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37 大臣たちの思惑 ※ザカリア
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ルチアノたちを迎えに来たが、すでに王宮へ戻った後だった。
心配になり、セレーネに内緒で俺だけ来たのだが、床の上に倒れている兄上を発見した。
「兄上!?」
兄上が床に倒れていることに、侍従たちは気づいていたのか、淡々とした様子で俺に言った。
「陛下になにかあれば、連絡を寄越すよう大臣たちに言われておりましたので、もうじきいらっしゃいます」
「なぜ、大臣たちが? 呼ぶのは医者だろう!」
「ご自分で毒をお飲みになったらしく、もう手遅れかと」
「兄上はまだ息がある。医者を!」
侍従は渋っていたが、医者を呼びに行った。
俺たちを毒殺しようとした時と、同じ毒なら解毒剤がある。
緊急時に飲むため、持ち歩いていた解毒剤を兄上の口に注ぐ。
「ザカリア様、陛下を寝室へ運んでもよろしいでしょうか」
「ああ、頼む」
俺の護衛のために付いてきたジュストの部下たちだったが、まさか兄上の体を運ばせることになるとは、思ってもみなかった。
しばらくすると、侍従が言った通り、大臣たちがやってきた。
「ザカリア様。なぜ、離宮に?」
「王宮へお戻りください。昼食がまだでしょう」
大臣たちはまるで、こうなることがわかっていたのか、動じている様子はない。
「お前たち、兄上を暗殺するつもりだったのか?」
「とんでもない。我々は陛下に変わったことがあれば、連絡するようにと、侍従に伝えてあっただけで、暗殺など滅相もございません」
「濡れ衣です」
それにしては用意周到過ぎる。
心を読もうとしたが、やめた。
大臣たちはタヌキだ。
心を偽ることくらい、どうとでもできる。
俺自身が力を使い、疑心暗鬼に陥るはめになるかもしれない。
「陛下のことは、我々におまかせください。そして、ザカリア様は王宮にいたということにしましょう」
「どういう意味だ」
「ここにザカリア様がいたと、他の者に知れると、暗殺を疑われます。民が不安に思っては困る」
「新しい王の補佐をするザカリア様に、暗い噂があってはいけないのです」
ルチアノという代わりの王が存在し、俺という王の予備が手に入り、兄上が邪魔になった――そういうことなのか。
大臣たちは恨みもあるだろう。
だが――
「兄上をなにもできない王になるよう仕向けたのは、お前たちだ。俺はお前たちの傀儡になるつもりはない」
ジュストの部下たちが戻り、俺の護衛につく。
大臣たちは丸腰だ。
さすがのタヌキたちも怯む。
「セレーネが王の子を産み、俺が後見人になることはお前たちにとって、計算外だったはずだ。王宮の外で育った王子はどれだけぶりだ?」
大臣たちが王を操り、宮廷を動かしてきた。
そのために与えられた責務に従順な王妃が必要であり、なにもかも他人任せな王でなければならなかった。
「デルフィーナが王妃になっても、妃候補の教育を受けていた。だから、セレーネの代わりに王妃になることを止めなかった。そうだろう?」
目に見えて、大臣たちは動揺していた。
ジュストの部下たちが出入り口をふさぎ、大臣たちを逃げられないようにした。
そこで、ようやく大臣たちは認めた。
「……ご明察の通りでございます」
「しかし、王家を守るため、そうするしかなかったのです。力を持つ子が継承するため、王に相応しいと思えない王が誕生する。そうなれば、国が滅びてしまう……」
「お前たちがいいと思って育てた王が、国を滅ぼしかけたのだが?」
宮廷の権力をデルフィーナに奪われ、王の子の力を使われ、大臣たちまでも罰する。
誰も止められなかった。
「兄の代で終わりにする。力に関係なく、王に相応しい者が即位するべきだ」
兄上の元へ医者が到着した。
大臣たちに逆らえなかった侍従が、安堵した様子で俺に一礼すると去っていった。
「ザカリア様は、我々を監視していらっしゃったのですな」
セレーネやルチアノの身辺と、自分の周りを王宮の者に任せなかったことを言っているのだろう。
もちろん、大臣たちにも監視の目はつけていた。
だが、さすがタヌキ。
おかしな動きもなく、なにも見つからなかった。
「探したが、デルフィーナが使ったはずの毒薬の瓶が見つからなかった。ふたたび、使うため、誰かが毒薬の瓶を回収した可能性があると考えていた」
それは一つの可能性であり、絶対にそうなると思っていたわけではない。
だが、毒薬の瓶を手に入れることができるのは、宮廷内で権力を持ち、裏で動ける人間のみ。
そうなると、限られてくる。
「我々を罰しますか」
「残念だが、証拠はない。兄上のワインに誰が毒を入れたのかも」
「気づいていらっしゃるのでしょう」
俺はワインのボトルを眺めた。
セレーネと兄上が結婚した年のワインだ。
だが、あえて、それは口にしない。
「今回の件は、お前たちのいいように発表しろ。だが、俺がすべて知っているということを忘れるな」
貸し一つならぬ、弱味を握られた大臣たちは頭を垂れた。
「俺がいる限り、ルチアノをお前たちの傀儡にするつもりはない」
そう告げると、大臣たちに背を向けた。
王家に干渉してきた大臣たちの時代が終わり、新しい時代が来る――いや、そういう時代を作るのだ。
セレーネたちとともに。
心配になり、セレーネに内緒で俺だけ来たのだが、床の上に倒れている兄上を発見した。
「兄上!?」
兄上が床に倒れていることに、侍従たちは気づいていたのか、淡々とした様子で俺に言った。
「陛下になにかあれば、連絡を寄越すよう大臣たちに言われておりましたので、もうじきいらっしゃいます」
「なぜ、大臣たちが? 呼ぶのは医者だろう!」
「ご自分で毒をお飲みになったらしく、もう手遅れかと」
「兄上はまだ息がある。医者を!」
侍従は渋っていたが、医者を呼びに行った。
俺たちを毒殺しようとした時と、同じ毒なら解毒剤がある。
緊急時に飲むため、持ち歩いていた解毒剤を兄上の口に注ぐ。
「ザカリア様、陛下を寝室へ運んでもよろしいでしょうか」
「ああ、頼む」
俺の護衛のために付いてきたジュストの部下たちだったが、まさか兄上の体を運ばせることになるとは、思ってもみなかった。
しばらくすると、侍従が言った通り、大臣たちがやってきた。
「ザカリア様。なぜ、離宮に?」
「王宮へお戻りください。昼食がまだでしょう」
大臣たちはまるで、こうなることがわかっていたのか、動じている様子はない。
「お前たち、兄上を暗殺するつもりだったのか?」
「とんでもない。我々は陛下に変わったことがあれば、連絡するようにと、侍従に伝えてあっただけで、暗殺など滅相もございません」
「濡れ衣です」
それにしては用意周到過ぎる。
心を読もうとしたが、やめた。
大臣たちはタヌキだ。
心を偽ることくらい、どうとでもできる。
俺自身が力を使い、疑心暗鬼に陥るはめになるかもしれない。
「陛下のことは、我々におまかせください。そして、ザカリア様は王宮にいたということにしましょう」
「どういう意味だ」
「ここにザカリア様がいたと、他の者に知れると、暗殺を疑われます。民が不安に思っては困る」
「新しい王の補佐をするザカリア様に、暗い噂があってはいけないのです」
ルチアノという代わりの王が存在し、俺という王の予備が手に入り、兄上が邪魔になった――そういうことなのか。
大臣たちは恨みもあるだろう。
だが――
「兄上をなにもできない王になるよう仕向けたのは、お前たちだ。俺はお前たちの傀儡になるつもりはない」
ジュストの部下たちが戻り、俺の護衛につく。
大臣たちは丸腰だ。
さすがのタヌキたちも怯む。
「セレーネが王の子を産み、俺が後見人になることはお前たちにとって、計算外だったはずだ。王宮の外で育った王子はどれだけぶりだ?」
大臣たちが王を操り、宮廷を動かしてきた。
そのために与えられた責務に従順な王妃が必要であり、なにもかも他人任せな王でなければならなかった。
「デルフィーナが王妃になっても、妃候補の教育を受けていた。だから、セレーネの代わりに王妃になることを止めなかった。そうだろう?」
目に見えて、大臣たちは動揺していた。
ジュストの部下たちが出入り口をふさぎ、大臣たちを逃げられないようにした。
そこで、ようやく大臣たちは認めた。
「……ご明察の通りでございます」
「しかし、王家を守るため、そうするしかなかったのです。力を持つ子が継承するため、王に相応しいと思えない王が誕生する。そうなれば、国が滅びてしまう……」
「お前たちがいいと思って育てた王が、国を滅ぼしかけたのだが?」
宮廷の権力をデルフィーナに奪われ、王の子の力を使われ、大臣たちまでも罰する。
誰も止められなかった。
「兄の代で終わりにする。力に関係なく、王に相応しい者が即位するべきだ」
兄上の元へ医者が到着した。
大臣たちに逆らえなかった侍従が、安堵した様子で俺に一礼すると去っていった。
「ザカリア様は、我々を監視していらっしゃったのですな」
セレーネやルチアノの身辺と、自分の周りを王宮の者に任せなかったことを言っているのだろう。
もちろん、大臣たちにも監視の目はつけていた。
だが、さすがタヌキ。
おかしな動きもなく、なにも見つからなかった。
「探したが、デルフィーナが使ったはずの毒薬の瓶が見つからなかった。ふたたび、使うため、誰かが毒薬の瓶を回収した可能性があると考えていた」
それは一つの可能性であり、絶対にそうなると思っていたわけではない。
だが、毒薬の瓶を手に入れることができるのは、宮廷内で権力を持ち、裏で動ける人間のみ。
そうなると、限られてくる。
「我々を罰しますか」
「残念だが、証拠はない。兄上のワインに誰が毒を入れたのかも」
「気づいていらっしゃるのでしょう」
俺はワインのボトルを眺めた。
セレーネと兄上が結婚した年のワインだ。
だが、あえて、それは口にしない。
「今回の件は、お前たちのいいように発表しろ。だが、俺がすべて知っているということを忘れるな」
貸し一つならぬ、弱味を握られた大臣たちは頭を垂れた。
「俺がいる限り、ルチアノをお前たちの傀儡にするつもりはない」
そう告げると、大臣たちに背を向けた。
王家に干渉してきた大臣たちの時代が終わり、新しい時代が来る――いや、そういう時代を作るのだ。
セレーネたちとともに。
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