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29 お前など王妃ではない! ※ルドヴィク

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『ルチアノ王子は無事でございました』

 王宮で起きた毒殺未遂事件――離宮にて、その結末を侍従から聞いた。
 デルフィーナ主導で行われたという発表があり、ロゼッテは罪に問われないことになったらしい。
 
「馬鹿な王妃だ。だが、これで目障りな王妃は消えた」

 デルフィーナは、俺の王妃にふさわしくなかった。
 子を身籠り、俺が力を失ったことがわかると、俺を蔑ろにし始めた。
 セレーネは文句も言わず、黙って王妃の務めを果たしていたのに対し、デルフィーナは文句ばかりだった。

「俺に必要な王妃はセレーネだったのだ」

 今になって気づいても、遅いことはわかっている。
 だが、俺がどれだけ彼女を愛しているか、気づいてしまったのだ。
 戻ってきたセレーネは、以前の彼女より、ずっと美しく優しく、魅力的になっていた。

「取り戻したいが、ザカリアが邪魔だな」

 あいつさえいなければ、セレーネとルチアノ、俺の三人で、暮らせるというのに――

「ザカリアか」

 長く離れて暮らしていたからか、あいつのことはよくわからない。
 特異な力を持つ弟は、王族の中でも忌まわしい存在として扱われていたせいもある。

「あいつの力は、消えない代わりに一度しか使えないからな」

 ザカリアの力は、役に立たずの使えない力だ。
 気にするほどでもないと判断した。
 あとは、セレーネの気持ちだが、ザカリアがいなくなれば、こちらに向くだろう。
 セレーネから縁を切られた侯爵が、領地から出てこなくなった。
 ザカリアという後見人がいなくなったセレーネが頼れるのは、俺だけというわけだ。
 
「さて。ザカリアをどう始末するか」

 本を読みながら、一人でチェスをする。
 あいつには、駒が多い。
 騎士のジュスト、クイーンのセレーネ――だが、駒の多さは守るものの多さでもある。
 守られてきた俺には、いつも守るものがなかった。

「それこそ、チェスのキングのようだ」

 周囲を固められ、守られ、生きてきた。
 今や、俺は一人。
 
「ルドヴィク様。王宮より、ロゼッテ王女について、話し合いたいと使者が参っておりますが」
「追い返せ」
「えっ!? ですが……」
「ロゼッテはすぐに泣く。デルフィーナに似てうるさい」
「は、はあ……。しかし、デルフィーナ王妃が牢屋に捕らえられております。今、ロゼッテ王女が頼れるのは、ルドヴィク様しかいらっしゃらないかと……」

 使者を気にしてか、侍従が面倒なことを言い出した。

「世話など、乳母でもなんでも雇って任せておけ。なぜ、俺が面倒をみなければならんのだ」
「では、ロゼッテ王女を王宮に預けますか?」
「好きにしろ。俺の知ったことか。それから、デルフィーナの王妃の位を剥奪する」

 侍従は呆然と立ち尽くし、俺を見る。

「陛下。本当にそれでよろしいのですか? デルフィーナ王妃は陛下にお会いしたいと、申されておりましたが……」
「王妃と呼ぶな。王の血を引く王子を殺そうとした女だぞ。罪人だ!」
「は、はい!」

 俺の剣幕に恐れをなしたのか、侍従は慌てて部屋から出ていった。
 これで、デルフィーナは正式に俺の王妃でなくなる。
 空位になった王妃の座。
 それを埋められるのは、セレーネだけだ。
 チェスの駒をキングの前まで進めた。
 
「ルチアノがいれば、毒殺は未遂に終わるだろうと思っていた。王の子の力を逆に利用するのも、力を知っている人間なら、容易いことだ」

 窓辺に瓶を置く。
 瓶の中身は空っぽだ。
 ロゼッテの世話をしていたの侍女たちが減り、静かになった。
 男爵家の侍女たちは品がない。
 王の侍女には、ふさわしくなかった。
 ようやく離宮は、楽隊によって、優雅な楽の音が奏でられ、穏やかな時間を取り戻すことができた。
 久しぶりに、心地よい静寂を味わったのだった――  
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