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第三章
28 物語を越えて
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王宮の庭は紫色のルナリアの花が咲き、白や黄色の野の花とともに咲いていた。
これは庭師が、ルナリアの花が埋もれないよう気遣って、手入れしてくれたおかげだ。
昔なら考えられない配慮で、隣を歩くレジェスが立ち止まり、庭と水路を眺めた。
「こんなに小さい水路だったんだな」
「本当に……。もう落ちても溺れませんね」
「あれは、落ちたのではなく、落とされたのだろう?」
静かな声音でレジェスが言った。
風が小さなルナリアの花を揺らし、私とレジェスの視線が、その花の上で止まる。
「俺が見たのは、ほんの一瞬だ。振り返った時に目の端に映っただけだが、見間違いでなければ、そうではないかと思った」
仰いだレジェスの顔は険しく、紫色の瞳を細め、その疑惑が途中から確信に変わったのだとわかる。
「だから、レジェス様は心配して、私に手紙を送ったり、たびたび会いに来てくれていたんですね」
「それだけじゃない。会うたびに成長するルナリアが面白かったからな」
レジェスははっきり言わなかったけど、陰ながら私を助けてくれていたのだとわかる。
助けを得られない私が、レジェスにどれだけ救われていたかわからない。
――今度こそ、私はあなたの支えになりたい。
四年前、選べなかった道を今なら選べるはずだ。
「レジェス様が私の前をいつも歩いてますから、追いつくために私は必死でした。今もまだ遠い存在です」
風で流れた私の髪をつかんで、レジェスが微笑んだ。
「俺はお前のすぐそばにいる」
「……はい」
レジェスは私の髪を手から離して自由にすると、草の上にレジェスは座り、私にも座るよう手招きする。
「ここで休まれるのですか? お部屋で休まれたほうが、よろしいのでは?」
「お前の未来について、どうするのか知りたい」
レジェスはすでに、セレステが王位継承権を放棄したと知っている。
アギラカリサ王の耳にも入っているはずだ。
でも、ルオンとスサナのほうが気になるのではと思い、首をかしげた。
「私の未来ですか? 私の未来より、まずは少し休まれたほうが……。あまり眠っていませんよね?」
「わかるのか」
「少し休んでください」
「……ああ」
隣に座った私とレジェスの距離は近い。
肩が触れるかも……なんて考えただけで、ドキドキしてしまった。
昔はもっと普通に近づけたのに、レジェスにおかしく思われてしまう。
平常心を保つため、目をあわさず、視線を遠くにやった。
――胸の動悸が! しっかりして! 私!
不意にレジェスが私の膝を上に頭をのせた。
「レジェス様!?」
「休めと言ったのはお前だぞ?」
「そ、そうですけどっ!」
レジェスが笑っている――笑ってくれたら、私は嬉しくて、胸が苦しくなる。
私の膝の上で目を閉じた。
当たり前だけど、顔がよく見える。
上等な香木の香りと黒髪、武器を使う手は、王子とは思えないくらい古い傷が残っていた。
――どれだけ戦ってきたの?
今だけでも、ゆっくり休んでほしい。
照りつける強い日差しに気づき、闇を生み出す。
レジェスの目蓋の上に日陰を作る。
涼しい風が吹き抜けた。
しばらく眠っていたのに、レジェスがなにかに気づいたかのように、ハッとして目を開けた。
「なにをしている。誰かに見つかるぞ!」
私の手を握り、花の色と同じ紫色の瞳が私を見つめた。
私とレジェスは、お互いの秘密を共有している。
暗闇でも見えるレジェスの瞳。
闇を作り出す私の力。
「レジェス様。私は自分の力を隠し続ける気はありません」
「どういう意味だ?」
私の話を聞こうと思ったのか、レジェスが身を起こした。
「私をアギラカリサへ連れていってくださいませんか?」
その瞬間、レジェスは自信たっぷりな表情を崩し、複雑な感情が混ざったなんともいえない顔をした。
「……女王にならないのか?」
セレステが王位継承権を放棄し、人々の噂では、私が女王になると言われている。
でも、それは噂だ。
「私は女王になりません」
「しかし、それでは誰が次の王になる?」
「オルテンシア王国の王にふさわしい方が王になります。私でもなく、お姉様でもない人が王になるでしょう」
私が微笑むと、レジェスは目を閉じ、私の肩に額を寄せた。
――私をオルテンシア王国から連れていくべきか、行かないべきか考えているんだわ。
連れていきたい気持ちと同時に、私の女王としての可能性を考えているのだ。
「俺はお前を連れていきたい。だが、俺は王になり、汚れていく自分をお前に見せたくない」
「アギラカリサ王はルオン様を殺せと命じたのですね」
「……そうだ」
アギラカリサ王は、レジェスにふたつの命令を出したのだとわかった。
ひとつは、ルオンたちを連れ戻し、処刑すること。
ひとつは、光の巫女であるセレステを妻にすること。
これが、レジェスに王位を譲る条件。
「レジェス様。私は十二歳の頃から、レジェス様を支え、助けられる人間になりたいと思っていました」
「ルナリア……」
「だから、私をレジェス様の臣下にしてください」
レジェスが顔を上げ、不満そうな顔をした。
――あ、あれ? 臣下はやっぱり図々しかった?
「臣下?」
「そ、そうですよね!? まずは見習いからっ……!」
「違う。そこは臣下じゃなくて妃だろう?」
「き、き、妃!?」
呆れた顔でレジェスは私を見る。
「お前が女王になりたいと望むのなら、連れていくのは無理だろうと思った。お前には国を統べる才能があるからだ」
私を認め、話を聞いてくれるレジェス。
レジェスがいなかったら、私はここまで努力できなかった。
いつも背中を追って、目標にして追いつきたいと思う存在でいてくれた。
「でも、私の王はただ一人。あなただけです」
そうレジェスにはっきり言うと、笑って私を抱き締めた。
「ルナリア。俺の妃になれ! 俺のただ一人の妃だ」
この瞬間、なにかが変わった。
言葉にできないけれど、小説『二番目の姫』の強制力が、完全に消えた――
「……はい。私でいいのなら」
光の巫女でない私を選んでくれたレジェス。
物語を左右することができるのは、この世界の王だけ。
昔と同じように私を抱き上げたレジェスが、下から見上げて言った。
「重くなったな」
「あ、当たり前です! 降ろしてくださいっ!」
「子供扱いしているわけじゃないぞ?」
私が言ったことを覚えているようで、それもちょっと恥ずかしかった。
「わかってます……。でも、降ろしてください。レジェス様に大切な相談があります」
「ん? なんだ?」
「これからの話です」
レジェスは私を地上に降ろすと、真面目な顔をした。
「スサナ様に代わり、私がアギラカリサの巫女になります」
「巫女――そういうことか」
レジェスは私がなにをしようとしているか、すぐに理解できたはずだ。
私はうなずいた。
「スサナ様に力がなくなれば、アギラカリサ王宮にいる必要はありません」
ルオンとともにマーレア諸島に行ける。
「ルオン様はレジェス様の友人です。絶対、殺してはいけません」
「……ああ」
レジェスに殺されようとしていたルオンと、 捕まるまでの短い時間を楽しむスサナ。
どうにかしてあげたいと、レジェスも思っていたはずだ。
でも、そのためにはレジェスが王になる必要があった。
けれど、アギラカリサ王が気づかないわけがない。
気づいたアギラカリサ王は、レジェスを王にするため、ルオンとスサナの駆け落ちを利用し、優しさや甘さを捨てさせようとしたのだ。
――そんなことさせない。レジェスの優しさにどれだけの人たちが救われたかわからないわ。
「わかった。俺の命にかえても、お前を全力で守ると約束する」
レジェスと私の約束が終わると、庭にルオンとスサナが現れた。
スサナは布をとり、額には巫女の証である星の紋が見えた。
「ルナリア様。本当によろしいのですか?」
「構いません。私はレジェス様のおそばに一生いると決めています」
スサナは海色の瞳から涙をこぼした。
どれだけ、スサナが苦しみ、自由に焦がれていたか――
「ありがとう、ありがとうございます……! ルナリア様!」
私に抱きつき、スサナは泣いた。
「まだお礼を言うのは早いです。アギラカリサ王を納得させ、ルオン様の処刑を回避しなくてはなりません」
今のところ、ルオンがアギラカリサ王宮から巫女を連れ出した事実は変わらない。
「ルオン様とスサナ様が私のところへきたのは、私に巫女の力を引き継がせるためということにしましょう」
ルオン様がうーんと唸った。
「悪い案ではないが、普通の人間にスサナの力を受け継がせようと思うか?」
「それは普通の人間であればですよね」
私は闇の巫女の力を持つ。
それを知らないルオンとスサナの前に、闇を作り出して見せた。
「闇の巫女の力か」
「オルテンシア王家の王女に現れるという光の巫女と闇の巫女。ルナリア様は闇の巫女だったのですね」
「そうです。私が闇の力を暴走させないため、巫女の力が必要だった。ルオン様は私を助けるため、スサナ様を連れて、ここまでやってきた――そういうことにしましょう」
レジェスは私の力を知っているから、少しも驚かなかった。
「レジェス。お前、知ってたな?」
「ああ」
私を見守る目は優しく、そして穏やかだった。
「スサナ様。私に力をいただけますか?」
「はいっ……!」
白い指が私の額に触れ、スサナ様の持っていた力を受け継ぐ。
目を開けると、流れの緩やかな水路の水に映った私の額には、星の紋が浮かび上がっていた。
「お前は俺の妃だ。アギラカリサの巫女で、俺の妃とする。一生そばにいろ」
「はい!」
十二歳の頃に願ったもうひとつの夢。
それが、今、叶おうとしていた――
これは庭師が、ルナリアの花が埋もれないよう気遣って、手入れしてくれたおかげだ。
昔なら考えられない配慮で、隣を歩くレジェスが立ち止まり、庭と水路を眺めた。
「こんなに小さい水路だったんだな」
「本当に……。もう落ちても溺れませんね」
「あれは、落ちたのではなく、落とされたのだろう?」
静かな声音でレジェスが言った。
風が小さなルナリアの花を揺らし、私とレジェスの視線が、その花の上で止まる。
「俺が見たのは、ほんの一瞬だ。振り返った時に目の端に映っただけだが、見間違いでなければ、そうではないかと思った」
仰いだレジェスの顔は険しく、紫色の瞳を細め、その疑惑が途中から確信に変わったのだとわかる。
「だから、レジェス様は心配して、私に手紙を送ったり、たびたび会いに来てくれていたんですね」
「それだけじゃない。会うたびに成長するルナリアが面白かったからな」
レジェスははっきり言わなかったけど、陰ながら私を助けてくれていたのだとわかる。
助けを得られない私が、レジェスにどれだけ救われていたかわからない。
――今度こそ、私はあなたの支えになりたい。
四年前、選べなかった道を今なら選べるはずだ。
「レジェス様が私の前をいつも歩いてますから、追いつくために私は必死でした。今もまだ遠い存在です」
風で流れた私の髪をつかんで、レジェスが微笑んだ。
「俺はお前のすぐそばにいる」
「……はい」
レジェスは私の髪を手から離して自由にすると、草の上にレジェスは座り、私にも座るよう手招きする。
「ここで休まれるのですか? お部屋で休まれたほうが、よろしいのでは?」
「お前の未来について、どうするのか知りたい」
レジェスはすでに、セレステが王位継承権を放棄したと知っている。
アギラカリサ王の耳にも入っているはずだ。
でも、ルオンとスサナのほうが気になるのではと思い、首をかしげた。
「私の未来ですか? 私の未来より、まずは少し休まれたほうが……。あまり眠っていませんよね?」
「わかるのか」
「少し休んでください」
「……ああ」
隣に座った私とレジェスの距離は近い。
肩が触れるかも……なんて考えただけで、ドキドキしてしまった。
昔はもっと普通に近づけたのに、レジェスにおかしく思われてしまう。
平常心を保つため、目をあわさず、視線を遠くにやった。
――胸の動悸が! しっかりして! 私!
不意にレジェスが私の膝を上に頭をのせた。
「レジェス様!?」
「休めと言ったのはお前だぞ?」
「そ、そうですけどっ!」
レジェスが笑っている――笑ってくれたら、私は嬉しくて、胸が苦しくなる。
私の膝の上で目を閉じた。
当たり前だけど、顔がよく見える。
上等な香木の香りと黒髪、武器を使う手は、王子とは思えないくらい古い傷が残っていた。
――どれだけ戦ってきたの?
今だけでも、ゆっくり休んでほしい。
照りつける強い日差しに気づき、闇を生み出す。
レジェスの目蓋の上に日陰を作る。
涼しい風が吹き抜けた。
しばらく眠っていたのに、レジェスがなにかに気づいたかのように、ハッとして目を開けた。
「なにをしている。誰かに見つかるぞ!」
私の手を握り、花の色と同じ紫色の瞳が私を見つめた。
私とレジェスは、お互いの秘密を共有している。
暗闇でも見えるレジェスの瞳。
闇を作り出す私の力。
「レジェス様。私は自分の力を隠し続ける気はありません」
「どういう意味だ?」
私の話を聞こうと思ったのか、レジェスが身を起こした。
「私をアギラカリサへ連れていってくださいませんか?」
その瞬間、レジェスは自信たっぷりな表情を崩し、複雑な感情が混ざったなんともいえない顔をした。
「……女王にならないのか?」
セレステが王位継承権を放棄し、人々の噂では、私が女王になると言われている。
でも、それは噂だ。
「私は女王になりません」
「しかし、それでは誰が次の王になる?」
「オルテンシア王国の王にふさわしい方が王になります。私でもなく、お姉様でもない人が王になるでしょう」
私が微笑むと、レジェスは目を閉じ、私の肩に額を寄せた。
――私をオルテンシア王国から連れていくべきか、行かないべきか考えているんだわ。
連れていきたい気持ちと同時に、私の女王としての可能性を考えているのだ。
「俺はお前を連れていきたい。だが、俺は王になり、汚れていく自分をお前に見せたくない」
「アギラカリサ王はルオン様を殺せと命じたのですね」
「……そうだ」
アギラカリサ王は、レジェスにふたつの命令を出したのだとわかった。
ひとつは、ルオンたちを連れ戻し、処刑すること。
ひとつは、光の巫女であるセレステを妻にすること。
これが、レジェスに王位を譲る条件。
「レジェス様。私は十二歳の頃から、レジェス様を支え、助けられる人間になりたいと思っていました」
「ルナリア……」
「だから、私をレジェス様の臣下にしてください」
レジェスが顔を上げ、不満そうな顔をした。
――あ、あれ? 臣下はやっぱり図々しかった?
「臣下?」
「そ、そうですよね!? まずは見習いからっ……!」
「違う。そこは臣下じゃなくて妃だろう?」
「き、き、妃!?」
呆れた顔でレジェスは私を見る。
「お前が女王になりたいと望むのなら、連れていくのは無理だろうと思った。お前には国を統べる才能があるからだ」
私を認め、話を聞いてくれるレジェス。
レジェスがいなかったら、私はここまで努力できなかった。
いつも背中を追って、目標にして追いつきたいと思う存在でいてくれた。
「でも、私の王はただ一人。あなただけです」
そうレジェスにはっきり言うと、笑って私を抱き締めた。
「ルナリア。俺の妃になれ! 俺のただ一人の妃だ」
この瞬間、なにかが変わった。
言葉にできないけれど、小説『二番目の姫』の強制力が、完全に消えた――
「……はい。私でいいのなら」
光の巫女でない私を選んでくれたレジェス。
物語を左右することができるのは、この世界の王だけ。
昔と同じように私を抱き上げたレジェスが、下から見上げて言った。
「重くなったな」
「あ、当たり前です! 降ろしてくださいっ!」
「子供扱いしているわけじゃないぞ?」
私が言ったことを覚えているようで、それもちょっと恥ずかしかった。
「わかってます……。でも、降ろしてください。レジェス様に大切な相談があります」
「ん? なんだ?」
「これからの話です」
レジェスは私を地上に降ろすと、真面目な顔をした。
「スサナ様に代わり、私がアギラカリサの巫女になります」
「巫女――そういうことか」
レジェスは私がなにをしようとしているか、すぐに理解できたはずだ。
私はうなずいた。
「スサナ様に力がなくなれば、アギラカリサ王宮にいる必要はありません」
ルオンとともにマーレア諸島に行ける。
「ルオン様はレジェス様の友人です。絶対、殺してはいけません」
「……ああ」
レジェスに殺されようとしていたルオンと、 捕まるまでの短い時間を楽しむスサナ。
どうにかしてあげたいと、レジェスも思っていたはずだ。
でも、そのためにはレジェスが王になる必要があった。
けれど、アギラカリサ王が気づかないわけがない。
気づいたアギラカリサ王は、レジェスを王にするため、ルオンとスサナの駆け落ちを利用し、優しさや甘さを捨てさせようとしたのだ。
――そんなことさせない。レジェスの優しさにどれだけの人たちが救われたかわからないわ。
「わかった。俺の命にかえても、お前を全力で守ると約束する」
レジェスと私の約束が終わると、庭にルオンとスサナが現れた。
スサナは布をとり、額には巫女の証である星の紋が見えた。
「ルナリア様。本当によろしいのですか?」
「構いません。私はレジェス様のおそばに一生いると決めています」
スサナは海色の瞳から涙をこぼした。
どれだけ、スサナが苦しみ、自由に焦がれていたか――
「ありがとう、ありがとうございます……! ルナリア様!」
私に抱きつき、スサナは泣いた。
「まだお礼を言うのは早いです。アギラカリサ王を納得させ、ルオン様の処刑を回避しなくてはなりません」
今のところ、ルオンがアギラカリサ王宮から巫女を連れ出した事実は変わらない。
「ルオン様とスサナ様が私のところへきたのは、私に巫女の力を引き継がせるためということにしましょう」
ルオン様がうーんと唸った。
「悪い案ではないが、普通の人間にスサナの力を受け継がせようと思うか?」
「それは普通の人間であればですよね」
私は闇の巫女の力を持つ。
それを知らないルオンとスサナの前に、闇を作り出して見せた。
「闇の巫女の力か」
「オルテンシア王家の王女に現れるという光の巫女と闇の巫女。ルナリア様は闇の巫女だったのですね」
「そうです。私が闇の力を暴走させないため、巫女の力が必要だった。ルオン様は私を助けるため、スサナ様を連れて、ここまでやってきた――そういうことにしましょう」
レジェスは私の力を知っているから、少しも驚かなかった。
「レジェス。お前、知ってたな?」
「ああ」
私を見守る目は優しく、そして穏やかだった。
「スサナ様。私に力をいただけますか?」
「はいっ……!」
白い指が私の額に触れ、スサナ様の持っていた力を受け継ぐ。
目を開けると、流れの緩やかな水路の水に映った私の額には、星の紋が浮かび上がっていた。
「お前は俺の妃だ。アギラカリサの巫女で、俺の妃とする。一生そばにいろ」
「はい!」
十二歳の頃に願ったもうひとつの夢。
それが、今、叶おうとしていた――
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