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第一章
2 優しい幼馴染み
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私が生まれた国、オルテンシア王国。
その公爵家の一人息子であるフリアンは金髪に青い瞳を持ち、童話の中の王子様みたいな容姿をしていて、すごく紳士的。
『君の醜い嫉妬にはうんざりだ。婚約を破棄させてもらう!』
でも、最終的にはルナリアを捨てる。
隣国の大国、アギラカリサ王国の王子レジェスは黒髪、紫色の瞳をし、異国風の服装をしていて、どこか野性的。
『俺の婚約者の命を狙うなどと、不届きな賊め!』
ルナリアはレジェスによって捕らわれ、真っ暗な牢屋に放り込まれた。
正反対な二人だけど、共通しているのは七歳上の十二歳だということと、ルナリアを裏切り捨てるということ!
――今まで平気な顔で会ってきたけど、『二番目の姫』を思い出した後じゃ、まともに二人の顔を見れない(恐怖)!
「あれ? ルナリア? 人見知りかな?」
「いつもなら、菓子をねだるのにどうした?」
フリアンは優しく頭をなでてくれ、レジェスは私のためにアギラカリサ王国の甘い砂糖菓子をくれる。
――優しい。
二人が優しいのは知っている。
だから、ルナリアもフリアンを愛したし、レジェスを尊敬していた。
「ありがとう……ございます」
「本当にどうしたんだい? いつもなら、もっと無邪気に抱きついてくるのに」
フリアンは私を抱き上げ、顔を覗き込んだ。
――うっ! イケメンが放つキラキラが眩しい!
『公爵家の一人息子フリアンは王子様のような容姿で、令嬢たちの憧れだ』なんて書かれてあったけど、本当にそう。
そのモテモテぶりに、ルナリアは嫉妬の嵐を見せる。
令嬢たちに嫌がらせをし、フリアンには『本当に好きなのはお姉様なんでしょ? 違うなら、私を好きだと言って!』と要求。
悲しいくらいルナリアは愛情を求め、そして、捨てられる。
そんなストーリーを思い出し、シクシク泣いてしまった。
「えっ? ルナリア!? どこか痛いのかな?」
フリアンはハンカチを取り出し、私の涙をぬぐう。
私は赤ちゃんじゃないのに、七つ上のフリアンは、いつも面倒を見てくれる優しいお兄さんだ……今は。
「ほら、泣くな。ルナリアの大好きな砂糖菓子だぞ」
レジェスは花の形をした砂糖菓子を私の口に放り込んだ。
すうっと口の中で溶ける特別な砂糖菓子は、アギラカリサ王国でしか採れない特別な砂糖から作られている。
「美味しい……」
甘くて幸せすぎて、また涙がこぼれた。
「おい? うまいんだろう? それなのに、なぜ泣く?」
――ルナリアの未来を考えたら泣けてきてしまう。
いずれ、二人の態度は冷たくなって、私を殺したいほど嫌いになるんだから!
でも、そんなこと言えるわけない。
「年下の扱いは難しいな。もう菓子では誤魔化されないか」
「レジェスは末っ子だからね」
「そういうフリアンは公爵家の一人息子だろう?」
「僕は二人が生まれた時からの付き合いだし、兄みたいなものだよ」
フリアンはセレステとルナリアを実の妹のように可愛がってくれている。
でも、私はオマケで、なにをするにしても中心はいつもセレステ。
フリアンだけではなく、両親も周囲もそう。
ルナリアはセレステを羨ましいと思いながら、明るく眩しい世界を眺めている――それが、二番目のルナリアに用意されたポジションだ。
「セレステはどこだ?」
「さあ? 王宮内の図書館で待っててくれと言われたから、ここへ来たけどいないね」
二人がここへ来たのは、セレステが待ち合わせ場所に図書館を指定したからだとわかった。
――どうして、図書館で待ち合わせを?
私の勉強時間だとセレステは知っている。
午前はセレステ、午後は私に図書館の使用時間を割り振られているのだ。
待ち合わせなら、他の場所にしてくれたらいいのに……
「ルナリア。今日は真面目に勉強していたようだね」
いい子だねと、フリアンが私の頭をなでる。
レジェスが私の読んでいた本を手に取り、不思議そうな顔をした。
「マーレア諸島の言語に興味があるのか。それから、農業と政治? 早すぎないか?」
「えっ、えっと……文字! 文字のお勉強なの!」
「ふうん? まあいいが、俺は全部覚えているから、わからないことがあれば聞け」
――レジェスはこれを全部覚えてるの!?
レジェスはまだ十二歳。
小説にもレジェス王子は優秀だと書いてあったけど、ここまで高く能力が設定されているとは思わなかった。
なぜなら、マーレア諸島の言語は島々によって違い、すべての言語を使える人間は少ない。
オルテンシア王国の教養人たちも二つ三つが限界である。
でも、私がこの大変な言語を選んだのには理由があった。
マーレア諸島は島々からなる連合国である。
連合国のトップは二年ごとに交代し、話す言葉が違ってくる。
資源が多いマーレア諸島と取引したい国は多い。
けれど、言葉の壁がある。
――レジェスはマーレア諸島に目を付けているようね。さすが大国アギラカリサの王子だけあって、金の匂いには敏感……じゃなくて、経済にも詳しいみたい。
マーレア諸島でしか手に入らないスパイスと茶葉、安価で良質な綿花、資源があり、まさに金がなる島々。
物語ではちょろっとしか出てこないマーレア諸島だけど、『交易が盛んなマーレア諸島連合国』と書いてあったのを覚えている。
今から数年後、マーレア諸島連合国は間違いなく、重要な国になってくる!
「レジェス様、よろしくお願いします」
世界は現在進行形で動いていて、王宮で過ごす五歳児の私が手に入れられる情報は限られている。
十二歳にして、国外を行き来するレジェスから得られる情報は貴重だ。
今後もよろしくという意味で、私がスッと手を差し出すと、レジェスは変な顔をした。
「かしこまってどうした?」
――うわああああ! 五歳! 私、五歳だった!
慌てて言い訳を考えた。
「ルナリア、レジェス様を尊敬してるから!」
「尊敬か……」
「そ、そうだよ! お兄様みたいだし~」
まんざらでもない顔をしてレジェスは笑った。
セレステの婚約者となるレジェスは、優秀な大国の王子で、セレステでさえレジェスに振り回され、持て余していたイメージのキャラだったから、こんな顔をするのは意外だった。
もしや、お兄様呼びされるのが好きだとか……末っ子だしあり得る。
「頼れるルナリアのお兄様だよ?」
「そうか。なんでも頼ってこい。お前のお兄様だからな」
呼ばれて嬉しい『お兄様』。
レジェスはすごくいい笑顔だった。
「なんでも頼れって……。レジェスはもう少ししたら、アギラカリサ王国に帰るだろう?」
お兄様と呼ばれて喜ぶレジェスを見て、フリアンは苦笑した。
「手紙がある。馬で駆ければ、オルテンシア王国まですぐだ」
「うん! ありがとうレジェス様!」
「僕も簡単なことならわかるから、いつでも教えてあげるよ」
「フリアン様もありがとう」
三人のやり取りを眺めていた乳母と侍女たちは、なんて微笑ましいのかしらと笑っていた。
「ルナリアね、マーレア語を少しだけ読めるよ? これがマーレア語で『馬』、こっちが『魚』」
ただしくはマーレア文字の一種だ。
これが何種類も存在するため、覚えるのが大変なのである。
「そうだ。賢いな」
レジェスが私を褒めてくれたので、にっこり笑顔を見せた。
「じゃあ。これは?」
「え、えーとね……」
文字を読もうとした瞬間――
「レジェス様、フリアン様。なにをなさっているの?」
優しい声、穏やかな空気、春のようなふわりとした甘い香りに、全員が動きを止め、声がしたほうへ顔を向けた。
現れたのは金髪に青い瞳をした可愛らしい少女―――二番目のルナリアが絶対敵わない相手、一番目の姫セレステだった。
その公爵家の一人息子であるフリアンは金髪に青い瞳を持ち、童話の中の王子様みたいな容姿をしていて、すごく紳士的。
『君の醜い嫉妬にはうんざりだ。婚約を破棄させてもらう!』
でも、最終的にはルナリアを捨てる。
隣国の大国、アギラカリサ王国の王子レジェスは黒髪、紫色の瞳をし、異国風の服装をしていて、どこか野性的。
『俺の婚約者の命を狙うなどと、不届きな賊め!』
ルナリアはレジェスによって捕らわれ、真っ暗な牢屋に放り込まれた。
正反対な二人だけど、共通しているのは七歳上の十二歳だということと、ルナリアを裏切り捨てるということ!
――今まで平気な顔で会ってきたけど、『二番目の姫』を思い出した後じゃ、まともに二人の顔を見れない(恐怖)!
「あれ? ルナリア? 人見知りかな?」
「いつもなら、菓子をねだるのにどうした?」
フリアンは優しく頭をなでてくれ、レジェスは私のためにアギラカリサ王国の甘い砂糖菓子をくれる。
――優しい。
二人が優しいのは知っている。
だから、ルナリアもフリアンを愛したし、レジェスを尊敬していた。
「ありがとう……ございます」
「本当にどうしたんだい? いつもなら、もっと無邪気に抱きついてくるのに」
フリアンは私を抱き上げ、顔を覗き込んだ。
――うっ! イケメンが放つキラキラが眩しい!
『公爵家の一人息子フリアンは王子様のような容姿で、令嬢たちの憧れだ』なんて書かれてあったけど、本当にそう。
そのモテモテぶりに、ルナリアは嫉妬の嵐を見せる。
令嬢たちに嫌がらせをし、フリアンには『本当に好きなのはお姉様なんでしょ? 違うなら、私を好きだと言って!』と要求。
悲しいくらいルナリアは愛情を求め、そして、捨てられる。
そんなストーリーを思い出し、シクシク泣いてしまった。
「えっ? ルナリア!? どこか痛いのかな?」
フリアンはハンカチを取り出し、私の涙をぬぐう。
私は赤ちゃんじゃないのに、七つ上のフリアンは、いつも面倒を見てくれる優しいお兄さんだ……今は。
「ほら、泣くな。ルナリアの大好きな砂糖菓子だぞ」
レジェスは花の形をした砂糖菓子を私の口に放り込んだ。
すうっと口の中で溶ける特別な砂糖菓子は、アギラカリサ王国でしか採れない特別な砂糖から作られている。
「美味しい……」
甘くて幸せすぎて、また涙がこぼれた。
「おい? うまいんだろう? それなのに、なぜ泣く?」
――ルナリアの未来を考えたら泣けてきてしまう。
いずれ、二人の態度は冷たくなって、私を殺したいほど嫌いになるんだから!
でも、そんなこと言えるわけない。
「年下の扱いは難しいな。もう菓子では誤魔化されないか」
「レジェスは末っ子だからね」
「そういうフリアンは公爵家の一人息子だろう?」
「僕は二人が生まれた時からの付き合いだし、兄みたいなものだよ」
フリアンはセレステとルナリアを実の妹のように可愛がってくれている。
でも、私はオマケで、なにをするにしても中心はいつもセレステ。
フリアンだけではなく、両親も周囲もそう。
ルナリアはセレステを羨ましいと思いながら、明るく眩しい世界を眺めている――それが、二番目のルナリアに用意されたポジションだ。
「セレステはどこだ?」
「さあ? 王宮内の図書館で待っててくれと言われたから、ここへ来たけどいないね」
二人がここへ来たのは、セレステが待ち合わせ場所に図書館を指定したからだとわかった。
――どうして、図書館で待ち合わせを?
私の勉強時間だとセレステは知っている。
午前はセレステ、午後は私に図書館の使用時間を割り振られているのだ。
待ち合わせなら、他の場所にしてくれたらいいのに……
「ルナリア。今日は真面目に勉強していたようだね」
いい子だねと、フリアンが私の頭をなでる。
レジェスが私の読んでいた本を手に取り、不思議そうな顔をした。
「マーレア諸島の言語に興味があるのか。それから、農業と政治? 早すぎないか?」
「えっ、えっと……文字! 文字のお勉強なの!」
「ふうん? まあいいが、俺は全部覚えているから、わからないことがあれば聞け」
――レジェスはこれを全部覚えてるの!?
レジェスはまだ十二歳。
小説にもレジェス王子は優秀だと書いてあったけど、ここまで高く能力が設定されているとは思わなかった。
なぜなら、マーレア諸島の言語は島々によって違い、すべての言語を使える人間は少ない。
オルテンシア王国の教養人たちも二つ三つが限界である。
でも、私がこの大変な言語を選んだのには理由があった。
マーレア諸島は島々からなる連合国である。
連合国のトップは二年ごとに交代し、話す言葉が違ってくる。
資源が多いマーレア諸島と取引したい国は多い。
けれど、言葉の壁がある。
――レジェスはマーレア諸島に目を付けているようね。さすが大国アギラカリサの王子だけあって、金の匂いには敏感……じゃなくて、経済にも詳しいみたい。
マーレア諸島でしか手に入らないスパイスと茶葉、安価で良質な綿花、資源があり、まさに金がなる島々。
物語ではちょろっとしか出てこないマーレア諸島だけど、『交易が盛んなマーレア諸島連合国』と書いてあったのを覚えている。
今から数年後、マーレア諸島連合国は間違いなく、重要な国になってくる!
「レジェス様、よろしくお願いします」
世界は現在進行形で動いていて、王宮で過ごす五歳児の私が手に入れられる情報は限られている。
十二歳にして、国外を行き来するレジェスから得られる情報は貴重だ。
今後もよろしくという意味で、私がスッと手を差し出すと、レジェスは変な顔をした。
「かしこまってどうした?」
――うわああああ! 五歳! 私、五歳だった!
慌てて言い訳を考えた。
「ルナリア、レジェス様を尊敬してるから!」
「尊敬か……」
「そ、そうだよ! お兄様みたいだし~」
まんざらでもない顔をしてレジェスは笑った。
セレステの婚約者となるレジェスは、優秀な大国の王子で、セレステでさえレジェスに振り回され、持て余していたイメージのキャラだったから、こんな顔をするのは意外だった。
もしや、お兄様呼びされるのが好きだとか……末っ子だしあり得る。
「頼れるルナリアのお兄様だよ?」
「そうか。なんでも頼ってこい。お前のお兄様だからな」
呼ばれて嬉しい『お兄様』。
レジェスはすごくいい笑顔だった。
「なんでも頼れって……。レジェスはもう少ししたら、アギラカリサ王国に帰るだろう?」
お兄様と呼ばれて喜ぶレジェスを見て、フリアンは苦笑した。
「手紙がある。馬で駆ければ、オルテンシア王国まですぐだ」
「うん! ありがとうレジェス様!」
「僕も簡単なことならわかるから、いつでも教えてあげるよ」
「フリアン様もありがとう」
三人のやり取りを眺めていた乳母と侍女たちは、なんて微笑ましいのかしらと笑っていた。
「ルナリアね、マーレア語を少しだけ読めるよ? これがマーレア語で『馬』、こっちが『魚』」
ただしくはマーレア文字の一種だ。
これが何種類も存在するため、覚えるのが大変なのである。
「そうだ。賢いな」
レジェスが私を褒めてくれたので、にっこり笑顔を見せた。
「じゃあ。これは?」
「え、えーとね……」
文字を読もうとした瞬間――
「レジェス様、フリアン様。なにをなさっているの?」
優しい声、穏やかな空気、春のようなふわりとした甘い香りに、全員が動きを止め、声がしたほうへ顔を向けた。
現れたのは金髪に青い瞳をした可愛らしい少女―――二番目のルナリアが絶対敵わない相手、一番目の姫セレステだった。
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