかと考えた時、大通りにあった魔道具店ではなかった。
「フラン。私の魔道具店は、どんな人でも気軽に入れる店にしたいんです。獣人であっても、帽子で耳を隠さずに入れる店です」
「獣人でも……」
フランが感動している隙に、どさくさに紛れて耳をなでた。
茶色の犬耳がぴょこぴょこ動いて可愛い。
「悪くないな」
リアムは私の理想とする店を聞いて、滅多に見せることのない笑みを見せた。
「サーラはさ、獣人にも魔道具を売って、使えるようにするってこと?」
「そうですよ。いろんな人が、お店に来てくれたほうが、賑やかで楽しいじゃないですか」
シバタルイ時代、私は幼い頃から病弱で、部屋に一人でいることが多かった。
だから、お店にたくさんの人が来てくれて、笑っている顔を見るのが、とても嬉しい。
特別な日でなくても、気づけば人が集まってくる――そういう店にしたいのだ。
「客層は広い方がいい」
いつも気むずかしい顔をしているリアムまで、賛成してくれた。
それで、私は気を良くして、リアムを夕食に誘った。
「リアム。よかったら、夕食を食べていきませんか?」
「夕食を?」
「ルーカス様から助けていただいたお礼です。あっ! でも、そんな豪華な食事ではないんですけど……」
誘ってから気づいたけど、リアムはこう見えても王子である。
高級食材じゃないと駄目とか、毒味役がいるとか、制限があるかもしれない。
「食材は裏通りの市場で購入したもので、とても新鮮なんですよ。だから、安心して食べられます!」
裏通りの市場は、大通りの店と違って、自由で活気があり、種類も豊富で他国の物も簡単に手に入る。
大通りは貴族御用達の商品が多く、食材はヴィフレア王国で採れたものがほとんどだ。
私は安くて種類豊富な裏通りの市場を利用している。
「食べ物にこだわりはない。魔術師として、王都以外にいることも多いからな」
「そうなんですか?」
十年前のサーラの記憶では、十二歳のリアムは、王都から出ない箱入りのお坊っちゃまなイメージだった。
私が言わんとしていることに気づいたらしく、不機嫌そうな顔をした。
「今は宮廷魔術師として、依頼があれば、どこにでも出向いている。昔とは違う」
「大人になったんですね」
「お前は俺より年下になったけどな」
私、年上なんですけどね。
シバタルイはリアムより、二つ年上の二十四歳である。
でも、リアムはサーラでいてほしいと思っているようだったので、それを言わなかった。
「それじゃあ、夕食の用意をします。フラン、お皿を並べてください」
「うん。わかった。今日はなんのメニュー?」
「フランが好きなビーフシチューですよ。もちろん、肉も野菜も大きめです」
「うわぁ。サーラ、ごちそうだね!」
「おい、待て。なにが節約だ! 全然節約できてないぞ!」
リアムは私たちの食生活の変化に気づいてしまたようだ。
リサイクルショップを初めてから、家計に余裕ができたため、食費にお金をかなり振っていた。
土地使用料が、必要だと知らなかったからだけど……
「長時間、しっかり煮込んだから美味しいですよ。ビーフシチューを作るのに、火の魔石を使ったんですが、悔いなし!」
長時間煮込んだビーフシチューは、工房で作業しているからこそ、作れる料理だった。
それも燃料は薪ではなく、火の魔石である。
さすがに石ころクラスの魔石では、お湯も沸かせないから、店に行って購入したけど、火を起こす必要がないから、とても便利だ。
「でも、しばらくはビーフシチューもお預けですね」
玉ねぎとニンジンは、スプーンをいれるとトロッと溶けた。
肉と野菜のの旨味が絡み合い、最高に美味しく仕上がっている。
それぞれの皿に、これでもかというくらい大盛りにして盛り付けた。
リアムもビーフシチューを一口食べると、美味しかったらしく、険しい表情をやわらげた。
「たしかにうまいが、生活レベルを考えると、中級クラスの魔石を購入するのは、厳しかっただろう?」
「なに言ってるんですか! 私は日常生活が、少しでも楽になるのなら、無理をしてでも買いますよ。ここの生活は大変なんです!」
異世界に召喚された私は、この世界で生活し、とても便利な世界で生きていたのだと実感した。
火を起こしたり、水を汲んだりしなくてよかっただけでも、貴族のような生活だ。
「魔石がなくても楽に暮らせるって素晴らしい……あれ? 魔石が なくても楽?」
そういえば、シバタルイの世界には魔石がなくても不便ではなかった。
それは便利な道具がたくさんあったからである。
鍋ひとつにとっても、そうだった。
「鍋……。鍋を便利にすれば、燃料の節約になる……」
じっと、ビーフシチューが入った鍋を見つめた。
「これです!」
椅子から立ち上がって叫んだ。
「私、鍋を売ります!」
毎月金貨百枚の支払いのための新商品。
それは、鍋!
リアムとフランは、ビーフシチューがたっぷり入った大鍋を眺めていたけど、私がなにをするかわからず、不思議そうな顔で私を見ていた。
私の『金貨三百枚』の叫び声を聞いたフランが、何事が起きたのかと工房に駆けつけた。
フランの背後から、リアムが顔を覗かせる。
ルーカス様が訪れたことを知ったリアムは、上級精霊【風の乙女】を召喚し、ドンパチやらかしたというのに、顔色ひとつ変えずにやってきた。
――これが天才ですか。
こっちは強風の巻き添えをくらって、髪の毛がボサッとしていたけど、リアムの黒髪はサラサラで、涼しい顔をしている。
「無事か?」
「無事じゃないです……。金貨三百枚……」
リアムはいつもの軍服ではなく、黒髪を後ろに結び、黒いシャツとズボン、コートを着ていた。
コートは豪華だけど、急な外出で適当な黒のコートを選んでここに向かったのだとわかる。
魔石はベルトとネックレスだけで、簡素なもの。
第二王子だけど、リアムは宮廷魔術師として働いていて忙しい。
今日は貴重なお休みだったのだとわかる。
寝起きなのか、とても不機嫌そうだ。
「金の話より、体の話だ。指の一本も欠けてないだろうな?」
「爪の先さえ欠けてないですよ。それより、お金ですよ! お・か・ね!」
「おい……。仮にも元旦那の第一王子が来てたんだぞ。他に言うことがあるだろうが!」
金貨三百枚の衝撃で、ルーカス様の存在は、私の中でミジンコくらいまで、小さな存在になった。
高額な土地使用料で、魔道具が高級だった理由も、ルーカス様が余裕だったのも、ようやく理解できた。
王の領地――それも王都で商売をする商人たちは、それに見合った金額のお金を納めているのだ。
魔道具師がなかなか独立できないのもわかる。
お金持ちのお得意様がいない限り、金貨三百枚なんて毎月稼げない。
それに、店の経営、自分の生活、新しい商品の開発と、お金はどれだけあっても足りない気がする。
「なんだ。土地使用料のことか」
リアムが書面を眺め、私の状況を理解したようだ。
でも、私の衝撃がまるで伝わっていない。
フランは書面を見て、ぶるぶる震えだした。
「き、き、金貨三百枚!? すごい大金じゃん!」
フランは私と同じくらい驚いていた。
その反応が、リアムを見た後だからか、可愛く思えた。
正直、お店のピンチなんだから、これくらい驚いてほしい。
「金貨三百枚は魔道具師なら普通だな」
「ふ、普通!? リアムは支払えるっていうの?」
「当たり前だろ」
【風の乙女】はリアムが近づくとお辞儀し、役目を終えたとばかりに、その姿を消した。
上級精霊にお辞儀される存在に、普通を語られたくない(やさぐれ)。
「だが、裏通りの店を持つ商人たちは、金貨十枚から三十枚が相場だ。ここは端であることと、魔道具師を名乗ることを考えたら、金貨三十枚から百枚といいうところか」
金貨百枚なんて、売り上げのほとんどである。
支払えないことはないけど、稼いだ半分以上を王家に徴収されてしまう。
「正当な金額にしてもらえるよう王宮にかけあえよ」
「そんなことできるんですか?」
「商人ギルドに申請すればいい。商人ギルドは商人たちで作る組合で、法律にも詳しく、不当な取引に対して仲介に入ってくれる」
さすが商人たちは抜け目がないというか、色々な国で商売をしているだけあって、たくましい。
うっかり私は言われるがまま、金貨三百枚を支払うところだった。
「リアム、教えてくれてありがとうございます」
最高額で金貨百枚――厳しい金額ではあるけど、なんとかできそうな金額になって、ホッと胸をなでおろした。
知らなかったら、金貨三百枚の前に燃えカスとなり、しばらく動けなかったかもしれない。
……金貨百枚でも、じゅうぶん精神的ダメージを受けたけど。
「節約しながら、新しい商品の開発に乗り出します」
「それがいいだろうな。魔道具師なら、魔道具を売ったほうが利益がでかい。で、なにを作るつもりだ? アクセサリーか? 小物類か?」
「いいえ。私はファルクさんの店にあったような魔道具を売るつもりはありません。この場所であの金額は高すぎます」
「それなら、なにを売るんだ? 今の商売だけで、やっていけないとわかっただろう?」
リアムの言う通り、リサイクルショップだけでは、金貨百枚の土地使用料を支払っていくには厳しい。
けれど、私の店は裏通りでも奥まった場所で、王都の外に近い。
王都の端にある小さな店に、魔道具を買い求める層が、わざわざ足を運ぼうと思うだろうか。
「私の店の客層は、労働者や商人の奥様たちです。日常的に使える実用的な商品でなくては、買ってもらえないでしょう」
「客層か……。安く売りたいのはわかるが、魔道具に欠かせない魔石は、言うほど安くないぞ」
「そうです。ですから、魔石を多く必要とする大きな魔道具は作れません」
けれど、最初の商品が肝心である。
店の雰囲気とあっていて、修復した品々を物色しつつ、購入してもいいかなと思えるような物がいい。
「手軽で便利で、女の人が欲しくなるもの……」
「あのさ。サーラ、もっと商品を高くしたらどうかな? 魔石で前より頑丈になってるのにさ。その分、値段をあげてないし、安すぎるよ」
フランの言うことは、もっともだったけど、私は自分の店をどんな店にしたいかと考えた時、大通りにあった魔道具店ではなかった。
「フラン。私の魔道具店は、どんな人でも気軽に入れる店にしたいんです。獣人であっても、帽子で耳を隠さずに入れる店です」
「獣人でも……」
フランが感動している隙に、どさくさに紛れて耳をなでた。
茶色の犬耳がぴょこぴょこ動いて可愛い。
「悪くないな」
リアムは私の理想とする店を聞いて、滅多に見せることのない笑みを見せた。
「サーラはさ、獣人にも魔道具を売って、使えるようにするってこと?」
「そうですよ。いろんな人が、お店に来てくれたほうが、賑やかで楽しいじゃないですか」
シバタルイ時代、私は幼い頃から病弱で、部屋に一人でいることが多かった。
だから、お店にたくさんの人が来てくれて、笑っている顔を見るのが、とても嬉しい。
特別な日でなくても、気づけば人が集まってくる――そういう店にしたいのだ。
「客層は広い方がいい」
いつも気むずかしい顔をしているリアムまで、賛成してくれた。
それで、私は気を良くして、リアムを夕食に誘った。
「リアム。よかったら、夕食を食べていきませんか?」
「夕食を?」
「ルーカス様から助けていただいたお礼です。あっ! でも、そんな豪華な食事ではないんですけど……」
誘ってから気づいたけど、リアムはこう見えても王子である。
高級食材じゃないと駄目とか、毒味役がいるとか、制限があるかもしれない。
「食材は裏通りの市場で購入したもので、とても新鮮なんですよ。だから、安心して食べられます!」
裏通りの市場は、大通りの店と違って、自由で活気があり、種類も豊富で他国の物も簡単に手に入る。
大通りは貴族御用達の商品が多く、食材はヴィフレア王国で採れたものがほとんどだ。
私は安くて種類豊富な裏通りの市場を利用している。
「食べ物にこだわりはない。魔術師として、王都以外にいることも多いからな」
「そうなんですか?」
十年前のサーラの記憶では、十二歳のリアムは、王都から出ない箱入りのお坊っちゃまなイメージだった。
私が言わんとしていることに気づいたらしく、不機嫌そうな顔をした。
「今は宮廷魔術師として、依頼があれば、どこにでも出向いている。昔とは違う」
「大人になったんですね」
「お前は俺より年下になったけどな」
私、年上なんですけどね。
シバタルイはリアムより、二つ年上の二十四歳である。
でも、リアムはサーラでいてほしいと思っているようだったので、それを言わなかった。
「それじゃあ、夕食の用意をします。フラン、お皿を並べてください」
「うん。わかった。今日はなんのメニュー?」
「フランが好きなビーフシチューですよ。もちろん、肉も野菜も大きめです」
「うわぁ。サーラ、ごちそうだね!」
「おい、待て。なにが節約だ! 全然節約できてないぞ!」
リアムは私たちの食生活の変化に気づいてしまたようだ。
リサイクルショップを初めてから、家計に余裕ができたため、食費にお金をかなり振っていた。
土地使用料が、必要だと知らなかったからだけど……
「長時間、しっかり煮込んだから美味しいですよ。ビーフシチューを作るのに、火の魔石を使ったんですが、悔いなし!」
長時間煮込んだビーフシチューは、工房で作業しているからこそ、作れる料理だった。
それも燃料は薪ではなく、火の魔石である。
さすがに石ころクラスの魔石では、お湯も沸かせないから、店に行って購入したけど、火を起こす必要がないから、とても便利だ。
「でも、しばらくはビーフシチューもお預けですね」
玉ねぎとニンジンは、スプーンをいれるとトロッと溶けた。
肉と野菜のの旨味が絡み合い、最高に美味しく仕上がっている。
それぞれの皿に、これでもかというくらい大盛りにして盛り付けた。
リアムもビーフシチューを一口食べると、美味しかったらしく、険しい表情をやわらげた。
「たしかにうまいが、生活レベルを考えると、中級クラスの魔石を購入するのは、厳しかっただろう?」
「なに言ってるんですか! 私は日常生活が、少しでも楽になるのなら、無理をしてでも買いますよ。ここの生活は大変なんです!」
異世界に召喚された私は、この世界で生活し、とても便利な世界で生きていたのだと実感した。
火を起こしたり、水を汲んだりしなくてよかっただけでも、貴族のような生活だ。
「魔石がなくても楽に暮らせるって素晴らしい……あれ? 魔石が なくても楽?」
そういえば、シバタルイの世界には魔石がなくても不便ではなかった。
それは便利な道具がたくさんあったからである。
鍋ひとつにとっても、そうだった。
「鍋……。鍋を便利にすれば、燃料の節約になる……」
じっと、ビーフシチューが入った鍋を見つめた。
「これです!」
椅子から立ち上がって叫んだ。
「私、鍋を売ります!」
毎月金貨百枚の支払いのための新商品。
それは、鍋!
リアムとフランは、ビーフシチューがたっぷり入った大鍋を眺めていたけど、私がなにをするかわからず、不思議そうな顔で私を見ていた。
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