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第二章
21 兄たちの卑怯な思惑(3)
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「レジェス様。これは罠です。私を助けないでください!」
私を助けにきたら、必ず命を落とす。
だから、私を助けに来てはいけない。
助けない選択肢が、レジェスの命を救う唯一の方法だった。
「そんなわけにいくか!」
「私はレジェス様に王になってほしいんです!」
こんな卑怯な真似をする王子たちが王になれば、アギラカリサ王国の民は不幸になる。
この国の民だけじゃない。
オルテンシア王国もマーレア諸島の人々もひどい目にあう!
「俺の妃なると、父上と約束したくせに死ぬつもりか?」
「えっ!? ど、どうしてそれを!?」
「誰を妃にしたいか、父上に問われた。俺はルナリアを妃にしたいと答えたぞ」
私が国王陛下に謁見する前に、レジェスが先に話をしていたのだ。
「レジェス様……」
船の縁をぎゅっとつかんで、矢に当たらぬよう身を低くした。
せめてもの抵抗だ。
二番目の姫だから、誰からも愛されないと思っていた。
レジェスが妃に望んでくれたと知って、とても嬉しかった。
――私、少しは運命を変えられたよね?
今まで頑張ってきてよかったと思えた。
「その言葉だけでじゅうぶんです。人を呼んできてください。レジェス様が敵を倒すまで、私はこうして身を守ってますから、大丈夫です!」
それでは私が助からないとわかったレジェスは、船に足をかけ、こちらへ来ようとしていた。
「レジェス様! ダメです!」
紫色の瞳が怒りで燃えている。
「ふざけるな。十二歳の少女一人助けられず、王になどなれるか!」
レジェスが私のところへ向かったからか、私のところへ矢が飛んでくることはなくなった。
でも、それと同時に狙いはレジェスに変わり、向こう側に矢が放たれるのがわかった。
ここで死ぬはずのないレジェス。
私がストーリーを変えたから、こんなことになっているのだ。
四年後、セレステが婚約者になっていたら、レジェスは死ぬことはなかった。
――私が死んでもレジェスだけは助けたい!
そう思った瞬間、私を中心に黒い霧が生まれた。
「え? 黒い霧?」
黒い霧は辺りを覆うようにして広がり、夜と同じ暗闇を作り出す。
闇は私とレジェスの姿を隠した。
標的が闇の中に隠れ、見えなくなったため、攻撃の手が止まった。
「これは闇の巫女の力……?」
――こんなことって……。私が闇を生み出す力に目覚めるのは十六歳のはず。
闇は日差しを遮り、私の周囲は真っ暗だった。
「ルナリア、怪我はないか?」
闇の中でも視力を失わないレジェスは、私が乗っていた船まで辿り着くと、自分の船に乗せた。
「わ、私……」
「どうした? 怖かったのか?」
私は闇の力に目覚めてしまった。
レジェスだけでなく、暗殺者たちに闇を生み出す姿を見られてしまい、隠すのは不可能。
忌み嫌われる闇の力を知られてしまった。
――物語と同じように牢屋に放り込まれて、私は死ぬの?
怖くてレジェスの顔を見れなかった。
レジェスはきっと私を嫌う。
嫌うのはレジェスだけじゃない。
シモン先生もティアも、みんな私を怖がって忌み嫌われる。
「ご、ごめんなさい。私、闇の力を使うつもりはなかったんです」
無害だと思ってもらわなくては、きっと私は殺される。
「これがオルテンシア王国に伝わる闇の巫女の力か」
「忌まわしい力ですが、誰にも危害を加えたりしません。だから……」
レジェスが私の頬を両手で包み込む。
「落ち着け。なにを言ってる。これは俺を救った闇だ。お前の力は俺を救える」
「レジェス様を救える……?」
「そうだ。お前なら見えるだろう? 見てるといい」
矢筒から矢を取りだし、弓矢を構えたレジェスは、森の中の時と同じように暗殺者に向けて矢を射る。
悲鳴と混乱の声が響く。
すべての暗殺者が倒れた時、闇は消え、池の上に私とレジェス様だけが残った。
「これで、俺以外は誰も知らない。巫女の力を知られなくないのだろう?」
「はい……」
「そうか。だから、ルナリアはアギラカリサの巫女に会いたかったんだな」
アギラカリサ王宮にいるという力を封じるという巫女。
その巫女に力を封じてもらえたら、私は死なずに済むはずだった。
レジェスが優しく私の頭をなでた。
「その力は大事な力だ。封じる必要はない」
「でも、暴走してしまったら……!」
「俺がルナリアを止めてやる。俺は闇の中でもお前が見えるんだぞ?」
すでに闇は晴れ、清々しい青い空が頭上に広がっていた。
その空を仰ぐ姿は王そのもの。
「レジェス! こんなところにいたのか!」
「フリアンか。お前はルナリアを探す天才だな」
「なに言ってるんだ。もう出発だっていうのに、ルナリアと船に乗って遊んでいる場合じゃないだろう?」
フリアンも探していたようで、私とレジェスを見つけ、岸辺から呼んでいる。
「あの、レジェス様……」
「わかっている。俺は誰にも言わない。お前が俺の瞳のことを黙っているように、お互い秘密にしよう」
「ありがとうございます……」
レジェスは私の涙をぬぐった。
涙をぬぐわれるまで、私は自分が泣いていたことにも気づかなかった。
「ルナリアはずっと闇の巫女になるのを恐れていたんだな」
「はい……」
本当は違うけど、おおまかにはそういうことだ。
闇の力さえ暴走しなければ、私は死なずに済むのだから。
船を戻し、フリアンと合流する。
「俺は遊んでいない」
「そうみたいだね……」
フリアンは草むらに倒れる暗殺者を目にし、苦笑した。
「レジェスは恨みを買いすぎだ。ルナリアを巻き込んでもらっては困る」
「悪い。だが、ちゃんと守ったぞ」
「当たり前だ。だいたい君は……!」
近くで草むらを誰かが這う音がし、フリアンが言葉を止めた。
まだ生きている暗殺者がいたようで、フリアンが剣を抜いた。
レジェスはフリアンを手で制す。
「待て。フリアン。とどめを刺す必要はない」
もうほとんど息がなく、大量の血を流し、助からないとわかる。
暗殺者は最後の力を振り絞り、言葉を発した。
「セレステ様……申し訳ありませ……」
死に際に口にした名はセレステの名前と謝罪だった。
「フリアン。今、セレステと言ったのを聞いたか?」
「あ、ああ……。聞いた」
私の聞き間違えではなかった。
フリアンもレジェスも同じように聞こえていたのだ。
死体から覆面をはぎとり、フリアンは顔を確認する。
「男爵家の息子だ。セレステ様に好意を持ち、付きまとっていたな」
「兄上たちが暗殺者を集めた時、紛れ込んだのだろう。身元を調べず、手当たり次第に雇っているのを考えたら、兄上たちは手駒不足だな」
フリアンは混乱し、青ざめた顔で言った。
「セレステ様はなぜこんなことを……」
「わからないか? 俺はわかる。兄上から命を狙われていたからな」
「セレステ様がアギラカリサの王子と同じ!? そんなわけが……!」
「マーレア諸島との外交をルナリアが成功させれば、自分の立場が危うくなる」
――私が邪魔だったんだわ。
水路に突き落とされた時と同じ。
セレステには私への殺意がある。
フリアンはショックだったようで、ぐしゃりと前髪を潰した。
「嫉妬したとしても、ルナリアの命を狙うなんて……」
フリアンのセレステへの失望が感じられた。
「こいつを証拠に連れて戻ったとしても、知らない、勝手にやったと言われたらそれまでだ」
――死人に口なし。
セレステがレジェスの強さをわかっているなら、命を落とす可能性も考えていたはずだ。
自分を盲目的に愛する男爵家の息子をそそのかし、私だけをうまく殺そうとした。
私が闇の力に目覚めなかったら、死んでいたと思う。
「お父様もお母様もセレステを一番に考えてます。善良なセレステが、私を殺そうとするわけないと言うでしょう」
「たとえ、僕がオルテンシア王国に戻り、証人になったとしても誰も信じないだろうね」
物語の強制力もあって、セレステの人気は高い。
一番を約束された王女セレステ。
私とは違う。
フリアンは悔しそうにうつむいた。
レジェスは少し考えてから、私に言った。
「ルナリア。俺の領地に来るか?」
「え……?」
レジェスは私に手を差し出す。
きっとレジェスは私を守ってくれるだろう。
――私はレジェスといたい。
でも、私にはマーレア諸島との外交がある。
中途半端にしたら、アギラカリサ王もクア族のルオンも二度と信用してくれなくなる。
自分の命を救うために頑張ってきたけれど、アギラカリサへ来て、私の世界は広がった。
シモン先生だけじゃなく、物語に関係ない人たちとの出会い。
その人たちの信頼を裏切るわけにはいかなかった。
「レジェス様。私は一緒にいけません」
差し出された手をとることなく、そのまま自分の手を握りしめた。
「私はオルテンシア王国へ戻ります」
本当はレジェスと一緒にいたい。
私を守り、闇の力を秘密にしてくれた。
強くて優しくて、私の特別な人。
「……戻るか」
「はい」
戻ると決めた私を止めなかった。
レジェスも私がオルテンシア王国に戻るのが最善だとわかっているのだ。
「ルナリアのことは僕が守るよ」
フリアンはレジェスに言った。
「オルテンシア王国のことは、僕に任せてほしい。君はアギラカリサの王位を目指すんだから、ルナリアに構っていられないはずだ」
レジェスはなにも言わず、静かに微笑み、差し出した手を静かに下ろした。
「レジェス様にはたくさん助けていただきました。いつか、このご恩をお返しします」
今、私に生き延びる以外の夢ができた。
十六歳になって、私が死なずにいられたら、王を目指すレジェスの力になりたい。
きっとあなたが王になるはずだから。
アギラカリサの王。
私の大切な人――
私を助けにきたら、必ず命を落とす。
だから、私を助けに来てはいけない。
助けない選択肢が、レジェスの命を救う唯一の方法だった。
「そんなわけにいくか!」
「私はレジェス様に王になってほしいんです!」
こんな卑怯な真似をする王子たちが王になれば、アギラカリサ王国の民は不幸になる。
この国の民だけじゃない。
オルテンシア王国もマーレア諸島の人々もひどい目にあう!
「俺の妃なると、父上と約束したくせに死ぬつもりか?」
「えっ!? ど、どうしてそれを!?」
「誰を妃にしたいか、父上に問われた。俺はルナリアを妃にしたいと答えたぞ」
私が国王陛下に謁見する前に、レジェスが先に話をしていたのだ。
「レジェス様……」
船の縁をぎゅっとつかんで、矢に当たらぬよう身を低くした。
せめてもの抵抗だ。
二番目の姫だから、誰からも愛されないと思っていた。
レジェスが妃に望んでくれたと知って、とても嬉しかった。
――私、少しは運命を変えられたよね?
今まで頑張ってきてよかったと思えた。
「その言葉だけでじゅうぶんです。人を呼んできてください。レジェス様が敵を倒すまで、私はこうして身を守ってますから、大丈夫です!」
それでは私が助からないとわかったレジェスは、船に足をかけ、こちらへ来ようとしていた。
「レジェス様! ダメです!」
紫色の瞳が怒りで燃えている。
「ふざけるな。十二歳の少女一人助けられず、王になどなれるか!」
レジェスが私のところへ向かったからか、私のところへ矢が飛んでくることはなくなった。
でも、それと同時に狙いはレジェスに変わり、向こう側に矢が放たれるのがわかった。
ここで死ぬはずのないレジェス。
私がストーリーを変えたから、こんなことになっているのだ。
四年後、セレステが婚約者になっていたら、レジェスは死ぬことはなかった。
――私が死んでもレジェスだけは助けたい!
そう思った瞬間、私を中心に黒い霧が生まれた。
「え? 黒い霧?」
黒い霧は辺りを覆うようにして広がり、夜と同じ暗闇を作り出す。
闇は私とレジェスの姿を隠した。
標的が闇の中に隠れ、見えなくなったため、攻撃の手が止まった。
「これは闇の巫女の力……?」
――こんなことって……。私が闇を生み出す力に目覚めるのは十六歳のはず。
闇は日差しを遮り、私の周囲は真っ暗だった。
「ルナリア、怪我はないか?」
闇の中でも視力を失わないレジェスは、私が乗っていた船まで辿り着くと、自分の船に乗せた。
「わ、私……」
「どうした? 怖かったのか?」
私は闇の力に目覚めてしまった。
レジェスだけでなく、暗殺者たちに闇を生み出す姿を見られてしまい、隠すのは不可能。
忌み嫌われる闇の力を知られてしまった。
――物語と同じように牢屋に放り込まれて、私は死ぬの?
怖くてレジェスの顔を見れなかった。
レジェスはきっと私を嫌う。
嫌うのはレジェスだけじゃない。
シモン先生もティアも、みんな私を怖がって忌み嫌われる。
「ご、ごめんなさい。私、闇の力を使うつもりはなかったんです」
無害だと思ってもらわなくては、きっと私は殺される。
「これがオルテンシア王国に伝わる闇の巫女の力か」
「忌まわしい力ですが、誰にも危害を加えたりしません。だから……」
レジェスが私の頬を両手で包み込む。
「落ち着け。なにを言ってる。これは俺を救った闇だ。お前の力は俺を救える」
「レジェス様を救える……?」
「そうだ。お前なら見えるだろう? 見てるといい」
矢筒から矢を取りだし、弓矢を構えたレジェスは、森の中の時と同じように暗殺者に向けて矢を射る。
悲鳴と混乱の声が響く。
すべての暗殺者が倒れた時、闇は消え、池の上に私とレジェス様だけが残った。
「これで、俺以外は誰も知らない。巫女の力を知られなくないのだろう?」
「はい……」
「そうか。だから、ルナリアはアギラカリサの巫女に会いたかったんだな」
アギラカリサ王宮にいるという力を封じるという巫女。
その巫女に力を封じてもらえたら、私は死なずに済むはずだった。
レジェスが優しく私の頭をなでた。
「その力は大事な力だ。封じる必要はない」
「でも、暴走してしまったら……!」
「俺がルナリアを止めてやる。俺は闇の中でもお前が見えるんだぞ?」
すでに闇は晴れ、清々しい青い空が頭上に広がっていた。
その空を仰ぐ姿は王そのもの。
「レジェス! こんなところにいたのか!」
「フリアンか。お前はルナリアを探す天才だな」
「なに言ってるんだ。もう出発だっていうのに、ルナリアと船に乗って遊んでいる場合じゃないだろう?」
フリアンも探していたようで、私とレジェスを見つけ、岸辺から呼んでいる。
「あの、レジェス様……」
「わかっている。俺は誰にも言わない。お前が俺の瞳のことを黙っているように、お互い秘密にしよう」
「ありがとうございます……」
レジェスは私の涙をぬぐった。
涙をぬぐわれるまで、私は自分が泣いていたことにも気づかなかった。
「ルナリアはずっと闇の巫女になるのを恐れていたんだな」
「はい……」
本当は違うけど、おおまかにはそういうことだ。
闇の力さえ暴走しなければ、私は死なずに済むのだから。
船を戻し、フリアンと合流する。
「俺は遊んでいない」
「そうみたいだね……」
フリアンは草むらに倒れる暗殺者を目にし、苦笑した。
「レジェスは恨みを買いすぎだ。ルナリアを巻き込んでもらっては困る」
「悪い。だが、ちゃんと守ったぞ」
「当たり前だ。だいたい君は……!」
近くで草むらを誰かが這う音がし、フリアンが言葉を止めた。
まだ生きている暗殺者がいたようで、フリアンが剣を抜いた。
レジェスはフリアンを手で制す。
「待て。フリアン。とどめを刺す必要はない」
もうほとんど息がなく、大量の血を流し、助からないとわかる。
暗殺者は最後の力を振り絞り、言葉を発した。
「セレステ様……申し訳ありませ……」
死に際に口にした名はセレステの名前と謝罪だった。
「フリアン。今、セレステと言ったのを聞いたか?」
「あ、ああ……。聞いた」
私の聞き間違えではなかった。
フリアンもレジェスも同じように聞こえていたのだ。
死体から覆面をはぎとり、フリアンは顔を確認する。
「男爵家の息子だ。セレステ様に好意を持ち、付きまとっていたな」
「兄上たちが暗殺者を集めた時、紛れ込んだのだろう。身元を調べず、手当たり次第に雇っているのを考えたら、兄上たちは手駒不足だな」
フリアンは混乱し、青ざめた顔で言った。
「セレステ様はなぜこんなことを……」
「わからないか? 俺はわかる。兄上から命を狙われていたからな」
「セレステ様がアギラカリサの王子と同じ!? そんなわけが……!」
「マーレア諸島との外交をルナリアが成功させれば、自分の立場が危うくなる」
――私が邪魔だったんだわ。
水路に突き落とされた時と同じ。
セレステには私への殺意がある。
フリアンはショックだったようで、ぐしゃりと前髪を潰した。
「嫉妬したとしても、ルナリアの命を狙うなんて……」
フリアンのセレステへの失望が感じられた。
「こいつを証拠に連れて戻ったとしても、知らない、勝手にやったと言われたらそれまでだ」
――死人に口なし。
セレステがレジェスの強さをわかっているなら、命を落とす可能性も考えていたはずだ。
自分を盲目的に愛する男爵家の息子をそそのかし、私だけをうまく殺そうとした。
私が闇の力に目覚めなかったら、死んでいたと思う。
「お父様もお母様もセレステを一番に考えてます。善良なセレステが、私を殺そうとするわけないと言うでしょう」
「たとえ、僕がオルテンシア王国に戻り、証人になったとしても誰も信じないだろうね」
物語の強制力もあって、セレステの人気は高い。
一番を約束された王女セレステ。
私とは違う。
フリアンは悔しそうにうつむいた。
レジェスは少し考えてから、私に言った。
「ルナリア。俺の領地に来るか?」
「え……?」
レジェスは私に手を差し出す。
きっとレジェスは私を守ってくれるだろう。
――私はレジェスといたい。
でも、私にはマーレア諸島との外交がある。
中途半端にしたら、アギラカリサ王もクア族のルオンも二度と信用してくれなくなる。
自分の命を救うために頑張ってきたけれど、アギラカリサへ来て、私の世界は広がった。
シモン先生だけじゃなく、物語に関係ない人たちとの出会い。
その人たちの信頼を裏切るわけにはいかなかった。
「レジェス様。私は一緒にいけません」
差し出された手をとることなく、そのまま自分の手を握りしめた。
「私はオルテンシア王国へ戻ります」
本当はレジェスと一緒にいたい。
私を守り、闇の力を秘密にしてくれた。
強くて優しくて、私の特別な人。
「……戻るか」
「はい」
戻ると決めた私を止めなかった。
レジェスも私がオルテンシア王国に戻るのが最善だとわかっているのだ。
「ルナリアのことは僕が守るよ」
フリアンはレジェスに言った。
「オルテンシア王国のことは、僕に任せてほしい。君はアギラカリサの王位を目指すんだから、ルナリアに構っていられないはずだ」
レジェスはなにも言わず、静かに微笑み、差し出した手を静かに下ろした。
「レジェス様にはたくさん助けていただきました。いつか、このご恩をお返しします」
今、私に生き延びる以外の夢ができた。
十六歳になって、私が死なずにいられたら、王を目指すレジェスの力になりたい。
きっとあなたが王になるはずだから。
アギラカリサの王。
私の大切な人――
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