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17 謀反の罪?
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――あと少しで王都に入るはずだった。
「謀反の疑いがございます!」
「ザカリア王弟殿下! 抵抗せず、王宮までご同行願います!」
デルフィーナから命じられた兵士によって、周囲を囲まれてしまった。
待ち伏せしていたらしく、弓兵までいる。
「こっちは、王宮に向かっているところなんだが。ジュスト、そう伝えろ」
ザカリア様はジュストに伝えた。
王宮にいたジュストは知り合いも多い。
兵士たちの中には、ジュストと親しくしている者もいて、話を聞いてくれるようだった。
「だから、ぼく、言ったのに。兵士がたくさん、こっちに向かってるよって」
兵士たちの待ち伏せが見えていたルチアノは頬を膨らませた。
なぜ、道を変えなかったのか、と言いたいのだろう。
「ルチアノは王になるんだろう? それなら、堂々とした態度で王宮に入らねばならない」
「堂々と……?」
堂々とした王の振る舞い――それはまだ、ルチアノは身に付けていない。
「王様が泥棒のように、こそこそして歩くか?」
「歩かないと思う」
「だったら、真正面から入るのが正しい」
身分を隠して、王都に入ることは難しいことではなかった。
役人に賄賂を渡し、偽の身分証を発行できると聞いていた。
しかし、王宮からの兵士は賄賂では、動かない。
「ザカリア様を罪人として扱えと、デルフィーナ王妃から命じられております」
ジュストが交渉しても、兵士の態度はかたくなだ。
私たちの一団には、大臣の使者もいて説得は難しそうだ。
「私が話します」
「そうするほかなさそうだ」
デルフィーナの命令に逆らえば、兵士たちもどうなるかわからない。
ザカリア様がジュストに剣を使わせないのは、兵士たちの心情を理解してのことだ。
穏便に済ませるには、私とルチアノの存在を明らかにしたほうが早い。
馬車のドアを開けて、兵士たちの前に立つ。
「私を覚えている者はいますか?」
「え……?」
「セ、セレーネ様!?」
「しかし、ザカリア様と……なぜ……」
私の姿を目にした兵士たちがざわついた。
馬車から、ルチアノも顔を出す。
「銀髪に青い目……。まさか、セレーネ様の子か?」
「よく似ていらっしゃるから、間違いないだろう」
まさか、私が現れると思っていなかった兵士たちは動揺していた。
「七年前、私はザカリア様から助けていただきました。生き延びることができたのは、ザカリア様のおかげです。そして、この子は、王宮から追われた私が身籠っていた子、ルチアノです」
兵士たちはルチアノが、私とルドヴィク様の子であることを察したようだ。
「子供は間違いなく、王の子だ。遠くを見る力を持っている」
大臣の家に仕える使者が、兵士たちに告げる。
「ザカリア様は、ルチアノの後見人です。謀反を起こす必要がどこにありますか?」
宮廷での権力は約束されたようなもの。
謀反の可能性は完全に消える。
それだけではない。
ザカリア様の後見により、財力、武力ともにデルフィーナの男爵一族など、比ではなくなる。
宮廷の権力図がひっくり返る事態になるだろう。
「国王陛下とデルフィーナ王妃に伝えていただけますか? 私が……元王妃であるセレーネが王宮へ戻ると」
ザカリア様を捕らえるよう命じられた兵士たちの動揺が伝わってくる。
デルフィーナが、ザカリア様に謀反の罪を着せようとしていたのは、間違いないようだ。
「先に馬を走らせ、国王陛下とデルフィーナ王妃に、セレーネ様がお戻りになると伝えよ!」
王宮に向けて、伝令の馬が走っていく。
もう後戻りできない。
ザカリア様を捕らえるはずだった兵士たちに、にっこりほほ笑んだ。
「では、王宮まで護衛していただけますか?」
一人では逃げるしかなかった私。
でも、今は違う。
ザカリア様とルチアノ、ジュスト――そして、ザカリア様の領地の人々が守ってくれている。
デルフィーナに負け、一度は追われた王宮。
私は再び、その王宮に戻ってきたのだった。
「謀反の疑いがございます!」
「ザカリア王弟殿下! 抵抗せず、王宮までご同行願います!」
デルフィーナから命じられた兵士によって、周囲を囲まれてしまった。
待ち伏せしていたらしく、弓兵までいる。
「こっちは、王宮に向かっているところなんだが。ジュスト、そう伝えろ」
ザカリア様はジュストに伝えた。
王宮にいたジュストは知り合いも多い。
兵士たちの中には、ジュストと親しくしている者もいて、話を聞いてくれるようだった。
「だから、ぼく、言ったのに。兵士がたくさん、こっちに向かってるよって」
兵士たちの待ち伏せが見えていたルチアノは頬を膨らませた。
なぜ、道を変えなかったのか、と言いたいのだろう。
「ルチアノは王になるんだろう? それなら、堂々とした態度で王宮に入らねばならない」
「堂々と……?」
堂々とした王の振る舞い――それはまだ、ルチアノは身に付けていない。
「王様が泥棒のように、こそこそして歩くか?」
「歩かないと思う」
「だったら、真正面から入るのが正しい」
身分を隠して、王都に入ることは難しいことではなかった。
役人に賄賂を渡し、偽の身分証を発行できると聞いていた。
しかし、王宮からの兵士は賄賂では、動かない。
「ザカリア様を罪人として扱えと、デルフィーナ王妃から命じられております」
ジュストが交渉しても、兵士の態度はかたくなだ。
私たちの一団には、大臣の使者もいて説得は難しそうだ。
「私が話します」
「そうするほかなさそうだ」
デルフィーナの命令に逆らえば、兵士たちもどうなるかわからない。
ザカリア様がジュストに剣を使わせないのは、兵士たちの心情を理解してのことだ。
穏便に済ませるには、私とルチアノの存在を明らかにしたほうが早い。
馬車のドアを開けて、兵士たちの前に立つ。
「私を覚えている者はいますか?」
「え……?」
「セ、セレーネ様!?」
「しかし、ザカリア様と……なぜ……」
私の姿を目にした兵士たちがざわついた。
馬車から、ルチアノも顔を出す。
「銀髪に青い目……。まさか、セレーネ様の子か?」
「よく似ていらっしゃるから、間違いないだろう」
まさか、私が現れると思っていなかった兵士たちは動揺していた。
「七年前、私はザカリア様から助けていただきました。生き延びることができたのは、ザカリア様のおかげです。そして、この子は、王宮から追われた私が身籠っていた子、ルチアノです」
兵士たちはルチアノが、私とルドヴィク様の子であることを察したようだ。
「子供は間違いなく、王の子だ。遠くを見る力を持っている」
大臣の家に仕える使者が、兵士たちに告げる。
「ザカリア様は、ルチアノの後見人です。謀反を起こす必要がどこにありますか?」
宮廷での権力は約束されたようなもの。
謀反の可能性は完全に消える。
それだけではない。
ザカリア様の後見により、財力、武力ともにデルフィーナの男爵一族など、比ではなくなる。
宮廷の権力図がひっくり返る事態になるだろう。
「国王陛下とデルフィーナ王妃に伝えていただけますか? 私が……元王妃であるセレーネが王宮へ戻ると」
ザカリア様を捕らえるよう命じられた兵士たちの動揺が伝わってくる。
デルフィーナが、ザカリア様に謀反の罪を着せようとしていたのは、間違いないようだ。
「先に馬を走らせ、国王陛下とデルフィーナ王妃に、セレーネ様がお戻りになると伝えよ!」
王宮に向けて、伝令の馬が走っていく。
もう後戻りできない。
ザカリア様を捕らえるはずだった兵士たちに、にっこりほほ笑んだ。
「では、王宮まで護衛していただけますか?」
一人では逃げるしかなかった私。
でも、今は違う。
ザカリア様とルチアノ、ジュスト――そして、ザカリア様の領地の人々が守ってくれている。
デルフィーナに負け、一度は追われた王宮。
私は再び、その王宮に戻ってきたのだった。
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