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19 元妻とその子 ※ルドヴィク

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 元妻が戻って来た。
 そこまでは、よかった。

「なにをしているっ!」

 セレーネは王宮の壁にある絵、金の燭台、応接間に飾った宝石入りの調度品の数々をセレーネは、兵士たちに命じ、集め出したのである。
 すべて、金目のものばかりだ。

「すべて売ります」

 迷うことなく、セレーネが答えた。

「お、お前は盗賊団かなにかか!? こんなことをして許されると思っているのか!」

「盗賊団は、兄上とデルフィーナ王妃なんだが? 『税金泥棒』という名の盗賊団だ」

 なぜか、ザカリアまでいる。

 ――というより、こんな危険人物を誰が王宮に入れた?

 特異な力を持つザカリアが、セレーネのそばにいると、ロゼッテを近づけない。
 心を読んで、罪人に仕立て上げることが難しくなる。

「ザカリア。さっさと領地へ帰れ!」
「それは無理だ。ルチアノの後見人を引き受けた」
「後見人だと!?」
「なにか問題でも?」

 じろりとにらまれて言葉に詰まった。
 昔から、ザカリアのことは苦手だった。
 そもそも、こいつを俺に近づかせないようにしていた大臣たちはどこへ行った?
 もう俺は用なしか?

「王が治める領地とは思えない」

 ザカリアは蔑んだ目で、俺を見た。

「民があまりにも貧しい。よって、王宮にある金目のものを売り払い、国庫に入れる。民の生活を変えなくては先がない」
「なんの権利があって、そんな真似を! 俺が国王陛下だぞ!」
「私は王の子の母ですが?」
「俺は弟だが」

 ――なんだ、こいつら。
 
 完全に俺のことは無視だ。
 兵士もまったく俺の言うことを聞かない、
 いや、兵士だけでなく、大臣もだ。

「おい、これは謀反じゃないか? ザカリアの領地の兵士がいるんだが?」
「いいえ? ルチアノという王の子の力を持った子がいるのに、謀反とは言いがかりですわ」
「血は受け継いでいるからな。兵士は、ルチアノを護衛するため連れてきた」

 子供の護衛と言われたら、反論のしようがない。
 それにしては、数が多いような気がしたが、どうやって排除すればいいかわからなかった。

「セレーネ様。運びますね~!」
「ええ、全部、売っていただいて構いません」
「高値で売れよ」

 今まで、俺とデルフィーナが、購入した物を容赦なく売っていく。

「趣味の悪い皿だな」
「そうですね」
 
 ザカリアはいちいち、俺の趣味にケチをつける。
 セレーネは『抽象的な表現をもちいた芸術品でしょうか』と、一応褒めてはいるものの、売却リストに加えていた。

「ルドヴィク様も協力するつもりがおありなら、デルフィーナたちの使わないドレスやアクセサリーを持ってきてください」
「持ってきてどうする」
「売ります」

 容赦のない一言である。
 そんなことできるわけがない。
 だいたい、今、売ろうとしている物も、デルフィーナが許すはずがないのだ。

「なにをなさってるのっ!」
「見てのとおり、売却しています」

 セレーネが、デルフィーナを冷ややかな目で見る。
 
「荒れた王都を再建するためです。デルフィーナ。自分の贅沢のために買った品々を持ってきてください」
「なぜ、そんなことをしなくてはならないのっ!」
「あなたが、この国の王妃だからです」

 デルフィーナが『うっ……!』と、呻き声をあげて怯んだ。
 美しい顔立ちだからか、凄んだ時のセレーネは威圧感があった。

「売るのが嫌なら、王妃の位から退いてください」
「なっ……! なんの地位もない女に言われたくないわっ!」
「そうだ。王の子の生んでも、お前は地位のない女だ!」

 そう言った瞬間、廊下から大広間へ、ルチアノが入ってきた。

「お母様。売れそうな物を集めてきたよ」

 廊下にあった壺には、俺が購入した金のカップ、デルフィーナが気に入っている宝石箱が入っているのが見えた。

「なっ、なにをしているっ!」
「国王陛下なら、ちゃんとお仕事しないと駄目だよ?」

 子供に注意されてしまった……

「王子が売りたいと言っているのだから、売っても問題ないな」

 ザカリアは珍しく笑っている。
 いや、こいつの笑い顔など、初めて見たかもしれない。

「セレーネに似て、可愛くない子供ですことっ!」

 ルチアノはデルフィーナに微笑んだ、
 その笑顔はまるで天使のようだ。
 王宮を警護するはずの兵士たちは、セレーネたちを止めず、にこにこ顔でルチアノを眺めている。
 普段なら、ここでロゼッテが登場し、俺たちに逆らう連中を牢屋に入れる流れになるはずだった。
 だが、ザカリアがいる。
 特異な力を持つザカリアに近づけないロゼッテは、安全な場所に匿われ、お菓子でも食べているのだろう。

「ルドヴィク様! 部屋に参りましょう。ここにいても、気分が悪くなるだけですわ」

 デルフィーナは勝ち目がないと判断したのか、諦め、自分の部屋に戻ることにしたようだ。

「わたくしのドレスやアクセサリーをセレーネから守らないと!」

 ――なぜ、この女を愛してしまったのか。

 セレーネをもう一度王妃にすれば元通りになるのではないか。
 王妃として王宮で暮らせば、セレーネも満足するはずだ。
 俺は、もう一度、セレーネとやり直すことを考え始めていた。
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