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第三章

30 明かされる秘密

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 シモン先生とティアに感謝の気持ちと別れを告げて、レジェス様の元へ走っていく。
 十二歳の時、初めて国の外に出た私のドキドキした気持ちと同じくらいワクワクしていた。

「レジェス様! お待たせしました」
「挨拶は済んだのか」
「はい!」

 アギラカリサの巫女の印を隠す額飾りと軽いドレス。
 これから、私が暮らすのは南のアレナ地方。
 そこは暑いそうだから、もっと軽いドレスがいいそうだ。
 アレナ地方へ行くのは初めてで、とても楽しみだった。
 もちろん、アギラカリサ王への挨拶が先だ。

「よく似合ってる」
「ありがとうございます。ティアたちもとても褒めてくれました」 

 レジェスが持ってきたアギラカリサのドレスとアクセサリーは、私にぴったりだった。
 額飾りだけは、急だったから、あるものになってしまったけど。

「レジェス。お前は本当に腹黒い。最初から、女王にさせる気などなかっただろう?」

 ルオンは笑いながら、レジェスの肩に手を置く。

「着替えまで用意して、お前のほうが悪党だ」
「ただのプレゼントだ」
「よく言う」

 レジェスは目を細め、私の額飾りに触れて指でなぞった。

「巫女の印も役に立つ。これを見た時、父上はさぞかし驚くことだろうな」

 出し抜いたレジェスを怒らず、アギラカリサ王なら、面白いと大笑いして喜ぶと思う。
 
「フリアンはどうした?」
「……わかりません。話をしようと思ったのですけど、会えていないんです」
「そうか」

 今まで私の護衛としてそばにいたフリアン。
 フリアンにも感謝と別れを告げて旅立ちたいと思っていた。
 けれど、返ってきたのは『忙しい』という返事で、会ってくれそうにない。
 
 ――こんなギクシャクしたまま、フリアンと別れたくなかったけれど……
 
 それだけが心残りだった。
 
「フリアンとは、これが最後じゃない。また改めてここへ来よう」
「はい……」

 私だけでなく、レジェスにとっても大切な友人のフリアン。
 気まずいままでいたくないのは、同じ気持ちだった。
 私たちの出発まであと少し。
 王宮前は大勢の人が行き来し、馬車や馬、護衛と侍女が集まってくる。
 オルテンシア王国の者だけでなく、ルオンを護衛するマーレア諸島の人間もいた。
 私とレジェスはアギラカリサへ。
 ルオンとスサナはマーレア諸島へ向かうため、それぞれ違う旅の準備が必要だった。

「なんて騒々しいの! 具合が悪くなってしまうわ」
「王妃。無理に見送らなくていいと言っただろう?」
「わたくしは王妃です。ですから、務めは果たします」

 私たちを見送るため、お母様とお父様が現れた。
 お母様は体調が悪いというのは本当で、セレステが王位継承権を放棄してから、ずっと寝込んでいたためだった。
 食事もまともにとれないくらいショックだったようで、かなり痩せてしまった。

 ――見送りに来てくれただけで奇跡だわ。

 王妃としてのプライドだけが、今のお母様を支えている。
 私を愛せなかったお母様。
 それでも、今、見送りに立ってくれたことに感謝しようと思った。

「お父様、お母様。今までありがとうございました。どうかお元気でお過ごしください」

 お父様は涙ぐみ、お母様は険しい顔をしていたけど、小さくうなずいた。
 挨拶をしてから、セレステの姿が見えないことに気づいた。
 お父様たちと一緒に来るものだと思っていたけど……

 ――セレステは?

 光の巫女の服に包まれたセレステが、神殿の方角から現れた。
 周囲には僧兵を連れ、ものものしい雰囲気だった。
 ルオンが笑って、自分の護衛を数名呼ぶ。

「なんだ。あれは? 戦争でもするのか?」
「あれが光の巫女ですか?」

 アギラカリサの巫女だったスサナは、ひっそり暮らしていたからか、セレステのゴージャスなキラキラぶりに驚いていた。
 気持ちはわかる。
 金のネックレス、金のイヤリング、金のブレスレット。
 光をイメージしているんだろうけど、派手すぎる。
 しかも、いつもより多くて、どうしてあんなに身に付けてきたのか謎である。

「ルナリア」

 セレステは私の前に立ち止まり、名前を呼んでくすりを笑う。
 その顔が自信に満ち、勝ち誇った顔をしていることに気づいた。

「私はあなたの秘密を知っているのよ」
「私の秘密?」

 ――アギラカリサの巫女になったこと?

 でも、それはもう隠していないし、みんなが知っている。
 額飾りをつけているのは、額に星のような紋があると目立つからというだけで、ファッション的な意味合いが大きい。

「とぼけても無駄よ。光の巫女である私を欺けないわ」
「光の巫女様のおっしゃるとおり!」
「禍々しい存在は浄化されるべきでございます」

 僧兵たちが騒いでいるけど、もしかして、セレステは知らないのだろうか。
 私がアギラカリサの巫女になったことを――

「あの、お姉様。実は……」

 説明しようとしたのに、セレステは私の言葉を遮った。
 王宮前にいる誰もが聞こえるであろう大きな声で、セレステは告げる!

「ルナリアは闇の巫女よ!」

 セレステは私に指を突きつけ、得意げな顔をした。

「恐ろしい!」
「闇の巫女め!」

 僧兵たちが騒ぐけど、他の人たちは静かだった。
 それに気づいたセレステが首をかしげた。

「私が言った意味がわからなかったのかしら?」
 
 セレステはそう呟いて、ふたたび大きな声で言った。

「ルナリアは忌まわしい闇の巫女であることを隠して、ここから逃げるつもりでいるわ!」

 僧兵たちが槍を私に向けた瞬間、レジェスとルオンが剣を抜いた。
 レジェスとルオンの護衛が駆けつけるまでもなく、簡単に地面に転がされてしまった。

「レジェス様、ルオン様! どうして、闇の巫女をかばうのですか? 私はこの目で見ました! ルナリアが闇を作り出したところを!」
「これのことですか?」

 薄い闇は涼しい日陰を作り、荷物を積み込んでいた人たちが喜んだ。

「おお! 涼しい!」
「これが闇の力! 助かりますなぁ」

 アギラカリサの巫女の力を継承したおかげで、他の力も使えるようになった。
 風を操り、さわやかな風を送る。

「むう! 昼寝にはちょうどいいですなぁ」
「昼寝用の椅子を持ってきて、休みたいくらいの心地いい風!」

 年老いた大臣たちの昼寝タイムのために日陰を作ったわけではなかったけど、みんなに喜んでもらえたのは嬉しい。

「なかなか便利だな」
「そうですね。便利な力です」

 レジェスも興味津々で、ルオンとスサナも感心していた。

「ほぉー、これが巫女の力か」
「こうやって使うのですね。王宮にずっといたので、力を使う機会がありませんでした。それに、使っても王の命令で力を奪うくらいしか……」

 動揺しているセレステに、お父様が説明する。

「セレステ。ルナリアは闇の巫女ではない。アギラカリサの巫女となったのだ」
「アギラカリサの巫女!?」
「それだけではない。ルナリアはレジェス殿下の妃となった」
「お父様! 私がレジェス様の妃になるのではなかったのですか?」
 
 お父様は黙って首を横に振った。
 お母様はセレステを強く責めた。

「だから、言ったでしょう! 王位継承権を放棄せず、女王になっていれば、こんなことにならなかったのですよ! 結婚もできず、女王にもなれず……なんて情けない……」
「ルナリアがいなくなれば、女王になる人間がいないわ。私しか女王になれない……」 
「なれませんよ。次の王はすでに決まっています」

 セレステの言葉を遮ったのは、シモン先生だった。

「王になるのはフリアン様です」

 シモン先生が告げ、お父様がうなずく。

「セレステ。誰もが王になれるわけではない。フリアンはルナリアとともに各地を巡り、民の生活を豊かにしてくれた」
「私は光の巫女として、王家に尽くしたでしょう!?」
「王が尽くすべきは、王家でなく民なのだ」

 お父様に政治の才能はなかったけど、国民のことはよく考えていたと思う。

「これで、自分の力がわかっただろう? お前は光の巫女として、神殿で穏やかに暮らすのが一番だ」
 
 青ざめた顔でセレステは私を見る。

「ルナリアがいなければよかったのに」

 セレステが本心を口にした。
 今まで、隠し続けていたセレステの本性が見えた気がした。
 セレステは身を翻し、神殿のほうへ走っていった。
 まるで逃げるようにして――シモン先生がレジェスに耳打ちする。

「気をつけてください。セレステ様は常に自分が一番でないと気が済まない方。早くアギラカリサへ向かったほうがよろしいかと」

 なにをたくらんでいるかわからない。
 これで終わりではないと、シモン先生は考えているようだった。

「忠告、感謝する。出発するぞ!」

 レジェスの声に旅の隊列が動き出す。
 それでもまだ、地面に転がっていた僧兵たちが、私に敵意を向けていた。

「闇の巫女め」
「光の女神の罰を受けるがいい!」

 光の巫女の立場を利用し、セレステはなにかたくらんでいるのか、僧兵たちの言葉が出発してからも気になっていた。
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